モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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誠はどこ?

59話:不在の誠

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 皆は今まで一度も見せたこともない、奇妙な表情をしていた。
 なんで自分に注目が集まっているのか分からず、つかさは困惑する。

「――お泊まりって?」

 恐る恐るといった風に、栄子が口を開く。

「金曜の夕方に誠に会って、そん時今から友達んちに泊まりに行くって……」

 そう言いかけて、つかさはようやく一家のこちらを探るような視線の意味合いに気づいた。

「お前らまさか……」

 信じられない、信じられないが、そうだとしか考えられない。
 わなわなと震える指を世良田一家に突きつけて立ち上がった。

「マジ信じらんねぇ。金曜の夜から今朝までアイツが家に居ない事に気づいてなかったのか!? 今日は日曜だぞ」

 全員が全員あらぬ方向に視線を向ける。目が泳いでいる。

「こんだけ大勢大人がいて誰一人あいつを気にかけてなかったのか?」

 当然とはいえ、厳しいつかさの言葉に元樹が素早く反応し、自己保身に走る。

「俺は土曜は仕事で会社に泊まってて、帰ってきたのは昨日の深夜だから仕方ないさ。栄子、お前母親だろ? 何で気づかなかったんだ」
「仕事で会社に泊まった? バカ言いなさいよ、リンリンとかいうガールズバーの女のとこでしょうが。あんたが楽しい時間を過ごしてる間、あたしは体調崩して寝込んでたのよ! 知ってるでしょ」

 自分を正当化しようとする元樹を厳しく制する。
 この反撃に、元樹はグゥの音も出ないようで、攻撃先を弱いものへと変更した。

「だいたい、美園だって、弟がいないことに気づかないっておかしいだろ?」

 娘に罪の意識を押し付けようとする卑怯な父親を前に、美園は毅然と反撃する。

「あたしだって勉強で忙しいの。いちいち誰がいないかなんて知らないわよ! なんで私に言うのよ」
「お前だけじゃない、勇治だってそうだ。お前長男だろ」
「俺だって土日は受験勉強で手一杯なんだよ。好きな時間にご飯を食って、寝て、勉強する。いちいち今日は誰の顔を見てないなんて、気にしてられっか!」

 勇治はそう言って無言で、ケンジとアキを見据える。
 2人は情けなさそうに肩を潜めてイスに座ったままだ。こういう時にはきっちりと健気な老人というポジションを獲得できるのだから、大したもんだ。

「てか、そもそも夜は一緒に食事とらないのかよ? 普通そこで気づくだろ?」
「みんな好き勝手な時間に食べるからバラバラよ」

 と、栄子が唇を尖らす。

「なんでだよ、なんでそうなっちゃってんだよ。昔はそうじゃなかっただろ? みんなで食ってただろ」
「なんでお前がそんなこと知ってんだよ」

 勇治がつかさを睨みつけるが、その視線を押し返すようにつかさが語気を強める。

「あさこちゃんの話をしてるときに言ってただろ! てか、今はそんなことどうでもいいんだよ」
「慌てるな、落ち着け」

 収集がつかなくなってきたタイミングで、元樹が立ち上がって話を整理する。

「つかさ君は金曜日に誠に会ったんだな?」
「ああ、リュック背負って歩いてたからどこ行くんだ、って声かけたら友達の家に泊まるんだって」
「そうか、だったら心配することない。小学生と言ったってもう高学年だ。友達の家に泊まりに行ってるんだ。心配することない。みんな落ち着け。大丈夫だから。な、心配ないよ、大丈夫大丈夫、心配ないさ…ははっ」

 動揺しているのか、元樹は「心配するな、大丈夫だ」を無意識に繰り返している。
 そのセリフが余計に世良田一家の不安を煽り立てる。

「なんて奴らだ。ここまで酷い偽装家族だとは思いもしなかったよ」

 つかさは呆れたように音を立ててイスに腰を下ろし、頬杖をついた。
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