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連載
277.
しおりを挟む村でひと騒動起こしたせいで受けることになったエリデさんからの事情聴取を、なんとか気合いで乗り切った私は、エリデさんの観察はひと休み。
お屋敷で別の人物を観察していた。
それはルモワおばあさん。
ルモワおばあさんは今日も屋敷のお掃除にきてくれている。
その動きはご高齢なのにテキパキとしていて隙がない。
私は常々、彼女の手伝いができないかと見ていたが、今までは手伝う隙を見つけることができなかった。
そんなおばあさんは今、ハタキを持って窓の掃除をしている。
「天輝さん、天輝さん、武の極地をちょっとだけ返してください!」
私の新しいスキル、武の極地は現在天輝さんに没収されてしまっていた。
無駄に濫用(らんよう)をしてしまったせいだ。
『なんに使うつもりだ?』
「今度からは変なことにつかいません! ちゃんとしたことにつかいます!」
私は必死に無駄遣いしませんアピールをする。
『ふむ』
天輝さんの頷く気配がして数秒、体が羽のように軽くなるのを感じる。
これは……武の極地!
返してもらえた!
『くれぐれも無駄遣いはするなよ』
「さらなり。世のため人のために用ゐんと誓はん」(もちろん。世のため人のために使うと約束しよう)
私はその場で武のポーズをとりながら、天輝さんの忠告に肯定の返事を返す。
『早速調子に乗っているな……』
『まあまあエトワちゃんも考えがあるみたいだから、しばらく見守ってあげよう?』
危うく天輝さんのイエローカードがでかけたが、○っプルペンシルさんが取りなしてくれた。
私たちがドタバタしている間に、ルモワおばあさんは次の窓の掃除に取り掛かっていた。
そんなルモワおばあさんの2メートル先にはモップが立て掛けてある。
窓の汚れを落としたあと床掃除をするためのものだ。
これぞ手伝うチャンスと誰しもが思うだろう。
でもそう簡単にはいかない。
ルモワおばあさんは私がモップに近づこうとすると、すぐに気づいていつも阻まれてしまうのだった。
曰く、『使用人の仕事を取るものではありませんよ、奥さま』
奥さまではありませんが?
そういうわけで、今まではルモワおばあさんのお手伝いをできなかった私だが、今の私ならできる。
なぜなら、今の私は武の極地だから。私が立ってる場所こそ武を志す者の頂(いただき)だから。アイアムブノキョクチ、イエスイエス、オーイエー!
無拍子。
私は気配を完璧に消してモップへと近づく。
(よし、このまま……)
あと少し……
私が息を潜めてモップをその右手で掴んだとき、もう一人、誰かの両手がモップをガシッと掴んでいた。
(な、なんとぉーーーっ……!?)
私は目を見開き……はしないけど、とにかく驚愕する。
いつの間にかモップの前まで移動していたルモワおばあさんが私より先にモップを確保していた。無拍子を使う前に確認したときは、確かに窓の掃除をしていたのに……
おばあさんの動きにまったく気づけなかった……武の極地に至ったはずのこの私が……
ルモワおばあさんは不敵な笑みを浮かべながら、鶴のような優雅な動作で私からモップを取り上げる。
「数多の家に使用人として仕えて50年、その程度の動きで私を出し抜くことはできませんよ、奥さま」
そうして勝利宣言をすると、悠々とモップをもって窓掃除へと戻っていった。
私はその場にがっくりと膝をついて項垂れる。
「負けた……奥さまじゃないけど……!」
『没収する』
その後、武の極地は再び天輝さんに回収された。
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