公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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271.穏やかで優しくて美しい場所

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 飛行船から降りると、目の前に広がっていたのは一面の麦畑だった。
 ここまで送り届けてくれたスリゼルくんのお家の人たちに謝意を伝えると、私は麦畑の小道を歩き始める。招待状によると、向こうの小さな家がエリデ男爵のお家らしい。

「小麦はすばらしい食材だよ~パンと麦かゆどっちが好きか~私はパンの方が好き~でも風邪ひいたときは麦かゆだよね~」

 久しぶりにお会いできた晴れ模様に、歌をうたいだしちゃったりして。
 ついてまだ十秒しか経ってないけれど、私はこの場所が「いい場所だな~」と思いはじめていた。

 景色はきれいだし、気候もおだやかそうだ、遠くからは馬のいななきが聞こえてくる。理想的な田舎暮らしって感じである。

 ふと下を向くと、落ちた小枝にずんぐりむっくりしたイモムシくんがひっついていた。

「一緒にいくかい?」

 私が小枝を拾い上げると、芋虫はしっかりとしがみついてきてくれる。

「小麦はべんりな食材だよ~パンだけじゃなくクレープ生地にもなるよ~魔法みたいだね~」
「素敵な歌ですね」
「ひゃあっ!」

 急に声をかけられて、私はびっくりしてしまった。握っていた枝が、空を飛んでいく。
 やろうと思えば360°見渡せる心眼とはいえ、万能ではない。なぜならそんなにたくさんの方向をチェックしていると私が疲れるから。
 あれ、万能じゃないのは私では?

「驚かせてしまってすみません」

 そちらの方向に顔と視界を向けると、そこに立っていたのはまだ若い、十代半ばぐらいの青年だった。
 亜麻色の柔らかそうな髪に、上品で穏やかそうな佇まいをしている。

 こちらを見つめる瞳は、私の隠された瞳や、お父様みたいに灰色だった。
 青年はすぐに私が誰か察したようだった。

「エトワさまですね、我が家からの招待に応じてくださってありがとうございます」

 まあ私が誰かは、額の紋様でバレバレだっただろうけど。

「いえいえ、こちらこそお招きくださってありがとうございます。えっと、失礼ですが、エリデ男爵の息子さんですか?」
「いえ、私がエリデ男爵です」
「お若いですねぇ」
「両親が早世してしまいまして。数年前に僕が爵位を継ぐことになりました」
「これは失礼しました」
「いえいえ、気になさらないでください」

 ルーヴ・ロゼでも十代で爵位を継いでる子供は少ない。でも目の前のエリデさんみたいに、お家の事情で継がざるを得なくなった子もいないわけではないらしい。

「それより、立ち話もなんですから、どうぞ中に入ってください」
「はい」

 私はエリデさんから家の中に招待される。
 家に入る前に、ここまでパーティーを組んでいたイモムシくんを探してみる。

 小麦畑の地面に小枝は見つかったけど、イモムシくんの姿はなかった。
 どうやら新しい旅にでかけたらしい。

「どうされましたか?」
「いえ、きれいな麦畑だなあと」
「そうですか、我が家に代々受け継がれるものです。褒めてもらえて光栄です」

 イモムシくんとの旅はここで終わりのようだった。
 アデュー!

***

「ところで私はなぜ、お招きされたのでしょうか?」

 すぐに開かれたお茶の席で、私は単刀直入に聞いてみた。
 だってこうして顔を合わせても初対面なのである。とてもいいお家だと思うけど、お招きされる理由が見つからない。

「クロスウェルさまから聞いていませんか?」

 どうやらエリデ男爵はお父様とお知り合いらしい。

「いえ、まったく、なにも!」

 お父様、ことクロスウェル公爵からはお休みのついでにこの場所にいってこいと、手紙を渡されただけだった。お母様、ことダリアさまからは「自分の意思で選んでいいんだからね」と意味深なことを言われた。
 総じて事情説明がない! 何もわからない!

「それでしたら、私からも話すべきではないかと思います。エトワさまは半月ほど、この屋敷で過ごしてみてください。旅行みたいなものだと思ってくだされば大丈夫です」
「はい、わかりました!」

 何もわからないけど、わかりました!

***

○○年○月○日

 もう少し、この場所に来たときのことを書いてみようと思う。思い出せる限りのことだけど。

 ここにきて二日目の朝、パンがでてきたのを覚えている。
 家ででるパンに負けないようなおいしいパンだった。

「おかわりはいらない?」

 彼はそう聞いてくれたけど、私は断った。
 子供の頃から胃が弱くて、食べすぎるとそれだけで体調を崩すことがあったから。それでよく私の世話をやいてくれた侍女に怒られることもあった。

 食事のとき、彼はパンと一緒にシロップをだしてくれた。シロップの瓶には紫の花が浮いていた。
 見たことのない花だったので尋ねたら、この地方に咲いている野花らしい。
 パンにつけて食べてみると、とても優しい香りがした。



<お知らせ>

 この章の終わりまでは書き終えているのでしばらく更新頻度があがると思います。
 この作品を読んでくださって本当にありがとうございます。

 世鳥あすか先生のコミカライズなどいろいろとでています。本当に素晴らしい漫画化をしていただいているので是非とも是非ともよろしくお願いします。

 私のいつもの構成力のなさで時系列や期間などに矛盾があって、あとから修正するかもしれません。
 申し訳ないです。
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