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誠はどこ?
58話:起きてこない誠
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つかさが伸ばしかけた手を、美園がパンと叩く。
「それ誠のパンだから。あんた自分の分食べたじゃない、ずぅずぅしいにもほどがあるわ」
「食べ盛りなんだよ。残してるんだから食ってもいいだろ。それとも何も食わずに遊園地行けっていうのかよ」
「冗談いわないで。あんた付いてくる気?」
「専属契約だからだよ。それにケンジさんに呼び出されてから、まる2日間も碁に付き合わされて、ほとんど寝てないんだよ。朝は食っとかなきゃ倒れちまう」
「ぶっ倒れるほうがあたしに殺されるよりマシだと思うけど。おとついのこと忘れてないから」
元樹が不思議そうに美園とつかさを見る。なんのことだ?と表情が言っている。
元樹の前で美園が変なことを言い出さないかと焦ったつかさは、わざとらしく顔を背けた。さすがにマズイとは思っているようだ。
美園はその横顔を睨みつける。
痛いほど強烈な殺視線を受けながら、つかさは無言でパンにがっついた。
どうせ殺されるなら、食うものは食ってからだ。
ふいに足元にあんこが擦り寄ってきた。何か言いたそうな目をしているが、慰めてくれているのだろうか。
いや、違う、あんこの目はつかさのパンを凝視している。
「どいつもこいつも俺をバカにしやがって」
つかさがふてくされたと同時に、栄子が思い出したように誠の席を指さす。
「そういえば、誠はまだ寝てるの?」
栄子の言葉に、他の家族たちもリビングを見渡して誠がいないことに気づく。
「夜遅くまでインターネットでゲームでもしてたんじゃない」
ハムサンドを口に頬張って、たいして感心なさそうに美園が答える。
勇治がよっこらしょと席をたって、栄子の脇をすり抜け2階の誠を起こしにいった。
「寝ぼけ眼でテレビに映るのはまずいわよ。子供は元気が一番なんだから」
そう言って、栄子ももう一度手鏡を取り出して、メイクの状態を確認する。
「やだ、ちょっと顔色が悪いわね。風邪が治りきってないのかしら。口紅はもう少し赤めの方がいいわね」
モデルファミリーになってからメイクに一切手を抜けなくなった。どこにいっても人の視線、視線、視線。
意外と精神的な疲れが溜まっており、金曜から熱を出して寝込んでいた栄子。日曜になり体調は回復してきたが、まだ少し顔色が悪い。もう少しチークも足して顔を明るく見せたほうがいいかもしれない。
鏡を上下左右に動かし、いろんな角度からのカメラ映りを確認していると、すぐに勇治が降りてきて、不思議そうに言う。
「誠、いないぞ」
「え?」
栄子は振り返る。
「いないって?」
「公園にでも行ってるのかも」
と元樹。
「友達のとこじゃないの」
と美園。
「もぅ。今日は家族で遊園地に出かけるって言ってたのに、朝っぱらから何してんのかしら。こういう所を撮影してもらって、家族円満ってとこをアピールしないとダメなのに」
困ったわねぇ、と栄子は深くなってきた眉間の皺を指で揉む。
「つーか、まだ友達んちに泊まってるんじゃないか? 昨日もいなかっただろ?」
その言葉に、家族全員がつかさに向き直った。
「それ誠のパンだから。あんた自分の分食べたじゃない、ずぅずぅしいにもほどがあるわ」
「食べ盛りなんだよ。残してるんだから食ってもいいだろ。それとも何も食わずに遊園地行けっていうのかよ」
「冗談いわないで。あんた付いてくる気?」
「専属契約だからだよ。それにケンジさんに呼び出されてから、まる2日間も碁に付き合わされて、ほとんど寝てないんだよ。朝は食っとかなきゃ倒れちまう」
「ぶっ倒れるほうがあたしに殺されるよりマシだと思うけど。おとついのこと忘れてないから」
元樹が不思議そうに美園とつかさを見る。なんのことだ?と表情が言っている。
元樹の前で美園が変なことを言い出さないかと焦ったつかさは、わざとらしく顔を背けた。さすがにマズイとは思っているようだ。
美園はその横顔を睨みつける。
痛いほど強烈な殺視線を受けながら、つかさは無言でパンにがっついた。
どうせ殺されるなら、食うものは食ってからだ。
ふいに足元にあんこが擦り寄ってきた。何か言いたそうな目をしているが、慰めてくれているのだろうか。
いや、違う、あんこの目はつかさのパンを凝視している。
「どいつもこいつも俺をバカにしやがって」
つかさがふてくされたと同時に、栄子が思い出したように誠の席を指さす。
「そういえば、誠はまだ寝てるの?」
栄子の言葉に、他の家族たちもリビングを見渡して誠がいないことに気づく。
「夜遅くまでインターネットでゲームでもしてたんじゃない」
ハムサンドを口に頬張って、たいして感心なさそうに美園が答える。
勇治がよっこらしょと席をたって、栄子の脇をすり抜け2階の誠を起こしにいった。
「寝ぼけ眼でテレビに映るのはまずいわよ。子供は元気が一番なんだから」
そう言って、栄子ももう一度手鏡を取り出して、メイクの状態を確認する。
「やだ、ちょっと顔色が悪いわね。風邪が治りきってないのかしら。口紅はもう少し赤めの方がいいわね」
モデルファミリーになってからメイクに一切手を抜けなくなった。どこにいっても人の視線、視線、視線。
意外と精神的な疲れが溜まっており、金曜から熱を出して寝込んでいた栄子。日曜になり体調は回復してきたが、まだ少し顔色が悪い。もう少しチークも足して顔を明るく見せたほうがいいかもしれない。
鏡を上下左右に動かし、いろんな角度からのカメラ映りを確認していると、すぐに勇治が降りてきて、不思議そうに言う。
「誠、いないぞ」
「え?」
栄子は振り返る。
「いないって?」
「公園にでも行ってるのかも」
と元樹。
「友達のとこじゃないの」
と美園。
「もぅ。今日は家族で遊園地に出かけるって言ってたのに、朝っぱらから何してんのかしら。こういう所を撮影してもらって、家族円満ってとこをアピールしないとダメなのに」
困ったわねぇ、と栄子は深くなってきた眉間の皺を指で揉む。
「つーか、まだ友達んちに泊まってるんじゃないか? 昨日もいなかっただろ?」
その言葉に、家族全員がつかさに向き直った。
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