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「お、お姉ちゃんっ!!」
夕暮れに染まる中、無事ミアに助けてもらった僕とフェリシアは森の外で捜索の準備をしていた大人たちに保護してもらった。椅子に座って自警団のまとめ役みたいなおじさんに森で起きたことを報告している最中、ステラが半泣きでフェリシアに抱きついてきた。
「…っ」
フェリシアは何かを言おうとした様子だったが、声が出ないままただステラをギュッと抱きしめていた。
森の入り口には大勢の大人たちが集まっていた。領内の安全を守る自警団はもちろん、学校関係者、僕やフェリシアたちの家族はもちろん、ミアを含む戦闘ができる一部の従者などが集まっていた。
まぁ、領主の息子とブランシュ家のご息女が行方不明になれば大ごとになるのはわかりきっているか。あの野盗たちの最大の誤算が、ミアが迷うことなくまっすぐ僕を助けに来れた事だろう。
ミアがまっすぐ僕のところに来てくれなければ、きっと捜索が始まるころには僕とフェリシアは野盗のアジトに連れていかれていたに違いない。そう、あの時フェリシアが僕に噛みついてくれたから助かったんだ。
あの時ー
「僕の体、どこでもいいから噛みついてくれるかい?」
そういって僕はミアの前に腕を差し出した。どこでもいい。と言ったけどやっぱり抵抗が少ないのは手とか腕だと思ったからだ。
「は、はあ!? な、何言ってるのよアンタ!ぜ、絶対イヤに決まってるじゃない!なんで私がアンタなんかに噛みつかなきゃいけないのよ!」」
「ほ、ほんの少しでいいんだ。フェリシアが僕を噛んでくれれば……ミアが来る。絶対に。理由は……その……長くなるし……いや、説明してる時間がもったいない!だから噛んで! 噛んでくれたら全部うまくいくから!」
「なんなのよその意味不明なお願い!ア、アンタに噛みつくなんて……っ、できるわけないでしょ!!ちゃんと理由を言いなさいよ!」
「いいから早く!もたもたしてたら、このまま僕ら、どこに連れていかれるかわからないんだぞ!ステラにもう二度と会えなくてもいいのか!!」
嫌がるフェリシアの口元に腕を突きつけると、焦ってきたせいもあって少し強い口調で怒鳴ってしまった。
ステラにあえない、という事と野党のことを思い出したフェリシアは目をつむると、口を開けて俺の腕に噛みついた。
「つっ…!」
腕に歯形が付くと、じんわりと赤く血が滲んでくる。フェリシアはそれを見ると慌てて自分のスカートの裾を破ると僕の腕にグルグルと巻きつける。止血のつもりのようだ。
「……っ! はい、噛みました!もう、こんなの普通やらないんだからね!?……で、本当にこれでステラのところに戻れるんでしょうね?」
「うん、大丈夫。これでミアは必ず来てくれる。もう心配しなくていいよ。すぐにここから出られるさ。」
俺は噛まれた腕を抑えながら窓の外を見てミアを待つことにした。ミアは普通の従者ではない。ロザーク家に仕える従者の中でもTOP5の腕前を持つ戦闘が得意な従者だ。前世の記憶では、俺に危険が及ぶとき、必ずミアは助けに来てくれた。いつも、行き先を言わないで家を出たのに不思議と僕の居場所がわかっていた。前世で怪我をした時は100%に近い確率でミアは俺のところに来てくれたんだ。だから今回も、俺が怪我をしたとなれば、ミアは必ず来るはず。
「そ、そんなの……来るわけないじゃない。だって、私たち閉じ込められてるのよ?どうやって知らせるのよ……」
「んー。そうなんだけどね。なんていうのかな……彼女は、いつもそうなんだ。俺がちょっとでも怪我したり、困ったりすると、どこからでも飛んできて助けてくれる。昔は正直、うっとうしいって思ったこともあったよ。息苦しいというか、子ども扱いされてるみたいでさ。でも、今は違う。あの人は――僕のことを本当の家族みたいに思ってくれてるんだって、分かるんだ。弟を心配して必死になるお姉ちゃんって、きっとあんな感じなんだろうなって。……ステラだって、そうじゃない?フェリシアがそばにいれば安心できる。“怖くても、フェリシアが守ってくれる”って信じてる。その気持ちに、ちょっと似てるのかもしれない。だから僕は、ミアを信じてるだけだよ。」
