14 / 48
中学生編
14
しおりを挟む
本屋さんから一歩外に出た途端、強い日差しを感じて、その眩しさに私は思わず目を閉じた。
季節はもう夏になろうとしている。
体育祭であんなことがあったにも関わらず、二葉くんは今まで通りに私に接してくれた。恭子ちゃんも今回の件で反省したのか、最近大人しいらしい。しかも、ごめんなさいの気持ちですの手紙とともに、クマ太郎のグッズを分けてくれたりするようになった。
例えばメモ帳だったら、3枚くらいとかちょこっとなので、遠慮なく頂いている。私も新しいのを見つけたら分けてあげたりして、彼女と仲良くなったみたいで少しうれしい。
穏やかな日々を送っている私だが、一つ変化したことがあった。
本屋になら単独行動を許されるようになったのだ。
私は時間のある時にサイクリングがてら、自転車を走らせるようになった。
最近気になるのは、本屋の近くの街道沿いにできたアイスクリーム屋さんだ。駐輪場まで歩いていく途中にその店はオープンした。
1人で店に入って買って食べるのはまだ緊張するので、私はいつも店内を横目で見ながら店の前を通り過ぎている。
彩子は最近彼氏ができたみたいで、リア充の彼女には一緒に食べに行こうとお願いしにくいし。蓮琉くんとかお兄ちゃんに頼んだら一緒に来てくれそうだけど、2人とも最近部活が忙しそうなので、ぐっと我慢していたりする。
(うわ~。今日も美味しそう。)
お店の方ばかりを見て歩いていた私は、前を歩く人に気が付かずに思い切りぶつかってしまった。
勢いよくふっとび、そのまま尻餅をついてしまう。
「わっ。すみません!……あ。」
「すまん、俺も余所見してたから……お!」
(四楓院隼人だ。)
私は意外な人物とぶつかったようで、驚いて目を見開いた。
相手も私に見覚えがあるようで、私をじっと見ていたが、はっとしたように指さしてきた。
「お前、三田のセフレか。」
「違います。」
「でも体育祭の日に公園で一緒にいたよな。」
「たまたまです。やめてくださいよ、ホントに。」
私はお尻についた汚れをはらうと素早く立ち上がった。そのまま移動しようとした私はそのまま動けなくなった。
駐輪場まで行こうとした私の手を、彼がつかんでニヤリと笑っていた。
「なあ、お前さっきこの店の前でヨダレをたらしそうな顔してたよな。」
「なっ。……確かに美味しそうだなあって見てましたけど。ヨダレはたらしてませんよ。たぶん。」
結構失礼だな。この人。
そのまま歩き出そうとした私の背中に彼が魅力的な言葉を投げかけてきた。
「おい。一緒に食べないか?」
「え?」
「だから、一緒にこの店入ってアイスを買わないかと言っているんだ。さすがに男1人じゃ敷居が高いからな。おごってやらんでもないぞ。」
なんだかとってもえらそうである。
そういえばこの人、とんでもなく甘党だったかも。私は少し考えた。あたまの中でアイスと蓮琉くんが、天秤にのってゆらゆらしている。
(………むむ。)
「俺の名前を知らないから不安か?俺は四楓院隼人。高校3年生。お前は?」
「斎藤花奈、です。中二です。ええと、四楓院先輩……。」
「隼人でいい。」
「四楓………。」
「隼人。」
「……隼人先輩。」
「まあいい。」
隼人先輩は少し不満そうだが仕方なさそうに頷いた。
私は高速回転で考えた。
蓮琉くんには、ひとりで本屋に行っても寄り道せずに、帰れと言われている。
だがしかし、私は今、アイスが食べたい。
ものすごく食べたい。
アイスを買ったらすぐに食べて、すぐに帰ったらいいよね。
あ、でも、自己申告というテもあるよね。
私は無言で携帯電話をとりだした。
メールしとこう。うん。そうしよう。
私は速攻でメールを送ると、隼人先輩を振り返った。
「行きましょう!でもおごらなくていいですから!」
そして数分後。私は何故か駐輪場にある小さな椅子を取り合うように隼人先輩と座り、アイスを食べていた。座る場所の面積が小さいのでおしくらまんじゅうのように身体がくっついている。
店内に入りアイスを購入した私が、そのまま去ろうとしたら、何故か隼人先輩がついてきたのだ。
