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眷従師ーの本というのは本当に数が少なかった。この広い図書室にたったの2冊しかない。
ギルドの規模にもよるのかもしれないが、こんな田舎町のギルドにあるものだし、おそらく初歩的なものしかここにはないのだろう。王都や都会の方ならもっといろいろわかるかもしれないな。
「あんまりなかったけど、最低限の事はわかるんじゃないかな。私も仕事があるからもう戻るけど、何かあったらまた声かけてね?」
「はい、いろいろ教えてくれてありがとうございました」
「いいっていいって、領主様のお坊ちゃんとブランシュ家のお嬢様だからね。今後の稼ぎに期待してるよ~?あ、あと別にかしこまって話さなくていいよ?私たちはパートナーだから、遠慮なしで話さないとクエストの失敗にもつながるからね。もっと気楽にいこうよ、…んじゃあ、またね~」
階段を降りながら手を振ってターニャは下へ戻っていった。俺はその姿を見ながら手を振り返すと、姿が見えなくなったあと、再び本を読み進めた。
俺の力についてわかっているのは、この本では細かく語られていない。今わかることと言えば、
魔獣を従えることができるという事。
相手にある程度の知性がないと操れないという事。
生きてる死んでるは問わないが、相手に意思があること。
契約は双方の合意があれば可能。
操ると眷属にするで違いがあり、操る=相手の意識を奪い思うがままに操ること。眷属にする=自分を主として認めさせ、自我は残しつつ本人の意思のまま行動はできるが、主には絶対服従となること。
このギルドに保管されている本の内容はこのくらいだった。俺自身が強くないのであれば、このさいミアのような強い魔獣をテイムすることができればかなり安心できるんじゃないか?
「はぁ~…」
俺は本を閉じるとテーブルに突っ伏して大きなため息をついた。今日は疲れた。ステラの前だから気を張っていたが、変な男に絡まれた時は足もブルブル震えてしまったし、ターニャは悪い人ではないのだろうけど、すぐにお金の話をするからこれも疲れる。そもそもギルドの給料というのはそこまで安いのだろうか?
行きずりの流れで冒険者なんてものに登録してしまったが、いいのだろうか?前世の俺とはだいぶ生き方が変わってしまった気がする。そもそも、前世の俺は今頃何をしてたんだ?12歳の俺は…何を…
俺は浅い夢を見ていた。転寝をしていると、ぼんやり前世のことを思い出していたんだ。
12歳の時、一人で領内を歩いていた。ミアはいないのか…この時は一人だったんだな。
小さな川のそばを歩いていて、親子が遊んでいるのを横目に通り過ぎたんだ。…そうだ。あの時、自分も母様に甘えたいな、と思ったんだ。一人でいるのがたまらなく辛いと思っていたんだ。
屋敷に戻る時、そうだ。この日は人が多く歩いていたんだ。自警団の人も見回りしてたし、暗くなる前に用をすます人が多かったんだ。
聞こえないはずの悲鳴が聞こえた。夢の中だからか、悲鳴なんて聞こえないのに、悲鳴がしたと脳が錯覚している。今自分が見たものが夢、とわかっているだけあって死んだり怪我をする心配がないから安心して進める。
俺は悲鳴があった方へ向かって急いで戻ったんだ。
…そうだ。思い出した。聞いたことのないような悲鳴が聞こえて俺もそばにいた人も急いで向かったんだ。そうしたら
「…君!アレン君!」
記憶の映像から、急に引き戻されるような感覚を感じた。耳にはステラの声が聞こえて、身体を揺さぶられているのがわかる。目を開けるとステラが隣に立っていた。
「ん、あ…ステラか…」
目を覚ました俺は目をこすりながら身体を起こすと、周囲の様子を見てみるも、とくに変わった様子はない。夢落ちだったようだ。ただ、あれが前世の記憶なのは間違いない。問題は、フェリシア誘拐の時と違って、領地がロザンブルクの町と大きく変わっている事。フェリシア率いる自警団があり、冒険者ギルドなんていうものまであること。あの時悲鳴が聞こえたが、今のこの町の治安は前世と比較しても格段に良い。あの事件…。なんだ、あの後、なにが起こるんだ?中途半端な所で起こされたせいで思い出せない…。
「どうしたの?どこか痛い?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと頭が痛いだけ…すぐなおるよ。ステラはもう本はいいの?」
心配そうにこっちをのぞき込んでくるステラを見て、俺は一度考えることを辞めた。今考えても正直無駄だし、また何かきっかけがあれば思い出すかもしれない。ここは屋内だし、とりあえず今のところ危険はないだろう。
「うん、大丈夫!なんかお父さんに教えてもらった事が多かったから、もういいかなって」
そりゃあ魔導研究所の上級職員だもんな。こんなギルドにある書物よりもいい本あるだろうし、なにより知識という点ではステラが欲しい情報を的確に教えてくれるから成長も早いのだろう…。
まぁ、そんなことを言っては元も子もないから言わないし、ステラ事態自分の父親の偉大さがわかっていなそうなのが引っかかるが…。
「まぁ、それじゃあ今日はここで帰ろうか。冒険者ギルド以外に行ってみたいところはないの?」
「思ったよりも時間使っちゃったもんね。まだまだ行きたいところはあるから急いで回ろう!」
「次はどこに行くの?」
「魔法道具屋さんっていうところにいってみたいんだ!魔法書の他にもマジックアイテムがあるって話で、行ってみたいなぁって思ってて!」
図書室の入り口にいる職員さんに頭を下げると、俺たちは階段を降りながら喋っていた。マジックアイテムの店か…。魔法書はあまり期待できないと思うけど、マジックアイテムはどんなのがあるんだろう。前世ではそんなお店入ったこともないんだよなぁ。俺が働いていた雑貨屋と比べると、日用品というか、雑貨を売っているのは男臭い殺伐とした店で実用的なものばかり売っていて、マジックアイテムショップは魔法使いが使う道具なんかを売ってて若い女の子もちょいちょい出入りしているのはなんとなく知っている。
まぁ。前世では入ることがなかった謎の店だ。案外惚れ薬なんて古典的なものが売ってたりして…。
そんなくだらないことを考えている時だった。
ガシャーーン!!!
一階の方で大きな物音が聞こえたのと同時に、大勢の悲鳴が聞こえた。ガラスが砕ける音だ。それも1枚や2枚ではない。ステラは小さな体をビクンっと大きく揺らして驚いていた。俺はステラの手をつかむと、迷うことなく急いで2階へ駆け戻った。
「こっちだ!ステラ早く!!」
不測の事態が起きた時、まずは距離を取って安全な場所へ行くべし。ミアから教わった生き残るための作法だ。安全な場所へ行き身を隠す、いったん落ち着いて状況を把握して、それから次のアクションを起こす。これが盗賊がもしもの時にとる、相手から逃げる時の作法だそうだ。俺は別に盗賊になりたいわけではないのだが、ミアが生き残るために必要な時も来るから覚えておくべきだ、という事だった。まさかあれだけ訓練している剣術よりも先に役に立つことになるとは…。
「ど、どうしたんですか?なにごとですか?」
職員の方が階段から身を乗り出して1階を見ようとしていた。俺はステラを連れて図書室まで戻ると、低い本棚の隣に彼女を座らせた。
「わかりません、急にガラスが割れて砕け散ったような音がしたので、隠れるために戻ってきただけなんです。すいませんが少しここにいさせてください」
「そ、それは構いませんが…」
職員の人はオドオドとしながら下へ行くべきかどうか悩んでいる様子だった。ステラは小刻みに震えながら目が泳いでいる。俺はステラの手を強く握ったり、背中を軽く叩きながら声をかけ続けた。
「ステラ…おいステラ!大丈夫だから、落ち着いて」
ステラは最初こそ反応もしていなかったけど、次第に視線も安定して顔を縦に振ったりリアクションを取れるようになってきた。
(昔からビビり症みたいなところがあったけど…ちょっと大げさだな。なにか理由があるのか?)