「な、なによそれ……!アレンのくせに急に大人ぶっちゃって。……ちょっと、ムカつくんだけど。」
あぁ!しまった。気が緩んでついついおじさんが昔を懐かしいよね、って昔話をする感じで喋ってしまった。僕は苦笑いをしながらフェリシアがムスーっとした顔で疑っているのをただ誤魔化すことしかできなかった。
納得いかなそうな顔のまま、先に根負けしたフェリシアが僕のそばの壁にもたれかかって足を延ばしたとき、スカートが少し捲れたところに切り傷があったのが見えた。木から落ちる時にでも怪我をしてしまったのだろう。
俺は袋に入れてあった傷薬に使われる薬草を指ですりつぶして、フェリシアのスカートを少し持ち上げると何も言わず傷に塗った。
「ちょっ…あんた、何考えてるのよ!?」
「……フェリシア、ほら見てごらん。怪我してるじゃないか。こんな場所で放っておくなんてダメだよ。応急処置だけでもしておかないと――。もし君の綺麗な足に跡が残ったら、きっと後悔するのは君だ。動かないで……少し沁みるけど、我慢してね。……はい、これで終わり。家に戻ったら、きちんと消毒してもらうんだよ。いいね?君も女の子なんだから、身体は大事にしないといけないんだから」
「こ、こんな傷…別に平気なのに…」
フェリシアは恥ずかしそうにスカートを押さえつけながら顔を真っ赤にしながらプイッ!っとそっぽを向いてしまった。僕は手に残った傷薬をフェリシアが噛んだところに塗りながら、冷静に考え始めた。
(あれ?こんな小さい女の子の足…スカートをめくって薬を塗るのは犯罪なのではないか!?…も、もしフェリシアが家に帰った時に『アレンがスカートをめくって足を触ってきたぁ!』とか言って泣いたら俺、人生おわるのではないか!?)
急に血の気が引いてくるのがわかった。このままここから逃げ出しても、小さい女の子のスカートをめくって足を触った変態としての二つ名を一生背負う事になるのか?
『アレン様、最低です。見損ないました』
『女の子の足を勝手に触って、スカートをめくるなんて、お母さん悲しいです』
『スカートめくりのアレンが来たぞー』
…いやだ!これは違う。フェリシアのことを思えばのことで、やましい気持ちがあったわけじゃなくて、でもこういうとき触った方は一方的に責められるのが一般的で…あぁぁ!!!
「アレン様っ……! アレン様!!いらっしゃいますか!?お返事を……お返事をくださいませ!!」
俺が苦悩している姿を、窓の外から見たミアが声を荒げて近づいてきた。
というのが、大まかな内容だ。フェリシアはあれからこっちをまともに見てくれないし。ミアにも変なとこ見られちゃったし、俺の人生、終わったかもしれない。
「アレン様、この傷、本当に大丈夫でございますか?どうか、痛いときは痛いと私には正直に言ってくださいませ。」
ミアが腕の傷に薬を塗って、包帯を巻いてくれている時に心配そうに声をかけてくれた。そのとき、一瞬だけフェリシアの体がピクンっと動いた。
「アレン様のお話をまとめますと……やはり、この周辺で噂になっている人さらいの一味と見て間違いございませんね。 自警団には巡回を増やすよう速やかに手続きをいたします。旦那様にも、今回の状況を至急お伝えしますのでご安心くださいませ。……ただ、ひとつ気になることがございます。この歯形……とても小さいですね。まるで“幼い子ども”が噛んだような跡です。アレン様、賊の中に……子どもの姿があったのでしょうか?」
「え、えっ……そ、そうなの……?ぼ、僕…は、はっきりそこまで覚えてないなぁ。だ、だって……ほら、こわくてまわりなんて見る余裕なかったんだよ」
「……そう、でございましたか。失礼いたしました、アレン様。怖い思いをなさった直後に、余計なことをお伺いしてしまいましたね。従者として、アレン様のお気持ちを汲み取れず……申し訳ございません。」
やっぱり、ミアにはこの傷のことなんとなく怪しまれてるなぁ。…まさか、フェリシアが噛みついた、なんて言えないし、とにかく歯形の件から話題をそらさないと…。
「そ、そういえばさ……。ミアお姉ちゃんって、なんでいつも僕が困ってたり、怪我したりすると……すぐ来るの?まるで……どこかで見てたみたいに。」
ミアは包帯を巻く手が一瞬止まると、少し考えたあとに、悩んだようにゆっくりと口を開いた。
「……アレン様。そのご質問には、お答えしたい気持ちは山々なのですが……どうか、少しだけお時間を頂けませんでしょうか。私なりに、きちんとお話しできる形に整えて必ず、アレン様にお伝えいたします。どうか……今だけはお許しくださいませ。」
ミアは物すごく困ったような、不安そうな表情をして僕の目を見てきた。いつも見たことがないような、心に傷を負った動物のような寂しい、悲しい目だった。
「う、うん。別に無理に話さなくてもいいんだ。ミアが話そうと思ったら教えてくれるくらいでいいから」
「はい。申し訳ございません。ありがとうございます。」
ここまで僕に話したくないような事って…なんだろう?もしかして本当はストーカーのようにずっと監視されているとか?それは確かに言いたくはないが…。まぁ、無理に聞き出すのはよくないから、のんびり待つとしよう。
それよりも、今頃あの野盗…人さらいたちはどうしているだろうか?絶好の獲物を2人も逃がしたんだ。あの親分の性格じゃあ相当荒れているに違いない。
(ざまぁみろ…!俺が歴史を、人生を変えたんだ。ここは俺が変えた世界なんだ)
急に体の内側が熱くなってきた。何もできなかった前世とは違って、自分の決断や記憶で救える命がある。例え子供でも、切り開ける未来があるとわかったからだ。この先もきっと人生の選択が迫られる時が来るのだと思う。
今回フェリシアを助けられたのが偶然でも、未来は変えることができるんだ。
ただ、あの人さらいがまた来るかもしれない。前世ではこの先同級生がいなくなることはなかったけど、この世界ではまだ油断はできない。注意していかなくては。
「きみがアレン君だね?」
考え事をしながらミアを見ていると不意に声をかけられた。僕は急いで声をかけてきた方向を見ると、細身の男性が1人立っていた。色白で線の細い人だ。前世でも見た記憶がないこの人を、僕は警戒せずにいられなかった。
夕暮れに染まる中、無事ミアに助けてもらった僕とフェリシアは森の外で捜索の準備をしていた大人たちに保護してもらった。椅子に座って自警団のまとめ役みたいなおじさんに森で起きたことを報告している最中、ステラが半泣きでフェリシアに抱きついてきた。
「…っ」
フェリシアは何かを言おうとした様子だったが、声が出ないままただステラをギュッと抱きしめていた。
森の入り口には大勢の大人たちが集まっていた。領内の安全を守る自警団はもちろん、学校関係者、僕やフェリシアたちの家族はもちろん、ミアを含む戦闘ができる一部の従者などが集まっていた。
まぁ、領主の息子とブランシュ家のご息女が行方不明になれば大ごとになるのはわかりきっているか。あの野盗たちの最大の誤算が、ミアが迷うことなくまっすぐ僕を助けに来れた事だろう。
ミアがまっすぐ僕のところに来てくれなければ、きっと捜索が始まるころには僕とフェリシアは野盗のアジトに連れていかれていたに違いない。そう、あの時フェリシアが僕に噛みついてくれたから助かったんだ。
あの時ー
「僕の体、どこでもいいから噛みついてくれるかい?」
そういって僕はミアの前に腕を差し出した。どこでもいい。と言ったけどやっぱり抵抗が少ないのは手とか腕だと思ったからだ。
「は、はあ!? な、何言ってるのよアンタ!ぜ、絶対イヤに決まってるじゃない!なんで私がアンタなんかに噛みつかなきゃいけないのよ!」」
「ほ、ほんの少しでいいんだ。フェリシアが僕を噛んでくれれば……ミアが来る。絶対に。理由は……その……長くなるし……いや、説明してる時間がもったいない!だから噛んで! 噛んでくれたら全部うまくいくから!」
「なんなのよその意味不明なお願い!ア、アンタに噛みつくなんて……っ、できるわけないでしょ!!ちゃんと理由を言いなさいよ!」