ちなみに、私はツインで抹茶とバニラ。隼人先輩はトリプルでチョコとストロベリーとキャラメルを選んだ。
ああ。美味しい。
幸せだ。
「お前、幸せそうに食べるな。」
「だって美味しいです。」
蓮琉くんとかお兄ちゃんだったら、一口もらうけど。隼人先輩だったら無理だよねえ。
私は無意識に隼人先輩のアイスをじっと見ていたらしい。
隼人先輩は苦笑して私を見た。
「一口味見するか?」
「いいんですか?」
「そんなにじっと物欲しそうに見られたら逆に落ち着かねえよ。ほら。」
私は一瞬悩んだが、ありがたく頂くことにした。
「うわあ。美味しい。チョコ濃厚!ストロベリー果肉入り!キャラメルほろ苦大人味ですね~。」
「リポーターみたいだな。」
「先輩も私の食べます?」
「いや。俺は……やっぱりもらおう。いいか?」
「どうぞ、どうぞ。」
隼人先輩はもっとたくさんとるかと思ったけど、少しだけスプーンにすくった。
「……美味いな。」
「ですよね~。バニラはクリーミーで抹茶は濃い味で。いや~ずっと食べてみたかったんですよ。念願叶いました。声かけて下さってありがとうございます。」
「……よかったな。」
隼人先輩は、少し笑うと、私をじっと見つめてきた。
「お前は、俺のことが怖くないのか?」
私を観察するような視線。
彼が少し目を細めただけで、なんでも白状したくなるような雰囲気になる。
そういえばこの人、風紀を乱す人を容赦なく取り締まるから、学校で畏怖の対象だったっけ。お兄ちゃんはそんなの気にしないから、普通に話したりしてて。最初はそこを面白がってただけだったのに、だんだん惹かれていくんだった。
ぼんやりと考え込んでしまい、彼に返事をしてないことに気がついた私はあわてて隼人先輩を見た。先輩はまだ私をじっと観察するように見ている。
私は慎重に口を開いた。
「私は。怖がるほど隼人先輩のことを知りません。それに、兄が言ってました。相手を噂とかイメージだけで判断するなって。ちゃんと見てから友達になれるか自分で判断しろって。……なんて、全部兄の受け売りですけどね。」
だんだん恥ずかしくなってきた私は残りの抹茶アイスをパクリと口に入れた。後のバニラはゆっくり食べよう。
先輩は驚いた顔をしていたが、やがて表情を和ませると、小さく呟いた。
「いい兄貴だな。」
「ありがとうございます。大好きなお兄ちゃんです!」
私と隼人先輩はふと目をあわせると、微笑みあった。
隼人先輩、こんな優しい表情できたんだなあ、と少し失礼なことを考えていると、駐輪場の入口に自転車が入ってくる音がして、私達はそちらの方へ振り返った。
「花奈!おい蓮琉。花奈いたぞ?」
お兄ちゃんだった。
「花奈お前、携帯でろよ。店内で食べてるのかと思ったらいないから、探しまわっただろ?」
「え?うわ。ほんとだごめんなさい。」
携帯電話を、確認すると、お兄ちゃんと蓮琉くんから着信が、たくさん来てた。
「これは心配料金な。」
お兄ちゃんは私のスプーンをもつと、残りのバニラアイスを全部すくって食べてしまった。
「ああああ!お兄ちゃん!ゆっくり味わおうと思って残しといたのに!」
「美味いな、これ。蓮琉~これ美味いよ。」
「はいはい。買ってきますよ。金は後で徴収するからな。先輩はおかわりとかいります?」
「いや、もう充分だ。」
私がスプーンをくわえてじとっとお兄ちゃんを見ていると、隼人先輩もお兄ちゃんを見ていることに気がついた。
「斎藤……。お前がこいつの兄貴か。」
「妹の花奈がお世話になったみたいですみませんでしたね。」
お兄ちゃん達が話していると、蓮琉くんが戻ってきた。自転車をとめると、アイスを持って近づいてきた。持っていた二つのカップのうち、一つをお兄ちゃんに渡すと、もうは一つは私に渡してくれた。
「ほら、環。花奈も、これ。環が食べたぶんな。」
「ありがとう!蓮琉くん。一口食べなよ。はい。あ~ん。」
私はいつもの癖で、スプーンですくうと、蓮琉くんの口元に持っていった。
「美味しい?」
「うん。美味いな。」
