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一家団結
116話:歴史が終わる
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打たれ強くなったはずの一家であったが、今世紀最大の衝撃を受けていた。まさにディープインパクトだ。
誠の思いを知って栄子の胸は張り裂けそうに苦しくなる。
「誠ちゃん……ママ、そんな風に誠ちゃんが思ってくれてたなんて知らなくて」
「俺もだ。お前は俺たちのことが嫌いで裏モデルファミリーなんてクソいまいましいページを作ったのかと思ってたんだ。まさかそんな思いだったなんて……それが分からないとは父親として失格だな」
「俺だって勉強を言い訳に誠と遊んでやらなかったし」
「あたしも悪いわ。誠のドラクエのセーブデータ……せっかくレベル97まで上げてあったのに、間違って自分の低レベルデータを上書きしちゃったこと黙ってたから」
どさくさにまぎれた美園の告白に、一瞬誠の目が殺気だったが、それもすぐに家族の抱擁の渦に呑み込まれていった。
「ごめんなさい。誠ちゃん、本当にごめんね」
「これからの家族のこと、もう一度話し合ってみよう」
「パパ……ママ……みんな」
両親に抱かれて小さな体を震わせる誠を見て、美園と勇治も黙って頷きあった。
そう、私たちはきっとやり直せる。
だから今は……。
美園は手を叩いて皆の注意を引きつける。
「ね、私たちの問題はとりあえず前向きにってことで一旦棚上げよ。それよりも先に片づけなきゃなんないことがあるわ」
少し離れた所で居場所をなくしたように佇んでいるトワに顔を向ける。
栄子はすぐにトワに駆け寄り、誠と同じように抱きしめると、
「さ、トワ君。今度はあなた達兄弟をなんとかしないと」
そう言って誠に微笑みかける。
「ママ、信じてくれるの?」
「当たり前よ。家族だもの」
「ママ……」
誠はまた目頭が熱くなってくるのをぐっと堪えた。
「よし、じゃあ何から手をつければいいんだ」
勇治が気合いを入れる。
「まずは誠が心配していたオペラハウスの謎。それとマツムラの正体だな。トワだって兄のことを信じたいけど、マツムラも信じたい。複雑な状態のはずだ」
つかさの言葉にトワは表情を堅くする。
「お兄さまのことは信じたいけど、そうしたらマツムラが僕の両親を殺したことになってしまう。どう考えればいいのか、分からないんだ」
皆は一様に表情を曇らせ、戸惑いがちにトワを見る。
兄をとるか、父と慕ってきた男をとるか。
幼い心には重すぎるほどの選択だ。けれど、これが現実なのだ。
誠はそんなトワを見て、胸ポケットから小さなチップを取り出す。
「そうだ、これ。人質交換の前に城島さんから預かったんだ。microSDカード。自分に何かあればこれをメディアに公開してほしいって」
元樹がそれを受け取り、自分のスマホに差し込んで情報を確認し始める。
難しい顔をして画面を眺めているが、目が同じところを行ったり来たりしていてなんだか危しい。
もどかしくなった栄子が覗きこんでみれば、見たこともない数式や図形のオンパレード。
「だめよこれは。あなたには無理。勇治ちょっと見てあげて」
放心状態の元樹の手元からスマホを奪い取ると、勇治はものすごい勢いで画面を眺めて内容を理解する。
「おいおい嘘だろ」
「なんて書いてあるの?」
「このオペラハウスの地下、海底の深ぁ~いところで新しい物質が発見されたらしい。化学式を見ても、この世に存在し得ない未知の領域だ」
「もしかして、それがマツムラが隠したがっているオペラハウスの秘密なのかしら。新しい発見を独り占めしてお金儲けしようとしてるのかもしれないわね」
栄子の問いに、勇治が真っ青な顔で答える。
「んな呑気なこと言ってる場合かよ。この物質から抽出したものを濃縮していけば、とんでもない化学兵器ができるぞ」
