兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

13 彩子

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ブラック一条伝説。

まるで戦隊モノのヒーローのようだが、まったく違う。
それは、私、雪原彩子が入学して間もない頃に噂でよく聞いた言葉だ。

3年生にすごく綺麗な先輩と、かっこいい先輩がいるとは聞いていた。そして、当時私達一年生の間で話題になっていたのは、その綺麗な方の先輩の妹が私達と同じ学年にいるらしい。そして、幼馴染みという立場から、かっこいい先輩がその子を可愛がっているらしい。そして、かっこいい先輩のファンの女子がその子を苛めているらしいという噂だった。
こういった話題はみんな面白がるので、私も大いに参加した覚えがある。

だが、その噂は、ある日を境にぱったりと消えた。

かっこいい先輩は、その子を妹としか見てないから、ファンの女子達が諦めて容認したとかいろいろな噂があったけど、秘かに語り継がれている話がある。
ブラック一条が降臨した、と。
面白がる生徒達を一瞬で黙らせるほど恐ろしく、上級生の間ではあいつには逆らうなというのが暗黙の了解とされているらしい。

だけど、そんなのどうせ眉唾物だと思ってた。

2年生から同じクラスになって仲良しになった花奈は、1年生の時に噂になった本人とは思えないくらいのんびりした子だし。
一条先輩は、いつも穏やかな微笑みを浮かべて、環先輩のそばにいる。彼が声を荒らげるところなんて見たことない。

そう思ってた。
思ってたんだけど。


「二葉。どこ行くの?俺、ここにいてって言ったよね。」
「一条先輩!まず、俺から話しますから。恭子、ちょっと来い!」
「ちょっと、何よお兄ちゃん。」
「いいから。」
「はあ?あたしが何したっていうの?」
不満そうな恭子ちゃんに、二葉が一瞬絶望的な顔をした。
その彼女を見て、一条先輩はうれしそうに笑った。


話を要約すると、こうだ。
私達が離れて、花奈と恭子ちゃんが二人でいる時の会話を一条先輩がきいていたらしい。

その時、恭子ちゃんは、花奈に花奈自身をけなすような言葉をつかって、先に帰るように促したらしい。
そして何より恐ろしいのは、二葉と私をくっつけようとしていたことだ。

確かに二葉はイケメンだ。
だが私の好みはもっと、包容力あふれる大人な男性。二葉みたいに無愛想な剣道バカはごめんだわ。

それにしても、ブラック一条。
噂は本当だったんだ。
怖い。逆らっちゃいけないよ、あれは。
それにしても、一条先輩の愛って重いよね。私にはとても受け止められないわ。窒息しそう。

環先輩に、一条先輩。それに二葉。
あと、この前会った背の高い先輩。
花奈の周りって顔面偏差値高いけど、どうしてだろう彼女の立場にはなりたくないと思ってしまう。友達として、横で見てるぶんはいいけどね。

そういえば、二葉は花奈のことが好きだと思ってたけど。今日の恭子ちゃんの件でハードルあがったなあ。

数日後。
二葉と話す機会があったので、少し話をした。

「二葉、お疲れ。」
「……雪原か。お疲れ。」
二葉は、少し憔悴しているようだ。
花奈も二葉が元気がないことを心配していた。

「あ~。この前は大変だったね。」
「ああ。まあな。」
「恭子ちゃん大丈夫だった?」
「最近少し持ち直してきたけど。前はすげえ落ち込んでた。というか怯えてたな。」
「あ~。一条先輩夜道に出没してにたりと笑ってそうだもんね。」
「こわいこと言うなよ。あの時、先輩が何を言ったのか絶対言わないんだよなあ、あいつ。」
「まあ、あんたもいつまでも落ち込んでないで次の恋でも探しなよ。」
「え?なんで?」
「え。だって、一条先輩の前であれだけやらかしたじゃん。まあやらかしたのは恭子ちゃんだけど。監督不行き届きだったのはあんたでしょ。」
「おまえ、はっきり言い過ぎだろ。……そうだなあ。なんでだろう。斎藤をあきらめる気にはならないんだ。」
「うわ。粘着質。しかも花奈が好きって開き直ったわね。」
「うるさい。なんとでも言え。環先輩と、彼女の隣をあきらめるのは嫌だ。」
「一条先輩も、もれなくついてくるよ?」
「………ぐっ。だとしても、だ。俺はあきらめたくない。最近恭子も応援してくれるようになったし。」
「ああ。最近花奈にあげてたよね。クマ太郎グッズ。どうしたの。心境の変化?」
「あいつ、最近変な方向に行き始めたみたいでな。雪原に彼氏が出来たらしいって知ったら大笑いして、なんかブツブツ言ってやばかった。ヤツの呪いだとか訳分からんこと言い出して……。」
「え?大丈夫なの?ていうか私に彼氏できたのなんで知ってんの?やだ。ストーカー?」
「アホか。お前知られたくないなら地元でデートすんな。噂になってるぞ。」



恭子ちゃん大丈夫かなと思いながらも毎日がバタバタと過ぎていき。忘れた頃、それはやってきた。

しばらくして、地元を歩いていると、恭子ちゃんに会った。
「彩ちゃん!」
「恭子ちゃん!」
「この前は迷惑かけてごめんね。反省してる。」
「いいのよ。それより……」
「それより彩ちゃん、彼氏出来たんだってね。おめでとう!」
「ありがとう?それより……。」
「私も反省したの。そして私は心を入れ替えたわ!……あの男に復讐するために。」

「……はい?」

恭子ちゃんの涼やかな瞳がギラりと光った。
彼女はギリッと拳を握りしめた。
あれ、冬でもないのに、寒い。鳥肌たってるよ。

「あの男は悪魔よ。鬼よ、妖怪よ!許すまじ、くされ一条。あの男のせいで、お兄ちゃんは彩ちゃんにふられたのよ。私はいまだにあの時のことを夢にみてうなされるのよ?あの男の恐怖に打ち勝つために、あの男への復讐のために……!あの人とお兄ちゃんをくっつけることにしたの。」

「……はあ?」

あれ?二葉は恭子ちゃんが怯えてるって言ってたと思うんだけど。これ怯えてないよね。対抗する気満々だよね。
もともとが綺麗な顔立ちの子なのに、今は先輩に対して復讐鬼になっている恭子ちゃんはかなり怖い。
まるで般若だ。

「今考えるとあの人わりといい人だったと思うんだよね。だいたい、お兄ちゃんはあの人のこと好きなんだから、もしお兄ちゃんが、あの人とくっついたらハッピーでしょ?お兄ちゃんからはなかなかアピールしないだろうから、私が手助けしないとね。ほっといたらお爺ちゃんになっても、一緒にお茶飲んで満足してそう。とりあえず私とお兄ちゃんと、3人で出かけてみようと思うんだけど、どう思う?どこがいいかな。」

私は恭子ちゃんを止めようと焦った声を出した。

「え?いやあ……そうだ。まだ早いんじゃない?手紙、手紙くらいでいいんじゃないかな?」

「それもそうね。あまりガツガツいって引かれても嫌だし。もう少し慣れてからかしらね。どうしようかな……あの人がお兄ちゃんとくっついたら、あの男悔しがるでしょうね。考えただけで笑いがでてくるわ。」

(あ、返り討ちにされてる情景がうかんでくるんだけど……ていうか最近の小学生こわっ。恭子ちゃんてこんな子だったっけ?)

どうやら恭子ちゃんは、一条先輩に恨みを抱いているようだ。その復讐のために、二葉と花奈をくっつけて先輩を見返してやりたいのだろう。
だがしかし。
恭子ちゃんの動きを一条先輩が大人しく黙ってみてるだろうか。
いや、それはない。


そのまま去っていった恭子ちゃんの背中を見送りながら、私は再度思った。

どんなにイケメンにかこまれていても、やっぱり花奈の立場にはなりたくない!





















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