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連載
275.
しおりを挟むルモワおばあさんが掃除を終えて、帰るころになると夕刻が近づいていた。
おばあさんがこのお屋敷にきて帰るまでの間、私は手伝う機会がないかと気配を消して彼女を物陰からつけまわしていた。おばあさんは健脚で、テキパキと掃除をすすませてしまう。何もやることがなかった。
そのままストーカーをしていると、おばあさんが帰る時間になってしまった。
「晩御飯も作ろうと思ったのですが、今晩はエリデさまが作られるそうなので帰りますね」
「はい、ありがとうございました」
エリデさんはなにやらキッチンで、料理に集中しているようだった。私が姿を現して、おばあさんをお見送りする。
晩御飯の時間が近づいてきていた。
エリデさんが作っている料理は、通りがかりにチラッと覗いてみたところスープ料理っぽい。
調理場から、私のところまでお鍋で煮込まれた何かの匂いが漂ってくる。
失礼ながら、その匂いは美味しそうとはいえないものだった。なんというか、漢方っぽいというか、お薬っぽいというか、そんな独特の匂いなのだ。
手間がかかる料理らしい。それから1時間ほどして、私はエリデさんに呼ばれた。
「お待たせしました。きっとこの匂いで不安にさせてしまっていますよね……」
「いえいえ、そんなそんな」
大丈夫です。
お世話になっている身なのだ。出されたものは腐ったもの以外は全て食べる。
そんな覚悟は決めている。ヨシ。
「実を言うと、相談事というのはこのスープのことなんです」
エリデさんは私にスープを一皿差し出してきた。
色は緑色、ドロッとしていてシチューみたいなスープ。正直言うと、人によっては不気味に感じる見た目かもしれない。
「私が幼い頃、母が作ってくれたスープです。レシピは教わっていなかったので、記憶にある材料と、料理を作っていた母の姿の記憶から再現したものにすぎないのですが……」
なるほど。
エリデさんのお願いはだいたい察することができたかもしれない。
このスープについてアドバイスが欲しいのだろう。
そういうことだと、食べて見ないことにははじまらない。
私は料理研究家としても興味を惹かれて、この変わったスープを一口、掬って口にした。
「どうですか……?」
「ふむ、おいしいとは言い難いですね」
失礼ながら正直な感想を述べる。
調理中にも嗅いだ薬草っぽい匂いは、台所から漂ってきたほど酷くはなかった。
でも、酷いというほどではないだけで、まだその匂いはする。
薬膳料理というものもあるから、好きな人は好きだろう。けど、人を選ぶ匂いだった。
「そうですか……」
エリデさんは悩んだ表情で語る。
「食べてもらったエトワさんには申し訳ない話ですが、母が作ってくれたときも美味しいと感激するような料理ではありませんでした。でも……子供のころに食べた記憶では、もう少し食べやすい味だった気がするんです。安心感があった……とでも言うんでしょうか。ほぼ完璧に再現できていると思うんです。ただ最後に一つだけ、何かが欠けているような気がして……でも、それがわからないんです……」
エリデさんの話ぶりから伝わってくるけど、このスープは亡くなったお母さんの思い出の料理なのだろう。
なんとか同じ料理を再現したいという気持ちはわかる気がする。
ただエリデさんの思い出の中にしかない料理を食べたことのない私が再現するのは、そのお手伝いをするだけにしてもスゴい難題だ。
私はなんとかヒントがないかスープの中を探る。
スープをスプーンで掬ってみると、具が入っていた。
一口サイズに刻んだお芋、ベーコン、それからこれはコーンかもしれない。
私はそれを見て、ふと思う。
子供が好きそうな組み合わせだ、と。
「ふーむ……。幼い頃と言ってましたけど、エリデさんのお母さんがこのスープを作ってくれたのは、どれくらいの頃からですか?」
「う~ん、記憶は曖昧ですが、ずっと幼い頃、私は学校には通っていませんが小等部に入学する年齢よりも幼い頃からだった気がします」
私はそれを聞いて少し驚いた。
エリデさんは前世でいう幼稚園生ぐらいの歳からこのスープを食べていたということだ。
私がこのスープを食べた感想が、好き嫌いが分かれそうというものだった。
そしてこのスープを一番に嫌いそうだと想像したのは、まだ幼い、幼児や小学生ぐらいの子供たちだった。
けれど、エリデさんはこのスープを幼い頃から食べていたという。話を聞くに、嫌がっていたという様子でもない。
確かに具は子供が好きそうなもので揃えてあるけれど、それだけじゃ、すんなりと食べてはくれないはずだ。それほど、このスープの匂いは癖が強い。
エリデさんの言うとおり、お母さんはこのスープにもう一工夫なにか手間を加えていたのだろう。
でも、わかるのはそこまで。そこからお母さんが具体的に何をしていたのか追求するというのは、雲を掴むような話だった。
「一応、スープの材料もお聞きしていいですか?」
「はい、もちろんです」
エリデさんから聞いたスープの材料はまさにお薬といった感じの内容だった。
何かを治したりするような強い作用は持たないけど、健康にいいとか、体が強くなるとか、そういう効能の薬草がたくさん使われている。
それを癖を抑えて食べられるくらいのスープとして調理しているのだから、かなり手間がかかっている。
これを聞くのは失礼かなって思いながらも、私はエリデさんに尋ねた。
「……エリデさんは子供の頃、体が弱かったりしました?」
「そうですね、よく風邪をひいて両親を心配させていた記憶があります」
なるほど……
私はそれだけ聞いて、情報を頭の中で吟味してみる。
それから……
「すみません、今のところ何も思いつかないので、ここに滞在させてもらっている間、考えてみてもいいですか?」
「ありがとうございます。料理に詳しいエトワさんから助言をいただけるならとても助かります」
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