127 / 151
連載
250
しおりを挟む
スカーレット侯爵家、つまりはリンクスくんのご実家にお泊まりさせてもらっての次の日の朝。
私は誰に起こされることもなく、むっくりとお布団から起き上がった。窓を見るとお日様は、もう随分と高い位置にある。
お昼というにはまだ早いけど、早朝というには遅すぎる、そんな時間みたいだ。
「学校があったら、完全に遅刻だねえ」
ソフィアちゃんのご実家にお世話になってるときは、こんな時間に起きることは不可能だった。健康的な人たちが、毎朝私を起こしにくるからだ。
(ソフィアちゃんのお家を悪くいうわけではないけれど、私はこっちの方が性に合ってるのかも)
お休みの間ぐらい、ずっと朝寝坊してたいものである。
朝寝坊が許されたことに、軽く感動みたいなものを覚えつつ、私は着替えてから部屋をでた。
特に何も考えずにボーッと廊下を歩いてると、リンクスくんのお父さん、コーラルさんと行き合う。
「おはようございます、エトワさま。お疲れかと思ったので、起こさないようにしておきましたが、大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで、ゆっくり寝ることができました」
「それはよかった。ダイニングに朝食を用意してあります。よかったら、案内しますよ」
「すみません、お願いします」
ダイニングまでコーラルさんに案内してもらう。
その間に話したけど、話題はほぼほぼリンクスくんのことだった。
「そうですか、リンクスは楽しく暮らせてるみたいですね」
公爵家の別邸でのリンクスくんの様子をご報告すると、コーラルさんはそう微笑んだ。
「そうですね、でも……」
「どうしました?」
私は前々から悩んでることを打ち明けた。
「護衛の仕事には、そこまで熱心にやらなくてもって思うほど真面目なのに、公爵家の後継者を目指すのにはあんまり熱心に見えないんですよね。この前の生徒会選挙も出馬しようとすらしなかったですし」
そこまで言って、私は失敗を犯したことに気づいた。
優しそうな雰囲気に、ついつい気を許して話してしまったけど、そもそもスカーレット侯爵家はリンクスくんを公爵家の後継者候補として派遣したお家なのだ。真面目に後継者候補になろうとしてないと聞いたら、ご実家でのリンクスくんの評価が下がってしまうかもしれない。
「あのあのあのお、さっきのは言葉の綾というか! リンクスくんなりに自分の考えで真面目に一生懸命に取り組んでるんだと思います!」
私は頭を抱え、必死に誤魔化そうとする。
でも、そんな私の姿に、コーラルさんはくすくすと笑って言った。
「リンクスのことを考えて庇ってくださってるんですね。どうやら本当に家族のように思ってくださってるようだ。でも、安心してください。あの子が後継者を目指すつもりがないということは、もう僕達夫婦には伝えられていますよ、本人の口からね」
「えええっ」
「そもそも選挙に出てない話は僕達にも伝わっていますからね。さすがにそのフォローで誤魔化すのは無理だったと思いますよ。聞いてて面白かったので、いいんですけど」
「いえいえいえっ! もうそういう話ではなくてっ!」
楽しそうに私のフォローの無様っぷり笑うコーラルさんに、私はそれどころではないと汗をかきながら伝えた。
そう、それどころではない。
え、すでに後継者候補を目指すつもりがない。しかも、ご両親にはすでに伝えてる。
それをお父さんは楽しそうに笑いながら話している。
もう、どこがそれどころで、どこがないのか、どこらへんがムイムイなのか、わからない。
今も自分で何を考えてるのかわからない
「なななな、なんでっ」
「他にやりたいことがあるみたいですよ」
「やりたいことって……」
おかしいとは思っていた。
護衛役の子たちにとって、後継者候補になりたいという思いはそれぞれだった。ソフィアちゃんにとっては自分を高めるための目標、クリュートくんは自分が優秀だと周りに示すため、ミントくんは「男なら高みを目指す……そこに理由はない……」とか最近は言い出してる、スリゼルくんは、わからないけど切羽詰まった思いを感じる。
でも、リンクスくんだけはそういった欲求を感じられたことすらない。
護衛の仕事にはやたらと熱心だけど、それを最初は後継者を目指すためだと思っていたけど、それは違うと……最近はなんとなくわかっていた。
親しい間柄だと思ってた。少なくとも、エンシェントゴーレムの事件のあとからは……
でも今更になって、肝心なことを何も知らなかったことに気づく。
「なんでしょうか……」
私は思わず、コーラルさんに頼ってしまった。
知らないリンクスくんのことを知りたい……
でも、コーラルさんは澄んだ瞳をしながら、優しい声音で私に告げた。
「それをあなたが知るのは、リンクスの口からにすべきですよ」
「そう……ですね」
私はコーラルさんのことを本当にいい人だなって思った。
リンクスくんが私に話してくれていないことを、今お父さんの口から聞くのは、きっとダメなことだったと思うから。
「いつか、話してくれますかね?」
「ええ、きっと、そのときがくると思いますよ」
リンクスくんがなぜ、後継者候補を目指すのをやめてしまったのかはわからない。
でも、いつかその理由を教えてもらえたらいいなって思った。
私は誰に起こされることもなく、むっくりとお布団から起き上がった。窓を見るとお日様は、もう随分と高い位置にある。
お昼というにはまだ早いけど、早朝というには遅すぎる、そんな時間みたいだ。
