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連載
278.
しおりを挟む七話
朝起きてみると、今日はエリデさんは少し様子が違って見えた。
穏やかな振る舞いはいつもと変わらないけれど、どこか落ち込んでいるような、気持ちが沈んでいるように見える。
「エリデさん、気分でも悪いんですか?」
朝食の準備を手伝いながら、問いかけると、エリデさんはびっくりした顔をした。
「あれ、どこかおかしく見えましたか?」
「はい、ときどき物思いに耽っているように見えました」
エリデさんは一瞬、誤魔化そうと考えたらしい。笑顔を作ろうとした。
けれど、それもよくないと思ったのか、首を振って、諦めたように体の力を抜いた。
「大したことではないんです。今日は両親の命日なので、どうしても思い出してしまって……」
「そうだったんですね。すみません」
デリケートな話題に触れてしまい、咄嗟に謝ってしまう。
こういうときは、謝らない方がいい、という意見もあるし、それもわかる。
こちらが感じている気まずさが、相手にも伝わってしまうだろうから。
でも、いざそういうシチュエーションに出会うと、代わりになるうまい言葉はなかなか浮かばないものだ。
「謝ることではありませんよ」
「そうかもしれませんね」
案の定、朝食の席は少し気まずくなってしまった。
私もエリデさんも黙々と食事を口に運ぶ。
エリデさんをチラッと見ると、目が合った。
何も言わずに、こちらを見てフッと微笑みを浮かべた。それから何も言わずに、食事を続ける。
エリデさんと過ごした時間はそう長いわけではない。でも、何を伝えたかったかはわかった気がした。
気まずさからはじまってしまったものとはいえ、こういう静かな食卓も悪いものではないのかもしれない。スリゼルくんのご実家で経験したあの食事とは少し趣が違った。小麦から滲み出るパンの甘みもちゃんとわかる。
(エリデさんは大人だなぁ)
気まずい沈黙も逆らわずそういうものだ受け入れてしまえば気まずくない。
私もエリデさんに習って、静かに食事を続けた。
最初に感じた気まずさはもう薄れていた。
***
食事が終わり、麦畑の見回りをして、馬や羊たちに挨拶して帰ってくると、エリデさんが出かける準備をしていた。
荷物の中には、紫色の花束もあった。それで何処にいくのか、わかった。
「お墓参りですか?」
「はい、お昼過ぎに戻る予定なので、昼食はルモワおばあさんと食べていてください」
「私も行きます」
「楽しい場所ではありませんよ」
「せっかくこちらのお家にお世話になってるんですから、ご焼香ぐらいあげさせてください」
「ごしょ……? ……都会の若者たちの間で流行っている言葉でしょうか?」
「ダメですか?」
「いえ、わかりました。それでは馬で一緒に行きましょう」
お世話になっているエリデさんのお父さんお母さんにご挨拶したいという気持ちもある。
それとスープの隠し味を見つけるために、エリデさんのことをもっと知りたいという気持ちもあった。
ピクニックに行ったときのように、私はエリデさんの前に座らせてもらい、馬で草原を駆ける。
エリデさんの両親のお墓は、丘の上にあった。
その場所からは、私たちが過ごしている家やその近くにある村、ここら一帯の景色を見渡すことができた。見ているだけで、心が穏やかになる景色だった。
「見晴らしのいい場所ですね。ご両親のためにこの場所を選んだんですか?」
「いえ、ここに墓を建てたのはずっと昔の先祖です。でも、この眺めをみていると、この場所を選んだ先祖の気持ちもわかります」
エリデさんの視線の先には、家の前に広がる麦畑があった。
その後、私たちはお墓の周りを掃除して、エリデさんのお父さんとお母さんにお祈りを捧げた。
それから、少し離れた場所で厚手の布をシートとして敷いて、昼食を食べた。
「エリデさんのご両親はどんな方だったんですか?」
踏み込みすぎな質問かもと思ったけれど、故人のことを誰かに話たい、エリデさんの中にもそんな気持ちがあるのではないかと思うのだ。いつかは忘れ去られてしまうかもしれないけれど、こういう機会に思い出して誰かと話して共有して、なるべくその人たちのことを記憶に残しておく。それもお墓参りの意味だと思う。
エリデさんも不快そうな反応ではなかった。
「父は旅行が好きでした。家族でも旅行にいきましたけど、それだけじゃ我慢できなかったのかよく一人旅にもでかけて、何度も母に怒られていましたね。旅行から帰ってくると、よく変なおみやげを僕や村の人たちに渡していました」
そういえば、エリデさんの家には不思議な雰囲気の調度品がいくつかあった。シルフィール家のお屋敷では見かけたことがないエキゾチックなデザインのものだ。それはエリデ家のお屋敷に置かれている伝統的な家具と不思議と馴染むように置かれていた。置いた人のセンスがいいのかもしれない。
「母は料理が好きでしたね。幼い頃は体が弱かった僕を心配して、いろいろと健康によさそうな料理を作ってくれました。前にもお話ししたと思いますが、エトワさんに隠し味を見つけて欲しいとお願いしたスープもその一つです。母の料理のおかげかはわかりませんが、十三歳を超えるころには僕も病気をすることがなくなって、夫婦水いらずで旅行にいってもらった旅先で……」
エリデさんははっきりと言わなかったけど、その旅行で亡くなってしまったのだろう。
時間が経って心の整理はついてるのだろうけれど、エリデさんの目にはまだ少し寂しそうな色が残っていた。
「聞いてくださってありがとうございます。それから墓参りも。父も母も喜んでいたと思います」
「いえいえ、そんなそんな」
帰り際にもう一度、エリデさんのお父さんとお母さんに手を合わせる。
エリデさんはそんな私の動作を少し不思議そうに見ると、自分も祈りを捧げた。
「それじゃあ帰りましょう」
「はい」
帰りもエリデさんの前に座って馬に乗る。
もう慣れたもので、いつか一人でも馬に乗れるようになりたいな、と私は思った。
そして帰ってきたエリデさんのお屋敷。
玄関を開けた私たちは驚愕した。
私たちの視線の先、そこにはルモワおばあさんが倒れていたからだった……
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