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中学生編
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もうすぐ夏休み。
テストも終わり、休みを前にみんなどこか浮き足だっている。そんな時、二葉くんが私に恭子ちゃんからの手紙を持ってきてくれた。
便箋には最近恭子ちゃんが今はまっているキャラクターの可愛らしいイラストがのっている。
封を開けて文章を読むと、そこには一緒に夏祭りに行きませんか?と書かれていた。
隣で手紙を読む私を見ていた二葉くんが、少し心配そうに話しかけてきた。
「あいつ、なんて?」
「一緒に夏祭りに行きませんか?って。」
「それって、毎年俺の通ってた小学校でやってるヤツかな?」
「ええとね、7月の末の土曜日に東小学校であるみたいだね。」
「やっぱりそうか。まあ、わりと規模はデカイと思う。」
「そうなんだ。私は行ったことがないんだよねえ。う~ん。恭子ちゃんからのせっかくのお誘いだしなあ。お母さんに聞いてみるよ。ちょっと待ってね。返事書くから。」
私はポケットから取り出したメモ帳に手早く返事を書くと、二葉くんに恭子ちゃんへの返事を託した。
*****
夏祭りは、たくさんの出店と家族連れや町内会の人達で賑わっていた。
自転車を駐輪場へ置いた私は待ち合わせ場所へ向かった。
すれ違う人々の明るい笑顔や屋台からたちのぼる美味しそうな匂いが私の気持ちも明るくするようだ。
私はふと脳裏にうかんだ人達のことを考えた。
「お兄ちゃん達も来ればよかったのに。」
お兄ちゃん達は今日も部活、ということで夏祭りには参加出来なかった。部活帰りに迎えに来てくれるらしい。
「花奈さん!ここだよ!」
「恭子ちゃん。わあ、浴衣だね。可愛い。」
「えへへ。ありがとうございます。花奈さんは浴衣着なかったんですね。」
「自転車で来たからね。二葉くんも浴衣だね。かっこいい。」
2人とも和風な顔立ちなので、かなり似合う。
二葉くんは、肩をすくめて私を見た。
「俺も楽な格好の方がよかったんだけど、母さんに命令された。斎藤の浴衣姿も見てみたかったな。きっと似合う。」
「えっ……そう、かな。」
二葉くんの表情がなんだか優しくて、私は恥ずかしくなって俯いた。
「あ。智子。お兄ちゃん!友達見つけたからちょっと行ってくるね。花奈さんごめんね。スグ戻るから!あ、本部前で待ち合わせね!」
「おい!恭子?まったく。自分で誘っといて。悪いな、斎藤。あいつ気まぐれなんだ。」
二葉くんは呆れたように恭子ちゃんの背中を見送った。
「ふふっ。大丈夫だよ。ねえ、屋台見て回ってもいいかな?」
「そうだな。行くか。」
私達はゆっくりと屋台を見て回った。
たこ焼き、イカ焼き、かき氷。
「うわあ、いろいろあるねえ。」
「何か食べるか?」
「そうだねえ。二葉くんは食べたいのある?」
二葉くんは少し考えてポツリと呟いた。
「たこ焼き、かな?」
「いいね。たこ焼き。私も食べたい。」
私達は屋台でたこ焼きを買うと、グラウンドの隅の方に移動した。
「あ、美味い。斎藤も食えば?」
「頂きます。わ、熱々だ。」
外はカリッと中はとろっと。
ソースの味と一緒になって幸せな気分になる。
二葉くんの目が少し優しくなった。
「斎藤は、幸せそうな顔して食べるな。」
「そうかな?だって、美味しいよ?これ。」
私はなんだか恥ずかしくなって、次のたこ焼きをパクリと食べた。もぐもぐしていると、二葉くんの手が私の口元にのびてきた。
「ソース、ついてる。」
親指でそっと拭うと、二葉くんはその指についたソースをペロリと舐めとった。
(…………っ!)
