公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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 朝、私はミントくんを成敗せずに、朝日を迎えていた。

 あの場で倒してしまうのが一番手っ取り早くはあるんだけど、よそ様のお家で大事な息子さんをはっ倒すのもどうかと思ってしまったのだ。まずはお父さんであるルバーブさんに話を通してみよう。

 ということで、ルバーブさんが一人でいるところを見つけて、話してみたんだけど……

「ははは、面白いジョークですな。」

 ルバーブさんの反応はこんな感じだった。

「信じられないかもしれないけど、冗談じゃなくて現実なんです! お宅の息子さんがこの屋敷をドラゴンの飼育場にしようと、クーデターを計画しているんです!」

 私はなんとか説得しようと熱弁を振る舞った。
 しかし……

「ミントはいつも帰ってくると家の仕事を手伝ってくれます。妻が亡くなってからも私を心配させまいと振る舞ういい子です。そういうことをするとは思えません」

 でもルバーブさんの心には響かなかった。

「ははは、そうだよ。僕がドラゴンを飼うためにクーデターを企てるなんて、そんなことするわけないだろ。でも、そういうところも面白くて好きだぞ」

 しかも、どこから聞きつけたのか、いつのまにかミントくんまで会話に参加していた。

「本当にミントとエトワさまは仲が良いですな。父親として嬉しいですぞ」
「こういうところぉおおおーーー!」

 私は急に現れたミントくんを指差して叫んだ。

「絶対変でしょう!? いきなり現れて私たちの会話に混じってるし! しかも、この笑顔!」
「変でしょうか? いつものミントに見えますが……?」
「きっと何かおかしな先触れが起きているはずです。このお屋敷に不審なことは起こっていませんか?」
「いえ、特に。見張りの者も屋敷で働く者たちも、最近はミントの魔獣たちが毎日遊びにきてくれるので、癒されるて仕事に励めるといってます」

 それ、監視されてるぅうううーーー!

「れ、レトラスが最近、ずっと落ち込んでいますよね⁉︎ 変に感じませんでしたか!」
「そういえば、あの子はずっと元気がないですね。悪いものでも食べたのでしょうか?」
「私の目を見てください! 嘘をついている目に見えますか⁉︎」

 そこで私はハッとなった。
 私、糸目じゃん。目は見えない、相手からも自分からも。

 でも、ルバーブさんは糸のように細い私の目をじっと見て、真剣な表情で言った。

「たしかにエトワさまの目は、嘘をついている者の目ではありませんな」

 こ、これは……意外と効いた……!?
 ルバーブさんは菩薩のような微笑みを浮かべて言った。

「きっと怖い夢でも見たのでしょう。そしてそれを現実の出来事と思ってしまったと。昨日は不思議な体験をされましたから、そういうことがあってもおかしくないですな、ははは」
「次に怖い夢を見たら、僕の部屋にきてもいいからね」

 あああああ、ダメだこの人!
 決して悪人ではないけど、ゾンビものとかのパニック映画で、主人公の忠告をことごとく無視して、自体を手遅れにしてしまう市長タイプの人だ!
 このままでは屋敷はドラゴンや魔獣、ゾンビやサメ、狩猟型宇宙人で溢れかえってしまう。

「これからも二人で仲良く、息子のことをよろしくお願いします」
「父上に言われなくても、僕たちは仲良しだよね、エトワ」

 私がなんとかしなければ……!


***


 戻って夜の時間。
 いや、時計の針は進んでるんだけど、私の感覚的には時間をムダにして戻ってきている。夜。

 私はミントくんが決起集会をしていた倉庫まで来ていた。

 昨日は騒がしくなくとも、ミントくんの声と魔獣の威勢のいい咆哮が響いていたそこは、しんと静まりかえっていた。

「まさか、もう動き出した?」

 一瞬、そう考えたけど、それにしてはここにくるまでに何の気配も感じなかった。
 不審に思いながら、私は何か手がかりがないか、倉庫の中に入る。

 倉庫の中で、ミントくんが演説していた壇に目を向けた私は、あるものを発見する。

「こ、これは……!」

 それは地図用紙サイズの紙に書かれたクーデター計画書だった、ミントくん直筆の。

 読んでみると、内容的は概ね昨晩話していたものと一致する。これは何かあったとき、有利な証拠になるかもしれない。
私はその紙を天輝さんとは逆の手で握りしめた。

『エトワ……!』

 天輝さんの警告が響く。
 ハッと後を振り向くと、倉庫の扉は空いていて、ミントくんが立っていた。

 ポケットに手を入れて、こちらをいつもの無表情で見ている。

「ミントくん……この計画は本気なの……?」

 ミントくんは頷いた。

「ああ、そしてエトワ……お前なら止めにくると思っていた……」
「じゃあ、ここでのあの態度は油断させるための演技だったの?」
「いや、あれは演技ではあるが……父上を心配させないためのものだ。母上が亡くなってからからは俺のことを随分と気にかけてくれてるからな……」
「こういう計画立てちゃったら、心配させるとかそういうレベルじゃないでしょぉお!」

 心配させまいと振る舞ってるくせに、下克上ってなんだよ! 台無しだよ!