「学校があったら、完全に遅刻だねえ」
ソフィアちゃんのご実家にお世話になってるときは、こんな時間に起きることは不可能だった。健康的な人たちが、毎朝私を起こしにくるからだ。
(ソフィアちゃんのお家を悪くいうわけではないけれど、私はこっちの方が性に合ってるのかも)
お休みの間ぐらい、ずっと朝寝坊してたいものである。
朝寝坊が許されたことに、軽く感動みたいなものを覚えつつ、私は着替えてから部屋をでた。
特に何も考えずにボーッと廊下を歩いてると、リンクスくんのお父さん、コーラルさんと行き合う。
「おはようございます、エトワさま。お疲れかと思ったので、起こさないようにしておきましたが、大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで、ゆっくり寝ることができました」
「それはよかった。ダイニングに朝食を用意してあります。よかったら、案内しますよ」
「すみません、お願いします」
ダイニングまでコーラルさんに案内してもらう。
その間に話したけど、話題はほぼほぼリンクスくんのことだった。
「そうですか、リンクスは楽しく暮らせてるみたいですね」
公爵家の別邸でのリンクスくんの様子をご報告すると、コーラルさんはそう微笑んだ。
「そうですね、でも……」
「どうしました?」
私は前々から悩んでることを打ち明けた。
「護衛の仕事には、そこまで熱心にやらなくてもって思うほど真面目なのに、公爵家の後継者を目指すのにはあんまり熱心に見えないんですよね。この前の生徒会選挙も出馬しようとすらしなかったですし」
そこまで言って、私は失敗を犯したことに気づいた。
優しそうな雰囲気に、ついつい気を許して話してしまったけど、そもそもスカーレット侯爵家はリンクスくんを公爵家の後継者候補として派遣したお家なのだ。真面目に後継者候補になろうとしてないと聞いたら、ご実家でのリンクスくんの評価が下がってしまうかもしれない。
「あのあのあのお、さっきのは言葉の綾というか! リンクスくんなりに自分の考えで真面目に一生懸命に取り組んでるんだと思います!」
私は頭を抱え、必死に誤魔化そうとする。
でも、そんな私の姿に、コーラルさんはくすくすと笑って言った。
「リンクスのことを考えて庇ってくださってるんですね。どうやら本当に家族のように思ってくださってるようだ。でも、安心してください。あの子が後継者を目指すつもりがないということは、もう僕達夫婦には伝えられていますよ、本人の口からね」
「えええっ」
「そもそも選挙に出てない話は僕達にも伝わっていますからね。さすがにそのフォローで誤魔化すのは無理だったと思いますよ。聞いてて面白かったので、いいんですけど」
「いえいえいえっ! もうそういう話ではなくてっ!」
楽しそうに私のフォローの無様っぷり笑うコーラルさんに、私はそれどころではないと汗をかきながら伝えた。
そう、それどころではない。
え、すでに後継者候補を目指すつもりがない。しかも、ご両親にはすでに伝えてる。
それをお父さんは楽しそうに笑いながら話している。
もう、どこがそれどころで、どこがないのか、どこらへんがムイムイなのか、わからない。
今も自分で何を考えてるのかわからない
「なななな、なんでっ」
「他にやりたいことがあるみたいですよ」
「やりたいことって……」
おかしいとは思っていた。
護衛役の子たちにとって、後継者候補になりたいという思いはそれぞれだった。ソフィアちゃんにとっては自分を高めるための目標、クリュートくんは自分が優秀だと周りに示すため、ミントくんは「男なら高みを目指す……そこに理由はない……」とか最近は言い出してる、スリゼルくんは、わからないけど切羽詰まった思いを感じる。
でも、リンクスくんだけはそういった欲求を感じられたことすらない。
護衛の仕事にはやたらと熱心だけど、それを最初は後継者を目指すためだと思っていたけど、それは違うと……最近はなんとなくわかっていた。
親しい間柄だと思ってた。少なくとも、エンシェントゴーレムの事件のあとからは……
でも今更になって、肝心なことを何も知らなかったことに気づく。
「なんでしょうか……」
私は思わず、コーラルさんに頼ってしまった。
知らないリンクスくんのことを知りたい……
でも、コーラルさんは澄んだ瞳をしながら、優しい声音で私に告げた。
「それをあなたが知るのは、リンクスの口からにすべきですよ」
「そう……ですね」
私はコーラルさんのことを本当にいい人だなって思った。
リンクスくんが私に話してくれていないことを、今お父さんの口から聞くのは、きっとダメなことだったと思うから。
「いつか、話してくれますかね?」
「ええ、きっと、そのときがくると思いますよ」
リンクスくんがなぜ、後継者候補を目指すのをやめてしまったのかはわからない。
でも、いつかその理由を教えてもらえたらいいなって思った。
190
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。
木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。
彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。
しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。