お兄ちゃんと蓮琉くん以外にこんな風にふれられたことがない私は、かあっと頬が熱くなるのを感じた。
二葉くんも、私の様子に自分がしたことに気がついたのか、少し目を見開いた。
「悪い。恭子や、寛大にしてるから、つい。」
「ううん。大丈夫!」
「あ~。恭子、遅いな。」
「うん。そうだねっ。」
まだ。頬があつい。
二葉くんをちらりと見ると、二葉くんも私をちらりと見たところで、目が合った。私達は慌てて目をそらすんだけど、しばらくしたらまた目があう。
「ええと、たこ焼き美味しいね。」
「あ、ああ。そうだな。」
なんとか話題を見付けながら、2人でたこ焼きを食べていると、恭子ちゃんが待ち合わせ場所の本部前にやってきた。そして、私達がたこ焼きを食べているのを見て、目をまん丸にした。
「なっ……お兄ちゃん!たこ焼き……たこ焼きなの?青のりが歯にくっつく、あのたこ焼き?もう少し親密になって、青のりついてても笑って許せる関係になってからじゃないの?もっと他にあるでしょ?かき氷とか。舌に蜜の色がついて、舌を見せあって、いい雰囲気になるとか!あ、でもソースついてるよ、とかいっていい雰囲気になるのもありか。やるな兄。」
二葉くんは小さい声でぶつぶつ呟いている恭子ちゃんを訝しげに見た。
「恭子。お前意味不明だぞ?変なものでも拾って食べたのか?」
「恭子ちゃん、私たこ焼き好きだから大丈夫だよ?」
恭子ちゃんは、私をギラっと光る目で見たかと思うと、私に抱きついてきた。
「花奈さん。なんですか。天使ですか。つくづくあの悪魔にはもったいないですね。やっぱりお兄ちゃんがおすすめですよ。無表情だけど、顔はいい方だし。剣道も上手いし。優良物件ですよ。あの悪魔は女子供でも容赦しない鬼……ぴぎゃっ。」
恭子ちゃんは、背後からのびてきた手に気が付かず、叫び声をあげた。その手は彼女の頭をひとつかみすると、ギリギリとしめつけてきた。
「いたたたたたた。」
「こんばんは。体育祭以来かな。ひさしぶりだね。」
そこには、黒い笑顔をした蓮琉くんが、立っていた。
恭子ちゃんはギギギと音がしそうな動きで振り返った。
蓮琉くんはにっこり笑っている。
キラキラと光が舞っているような爽やかな笑顔だ。
恭子ちゃんはへらりと引きつった笑みを浮かべ、少しずつ後退りしていたかと思うと、すごい勢いでどこかで走っていってしまった。
「あいつ、下駄なのに足早いな。」
ボソリと呟いた二葉くんは最後のたこ焼きを食べると、私から空になったパックを受け取りゴミ箱の方に歩きだした。
「あ、二葉くん?ごめん。ありがとう!」
「ん。」
顔だけ振り向いた二葉くんはそのまま歩いてゴミを捨てると、すぐに、戻ってきた。先程までにあったどこかふわふわとした私達の間の空気がいつものものにもどっており、私はホッとため息をついた。
「一条先輩、環先輩は一緒じゃないんですか?」
「今屋台めぐりしてるよ。もう少ししたらいろいろ抱えて戻って来るんじゃないかな。……ほら。」
蓮琉くんが顔を向けた方から大量の袋を抱えたお兄ちゃんがニコニコしながら歩いてきた。
「見ろよ。すげえオマケしてもらった。よお、花奈。二葉。これ一緒に食おうぜ。」
「わあい!焼きそば食べたい。」
お兄ちゃんは華奢な外見に反して、かなり男らしくがっつりと食べる。しかも育ち盛りの男子が3人。あんなにあった食糧はあっという間になくなっていった。
「俺かき氷食べたいなあ。ちょっと買ってくるよ。」
「環先輩、俺も行きます!」
「おう。一緒に行こうか。花奈、何がいい?蓮琉はレモンでいいよな」
「私はそうだなあ。私もレモンでお願いします。」
「了解。んじゃ、行くぞ侑心。」