「確かに男手一つで育ててくれた父上を討つのは男の流儀に反する……」

 ミントくんはポケットに手を入れて、目を瞑ってそういった。
 この子なりの苦悩を表現しているのかもしれないが……

 しかし、そこから碧色の目をカッと開いて、ミントくんは真剣な表情で言った。

「だが……男に生まれたからにはその流儀を踏み越えててでも叶えなければいけない野望がある……」

 ダメだこの子、まぢで本気だし、こっちも本気でなんとかしないと。

「やらせないよ!」

 倉庫の扉を抜けた。

「ああ……お前ならそうするだろう……」

 ミントくんを詰めようと小屋を出た瞬間、四方八方から大量の気配が、私へと向かって放たれた。

「これは……全方位(オールレンジ)攻撃!」

 まさに無数の、避けようのない攻撃だった。
 私の対策のために用意していたのだろう。もしかしたら手書きの計画書も、私の気を引いてこの攻撃を準備するための仕掛けだったのかもしれない。

「……で、そんな攻撃が私に通じるとでも?」

 でも、私にはどんな攻撃が当たろうと問題がない。
 すでに戦闘に備えて力を解放していた。避けられないなら、耐えればいいはず。

 そう思っていた……

「……効くさ」

 ミントくんの全方位攻撃の一発目が、着弾した瞬間、私の顔色が変わった。

「こ、これは⁉︎ まさか!」

 肌に触れる柔らかいモフッとしたフワフワの毛皮の感触。
 そしてコンマ数秒、全身が同じモフモフに包み込まれる。

「ぐはぁっ……」

 私は全身の力を抜いて、地面に倒れ込んだ。

『おい、エトワ! どうした! 何もダメージは受けてないぞ!』

 天輝さんが何が起きたのか理解できず叫ぶ。
 でも、私は……

「ダメだよ……天輝さん……私はもう動けない……」

 ミントくんが仕掛けてきた全方位攻撃の正体。
 それはミントくんが使役する小型の魔獣たちだった。

 それが何十匹も、私の体にまとわりついているのだ。
 それはどういうことかというと、つまり、私の体の周りは小型の魔獣たちのラッシュアワー状態なのである。

 私の体の周りには、魔獣たちがギュッと積み重なっている。
 そんな中で、力を解放して、化け物じみた力を得た私が本気で動いたらどうなってしまうか。ムギュッと潰れてしまう子がでてくるかもしれない。

 そのことを察知した瞬間、私は全身の力をゼロにして、地面に倒れ伏せるしか、取れる手段がなくなってしまったのだ。
 そして伏せた私の脇の下や、腕の近くでも、隙間なく猫や犬やハムスターの魔獣たちが寄り添って、寄り添いあって、私の一切の行動を阻んでくる。

 もう、私は、一歩も動くことができない……
 それはミントくんの策略が生み出した、世にも恐ろしいモフモフの牢獄だった。

「ま、負けた……」

 まさかの完封を食らい、愕然と呟く。

『エトワ……お前アホなのか……? アホなのか……』

 天輝さんの呟きは、二言目で疑問符が消えていた。
 ただ一人、この場に立つ勝利者となったミントくんが超然と呟く。

「最強の戦士もここに破った……」

 私にはもう彼を止める術がない。
 そう思ったとき、森の方角から咆哮が響いた。

「ガォオオオオオオオン!」
「レトラス! そうだ、あの子なら!」

 ホワイトタイガーの魔獣が捕われた私を見て、こちらに走ってくる。
 あの子の同じモフモフ属性のボディなら、この拘束を打ち破れるかもしれない。レトラスがきてくれれば、まだなんとかなる。

 まだ希望は潰えていなかった。

 だが、こちらに辿り着く前に、夜の闇を湛える上空から、二体の魔獣が降りてきた。
 銀色の体毛をもつ狼の魔獣、そして漆黒の羽をもつ鷲の魔獣。

 昨日撫でさせてもらった二匹の子たちであり、共にレトラスと同サイズの戦闘特化の魔獣である。
 二匹はレトラスの進路に立ちふさがった。

「ガオ⁉︎」

 睨みを効かせる二匹に、レトラスも動きが止まる。
 その光景を一瞥したあと、ミントくんはポケットに手を入れたまま屋敷の方へと向かっていく。

「さらばだ、エトワ……俺は覇道を行く……。次、会うときには……お前に必ずドラゴンの雄大な姿を見せてやる……」

 そんなん、見せんでいいわー!
 ミントくんのアホー!
 アーホアーホ!
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