俺はステラに声をかけ続けながら彼女の顔に生気が戻ってくるまで同じ動作を繰り返し続けた。
「アレン君、怖いよ…何があったの?」
小刻みに震えているのも収まってきたが、次は恐怖の色が顔からにじみ出ている。完全に怖気づいている。
頼みのギルド職員もあの様子では当てにはならないし、俺が怪我をしていない今ミアも来ない。フェリシアもいない。今ステラを守れるのは俺だけだ。
ギルドを襲った何者か。前世では見たことないし、聞いたこともない。おそらく『はじめまして』の敵だろう。あれから1階が静かな様子を見る限り、野盗や蛮族、もしくは亜人などの襲撃というのは考えにくい。もしその手のやつらが来ているならきっと騒ぐからだ。これだけ物静かなのも気味が悪いが、様子を見に行かない限りこの状態はいつまでも続くだろう。
「ステラ、よく聞いて。俺は下の様子を見てくるから、ここでじっとしていてくれるかい?」
「むり!! 絶対無理だよ!こんなところで独りぼっちなんて怖いよ!」
「このままだと敵の正体もわからないし、もし敵がここに来たらみんなが危険なんだ」
「アレン君が行くことないじゃない!?ここに隠れてれば、そのうち大人の人が解決してくれるよ!」
ステラはここに置いていかれることへの恐怖が強く、半ばパニックのようになってしまっている。俺だってここにステラを残して行くことは嫌だけど、もし敵が2階に来てしまったら全滅だ。もしギルドの外へ誘い出すことができればその隙にステラは逃げられる。俺はわずかな可能性だけど、ミアが助けに来てくれるかもしれない…。
(なんだ。5年前と同じで、結局ミアに助けてもらえるかもしれないと思ってるんじゃないか。剣術の稽古までして、領主の跡継ぎ、なんて言われていつの間にか天狗になっていたが、俺の器…強さなんてこんなもんなんだな)
「・・・?」
俺は自分の無力さを呪っていた。
ステラを見つめながら、そこにミアの姿を重ねた。
ステラは不思議そうな顔をしていたが、俺は立ち上がり決心を固めた。
『生きるか死ぬか、という戦いの中で強さの本質というのは見えてくる』
どこかの元盗賊の女が言っていた言葉を思い出した。今ここで動くときなんだ。俺は自分の心を奮い立たせると、ステラにはバレないように震える足で立ち上がった。
「俺が、俺がここでやらないといけないんだ。ステラにはここにいてほしい。下の様子を見て、逃げ出すことができたらこのことをミアに伝えてくれ」
「…う、うん。わかった!無茶なことはしないでね?一緒に魔宝殿に行って、冒険する約束だよ!?」
「あぁ。わかってる。俺だって冒険したいから適当にうまくやってくるよ」
ステラになるべく心配させないように、不安にさせないようにガラにもなく適当な返事をして、精一杯の作り笑顔をしながら階段へ向かった。
ギルドの規模にもよるのかもしれないが、こんな田舎町のギルドにあるものだし、おそらく初歩的なものしかここにはないのだろう。王都や都会の方ならもっといろいろわかるかもしれないな。
「あんまりなかったけど、最低限の事はわかるんじゃないかな。私も仕事があるからもう戻るけど、何かあったらまた声かけてね?」
「はい、いろいろ教えてくれてありがとうございました」
「いいっていいって、領主様のお坊ちゃんとブランシュ家のお嬢様だからね。今後の稼ぎに期待してるよ~?あ、あと別にかしこまって話さなくていいよ?私たちはパートナーだから、遠慮なしで話さないとクエストの失敗にもつながるからね。もっと気楽にいこうよ、…んじゃあ、またね~」
階段を降りながら手を振ってターニャは下へ戻っていった。俺はその姿を見ながら手を振り返すと、姿が見えなくなったあと、再び本を読み進めた。
俺の力についてわかっているのは、この本では細かく語られていない。今わかることと言えば、
魔獣を従えることができるという事。
相手にある程度の知性がないと操れないという事。
生きてる死んでるは問わないが、相手に意思があること。
契約は双方の合意があれば可能。
操ると眷属にするで違いがあり、操る=相手の意識を奪い思うがままに操ること。眷属にする=自分を主として認めさせ、自我は残しつつ本人の意思のまま行動はできるが、主には絶対服従となること。
このギルドに保管されている本の内容はこのくらいだった。俺自身が強くないのであれば、このさいミアのような強い魔獣をテイムすることができればかなり安心できるんじゃないか?
「はぁ~…」
俺は本を閉じるとテーブルに突っ伏して大きなため息をついた。今日は疲れた。ステラの前だから気を張っていたが、変な男に絡まれた時は足もブルブル震えてしまったし、ターニャは悪い人ではないのだろうけど、すぐにお金の話をするからこれも疲れる。そもそもギルドの給料というのはそこまで安いのだろうか?
行きずりの流れで冒険者なんてものに登録してしまったが、いいのだろうか?前世の俺とはだいぶ生き方が変わってしまった気がする。そもそも、前世の俺は今頃何をしてたんだ?12歳の俺は…何を…
俺は浅い夢を見ていた。転寝をしていると、ぼんやり前世のことを思い出していたんだ。
12歳の時、一人で領内を歩いていた。ミアはいないのか…この時は一人だったんだな。
小さな川のそばを歩いていて、親子が遊んでいるのを横目に通り過ぎたんだ。…そうだ。あの時、自分も母様に甘えたいな、と思ったんだ。一人でいるのがたまらなく辛いと思っていたんだ。
屋敷に戻る時、そうだ。この日は人が多く歩いていたんだ。自警団の人も見回りしてたし、暗くなる前に用をすます人が多かったんだ。
聞こえないはずの悲鳴が聞こえた。夢の中だからか、悲鳴なんて聞こえないのに、悲鳴がしたと脳が錯覚している。今自分が見たものが夢、とわかっているだけあって死んだり怪我をする心配がないから安心して進める。
俺は悲鳴があった方へ向かって急いで戻ったんだ。
…そうだ。思い出した。聞いたことのないような悲鳴が聞こえて俺もそばにいた人も急いで向かったんだ。そうしたら
「…君!アレン君!」
記憶の映像から、急に引き戻されるような感覚を感じた。耳にはステラの声が聞こえて、身体を揺さぶられているのがわかる。目を開けるとステラが隣に立っていた。
「ん、あ…ステラか…」
目を覚ました俺は目をこすりながら身体を起こすと、周囲の様子を見てみるも、とくに変わった様子はない。夢落ちだったようだ。ただ、あれが前世の記憶なのは間違いない。問題は、フェリシア誘拐の時と違って、領地がロザンブルクの町と大きく変わっている事。フェリシア率いる自警団があり、冒険者ギルドなんていうものまであること。あの時悲鳴が聞こえたが、今のこの町の治安は前世と比較しても格段に良い。あの事件…。なんだ、あの後、なにが起こるんだ?中途半端な所で起こされたせいで思い出せない…。
「どうしたの?どこか痛い?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと頭が痛いだけ…すぐなおるよ。ステラはもう本はいいの?」
心配そうにこっちをのぞき込んでくるステラを見て、俺は一度考えることを辞めた。今考えても正直無駄だし、また何かきっかけがあれば思い出すかもしれない。ここは屋内だし、とりあえず今のところ危険はないだろう。
「うん、大丈夫!なんかお父さんに教えてもらった事が多かったから、もういいかなって」
そりゃあ魔導研究所の上級職員だもんな。こんなギルドにある書物よりもいい本あるだろうし、なにより知識という点ではステラが欲しい情報を的確に教えてくれるから成長も早いのだろう…。
まぁ、そんなことを言っては元も子もないから言わないし、ステラ事態自分の父親の偉大さがわかっていなそうなのが引っかかるが…。
「まぁ、それじゃあ今日はここで帰ろうか。冒険者ギルド以外に行ってみたいところはないの?」
「思ったよりも時間使っちゃったもんね。まだまだ行きたいところはあるから急いで回ろう!」
「次はどこに行くの?」
「魔法道具屋さんっていうところにいってみたいんだ!魔法書の他にもマジックアイテムがあるって話で、行ってみたいなぁって思ってて!」
図書室の入り口にいる職員さんに頭を下げると、俺たちは階段を降りながら喋っていた。マジックアイテムの店か…。魔法書はあまり期待できないと思うけど、マジックアイテムはどんなのがあるんだろう。前世ではそんなお店入ったこともないんだよなぁ。俺が働いていた雑貨屋と比べると、日用品というか、雑貨を売っているのは男臭い殺伐とした店で実用的なものばかり売っていて、マジックアイテムショップは魔法使いが使う道具なんかを売ってて若い女の子もちょいちょい出入りしているのはなんとなく知っている。
まぁ。前世では入ることがなかった謎の店だ。案外惚れ薬なんて古典的なものが売ってたりして…。
そんなくだらないことを考えている時だった。
ガシャーーン!!!
一階の方で大きな物音が聞こえたのと同時に、大勢の悲鳴が聞こえた。ガラスが砕ける音だ。それも1枚や2枚ではない。ステラは小さな体をビクンっと大きく揺らして驚いていた。俺はステラの手をつかむと、迷うことなく急いで2階へ駆け戻った。
「こっちだ!ステラ早く!!」
不測の事態が起きた時、まずは距離を取って安全な場所へ行くべし。ミアから教わった生き残るための作法だ。安全な場所へ行き身を隠す、いったん落ち着いて状況を把握して、それから次のアクションを起こす。これが盗賊がもしもの時にとる、相手から逃げる時の作法だそうだ。俺は別に盗賊になりたいわけではないのだが、ミアが生き残るために必要な時も来るから覚えておくべきだ、という事だった。まさかあれだけ訓練している剣術よりも先に役に立つことになるとは…。
「ど、どうしたんですか?なにごとですか?」
職員の方が階段から身を乗り出して1階を見ようとしていた。俺はステラを連れて図書室まで戻ると、低い本棚の隣に彼女を座らせた。
「わかりません、急にガラスが割れて砕け散ったような音がしたので、隠れるために戻ってきただけなんです。すいませんが少しここにいさせてください」
「そ、それは構いませんが…」
職員の人はオドオドとしながら下へ行くべきかどうか悩んでいる様子だった。ステラは小刻みに震えながら目が泳いでいる。俺はステラの手を強く握ったり、背中を軽く叩きながら声をかけ続けた。
「ステラ…おいステラ!大丈夫だから、落ち着いて」
ステラは最初こそ反応もしていなかったけど、次第に視線も安定して顔を縦に振ったりリアクションを取れるようになってきた。
(昔からビビり症みたいなところがあったけど…ちょっと大げさだな。なにか理由があるのか?)
俺はステラに声をかけ続けながら彼女の顔に生気が戻ってくるまで同じ動作を繰り返し続けた。
「アレン君、怖いよ…何があったの?」
小刻みに震えているのも収まってきたが、次は恐怖の色が顔からにじみ出ている。完全に怖気づいている。
頼みのギルド職員もあの様子では当てにはならないし、俺が怪我をしていない今ミアも来ない。フェリシアもいない。今ステラを守れるのは俺だけだ。
ギルドを襲った何者か。前世では見たことないし、聞いたこともない。おそらく『はじめまして』の敵だろう。あれから1階が静かな様子を見る限り、野盗や蛮族、もしくは亜人などの襲撃というのは考えにくい。もしその手のやつらが来ているならきっと騒ぐからだ。これだけ物静かなのも気味が悪いが、様子を見に行かない限りこの状態はいつまでも続くだろう。
「ステラ、よく聞いて。俺は下の様子を見てくるから、ここでじっとしていてくれるかい?」
「むり!! 絶対無理だよ!こんなところで独りぼっちなんて怖いよ!」
「このままだと敵の正体もわからないし、もし敵がここに来たらみんなが危険なんだ」
「アレン君が行くことないじゃない!?ここに隠れてれば、そのうち大人の人が解決してくれるよ!」
ステラはここに置いていかれることへの恐怖が強く、半ばパニックのようになってしまっている。俺だってここにステラを残して行くことは嫌だけど、もし敵が2階に来てしまったら全滅だ。もしギルドの外へ誘い出すことができればその隙にステラは逃げられる。俺はわずかな可能性だけど、ミアが助けに来てくれるかもしれない…。
(なんだ。5年前と同じで、結局ミアに助けてもらえるかもしれないと思ってるんじゃないか。剣術の稽古までして、領主の跡継ぎ、なんて言われていつの間にか天狗になっていたが、俺の器…強さなんてこんなもんなんだな)
「・・・?」
俺は自分の無力さを呪っていた。
ステラを見つめながら、そこにミアの姿を重ねた。
ステラは不思議そうな顔をしていたが、俺は立ち上がり決心を固めた。
『生きるか死ぬか、という戦いの中で強さの本質というのは見えてくる』
どこかの元盗賊の女が言っていた言葉を思い出した。今ここで動くときなんだ。俺は自分の心を奮い立たせると、ステラにはバレないように震える足で立ち上がった。
「俺が、俺がここでやらないといけないんだ。ステラにはここにいてほしい。下の様子を見て、逃げ出すことができたらこのことをミアに伝えてくれ」
「…う、うん。わかった!無茶なことはしないでね?一緒に魔宝殿に行って、冒険する約束だよ!?」
「あぁ。わかってる。俺だって冒険したいから適当にうまくやってくるよ」
ステラになるべく心配させないように、不安にさせないようにガラにもなく適当な返事をして、精一杯の作り笑顔をしながら階段へ向かった。
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