蓮琉くんは自分の口の横についたぶんを舐めとると、にっこりと微笑んだ。
ふと気がつくと、隼人先輩が蓮琉くんをひきつった顔で見ていた。
「誰にもなびかない男……か。この姿を見たらお前のファンが泣くな。」
「余計なお世話ですよ。だいたい、花奈を勝手に誘わないで下さい。何かあったらどうするんですか。」
「俺が一緒にいるのに、どうにかなるわけがないだろう。」
「いつか足元掬われないといいですね。」
「お前、失礼な奴だな。」
いつの間にか言い合いになっている2人を無視して、お兄ちゃんはアイスを食べ続けている。
その幸せそうな姿はまさに天使。
食べ方は優雅なのに、アイスはすごい勢いでなくなっていく。その姿に見入ってしまい、食べるのが疎かになっていた私のアイスをお兄ちゃんがじっと見た。
「花奈、いらないのか?食べてやろうか?」
「ううん?食べるよ!」
「遠慮すんなよ?晩御飯食べられなくなるぞ。」
「大丈夫!食べられるもん。」
私はお兄ちゃんからアイスを守るために蓮琉くんのそばに素早く移動した。蓮琉くんはまだ隼人先輩と言い合いしていたが、避難してきた私を見て、目を和ませた。
「大丈夫。花奈、ゆっくり食べろよ?環!お前トリプル買ってやっただろうが。花奈のを狙うなよ!」
「だって足りねえ。余計に腹がへった。早く帰ろうぜ。」
「お兄ちゃん、今日お母さん夜勤だから、晩御飯私が作るよ。スーパーよって帰ろう?」
「りょーかい。……なんですか、四楓院先輩。微妙な顔して。」
「お前ら、学校と全然違うな。」
「穏やかな天使じゃないからがっかりですか?ま、これも俺ですよ。」
「いや、逆だ。」
「はい?」
「ははははっ。気に入った。面白いな、お前。」
「それはどうも?先輩も笑うんですね。……どうしてですかね。野生の虎に品定めされてる感じしかしないんですが。」
「そうか?気にするな。これも俺だ。」
隼人先輩はお兄ちゃんと蓮琉くんを見てニヤリと笑ったかと思うと、ゆっくりと立ち上がり、駐輪場を出て歩き始めた。そして、そのまま雑踏の中へ消えていった。
季節はもう夏になろうとしている。
体育祭であんなことがあったにも関わらず、二葉くんは今まで通りに私に接してくれた。恭子ちゃんも今回の件で反省したのか、最近大人しいらしい。しかも、ごめんなさいの気持ちですの手紙とともに、クマ太郎のグッズを分けてくれたりするようになった。
例えばメモ帳だったら、3枚くらいとかちょこっとなので、遠慮なく頂いている。私も新しいのを見つけたら分けてあげたりして、彼女と仲良くなったみたいで少しうれしい。
穏やかな日々を送っている私だが、一つ変化したことがあった。
本屋になら単独行動を許されるようになったのだ。
私は時間のある時にサイクリングがてら、自転車を走らせるようになった。
最近気になるのは、本屋の近くの街道沿いにできたアイスクリーム屋さんだ。駐輪場まで歩いていく途中にその店はオープンした。
1人で店に入って買って食べるのはまだ緊張するので、私はいつも店内を横目で見ながら店の前を通り過ぎている。
彩子は最近彼氏ができたみたいで、リア充の彼女には一緒に食べに行こうとお願いしにくいし。蓮琉くんとかお兄ちゃんに頼んだら一緒に来てくれそうだけど、2人とも最近部活が忙しそうなので、ぐっと我慢していたりする。
(うわ~。今日も美味しそう。)
お店の方ばかりを見て歩いていた私は、前を歩く人に気が付かずに思い切りぶつかってしまった。
勢いよくふっとび、そのまま尻餅をついてしまう。
「わっ。すみません!……あ。」
「すまん、俺も余所見してたから……お!」
(四楓院隼人だ。)
私は意外な人物とぶつかったようで、驚いて目を見開いた。
相手も私に見覚えがあるようで、私をじっと見ていたが、はっとしたように指さしてきた。
「お前、三田のセフレか。」
「違います。」
「でも体育祭の日に公園で一緒にいたよな。」
「たまたまです。やめてくださいよ、ホントに。」
私はお尻についた汚れをはらうと素早く立ち上がった。そのまま移動しようとした私はそのまま動けなくなった。
