モデルファミリー <完結済み>

MARU助

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ラストファミリー 全ては家族のために

144話:家族が家族でいるために

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 ほんの数分前まで、ここ首相官邸では厳粛で和やかな雰囲気の中、粛々と国民栄誉笑授賞式が行われたいた……はずだった。

 しかし、今となっては式典が行われていた痕跡すら感じられない。
 あちこちで大声、罵声、笑い声、悲鳴が乱立し、動物園状態だった。

 SPは必死になって寝そべっている総理の頭を支えており、医療スタッフは血圧計などを持って対応をしている。
 国の主要人物を派手に転倒させた現行犯のあんこは、誰に捕まることなく自由に部屋中を駆け回っている。

 一家は先ほどよりさらにヒートアップしており、元樹がつかさの胸ぐらに掴みかかり、罵詈雑言の大揉めの大乱闘。
 ケンジとタキは一家から少し距離をとり、メダルをしっかりと懐に納めた後、何事もなかったかのようにカメラに向かって穏やかに微笑む。

 栄子と美園は脱走犯のあんこを掴まえようと、両側から回り込むも、犬は2人の腕の中をするりとすり抜けていく。

「あのバカ犬、どこにあんな体力があるのよ」

 美園が毒づけば、

「最近、メディア対応に忙しくてちゃんと散歩に行けてなかったら、欲求不満なのかもしれないわね」

 と栄子が答える。

 2人が諦めきったようにあんこが逃げた方角を見ると、ドミノ倒しのように取材陣の機材が倒壊していく。

 なんとかあんこを捕まえようと果敢に身を乗り出した女性アナウンサーに、犬の見事な後ろ蹴りが決まる。
 女性アナウンサーは「ぎゃん」と悲鳴をあげて派手に転倒した。
 倒れた女性アナウンサーのスカートの中めがけて、すかさず取材陣のフラッシュが一斉に焚かれる。

 それを見た他局の女性アナウンサーたちが、髪の毛を振り乱して男たちの体を抑え込み、高価な撮影機材を壊しにかかる。もう何が何だか分からないくらい壊滅的な状況だ。
 そこかしこで男女の悲鳴や怒号が飛ぶ。
 あんこが走り回って破壊の限りを尽くしているようだ。

 総理は先ほどより様態が安定したようで、周りに支えられながら立ち上がって呆然した様子でこの騒ぎを眺めていた。
 もう誰もカメラ中継のことなど気にしていない。
 恥も外聞もなぐり捨て、ありのままの自分たちをさらけ出して大騒ぎしている。

 こんな惨状の中にあって心からこの場を楽しんでいるのは誠だけだった。
 長年の実績とプロ根性で騒動を上手く潜り抜けている仁は、現場の状況をきっちり視聴者にお届けするべくカメラを回し続けている。
 世良田一家に張り付いていれば何かが起こる……仁の予想通り、今日も最高の撮れ高であった。

「こんな名誉な日にまでやらかすとはねぇ」

 仁は嬉しそうに会場の騒ぎを見守っている誠に耳打ちする。

「うん、でもこれが僕達の日常だから」

 仁も同意だと、頷く。

「確かに。こんな最高な家族はそうそういないな」
「うん。僕もそう思うよ。後でトワが言ってたんだ。みんなのさりげない優しさが嬉しかった、って」
「優しさ?」
「うん。ママ達は一度もトワのこと『トワ王子』って呼ばなかったって。それがすごく嬉しかったんだって。特別扱いしないで普通の子供と同じように扱ってくれたのが」
「ほぉ。でもあいつらの場合、単に教養がないからかもな」

 発情期の猫のような声で大揉めしている一家を横目に、仁は笑う。

「ハハハ、おじさんおもしろいね。……でも今回の経験は僕たちにとって決して無駄じゃなかったってことが分かって良かったよ」
「ほんとに?」
「うん、だってね――」

 会場中を走り回ったあんこが、興奮しきった勢いでテーブルの上に乗り上げる。
 そしてそのまま自慢の脚力で壁を伝い、シャンデリアに飛びつく。

 輝かんばかりの美しいガラス飾りが、ゆっくりと左右に揺れる。
 やっと体調が戻りかけていた総理は、光り輝くシャンデリアを見上げて再び地面に座り込んだ。

 あんこは腰を振るように、ご機嫌に尻尾を振り、シャンデリアを揺らし続ける。
 罪悪感などない、家族が揃ってお出かけしているこの状況が、あんこにとっては何よりの幸せなのだから。

「あんこ、ダメ! そんな高いもの、弁償できないわよ」

 誰かが叫んでいる。

 ガシャン!

 何かが外れた嫌な音がする。
 それと同時にシャンデリアの傾きが大きくなり、揺れ幅も広がっていく。

 あんこは舌を出して嬉しそうにひと鳴きする。

「アォオオオオオオオ~ン!!」

 もうダメだ。

 一家は、とっさにお互いを庇いあう。
 元樹は栄子を、勇治は誠を、つかさは美園を、ケンジはアキを。

 最後にあんこは「アォ~~ン!」とご機嫌よくひと鳴きし、シャンデリアごと空から降ってきた。


「ケンカして、泣いて、笑って、我慢せずに言いたいことを言う。無理にいい子のフリなんかしないで、自分の心の中全てをさらけ出すって、とっても大切な事だったんだって気づけたからね。

   全ては――家族が家族でいるためにね」



   FIN
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