異世界だってしんどいなぁ〜前世よりも楽しい人生を夢見て、死者蘇生有り異世界にやってきた結果、 訳あって盗賊ギルドに加入してました〜

三須田 急

文字の大きさ
16 / 23

辛勝のプレッシャー

しおりを挟む
ロォートヴォーレンに朝が来た。
昨夜の騒ぎがまるで夢か何かだったような静かな朝だった。
だが、それが勘違いである事は眼前の光景と
酷く馴染み深くて嫌な匂いがそうでない事を俺に気づかせた。
そうだ、俺達は大河の上でプカプカと浮かびながら
カカシと兵隊ごっこと洒落込んでいたのだから実感が無いのは当たり前の事だった。
振り返った視線の先、石を積み上げて築かれた堅牢な大橋を巡って敵味方が血で血を洗い、
自軍の撤退を援護する為に最後の一人になるまで戦い抜いた豪傑がつい先程までここに立っていた事も知らない。
俺達はただ粛々と軍議によって練られた当初の作戦計画に基づいて行動し、
今回は運良く勝利を収める事ができたというだけの事だった。
更にその作戦計画というヤツも運を味方につけ、
想定通りの動きを敵さんに期待するという杜撰極まるものに過ぎなかった。
それがここに居る全員に知らされたのは丁度1週間程前に遡る。

真教派撃滅のために神都ヴァーティナから10万程の兵力が発したという知らせを
聞いた軍首脳部はロォートヴォーレンでの戦いになる事を予め想定した作戦案を立てていた。
そして、軍議において決定した内容は俺達末端の“兵士”達にはごく一部で単純明快な内容に分割した上で伝えられた。
だから、作戦の全貌をこの時把握できていたのはほんの一握りで、
俺は勿論、アグやリーダーとして俺達を引っ張っていたシャガーキィ(隊商を襲撃する時もリーダーだった盗賊ギルドの頭だ。)
ですらその全てを知ったのはこの戦争が終わってからの事だった。
ロォートヴォーレンの戦いの全行動は以下のように伝え聞いたが、
後から振り返ってみても薄氷の上を歩くよりも心許ない勝利をよく掴めた物だと感心する程である。

まず、先遣隊として俺達盗賊とマテューのようなはぐれ魔導師数名が
大量の魔術媒介と縄を荷車に乗せて上流側の山の中へと入っていく。
そこで切り倒せるだけ木を切り倒し、なるだけ多くの筏とカカシを
切り取った木材を使って作る。
その間に総勢5万5千程の本隊は3万と2万5千に分かれ、
2万5千の第一攻撃隊が敵主力の陣取るロォートヴォーレンに攻撃をかける。
この時、第一攻撃隊には残りのはぐれ魔導師と魔術媒介を進軍に同行させ、
防御魔方陣を展開することによって第二攻撃隊との合流を待つ。
同時かそれよりも遅いタイミングで俺達先遣隊は
筏を使って川を下り、上流部の橋へと取り付く。
こっからが勝負だ。
俺達には敵に間違いなく勝てると慢心した敵が
2つの引き金を自ら弾くことに
期待する以外に成す術がなかった。
一つは敵がわざわざ塩っぱい手柄欲しさに橋を渡り突出してくること、
もう一つは俺達先遣隊を挟撃の為に送り込まれた予備兵力か
奇策の為に置かれた奇妙な布石だと認識してくれることだった。
兵力の多寡は古今東西、
あらゆる戦場において戦いの趨勢を決してきた重要な要素であり、
今回の戦いも例外では無い。
敵の兵力は我々のそれを遥かに凌ぎ、
士気も旺盛となっている以上、
真正面からの決戦を挑んでも
踏み潰されるのはごく当たり前の事だ。
この兵力差を均衡点まで引っ張っていく為には
敵戦力の分散あるいは指揮系統の混乱という形となるように
罠に嵌めるしかない。
だからこそ、敵に第一攻撃隊を本隊と誤認させ、
橋を渡らせた後に先遣隊を発見させるか、
既に先遣隊が見つかった場合でも第一攻撃隊を囮と思わせるために
機動力のある騎兵を中心とした第二攻撃隊を上流側の
俺達が取り付いた橋に向かわせて動揺を誘うといった形で
指揮系統の混乱もしくは戦力の分散が生じさせなければならなかった。
そして、俺達の思惑通りに敵が動き始めたところに全軍で突撃し
殲滅する事で勝利を収めるというのが作戦の全容だった。

後から聞いてみればそんなに上手くいくもんか?と
小首を傾げたくもなるが、その時はそんな余計な事を考えずに
目の前の仕事に集中する事ができた。
それもひとえに作戦の全容を知らされていなかった事に加えて、
シャガーキィが放っていた熱意と圧力が周囲に充満していた事が
大きな助けとなったのだろう。
決戦に備えて用意された1000程度の先遣隊は
その大部分をカカシが賄う事によって総兵力2万程度の大部隊へと変貌したが、
これだけで囮を担うには少々頼りない。
そこで役に立つのが大量の魔術媒介と魔導師達になる訳だ。
彼らは3つの魔術回路を仕掛けてより大部隊に見せかける細工を施した。
一つ目はカカシが甲冑を身につけた兵士に見えるようにカカシの形を変形させる術式、
二つ目が大軍が唸りを上げて進軍しているかの様な音を立てる術式、
そして、三つ目に棒切れを振り上げ下ろすという単純な往復運動をカカシにさせる術式を
組み合わせた複雑な魔術回路を筏に刻みつけたのである。
このようにして俺達が作り上げたハリボテの軍隊は筏に載せられ、
大河を決戦の地に向かって下り降りていった。
それらのモノがこの戦いの結末にどれほどの影響を与えたかを
正確に知る者は誰一人としていないだろう。
ただ、ハッキリとわかることは戦いが始まり、
夜が深まる頃には既に決着がついていたということだけだった。

当初は円陣を包囲し優位に立っていたはずの正教軍であったが、
なかなか打ち破る事のできない強固な防御に時間を取られ、
士気の低下と敵に合流する隙を与えてしまった。
数でも実戦経験という面でも優位に立っていた筈の彼らが
何故、そのような状況に陥ってしまったのか、
それは魔術に対する理解が圧倒的に不足していたというところに尽きる。
元来、魔術に頼る事は卑怯者のする事と嫌ってきた騎士と
気力と武具を振るう体力以外には別段取り柄のない農民出身の歩兵を
主力としていた彼らにとって空気が壁となる防御魔方陣に対して
何ら有効打を与える事ができなかった。
それからの正教軍はというと目も当てられない程の混乱に飲まれ、
ある者は大河を渡ろうと橋に殺到し、
ある者は陣地転換を忠実にこなそうと東に向かって走り出し、
ある者は我が身に降りかかった事を理解しようとただ立ち尽くすだけだった。
その隙を逃すまいと5万5千の大軍は敵本陣めがけて突進をかけ、
もはや恐慌状態に陥っていた正教の徒の混乱を更に煽った。
この時点で勝敗は既に決し、
寡兵に脅かされた大軍が取るべき次善の策は
一時的に後退し秩序を回復した後に次の行動に出るというものしか無かった。
そんな状況の中で正教徒を率いるグォームという男は
命ずる事は容易くとも実行するには余りにも難しい大きな決断を下した。

「進め゛ぇぇぇ‼︎進め゛ぇぇぇぇ‼︎」
信教軍の突進がまるで一つの波となったかのように敵本陣に殺到し、
人の足と蹄が大地を踏みつけ蹴り上げる衝撃が重なって
阻む全ての物を蹴散らすような振動を生んだという。
夜の暗闇に紛れて巨竜が四肢を必死に回転させ迫ってくるような光景を
目の当たりにした者達は腰を抜かしてのたうち回るのが精一杯という感じで
総大将まで続く道に立ちはだかる者は誰一人としていなかった。
「もぉすぐだぁ‼︎もぉすぐで敵の頭を押さえられるぞぉ‼︎‼︎
いけぇぇぇぇ‼︎、!っうぉ⁈」
その猛烈な突進が本陣近くまで達した時、
最前列を率いていたものの足が何かに気づき止まった。
後続からの圧力は押し留められ、
その急ブレーキによって地面に倒れ込む者も生じてしまった。
「…くっ…そぉ…何だって急に止まるんだ、‼︎………」
転んだ者が前列に文句を言ってやろうと立ち上がったが、
目の前に立つモノを見てその気は完全に失せた。
眼前には堂々たる威風を放ちと鋭い眼光をこちらに向けた
仁王立ちの大男が立っていた。
その者こそ、この戦いにおける正教の総指揮者にして
数々の魔王征討で武勲をあげた大英雄グォーム大公であった。

「よぉく来たなぁぁ‼︎、待ちくたびれたぞぉぉ‼︎」
グォームが吠えると彼に襲い掛かろうとした者達は身構え、
ある者は後退りまでした。
「どぉぉしたぁ‼︎儂を殺しに来たんじゃ無いのかぁ‼︎あぁ⁈」
一歩一歩着実に、力強く歩みを進めるソレの口元には笑みが浮かんでいたが、
目には微塵もそのようなモノは浮かんでいなかった。
「ひ…怯むなぁ‼︎突っ込めぇぇ‼︎」
「「「「「うおぉぉぉ‼︎」」」」」
号令と共に人の大波が再び押し寄せたが、
その勢いは男が放つ覇気の前に衰えて
反転してきた将兵に押し返され始めていた。
「ヌゥンッッ‼︎」
グォームが一度槍を振るえば、
殺到する者どもは悉く弾き飛ばされ、
刺突を一撃浴びせれば、
二、三人が串刺しとなった。
濁流を数少ない手勢で押し留めるべく
粉骨砕身、渾身の力を込めて闘ったが
流れに逆らう事はそう容易い事ではなかった。
逃げる味方を追う敵の勢いは凄まじく、
9万余を率いていた筈の彼の下には
数百にも満たない手勢が残るばかりとなった。
騎兵が旋風となって必死に護り抜こうと奮闘する者をさらい、
それに耐えてもなお、歩兵の刺突が羽虫の群れの様に襲いかかった。
こうなるともはや信条も名誉も関係ない、
叩き潰すべき障害物以上の価値を
グォーム大公は持ち得なかった。
そして、その時は必然としてやって来た。
「やったぞぉぉぉぉ‼︎たいしょぉくびだぁぁぁぁぁ‼︎」
「「「「「ヴォォォォォォォォ‼︎」」」」」
英雄の物語が終わり、歴史が新たな一節を書き出そうとしていたこの瞬間、
俺たちは用無しになったカカシとの川下りに興じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜

くまみ
ファンタジー
 前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?  「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。  仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。  病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。  「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!  「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」  魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。  だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。  「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」  これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。    伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!    

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...