62 / 146
誠はどこ?
60話:誠の友達
しおりを挟む
不安げな様子の家族を前に、元樹はなんとか家長の役目を果たそうと栄子に言った。
「とりあえず、友達のところに電話して早く帰ってくるようにいいなさい」
「そうね、相手のご家族にお礼を言わないと。あそこの家は子供が泊まりにくるっていうのに、お世話になりますの一言もない常識ハズレだと思われてるかもしれないわ」
栄子はそう言ってリビングの電話を持ち上げるが、ダイヤルを押すでもなく、そのまましばらく無言で立ちつくす。そして数十秒後、静かに受話器を置いてこちらを振り向く。
「誰のお宅に泊まりに行ったのかしら?」
申し訳なさそうに尋ねた。
「誰って、誠と一番仲いいやつんとこだろ」
「だから、それって誰かしら?」
――――――。
家族全員無言になる。
誰一人、栄子の問いに答えを用意できなかった。
誠が普段誰と遊んでいるのか全く把握していない。
そんな世良田一家の様子を、つかさは冷め切った目で見続けた。
30秒は経っただろうか、意外にもこの沈黙を破ってくれたのは、過去の記憶が湯水の如く消え去っていくと豪語しているケンジだった。
「―――さとる君」
その名前を聞いて、美園も栄子も手を叩いた。
さとる君。
そうだ、そうだ、確かそんな名前だ。最近はあんまり耳にしないが、ちょっと前まで誠からその子の名前をよく聞いていた。
「神崎さとる君。そうだわ。思い出したわ、その子よ、誠の大親友は」
栄子は安堵の表情を見せて棚から電話帳を引っ張り出し、目的の番号を探し当てた。今度は受話器をとって、すぐにボタンを押し始める。
けれど、相手が出ないらしい。何度掛けなおしても結果は同じようだ。
「ダメ、繋がらないわ」
「家に行ってみる? たぶんその子の家にいると思うよ。どの辺だっけ?」
美園が残った紅茶を飲み干して立ち上がる。
さすがに傍観者ではいられないと気づいた勇治が、胸ポケットからスマホを取り出し、どこかにかけはじめた。
相手と繋がった途端、渋い顔をしていた勇治の顔がぐにゃりと歪む。
「あ? ち~たん? 俺、俺、勇治。おはよう。朝からごめんねぇ」
全員が勇治と千秋の会話に耳をすませた。
「あのね、ちょっとち~たんに聞きたいことあるんだ。 え? 違う違うそのことじゃないよ。バカだな、ち~たんは。でも聞いちゃおうかな、俺のこと好き?」
ただでさえ冷め切っていた部屋の空気が一瞬で凍りついた。
バカはお前だ。頼むから死んでくれ。
美園はちらりとつかさの反応を盗み見る。つかさは、一切表情を変えずに座っていた。この無言のプレッシャーが怖い。
「あのね、誠のことなんだけど、ち~たんあいつと学年違うから知らないかもしれないけど、神崎さとる君って子の家がどこか分かる?」
しばらくうんうん、と相槌を打っていたが、途中から声のトーンがダウンした。
「うんうん、そっかそうなんだ。いろいろありがとう。ううん、何でもないんだ。別に問題ないよ。うん。誠にちょっと用事があってね。だけど朝から出かけちゃってるから、連絡つかないんだ。もし、ち~たんのとこに電話あったら、こっちにかけるようにゆってね」
最後に「だぁい好きだよ」と間延びした声で電話を切った勇治は、瞬時に現実にたちかえり、真顔に戻る。
「ち~たんに聞いたら、さとるって名前の子、去年引っ越したってさ」
いろんな意味で部屋が静まり返る。
誰も何も答えない。
「聞こえてる? 半年前に引っ越したんだって」
それを受けて「知らなかったわ」と栄子は疲れたように髪をかきあげた。
ここにきて改めて家族同士の繋がりの薄さを思い知らされた気分だった。
高校生にもなればプライベートな事は話さないかもしれないが、小学生の子供の友人関係を把握できていないというのは、親として致命的ではないだろうか。
それどころか、そんな年の子が数日家にいないことに今の今まで気づかなかったことの方が重要視すべき問題だろう。
「どこに行ったんだ。誠のやつは」
元樹は立ち上がり、階段を2段飛ばしで駆けあがり、誠の部屋に向かう。
何か行き先の目星になるものがないかと思ったが、愛用のノートパソコンを持ち出しているということが分かっただけだった。
つかさ曰く、リュックにたくさん荷物を入れていたから、恐らくパソコン以外にも着替えなどを詰め込んでいたのだろうということだ。
「よくよく考えればガキの一泊旅行にゃあちょっと多い荷物だったよな」
気づいてやれなくて悪い、つかさは素直にそう謝ったが、彼以上に気まずく反省すべきなのは世良田一家なのだから、誰も何も言えなかった。
ただ一人、いや一匹、犬のあんこだけは事態を全く把握しておらず、その呑気な「かぁ~」というあくびだけが、静まり返った部屋によく響いた。