「いいから早く!もたもたしてたら、このまま僕ら、どこに連れていかれるかわからないんだぞ!ステラにもう二度と会えなくてもいいのか!!」
嫌がるフェリシアの口元に腕を突きつけると、焦ってきたせいもあって少し強い口調で怒鳴ってしまった。
ステラにあえない、という事と野党のことを思い出したフェリシアは目をつむると、口を開けて俺の腕に噛みついた。
「つっ…!」
腕に歯形が付くと、じんわりと赤く血が滲んでくる。フェリシアはそれを見ると慌てて自分のスカートの裾を破ると僕の腕にグルグルと巻きつける。止血のつもりのようだ。
「……っ! はい、噛みました!もう、こんなの普通やらないんだからね!?……で、本当にこれでステラのところに戻れるんでしょうね?」
「うん、大丈夫。これでミアは必ず来てくれる。もう心配しなくていいよ。すぐにここから出られるさ。」
俺は噛まれた腕を抑えながら窓の外を見てミアを待つことにした。ミアは普通の従者ではない。ロザーク家に仕える従者の中でもTOP5の腕前を持つ戦闘が得意な従者だ。前世の記憶では、俺に危険が及ぶとき、必ずミアは助けに来てくれた。いつも、行き先を言わないで家を出たのに不思議と僕の居場所がわかっていた。前世で怪我をした時は100%に近い確率でミアは俺のところに来てくれたんだ。だから今回も、俺が怪我をしたとなれば、ミアは必ず来るはず。
「そ、そんなの……来るわけないじゃない。だって、私たち閉じ込められてるのよ?どうやって知らせるのよ……」
「んー。そうなんだけどね。なんていうのかな……彼女は、いつもそうなんだ。俺がちょっとでも怪我したり、困ったりすると、どこからでも飛んできて助けてくれる。昔は正直、うっとうしいって思ったこともあったよ。息苦しいというか、子ども扱いされてるみたいでさ。でも、今は違う。あの人は――僕のことを本当の家族みたいに思ってくれてるんだって、分かるんだ。弟を心配して必死になるお姉ちゃんって、きっとあんな感じなんだろうなって。……ステラだって、そうじゃない?フェリシアがそばにいれば安心できる。“怖くても、フェリシアが守ってくれる”って信じてる。その気持ちに、ちょっと似てるのかもしれない。だから僕は、ミアを信じてるだけだよ。」
「な、なによそれ……!アレンのくせに急に大人ぶっちゃって。……ちょっと、ムカつくんだけど。」
あぁ!しまった。気が緩んでついついおじさんが昔を懐かしいよね、って昔話をする感じで喋ってしまった。僕は苦笑いをしながらフェリシアがムスーっとした顔で疑っているのをただ誤魔化すことしかできなかった。
納得いかなそうな顔のまま、先に根負けしたフェリシアが僕のそばの壁にもたれかかって足を延ばしたとき、スカートが少し捲れたところに切り傷があったのが見えた。木から落ちる時にでも怪我をしてしまったのだろう。
俺は袋に入れてあった傷薬に使われる薬草を指ですりつぶして、フェリシアのスカートを少し持ち上げると何も言わず傷に塗った。
「ちょっ…あんた、何考えてるのよ!?」
「……フェリシア、ほら見てごらん。怪我してるじゃないか。こんな場所で放っておくなんてダメだよ。応急処置だけでもしておかないと――。もし君の綺麗な足に跡が残ったら、きっと後悔するのは君だ。動かないで……少し沁みるけど、我慢してね。……はい、これで終わり。家に戻ったら、きちんと消毒してもらうんだよ。いいね?君も女の子なんだから、身体は大事にしないといけないんだから」
「こ、こんな傷…別に平気なのに…」
フェリシアは恥ずかしそうにスカートを押さえつけながら顔を真っ赤にしながらプイッ!っとそっぽを向いてしまった。僕は手に残った傷薬をフェリシアが噛んだところに塗りながら、冷静に考え始めた。
(あれ?こんな小さい女の子の足…スカートをめくって薬を塗るのは犯罪なのではないか!?…も、もしフェリシアが家に帰った時に『アレンがスカートをめくって足を触ってきたぁ!』とか言って泣いたら俺、人生おわるのではないか!?)
急に血の気が引いてくるのがわかった。このままここから逃げ出しても、小さい女の子のスカートをめくって足を触った変態としての二つ名を一生背負う事になるのか?