駐輪場まで行こうとした私の手を、彼がつかんでニヤリと笑っていた。
「なあ、お前さっきこの店の前でヨダレをたらしそうな顔してたよな。」
「なっ。……確かに美味しそうだなあって見てましたけど。ヨダレはたらしてませんよ。たぶん。」
結構失礼だな。この人。
そのまま歩き出そうとした私の背中に彼が魅力的な言葉を投げかけてきた。
「おい。一緒に食べないか?」
「え?」
「だから、一緒にこの店入ってアイスを買わないかと言っているんだ。さすがに男1人じゃ敷居が高いからな。おごってやらんでもないぞ。」
なんだかとってもえらそうである。
そういえばこの人、とんでもなく甘党だったかも。私は少し考えた。あたまの中でアイスと蓮琉くんが、天秤にのってゆらゆらしている。
(………むむ。)
「俺の名前を知らないから不安か?俺は四楓院隼人。高校3年生。お前は?」
「斎藤花奈、です。中二です。ええと、四楓院先輩……。」
「隼人でいい。」
「四楓………。」
「隼人。」
「……隼人先輩。」
「まあいい。」
隼人先輩は少し不満そうだが仕方なさそうに頷いた。
私は高速回転で考えた。
蓮琉くんには、ひとりで本屋に行っても寄り道せずに、帰れと言われている。
だがしかし、私は今、アイスが食べたい。
ものすごく食べたい。
アイスを買ったらすぐに食べて、すぐに帰ったらいいよね。
あ、でも、自己申告というテもあるよね。
私は無言で携帯電話をとりだした。
メールしとこう。うん。そうしよう。
私は速攻でメールを送ると、隼人先輩を振り返った。
「行きましょう!でもおごらなくていいですから!」
そして数分後。私は何故か駐輪場にある小さな椅子を取り合うように隼人先輩と座り、アイスを食べていた。座る場所の面積が小さいのでおしくらまんじゅうのように身体がくっついている。
店内に入りアイスを購入した私が、そのまま去ろうとしたら、何故か隼人先輩がついてきたのだ。
ちなみに、私はツインで抹茶とバニラ。隼人先輩はトリプルでチョコとストロベリーとキャラメルを選んだ。
ああ。美味しい。
幸せだ。
「お前、幸せそうに食べるな。」
「だって美味しいです。」
蓮琉くんとかお兄ちゃんだったら、一口もらうけど。隼人先輩だったら無理だよねえ。
私は無意識に隼人先輩のアイスをじっと見ていたらしい。
隼人先輩は苦笑して私を見た。
「一口味見するか?」
「いいんですか?」
「そんなにじっと物欲しそうに見られたら逆に落ち着かねえよ。ほら。」
私は一瞬悩んだが、ありがたく頂くことにした。
「うわあ。美味しい。チョコ濃厚!ストロベリー果肉入り!キャラメルほろ苦大人味ですね~。」
「リポーターみたいだな。」
「先輩も私の食べます?」
「いや。俺は……やっぱりもらおう。いいか?」
「どうぞ、どうぞ。」
隼人先輩はもっとたくさんとるかと思ったけど、少しだけスプーンにすくった。
「……美味いな。」
「ですよね~。バニラはクリーミーで抹茶は濃い味で。いや~ずっと食べてみたかったんですよ。念願叶いました。声かけて下さってありがとうございます。」
「……よかったな。」
隼人先輩は、少し笑うと、私をじっと見つめてきた。
「お前は、俺のことが怖くないのか?」
私を観察するような視線。
彼が少し目を細めただけで、なんでも白状したくなるような雰囲気になる。
そういえばこの人、風紀を乱す人を容赦なく取り締まるから、学校で畏怖の対象だったっけ。お兄ちゃんはそんなの気にしないから、普通に話したりしてて。最初はそこを面白がってただけだったのに、だんだん惹かれていくんだった。
ぼんやりと考え込んでしまい、彼に返事をしてないことに気がついた私はあわてて隼人先輩を見た。先輩はまだ私をじっと観察するように見ている。
私は慎重に口を開いた。
「私は。怖がるほど隼人先輩のことを知りません。それに、兄が言ってました。相手を噂とかイメージだけで判断するなって。ちゃんと見てから友達になれるか自分で判断しろって。……なんて、全部兄の受け売りですけどね。」
だんだん恥ずかしくなってきた私は残りの抹茶アイスをパクリと口に入れた。後のバニラはゆっくり食べよう。