「とりあえず、友達のところに電話して早く帰ってくるようにいいなさい」
「そうね、相手のご家族にお礼を言わないと。あそこの家は子供が泊まりにくるっていうのに、お世話になりますの一言もない常識ハズレだと思われてるかもしれないわ」
栄子はそう言ってリビングの電話を持ち上げるが、ダイヤルを押すでもなく、そのまましばらく無言で立ちつくす。そして数十秒後、静かに受話器を置いてこちらを振り向く。
「誰のお宅に泊まりに行ったのかしら?」
申し訳なさそうに尋ねた。
「誰って、誠と一番仲いいやつんとこだろ」
「だから、それって誰かしら?」
――――――。
家族全員無言になる。
誰一人、栄子の問いに答えを用意できなかった。
誠が普段誰と遊んでいるのか全く把握していない。
そんな世良田一家の様子を、つかさは冷め切った目で見続けた。
30秒は経っただろうか、意外にもこの沈黙を破ってくれたのは、過去の記憶が湯水の如く消え去っていくと豪語しているケンジだった。
「―――さとる君」
その名前を聞いて、美園も栄子も手を叩いた。
さとる君。
そうだ、そうだ、確かそんな名前だ。最近はあんまり耳にしないが、ちょっと前まで誠からその子の名前をよく聞いていた。
「神崎さとる君。そうだわ。思い出したわ、その子よ、誠の大親友は」
栄子は安堵の表情を見せて棚から電話帳を引っ張り出し、目的の番号を探し当てた。今度は受話器をとって、すぐにボタンを押し始める。
けれど、相手が出ないらしい。何度掛けなおしても結果は同じようだ。
「ダメ、繋がらないわ」
「家に行ってみる? たぶんその子の家にいると思うよ。どの辺だっけ?」
美園が残った紅茶を飲み干して立ち上がる。
さすがに傍観者ではいられないと気づいた勇治が、胸ポケットからスマホを取り出し、どこかにかけはじめた。
相手と繋がった途端、渋い顔をしていた勇治の顔がぐにゃりと歪む。
「あ? ち~たん? 俺、俺、勇治。おはよう。朝からごめんねぇ」
全員が勇治と千秋の会話に耳をすませた。
「あのね、ちょっとち~たんに聞きたいことあるんだ。 え? 違う違うそのことじゃないよ。バカだな、ち~たんは。でも聞いちゃおうかな、俺のこと好き?」
ただでさえ冷め切っていた部屋の空気が一瞬で凍りついた。
バカはお前だ。頼むから死んでくれ。
美園はちらりとつかさの反応を盗み見る。つかさは、一切表情を変えずに座っていた。この無言のプレッシャーが怖い。
「あのね、誠のことなんだけど、ち~たんあいつと学年違うから知らないかもしれないけど、神崎さとる君って子の家がどこか分かる?」
しばらくうんうん、と相槌を打っていたが、途中から声のトーンがダウンした。
「うんうん、そっかそうなんだ。いろいろありがとう。ううん、何でもないんだ。別に問題ないよ。うん。誠にちょっと用事があってね。だけど朝から出かけちゃってるから、連絡つかないんだ。もし、ち~たんのとこに電話あったら、こっちにかけるようにゆってね」
最後に「だぁい好きだよ」と間延びした声で電話を切った勇治は、瞬時に現実にたちかえり、真顔に戻る。
「ち~たんに聞いたら、さとるって名前の子、去年引っ越したってさ」
いろんな意味で部屋が静まり返る。
誰も何も答えない。
「聞こえてる? 半年前に引っ越したんだって」
それを受けて「知らなかったわ」と栄子は疲れたように髪をかきあげた。
ここにきて改めて家族同士の繋がりの薄さを思い知らされた気分だった。
高校生にもなればプライベートな事は話さないかもしれないが、小学生の子供の友人関係を把握できていないというのは、親として致命的ではないだろうか。
それどころか、そんな年の子が数日家にいないことに今の今まで気づかなかったことの方が重要視すべき問題だろう。
「どこに行ったんだ。誠のやつは」
元樹は立ち上がり、階段を2段飛ばしで駆けあがり、誠の部屋に向かう。
何か行き先の目星になるものがないかと思ったが、愛用のノートパソコンを持ち出しているということが分かっただけだった。
つかさ曰く、リュックにたくさん荷物を入れていたから、恐らくパソコン以外にも着替えなどを詰め込んでいたのだろうということだ。
「よくよく考えればガキの一泊旅行にゃあちょっと多い荷物だったよな」
気づいてやれなくて悪い、つかさは素直にそう謝ったが、彼以上に気まずく反省すべきなのは世良田一家なのだから、誰も何も言えなかった。
ただ一人、いや一匹、犬のあんこだけは事態を全く把握しておらず、その呑気な「かぁ~」というあくびだけが、静まり返った部屋によく響いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる