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動き始めた闇
75話:ユグドリアと誠
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電子音が鳴ると同時に、パソコンの前で待機していた美薗とつかさが頬をくっつけんばかりの距離で画面を覗きこんだ。
「誰から?」
「差出人はリエ。裏モデルファミリーの管理人からだ」
そう言ってつかさはスススとマウスを操作し、メッセージ画面を表示した。
その文章を、離れた席に座っているケンジとタキにも聞こえるように美園が読み上げる。
「僕は元気だよ、心配しないで。それより至急調べてほしいことがある。ユグドリアのオペラハウスについての裏情報が欲しい……誠。――――何これ」
なぜここにきてユグドリアのオペラハウスなのか分からないが、この返信により裏モデルファミリーの管理人・リエが誠だと証明されてしまったのだ。
「これ、本当に誠からだと思う?」
美園が家族を振り返ると、勇治は難しそうな顔して目を瞑る。
「家族がこれだけ心配してるってのに、ずいぶん素っ気無い返事だな。それにどっからユグドリアのことが出てくるんだ?」
「確かに」
つかさも頷く。
「しかも裏情報ったって、ネットで検索できる話が聞きたいわけじゃないんだろ。それならあいつが自分で調べられるし。よく分かんねぇけど、とりあえず親父が何か知ってっかもしんないからメールしてみるわ」
そう言って、カチャカチャとパソコン画面に向かう。
素早く行動をはじめたつかさを横目に、元樹は無言でテレビをつける。
さきほどつかさの父親のことをハゲタカ呼ばわりしたことが蒸し返されては困るのだ。
ちょうど夕方のニュース番組の時間だが、なぜだか画面が慌しい。
緊急速報と称して、女性アナウンサーの手元にスタッフから新しい原稿が手渡された。
アナウンサーはその原稿を一瞥すると下読みなしに一気に読みあげた。
「先ほど入りました情報によりますと、来日中のユグドリアのトワ王子が滞在先のホテルで何者かに誘拐された模様です。繰り返します、ユグドリアのトワ王子が滞在先のホテルで何者かに誘拐されたとの情報が入りました。詳細が分かり次第、続報をお伝えいたします」
その放送を見た一家は誰ともなしに呟いた。
「これと誠と何か関係してる?」
「そう考えるのが妥当じゃない? あのメールの後にこのニュース。偶然にしちゃ出来すぎな気がするわ」
そういったものの、栄子には誠とどう関係しているのか分からない。
さらにいえば、ユグドリアのオペラハウスが何なのかもよく分かってない。元々ユグドリアには関心がなかったので仕方のないことだ。
「誠が調べてほしいって言ってたオペラハウスって、オーストラリアにあるやつでしょ。オペラとかを上演するイベントホール」
美園の呟きに、離れたソファーに座っていたケンジが、じいさんの豆知識を発揮する。
「今ユグドリアに世界最大規模のオペラハウスが建設中だそうじゃ。世界から注目の的らしい」
「ふ~ん、でも誠はそのオペラハウスの何が知りたいんだろ。設計図とか?」
「ふん、そんなもんわざわざ見る価値もないわい。こういったものの裏情報と言ったら、金のことじゃろう」
この距離の会話だと耳が遠いと嘯いて都合の悪い事は聞こえないフリをするケンジだったが、今日はがっつり聞こえているようだ。
「確か完成は今年度の予定だったはずですねぇ。カジノも併設されるとかで、日本以外にも、世界中の投資家がかなりの金額をつぎ込んでいるとか」
ケンジについで、タキも補足する。
ジジババの知識の広さは、どら焼き片手に毎日ワイドショーを見てのんびり過ごせる優雅な生活の賜物だろう。
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