「第三次世界大戦が起こる?」
美園が問う。
「世界大戦どころか歴史が終わっちまう可能性があるぞ。地球まるごとふっとぶ威力だ」
誠の思いを知って栄子の胸は張り裂けそうに苦しくなる。
「誠ちゃん……ママ、そんな風に誠ちゃんが思ってくれてたなんて知らなくて」
「俺もだ。お前は俺たちのことが嫌いで裏モデルファミリーなんてクソいまいましいページを作ったのかと思ってたんだ。まさかそんな思いだったなんて……それが分からないとは父親として失格だな」
「俺だって勉強を言い訳に誠と遊んでやらなかったし」
「あたしも悪いわ。誠のドラクエのセーブデータ……せっかくレベル97まで上げてあったのに、間違って自分の低レベルデータを上書きしちゃったこと黙ってたから」
どさくさにまぎれた美園の告白に、一瞬誠の目が殺気だったが、それもすぐに家族の抱擁の渦に呑み込まれていった。
「ごめんなさい。誠ちゃん、本当にごめんね」
「これからの家族のこと、もう一度話し合ってみよう」
「パパ……ママ……みんな」
両親に抱かれて小さな体を震わせる誠を見て、美園と勇治も黙って頷きあった。
そう、私たちはきっとやり直せる。
だから今は……。
美園は手を叩いて皆の注意を引きつける。
「ね、私たちの問題はとりあえず前向きにってことで一旦棚上げよ。それよりも先に片づけなきゃなんないことがあるわ」
少し離れた所で居場所をなくしたように佇んでいるトワに顔を向ける。
栄子はすぐにトワに駆け寄り、誠と同じように抱きしめると、
「さ、トワ君。今度はあなた達兄弟をなんとかしないと」
そう言って誠に微笑みかける。
「ママ、信じてくれるの?」
「当たり前よ。家族だもの」
「ママ……」
誠はまた目頭が熱くなってくるのをぐっと堪えた。
「よし、じゃあ何から手をつければいいんだ」
勇治が気合いを入れる。
「まずは誠が心配していたオペラハウスの謎。それとマツムラの正体だな。トワだって兄のことを信じたいけど、マツムラも信じたい。複雑な状態のはずだ」
つかさの言葉にトワは表情を堅くする。
「お兄さまのことは信じたいけど、そうしたらマツムラが僕の両親を殺したことになってしまう。どう考えればいいのか、分からないんだ」
皆は一様に表情を曇らせ、戸惑いがちにトワを見る。
兄をとるか、父と慕ってきた男をとるか。
幼い心には重すぎるほどの選択だ。けれど、これが現実なのだ。
誠はそんなトワを見て、胸ポケットから小さなチップを取り出す。
「そうだ、これ。人質交換の前に城島さんから預かったんだ。microSDカード。自分に何かあればこれをメディアに公開してほしいって」
元樹がそれを受け取り、自分のスマホに差し込んで情報を確認し始める。
難しい顔をして画面を眺めているが、目が同じところを行ったり来たりしていてなんだか危しい。
もどかしくなった栄子が覗きこんでみれば、見たこともない数式や図形のオンパレード。
「だめよこれは。あなたには無理。勇治ちょっと見てあげて」
放心状態の元樹の手元からスマホを奪い取ると、勇治はものすごい勢いで画面を眺めて内容を理解する。
「おいおい嘘だろ」
「なんて書いてあるの?」
「このオペラハウスの地下、海底の深ぁ~いところで新しい物質が発見されたらしい。化学式を見ても、この世に存在し得ない未知の領域だ」
「もしかして、それがマツムラが隠したがっているオペラハウスの秘密なのかしら。新しい発見を独り占めしてお金儲けしようとしてるのかもしれないわね」
栄子の問いに、勇治が真っ青な顔で答える。
「んな呑気なこと言ってる場合かよ。この物質から抽出したものを濃縮していけば、とんでもない化学兵器ができるぞ」
「第三次世界大戦が起こる?」
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