公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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272.

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 朝起きてみると、エリデさんが麦畑の世話をしていた。

「手伝います」
「無理はすることないですよ? 頼めば村の人たちがやってくれますから」

 そういってエリデさんが指した方角には小さな村があった。

「いえいえ、これから半月お世話になる身ですから」

 そういって私は半ば強引に手伝うことにした。前世では田んぼの手伝いをしたことがあるけれど、あれに比べるとだいぶ動きやすい。頬を撫でる風も涼やかで、とてもいい感じだ。麦を踏まないように気をつけながら、雑草を見つけてはヒョイっと抜いていく。
 しばらく二人で黙々と作業をしていると、少しふくよかで優しそうな雰囲気の女性が通りかかる。

「あらあら、エリデさま! 畑の世話なら私どもがしますのに!」

 女性から声をかけられて、エリデさんは笑顔で立ち上がる。

「我が家の麦畑ですから、できることは自分でやろうと思いまして」

 それからその女性は、麦畑から顔だけだしている私の姿を見つける。

「あら、そちらの女の子は……」
「こちらはシルフィール家からいらっしゃった」

 エリデさんがそういうと、女性は何かを思い出したように驚いた表情をする。

「ああ、こちらのお嬢さんが、エリデさまが話していらした」
「エトワです、よろしくお願いします」

 放っておいたらエリデさんが私の名前も紹介してくれそうだったけど、率先して自己紹介しておく。少し立ち話をすると、こちらの方は近くの村に住んでいて、こうしてたまにお屋敷を訪れては手伝いをしてくれるらしい。

 私は丁寧に頭を下げた。

「半月ほどここでお世話になります」
「いえいえ、半月といわずいくらでもゆっくりしていってください」

 その言い方だと、半月以上滞在しても怒られなさそうだった。私はなんだかおかしくてくすりと笑う。
 私はふと、女性の方から何かいい匂いがすることに気づいた。

 麦畑に少し似た匂い。でも、火が通っていてとても香ばしい。
 私が鼻をスンスンとさせてるのを見て、女性はバスケットを差し出した。

「ああ、村でパンを焼いてきたんですよ。いけないわ、できたてなのについ長話しで冷ましちゃうところでした。お二人で食べてください」

 バスケットに詰められたパンはとても美味しそうだった。程よく焼けた小麦色、縦長のバゲット。

「それじゃあ、雑草も取れたことですし、手を洗ったら朝食にしましょうか」
「はい!」

 エリデさんについていくと、庭の一角に井戸があった。
 中を覗くと、真っ暗な空間が広がっている。

「あんまり身を乗り出して落ちたりしないでくださいね」

 エリデさんは私に忠告しながらロープに水桶をかけて、滑車をつかってそれを降ろしていく。昔の映像なんかでは少し見たことある気がするけど、こういう井戸を実物で使ってるのを見たのははじめてだ。水桶を引き上げる姿を、細い目を向けてじーと見ていると、エリデさんがそれに気づいて苦笑いした。

「すみません、不便な方法に感じますよね。魔法を使えればもっと便利な手段もあるのでしょうが、残念ながら僕の家系は魔法が使えないんです」

 そんなことは考えてなくて、ただ単にエリデさんをじっと眺めていただけなんだけど、それよりも意外な言葉を聞いて私は驚く。

「魔法、使えないんですか?」

 私はこの国の貴族の人たちは、みんな魔法が使えるものだと思い込んでいた。パイシェン先輩の話では、貴族の牽制は魔法の力と切っても切り離せないからだ。実際、貴族学校ルーヴ・ロゼの生徒で魔法を使えない者はいない。唯一の例外という、私を除いて。
 そして唯一の例外の私は、貴族社会から生まれたときに叩き出されてしまっている。

「はい、僕も、僕の両親も、ずっと前の祖先も魔法は使えなかったみたいです」
「そうなんですね」

 ルーヴ・ロゼに通っていないのも、貴族社会でエリデ男爵家の話を聞かなかったのも、それが理由なのかもしれない。

 でも、わざわざなんでそんな話を私にしてくれるのだろう。どちらかというと、貴族としては話づらい事情かもしれないのに。なんとなく、私がエリデ男爵の屋敷にお招きされた理由の一旦みたいなものは見えた気がした。魔法の力は引き継がず、貴族社会から離れた場所で暮らす男爵家の一族。そして魔力を持たずに生まれて、貴族社会から放り出されかけている私、共通点がないわけではない。

 エリデさんが桶から水を流して、手を洗わせてくれる。

「冷たくないですか?」
「ひんやりしてていい感じです」

 ちょうどよく冷えた水は心地よかった。

 手を洗うと、エリデさんとパンを食べた。
 焼きたてのパンはふんわりサクサクで美味しい。この家の麦畑で取れた小麦つかったパンらしい。花の香りをつけたシロップも絶品だった。この地方で咲く花みたい。おみやげにもらって、あとで自分でシロップにつけて見るのもいいかもしれない。

 すごく美味しかったので、3回もおかわりしてしまった。
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