公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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273.

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「遠乗りにでかけませんか?」

 エリデさんからそう誘われたのはお昼のことだった。
 私は目を輝かせ……ることは糸目でできないから、嬉しそうに両手をぱたぱたと振った。

「遠乗りってことは、この家に馬がいるんですか!?」
「はい、この屋敷の裏手の方に厩舎がありますよ」

 馬、うま、ウマー。
 ファンタジー世界では定番といえる乗り物だけれど、今まで乗る機会は皆無だった。ソフィアちゃんたちは風の魔法で移動してしまうから、シルフィール家には乗馬用の馬はいなかった。馬車には乗ったことがあるけれど、あれは馬に乗ったとは言えない。

 馬に跨り、緩やかな丘を軽やかに登り、きれいな草原を駆け抜ける。
 いい感じの風景をそこまで想像して、それから私は肩を落とした。

「私、そもそも馬に乗れません……」

 馬に乗るには技術がいる。揺れるし、背は高いし、生き物だし、そんなに簡単なものではないのだ。
 馬に乗ったことがない私でも、それぐらいは知っていた。

 エリデさんはそんな私を見て微笑む。

「そんなに難しいものではないですよ。でも、練習は必要ですから、今日は私の馬のうしろに乗ってもらいましょうか」
「いいんですか!?」
「エトワさまぐらい小柄なら馬もまったく平気ですよ」

 エリデさんに案内されて、屋敷の裏庭へと移動する。
 そこには小さな厩舎があって、三頭の馬が馬房にいた。

「みんなおとなしくていい子ばかりです。エトワさんにもすぐに慣れるとおもいます」

 そう言いながら、エリデさんは栗毛の馬の頭を撫でている。
 私も手を伸ばすと、興味深そうに顔を寄せてきた。背伸びして顔を触ると、そのまま撫でさせてくれる。

「おお~」

 そのまま撫でていると、馬がプスンと大きな鼻息を吐いた。
 大きな体だけあってすごい肺活量で、私の髪が息が起こした風に揺れる。

 エリデさんはその間に鞍の準備をしてくれていた。

「それじゃあ行きましょう」

 そう言ってエリデさんは連れてきた馬に飛び乗った。慣れてるらしく、とても華麗な動きだった。私も背中に乗せてもらおうと馬を見上げたけど、馬ってこうやって近くでみるととってもおおきい。地面から頭までの高さが二メートル近くあるもんね。私たちがまたがる腰あたりまでの高さだけでも、大人の身長ぐらいある。
 乗ったあと足をかける「あぶみ」がある位置でも1メートルちょっと、そこに脚をかけてさらっと乗るなんてそうとう脚が長くないと無理だ。エリデさんはさらっとやってたけど。
 結局……

「はい、どうぞ」
「いっぱぁあああつ!」

 私はエリデさんに手を貸してもらい、「ファイトー!」「いっぱーつ!」形式で馬に背中に登ることになった。
 なんとか無事乗ることができたけど、エリデさんは私の掛け声に「???」という顔をしていた。

「それじゃあ、落ちないように捕まっていてくださいね」

 そういうと、エリデさんは馬を走らせる。
 馬が厩舎を駆け抜けて外にでた瞬間、一気に家の周りの景色が私の視界に広がった。

「わぁっ~!」

 エリデさんのお家の景色はずっと綺麗だと思っていたけど、馬の背中から見るとまた一味ちがった感じがした。
 とても背が高くなって、山々の遠くまで見渡せている感じがする。

 私の場合、心眼で見ているので、ぶっちゃけ気分の問題かもしれないけど。でも、じんわり感動を覚えたりしたのだ。

 馬はそのまま柵を飛び越え、草原を駆け抜けていく。
 馬に乗るのは初めてだったけど、エリデさんが後ろからしっかり支えてくれているので、安心して乗っていられました。

 しばらく乗ってると、馬の歩調が緩やかになってきた。
 エリデさんはもうすぐ目的の泉が近いことを教えてくれた。

 私はあらためて馬の上から、周りの景色を見渡す。
 そんな私をエリデさんは微笑んで見つめていた。

「エトワさんはどう思いますか? この場所のことを」
「この場所ですか?」

 なんというか漠然とした質問だ。なぜ、こんな風な聞き方をされたのだろう。
 でも、エリデさんの質問の意図は、今見えている景色だけでなく、この場所にやってきて見たすべてについて問いかけている気がした。

「とてもいい場所に感じています。景色がきれいなだけじゃなく、どことなくおだやかで優しい感じがして。おばあちゃんになったらこんな場所に住んでみたいですね」
「おばあちゃんですか」

 少し変に聞こえたらしい。エリデさんはクスクスと笑った。

「ええ、とてもいい場所なんです。この地域はこの数百年、魔族や魔物が一匹たりとも現れたことがありません。この国の中でも、有数の安全な土地です」
「すごいですね」

 私が住むルヴェンドの近くも比較的安全な場所だけど、魔物の被害がないわけじゃない。数年前には魔族の襲撃もあったしね。魔物や魔族が嫌いな人なら、イチもなく二もなく煮物を煮ている暇もなく住みたがるかもしれない。

「ただ最初からそうだったわけではないんです。彼らがこの地にいた魔族や魔物を倒し、新たな魔物が侵入しないように地形を変え、それからも魔物の侵入がないか何十年と調査を繰り返して、この場所ができたんです」
「彼ら、ですか……?」

 私はその単語の意味がわからず、きょとんとして首をかしげてしまった。
 すると、エリデさんは失敗したという表情で苦笑する。

「風の派閥の人たちのことです。彼らはこの場所を"根絶地域"と呼んでます」
「だいぶ物騒な名前ですねぇ……」

 このおだやかな場所には似つかわしくない名前。
 でも、確かに無骨で、風の一族らしいネーミングセンスなのかもしれない。

「かなり貴重な土地なんですね」
「ええ……その通りです。そんな土地が我らに与えられたのは……彼らの償いなのかもしれませんね」
「償い……ですか?」

 『償い』と言ったエリデさんの表情は、どこか遠くの方を見ていた。その言葉に首をかしげた私に、ハっと気づくと、微笑んで「すみません、少し思索にふけりすぎました。なんでもないんです」と言った。

 でも、私の耳にはエリデさんのつぶやきが聞こえてきた。

「それとも愛情があったのでしょうか……」
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