『アレン様、最低です。見損ないました』
『女の子の足を勝手に触って、スカートをめくるなんて、お母さん悲しいです』
『スカートめくりのアレンが来たぞー』
…いやだ!これは違う。フェリシアのことを思えばのことで、やましい気持ちがあったわけじゃなくて、でもこういうとき触った方は一方的に責められるのが一般的で…あぁぁ!!!
「アレン様っ……! アレン様!!いらっしゃいますか!?お返事を……お返事をくださいませ!!」
俺が苦悩している姿を、窓の外から見たミアが声を荒げて近づいてきた。
というのが、大まかな内容だ。フェリシアはあれからこっちをまともに見てくれないし。ミアにも変なとこ見られちゃったし、俺の人生、終わったかもしれない。
「アレン様、この傷、本当に大丈夫でございますか?どうか、痛いときは痛いと私には正直に言ってくださいませ。」
ミアが腕の傷に薬を塗って、包帯を巻いてくれている時に心配そうに声をかけてくれた。そのとき、一瞬だけフェリシアの体がピクンっと動いた。
「アレン様のお話をまとめますと……やはり、この周辺で噂になっている人さらいの一味と見て間違いございませんね。 自警団には巡回を増やすよう速やかに手続きをいたします。旦那様にも、今回の状況を至急お伝えしますのでご安心くださいませ。……ただ、ひとつ気になることがございます。この歯形……とても小さいですね。まるで“幼い子ども”が噛んだような跡です。アレン様、賊の中に……子どもの姿があったのでしょうか?」
「え、えっ……そ、そうなの……?ぼ、僕…は、はっきりそこまで覚えてないなぁ。だ、だって……ほら、こわくてまわりなんて見る余裕なかったんだよ」
「……そう、でございましたか。失礼いたしました、アレン様。怖い思いをなさった直後に、余計なことをお伺いしてしまいましたね。従者として、アレン様のお気持ちを汲み取れず……申し訳ございません。」
やっぱり、ミアにはこの傷のことなんとなく怪しまれてるなぁ。…まさか、フェリシアが噛みついた、なんて言えないし、とにかく歯形の件から話題をそらさないと…。
「そ、そういえばさ……。ミアお姉ちゃんって、なんでいつも僕が困ってたり、怪我したりすると……すぐ来るの?まるで……どこかで見てたみたいに。」
ミアは包帯を巻く手が一瞬止まると、少し考えたあとに、悩んだようにゆっくりと口を開いた。
「……アレン様。そのご質問には、お答えしたい気持ちは山々なのですが……どうか、少しだけお時間を頂けませんでしょうか。私なりに、きちんとお話しできる形に整えて必ず、アレン様にお伝えいたします。どうか……今だけはお許しくださいませ。」
ミアは物すごく困ったような、不安そうな表情をして僕の目を見てきた。いつも見たことがないような、心に傷を負った動物のような寂しい、悲しい目だった。
「う、うん。別に無理に話さなくてもいいんだ。ミアが話そうと思ったら教えてくれるくらいでいいから」
「はい。申し訳ございません。ありがとうございます。」
ここまで僕に話したくないような事って…なんだろう?もしかして本当はストーカーのようにずっと監視されているとか?それは確かに言いたくはないが…。まぁ、無理に聞き出すのはよくないから、のんびり待つとしよう。
それよりも、今頃あの野盗…人さらいたちはどうしているだろうか?絶好の獲物を2人も逃がしたんだ。あの親分の性格じゃあ相当荒れているに違いない。
(ざまぁみろ…!俺が歴史を、人生を変えたんだ。ここは俺が変えた世界なんだ)
急に体の内側が熱くなってきた。何もできなかった前世とは違って、自分の決断や記憶で救える命がある。例え子供でも、切り開ける未来があるとわかったからだ。この先もきっと人生の選択が迫られる時が来るのだと思う。
今回フェリシアを助けられたのが偶然でも、未来は変えることができるんだ。
ただ、あの人さらいがまた来るかもしれない。前世ではこの先同級生がいなくなることはなかったけど、この世界ではまだ油断はできない。注意していかなくては。
「きみがアレン君だね?」
考え事をしながらミアを見ていると不意に声をかけられた。僕は急いで声をかけてきた方向を見ると、細身の男性が1人立っていた。色白で線の細い人だ。前世でも見た記憶がないこの人を、僕は警戒せずにいられなかった。
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