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連載
262.
しおりを挟む私の体の上では、ふわふわの体毛をもつ可愛らしい魔獣たちが山のように積み重なっている。
私が危害を加えるつもりがないとわかってるのか、彼らはとても穏やかな表情で、スヤスヤと寝息を立てている子すらいた。
普通なら天国みたいな状況……けれどこれは私を閉じ込めておく牢獄なのだ。
とりあえず、何か事故があったら困るので、私は力の解放をやめておいた。すると、今度は単純に抜け出せないのである。ここまで計算しているとは、さすがはミントくん恐ろしい頭脳の持ち主だ。
一応、念のためなのか、天輝さんはリーダー役らしきキツネの魔獣に持ち去られてしまった。
まあ、感覚で居場所はわかるんだけどね。
ミントくんは姿を消してしまった。
身動きが取れないので、心眼の力をできるとこまで広げているけど、居場所は掴めない。
「どうしたもんかね~」
全身をモフモフに包まれながら、私が困った表情をしている中、外では唯一の希望、レトラスとミントくん腹心の魔獣たちの戦闘が始まろうとしていた。
「グルグルルルルル!(やはり裏切ったか、レトラス!……みたいなことを言っている気がする)」
「ギャースギャス!(ミントさまの一番の腹心であるお前が敵に回るとはな!……みたいなことを言っている気がする)」
レトラスといえば、ルーヴ・ロゼのアンデューラでも活躍できるほどの強い魔獣である。
そんなレトラスを前にしても、銀色の狼と黒い鷲は怯む様子を見せなかった。
そしてレトラス側も二匹を前に、怯むことなく吠える。
「ガォオオオオオオオン!(主人が誤った道に進んだとき止めることも、我らの役目!……みたいなことを言っている気がする)」
まず動いたのは銀毛の狼だった。
毛並みが月明かりにまばゆく輝いたと思ったら、その姿が五体に分身する。
魔獣の中には、魔法に近い力を行使するものもいると聞く。これもその力の一端なのだろう。
「グォン!(お前などいなくても、ミントさまの野望は我らが叶える!……みたいなことを言っている気がする)」
分身した銀毛の狼はレトラスを取り囲む。
そして五方向から同時にレトラスへと襲いかかった。おそらく四体は幻影なんだろうけど、どれが本物か見分けがつかなければ有効な対応は取りにくい。レトラス、大丈夫だろうか……
レトラスはグッと地面を踏み、空へと飛び上がった。
全部の幻影から距離を取る動き、それそのものは悪くない判断―――けれど、上空にはもう一体が待ち構えていた。
漆黒の夜空に溶け込む、大鷲の魔獣。
飛び上がる動き読んでいたように放たれていた翼での猛撃をレトラスは「フギッ」と叫んで空中で体をひねり、間一髪でよけた。
そのまま、二匹から離れた場所で着地する。
運よく無傷で済んだけど、状況的には不利なのは変わってない。
このままでは厳しそうだ。
私も何かしなければ……
そう考えてふと、心眼の映像から、自分の周りに意識を戻すと、じぃーと誰かがこちらを見ていることに気づいた。
それは小型の魔獣だった。
他の魔獣が安心しきった、ある意味油断した表情でスヤスヤ寝ているのに対して、こちらを心配そうに見てきている。
それは昨日出会ったハリネズミの魔獣だった。
「君は……」
私がそう呟くと、ハリネズミはびっくりした動作で、壇の向こう側に隠れた。
でも、そこから顔を出して、やっぱり心配そうにこちらを見つめてくる。私はその表情を見てピンときた。
「ハリネズミくん……」
名前はわからないから、今はこう呼ぼう。
「君はこのままでいいと本当に思っているのかい……?」
昨日のハリネズミくんの行動は覚えている。フクロウの魔獣に、重い木の実を届けてあげていたのだ。
きっと心優しい性格なのだと思う。なら、このミントくんの蜂起にも心を痛めているはずだ。その証拠に、このハリネズミくんはモフモフの牢獄には参加していなかった。いや、針があるから参加できなかったのかもしれないけど……
ハリネズミくんは弱気な表情で、首を振った。
やっぱりそうだった。
ミントくんの下剋上に対して、反対している魔獣もいるのだ。レトラスみたいに強くはないから、その意志を表明できなかっただけで。
ならば……
私は服をゴソゴソと漁って、一枚の紙を取り出した。
ミントくんの下剋上の計画書だ。魔獣たちは油断していたのか、天輝さんは取り上げられたけど、こっちの紙は取られなかった。
「この紙をもっていってくれないかい? そしてできれば、ルバーブさんにこれを届けて欲しい」
さすがにこの計画書を見れば、ルバーブさんの考えも変わるはずだ。
「プルルルル!」
私の頼みに、ハリネズミくんは真っ青な顔で首を横に振った。
自分にはムリムリムリと言っている気がする。
「ムリだと思うなら、これを持ってどこかに隠れてくれるだけでもいい。それで何か状況が変わるかもしれない」
ミントくんがどれだけの時間でクーデターを成功させるのか不明だ。
でも、今夜中でなければどこかでチャンスがくるはずだ。そのためにはこの紙は私が持つより、自分で動けるハリネズミくんが持っている方が可能性が広がるはずなのだ。
「お願いだよ……あの重いリンゴをがんばって部屋まで運んでいた君になら……できるはず……」
モフモフの牢獄に無理に逆らって動いていたせいで、私はそこで一旦力尽き、紙を取り落とした。
しばらくモフモフに体を委ねて、体力を回復しようと思う。
ハリネズミくんは紙を前にしばらく悩んでいたが、部屋に別の魔獣の足音が近づくのが倉庫に近づいてくるのが聴こえた瞬間、慌てて紙を手に取りこくりと頷いて部屋を出ていった。
がんばれ、ハリネズミくん!
あああぁ~~~もっふもふ~~~………
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