先輩は驚いた顔をしていたが、やがて表情を和ませると、小さく呟いた。
「いい兄貴だな。」
「ありがとうございます。大好きなお兄ちゃんです!」
私と隼人先輩はふと目をあわせると、微笑みあった。
隼人先輩、こんな優しい表情できたんだなあ、と少し失礼なことを考えていると、駐輪場の入口に自転車が入ってくる音がして、私達はそちらの方へ振り返った。
「花奈!おい蓮琉。花奈いたぞ?」
お兄ちゃんだった。
「花奈お前、携帯でろよ。店内で食べてるのかと思ったらいないから、探しまわっただろ?」
「え?うわ。ほんとだごめんなさい。」
携帯電話を、確認すると、お兄ちゃんと蓮琉くんから着信が、たくさん来てた。
「これは心配料金な。」
お兄ちゃんは私のスプーンをもつと、残りのバニラアイスを全部すくって食べてしまった。
「ああああ!お兄ちゃん!ゆっくり味わおうと思って残しといたのに!」
「美味いな、これ。蓮琉~これ美味いよ。」
「はいはい。買ってきますよ。金は後で徴収するからな。先輩はおかわりとかいります?」
「いや、もう充分だ。」
私がスプーンをくわえてじとっとお兄ちゃんを見ていると、隼人先輩もお兄ちゃんを見ていることに気がついた。
「斎藤……。お前がこいつの兄貴か。」
「妹の花奈がお世話になったみたいですみませんでしたね。」
お兄ちゃん達が話していると、蓮琉くんが戻ってきた。自転車をとめると、アイスを持って近づいてきた。持っていた二つのカップのうち、一つをお兄ちゃんに渡すと、もうは一つは私に渡してくれた。
「ほら、環。花奈も、これ。環が食べたぶんな。」
「ありがとう!蓮琉くん。一口食べなよ。はい。あ~ん。」
私はいつもの癖で、スプーンですくうと、蓮琉くんの口元に持っていった。
「美味しい?」
「うん。美味いな。」
蓮琉くんは自分の口の横についたぶんを舐めとると、にっこりと微笑んだ。
ふと気がつくと、隼人先輩が蓮琉くんをひきつった顔で見ていた。
「誰にもなびかない男……か。この姿を見たらお前のファンが泣くな。」
「余計なお世話ですよ。だいたい、花奈を勝手に誘わないで下さい。何かあったらどうするんですか。」
「俺が一緒にいるのに、どうにかなるわけがないだろう。」
「いつか足元掬われないといいですね。」
「お前、失礼な奴だな。」
いつの間にか言い合いになっている2人を無視して、お兄ちゃんはアイスを食べ続けている。
その幸せそうな姿はまさに天使。
食べ方は優雅なのに、アイスはすごい勢いでなくなっていく。その姿に見入ってしまい、食べるのが疎かになっていた私のアイスをお兄ちゃんがじっと見た。
「花奈、いらないのか?食べてやろうか?」
「ううん?食べるよ!」
「遠慮すんなよ?晩御飯食べられなくなるぞ。」
「大丈夫!食べられるもん。」
私はお兄ちゃんからアイスを守るために蓮琉くんのそばに素早く移動した。蓮琉くんはまだ隼人先輩と言い合いしていたが、避難してきた私を見て、目を和ませた。
「大丈夫。花奈、ゆっくり食べろよ?環!お前トリプル買ってやっただろうが。花奈のを狙うなよ!」
「だって足りねえ。余計に腹がへった。早く帰ろうぜ。」
「お兄ちゃん、今日お母さん夜勤だから、晩御飯私が作るよ。スーパーよって帰ろう?」
「りょーかい。……なんですか、四楓院先輩。微妙な顔して。」
「お前ら、学校と全然違うな。」
「穏やかな天使じゃないからがっかりですか?ま、これも俺ですよ。」
「いや、逆だ。」
「はい?」
「ははははっ。気に入った。面白いな、お前。」
「それはどうも?先輩も笑うんですね。……どうしてですかね。野生の虎に品定めされてる感じしかしないんですが。」
「そうか?気にするな。これも俺だ。」
隼人先輩はお兄ちゃんと蓮琉くんを見てニヤリと笑ったかと思うと、ゆっくりと立ち上がり、駐輪場を出て歩き始めた。そして、そのまま雑踏の中へ消えていった。
11
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる