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「お兄さん、いつまで目を閉じてるの?」
少しずつ目を開けると、さっきまでの閃光は消えていた。一瞬でも閃光を見たせいでまだ目がチカチカする。それに声が今までは耳の奥の方に直接響いて聞こえていたように感じていたのが、それが普通に聞こえるようになった。
「ふぇ、フェンリル…それが君の名前なのかい?」
「そうだよ。僕はフェンリル。月の祝福を受けた狼だよ」
月の祝福を受けた狼。…ずっと昔にミアに絵本で読んでもらった事がある。この世界には月の女神から祝福を受けた狼の一族がいるって。戦争で家族を亡くした少女が、森の奥で出会った白い小さな狼、フェンリルの子供に助けられて、自分も人助けをしたいと思うようになって、少女は人生をかけて、世界を彷徨う中で人助けをして、最後に奴隷商人に騙されて孤独の中死んでいく。不憫に思ったその狼は自分の命を犠牲にして、運命を一度だけ変えることができる不思議な能力を使って少女が戦争に巻き込まれる前の時代に生まれ変わらせて、戦争が起きる前に家族と国を出ていって幸せな人生を送ることができました。
という絵本だった気がする。ものすごく小さい時にミアが読んでくれた絵本で、当時は大好きだったのに、今まで忘れてた。
「僕に畏怖するかい?か弱き者よ」
目を開けると、死ぬ…。俺は本能的に直視してはいけないと思いながらも、その姿を見たいという好奇心に負け、ゆっくりとフェンリルの姿を見た。
そこには純白の銀色の毛並みで、鋭い牙に大きな口、黄色く鋭い獲物を睨みつけるような瞳、なによりも人間を見下ろすほどの大きな体…。なんてものはなく、目の前にいるのは小さな黒猫だった。
「フェン…リ‥ル?」
「あぁー!!お前、今『白くないじゃん』とか、『ちっさ!!』とか、『踏みつぶせそう』とか、『そもそも猫じゃん』とかおもったろ!!最後の最後には、『俺でも勝てる』とかおもったろ!!せっかくかっこいいセリフ言ったのに台無しじゃん!」
上を見上げるとそこはうす暗くなった空だった。星が瞬いているだけで、生き物の姿は何もいない。ゆっくりと視線を下げていくと、その辺の路地裏で見たことありそうなサイズの黒猫が目の前に一匹座っていた。
ただ違っていたのは、確かにその口からは人間の言葉を話している事だった。なんか思った事思ってないこと被害妄想前回の様子だけど、この猫…フェンリルも気にしているらしい。伝説の神獣…のようなイメージがあったが思ったよりも庶民的な獣らしい。
「いやいや、そこまで思っていないよ。ただ、目を開けたら踏みつぶされて殺されるかも…。って思ったから」
「そんなことはしないよ。僕は知恵のある者だからね。その辺の安い魔獣と一緒にしないでよ」
安い魔獣…ちょっと魔獣業界に詳しくないからわからないけど、まぁ自分は格上、という事が言いたいのだろう。
ただ、思ったよりもとっつきやすいやつでよかった。
「そういえばさ、ギルドの窓ガラス、割ったのは君?なんであんなことしたの?」
「あれは、お兄さんの匂いが漫延してて、どうしたらいいかわからなくなっちゃったんだよ。僕はお兄さんの匂いに引き寄せられて魔宝殿からここに来たんだ。ずっとお兄さんのことを探してたんだよ。」
「俺のことを?なんで?」
「う~んと…会いたかった。…うん、ただ会いたかったんだよ!無性に!」
「見ず知らずの俺に…か?」
「そうなんだよ。不思議だよね。なんか無性に会いたくて、懐かしいというか、同じ同族に匂いというか、気になるって言うか。気が付いたら1人で魔宝殿にいてさ。なんか心の中がザワって感じで、…なんかそんな感じ!」
よくわからないが、間接的にあのギルドの窓ガラスが割れたのは俺のせいかもしれない。
「あのさ、この町の人が怪我をして困ってるんだけど、それも君のせい?」
「あ~、あれは魔力が欲しくてつい爪でひっかいちゃったんだ。食べ物がないからとりあえず空腹を満たそうかと思って少しずつもらってたんだけど、だめだった?」
町の人が怪我をしてしまったのも自分のせい!?ここ最近多発している切り裂き魔の犯人はコイツ、それでその原因は俺にあいたくなったからという理由で、お腹が減ったから魔力をもらいました。ってことか!?このことがフェリシアにバレたら、俺も同罪になったりしないか?『アレンがいなければこんな被害はなかった!』とか言いだすぞアイツは!
「あ”~~~」
俺はフェリシアとミアの顔を想像すると拒否反応が出て頭を抱えながら再び地面に倒れこんだ。
フェリシアに切り裂き魔の犯人を捕まえました!と報告しても信用されるまで大変だし、コイツが『お兄さんに会うためにきたんだよ』なんて爆弾落とす可能性もある。ミアに話してもこんな怪しい猫を受け入れてくれるとは思い難い…。人の言葉を話す以上、生かしておくのは危険でしかない。このままフェンリルというくらいだから町の外に逃がしてやって魔宝殿へ追い返した方がいいのだろうか…。
そうだ!それがいい、魔宝殿に帰ってもらおう!
「フェンリル!話があるんだ!」
俺が起き上がると、顔を洗っていたフェンリルがチラッと俺の方に視線を移す。視線が合った瞬間に、前世の記憶が甦った。
「今日から君はクロだ!僕の大切な家族だよ!」
黒い猫に鈴のついた首輪をつけている前世の俺だ。10歳くらいか、今の俺よりも小さい。
そうだ、屋敷の敷地で寝ていた猫に興味があって、一人じゃ寂しい、と思って話し相手が欲しかったんだ。それで、猫を拾ったんだ。
サイズ感はちょっと違うけど、この猫はクロだ。出会うのが2年遅かったからクロが少し大きくなったのか…。まさか前世で拾った猫がフェンリルで、こいつもガキの道楽に黙って付き合ってくれていたのか。
「どうした?お兄さん。何か言いたいことが僕にあるんでしょ?」
前世で相手をしてもらった猫の正体に気が付いた俺は『魔宝殿に帰れ』なんて言う事が言えなくなった。前世で世話になったんだ。今はステラやミア、フェリシアだっている。あの時と違って一人ぼっちではないんだ。もしかしたら、2年前フェンリルは屋敷の庭にいたのかもしれない。ただ、俺の生き方が変わっていたから出会えなかっただけでこいつはまた俺に会いに来てくれたのかもしれない。
「…ど、どうするの? このあと」
「どうするって?」
「俺に会って、用は終わったんだよね?フェンリル、君はこの後どうするの?魔宝殿に帰るの?」
大きなあくびをして、再び顔を洗いだしたフェンリルは少しイヤそうに言った。
「あそこ、嫌いなんだよね。くさいし、つまんないし、独りぼっちでさ。お話し相手もいないし…」
こいつも、前世の俺と同じなのか。居場所がなくて、独りぼっちで、伝説の獣かもしれないけど、孤独なんだ。
俺はフェンリルに手を差し出した。
「お手? 犬じゃないんだけど…?!」
「あはは!違うよ、違う。お手じゃなくて、握手を求めたんだ。よかったら、俺の家に来ない?俺と一緒に冒険をしようよ!」
明らかに不機嫌そうになったフェンリルのリアクションとセリフに驚いて大笑いをしてしまう。人間相手に手を出されても、『お手』とは思わないけど、フェンリルは見た目が猫だからそう感じてしまうのかもしれない。
やっぱりちょっと変わってる。なんか怖くないし、仲良くなれそうな気がする。この猫のことをもっと知りたい。
「あぁ、そうか人間は手を握る習慣があるみたいだね。いいよ。お兄さんといると楽しそうだし、僕はお兄さんのことが好きだから!」
フェンリルは僕の差し出した手に右足を載せてくれて、固い握手をすると同時に、僕たちは淡い金色の光に包まれた。
少しずつ目を開けると、さっきまでの閃光は消えていた。一瞬でも閃光を見たせいでまだ目がチカチカする。それに声が今までは耳の奥の方に直接響いて聞こえていたように感じていたのが、それが普通に聞こえるようになった。
「ふぇ、フェンリル…それが君の名前なのかい?」
「そうだよ。僕はフェンリル。月の祝福を受けた狼だよ」
月の祝福を受けた狼。…ずっと昔にミアに絵本で読んでもらった事がある。この世界には月の女神から祝福を受けた狼の一族がいるって。戦争で家族を亡くした少女が、森の奥で出会った白い小さな狼、フェンリルの子供に助けられて、自分も人助けをしたいと思うようになって、少女は人生をかけて、世界を彷徨う中で人助けをして、最後に奴隷商人に騙されて孤独の中死んでいく。不憫に思ったその狼は自分の命を犠牲にして、運命を一度だけ変えることができる不思議な能力を使って少女が戦争に巻き込まれる前の時代に生まれ変わらせて、戦争が起きる前に家族と国を出ていって幸せな人生を送ることができました。
という絵本だった気がする。ものすごく小さい時にミアが読んでくれた絵本で、当時は大好きだったのに、今まで忘れてた。
「僕に畏怖するかい?か弱き者よ」
目を開けると、死ぬ…。俺は本能的に直視してはいけないと思いながらも、その姿を見たいという好奇心に負け、ゆっくりとフェンリルの姿を見た。
そこには純白の銀色の毛並みで、鋭い牙に大きな口、黄色く鋭い獲物を睨みつけるような瞳、なによりも人間を見下ろすほどの大きな体…。なんてものはなく、目の前にいるのは小さな黒猫だった。
「フェン…リ‥ル?」
「あぁー!!お前、今『白くないじゃん』とか、『ちっさ!!』とか、『踏みつぶせそう』とか、『そもそも猫じゃん』とかおもったろ!!最後の最後には、『俺でも勝てる』とかおもったろ!!せっかくかっこいいセリフ言ったのに台無しじゃん!」
上を見上げるとそこはうす暗くなった空だった。星が瞬いているだけで、生き物の姿は何もいない。ゆっくりと視線を下げていくと、その辺の路地裏で見たことありそうなサイズの黒猫が目の前に一匹座っていた。
ただ違っていたのは、確かにその口からは人間の言葉を話している事だった。なんか思った事思ってないこと被害妄想前回の様子だけど、この猫…フェンリルも気にしているらしい。伝説の神獣…のようなイメージがあったが思ったよりも庶民的な獣らしい。
「いやいや、そこまで思っていないよ。ただ、目を開けたら踏みつぶされて殺されるかも…。って思ったから」
「そんなことはしないよ。僕は知恵のある者だからね。その辺の安い魔獣と一緒にしないでよ」
安い魔獣…ちょっと魔獣業界に詳しくないからわからないけど、まぁ自分は格上、という事が言いたいのだろう。
ただ、思ったよりもとっつきやすいやつでよかった。
「そういえばさ、ギルドの窓ガラス、割ったのは君?なんであんなことしたの?」
「あれは、お兄さんの匂いが漫延してて、どうしたらいいかわからなくなっちゃったんだよ。僕はお兄さんの匂いに引き寄せられて魔宝殿からここに来たんだ。ずっとお兄さんのことを探してたんだよ。」
「俺のことを?なんで?」
「う~んと…会いたかった。…うん、ただ会いたかったんだよ!無性に!」
「見ず知らずの俺に…か?」
「そうなんだよ。不思議だよね。なんか無性に会いたくて、懐かしいというか、同じ同族に匂いというか、気になるって言うか。気が付いたら1人で魔宝殿にいてさ。なんか心の中がザワって感じで、…なんかそんな感じ!」
よくわからないが、間接的にあのギルドの窓ガラスが割れたのは俺のせいかもしれない。
「あのさ、この町の人が怪我をして困ってるんだけど、それも君のせい?」
「あ~、あれは魔力が欲しくてつい爪でひっかいちゃったんだ。食べ物がないからとりあえず空腹を満たそうかと思って少しずつもらってたんだけど、だめだった?」
町の人が怪我をしてしまったのも自分のせい!?ここ最近多発している切り裂き魔の犯人はコイツ、それでその原因は俺にあいたくなったからという理由で、お腹が減ったから魔力をもらいました。ってことか!?このことがフェリシアにバレたら、俺も同罪になったりしないか?『アレンがいなければこんな被害はなかった!』とか言いだすぞアイツは!
「あ”~~~」
俺はフェリシアとミアの顔を想像すると拒否反応が出て頭を抱えながら再び地面に倒れこんだ。
フェリシアに切り裂き魔の犯人を捕まえました!と報告しても信用されるまで大変だし、コイツが『お兄さんに会うためにきたんだよ』なんて爆弾落とす可能性もある。ミアに話してもこんな怪しい猫を受け入れてくれるとは思い難い…。人の言葉を話す以上、生かしておくのは危険でしかない。このままフェンリルというくらいだから町の外に逃がしてやって魔宝殿へ追い返した方がいいのだろうか…。
そうだ!それがいい、魔宝殿に帰ってもらおう!
「フェンリル!話があるんだ!」
俺が起き上がると、顔を洗っていたフェンリルがチラッと俺の方に視線を移す。視線が合った瞬間に、前世の記憶が甦った。
「今日から君はクロだ!僕の大切な家族だよ!」
黒い猫に鈴のついた首輪をつけている前世の俺だ。10歳くらいか、今の俺よりも小さい。
そうだ、屋敷の敷地で寝ていた猫に興味があって、一人じゃ寂しい、と思って話し相手が欲しかったんだ。それで、猫を拾ったんだ。
サイズ感はちょっと違うけど、この猫はクロだ。出会うのが2年遅かったからクロが少し大きくなったのか…。まさか前世で拾った猫がフェンリルで、こいつもガキの道楽に黙って付き合ってくれていたのか。
「どうした?お兄さん。何か言いたいことが僕にあるんでしょ?」
前世で相手をしてもらった猫の正体に気が付いた俺は『魔宝殿に帰れ』なんて言う事が言えなくなった。前世で世話になったんだ。今はステラやミア、フェリシアだっている。あの時と違って一人ぼっちではないんだ。もしかしたら、2年前フェンリルは屋敷の庭にいたのかもしれない。ただ、俺の生き方が変わっていたから出会えなかっただけでこいつはまた俺に会いに来てくれたのかもしれない。
「…ど、どうするの? このあと」
「どうするって?」
「俺に会って、用は終わったんだよね?フェンリル、君はこの後どうするの?魔宝殿に帰るの?」
大きなあくびをして、再び顔を洗いだしたフェンリルは少しイヤそうに言った。
「あそこ、嫌いなんだよね。くさいし、つまんないし、独りぼっちでさ。お話し相手もいないし…」
こいつも、前世の俺と同じなのか。居場所がなくて、独りぼっちで、伝説の獣かもしれないけど、孤独なんだ。
俺はフェンリルに手を差し出した。
「お手? 犬じゃないんだけど…?!」
「あはは!違うよ、違う。お手じゃなくて、握手を求めたんだ。よかったら、俺の家に来ない?俺と一緒に冒険をしようよ!」
明らかに不機嫌そうになったフェンリルのリアクションとセリフに驚いて大笑いをしてしまう。人間相手に手を出されても、『お手』とは思わないけど、フェンリルは見た目が猫だからそう感じてしまうのかもしれない。
やっぱりちょっと変わってる。なんか怖くないし、仲良くなれそうな気がする。この猫のことをもっと知りたい。
「あぁ、そうか人間は手を握る習慣があるみたいだね。いいよ。お兄さんといると楽しそうだし、僕はお兄さんのことが好きだから!」
フェンリルは僕の差し出した手に右足を載せてくれて、固い握手をすると同時に、僕たちは淡い金色の光に包まれた。
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