お兄ちゃんは蓮琉くんの返事を聞く前に行ってしまった。
2人は長い付き合いからか、お互いの嗜好を熟知しているところがある。
蓮琉くんは、私の隣に来ると話しかけてきた。
「花奈、あの子大丈夫だった?」
「あの子?……ああ、恭子ちゃん?大丈夫だよ。最近、仲良くしてくれるの。」
「ならいいけど。何かされたらすぐに言えよ。」
「……ふふっ。蓮琉くん心配性だね。あ、蓮琉くんもソースついてるよ。」
私は背伸びをすると、蓮琉くんの口元を親指で拭った。
ソースのついた手を拭こうとティッシュを探していると、蓮琉くんがソースのついた私の手をとると、自分の口元に持っていった。
私がぼんやりとそれを見ていると、蓮琉くんはふっと笑ってその指を、ぺろりと、舐めた。手についたソースがなくなるまで丁寧に舐めとる。
なんだかいつもの蓮琉くんじゃない。私の知らない大人の男のひとのようで。私は夢でも見てるかのようにふわふわした気持ちで彼にされるがままになっていた。
どのくらい時間がたったのか。
ふと、我にかえった私はさすがに恥ずかしくなってきて、手をひこうとした。
だけど蓮琉くんはそれを許さず、私の手をつかんだまま、私をじっと、見つめてきた。
「誰かも、ソースついてたの?」
「え?うん。私がつけちゃってて。二葉くんがふいてくれた……っ。」
その時のことを思い出した私は、また頬が赤くなるのを感じて俯いた。
だから、その時の蓮琉くんの表情は見てない。
私の手を握る蓮琉くんの手の力が強くなったのは感じた。
違和感を感じた私が顔をあげようとしたら、何かが蓮琉くんに向かってとんできた。
「このおおお、悪霊退散!鬼は外!花奈さんから手を離せ!」
恐らく屋台の唐揚げが入っていたであろう紙コップだった。
蓮琉くんは、紙コップを難なくキャッチすると、投げてきた方を見た。
(恭子ちゃん?)
「ふははは。思い知ったか!……ひっ。」
高笑いしていた恭子ちゃんは、いきなり表情を固まらせた。
私の前に蓮琉くんの背があるので彼の表情は見れない。
「蓮琉、どうした?」
彼を見ようと隣に行こうとしたら、戻ってきたお兄ちゃんの声がして私はそちらの方をみた。
かき氷をかかえたお兄ちゃんと二葉くんがいた。
私たちの状況がわからないのかキョトンとしている。
恭子ちゃんは、天の助けとばかりに二葉くんに駆け寄った。
「お兄ちゃん!帰ろう。小学生は帰らないと。ね!花奈さんまた遊ぼうね!」
「あ、おい恭子?」
何がなんだかわからない二葉くんは、両手にかき氷をかかえたまま、恭子ちゃんに、引っぱられて行った。
「なんだ、あれ。あっ。蓮琉のかき氷、侑心が、もってたのに。」
「ああ。いいよ。花奈のもらうから。」
先程まで私の前にいた知らない男のひとは跡形もなく消え去り、そこにはいつもの蓮琉くんが、いた。
お兄ちゃんの幼馴染みで、隣の家のお兄ちゃん。
「蓮琉くん?」
「なに?花奈。狐に化かされたような顔してるね。」
「蓮琉くんだよね?」
「何言ってるんだよ。変な花奈。」
私はほっとして、かき氷を、食べ始めた。
レモン味のかき氷は、甘酸っぱい味のはずなのに。
その日のかき氷は、味がよくわからなかった。
かき氷を食べるのに必死で、ぼんやりしていた私は、蓮琉くんが小さく呟いたことに気が付かなった。
「何やってんだろうな俺は。」
テストも終わり、休みを前にみんなどこか浮き足だっている。そんな時、二葉くんが私に恭子ちゃんからの手紙を持ってきてくれた。
便箋には最近恭子ちゃんが今はまっているキャラクターの可愛らしいイラストがのっている。
封を開けて文章を読むと、そこには一緒に夏祭りに行きませんか?と書かれていた。
隣で手紙を読む私を見ていた二葉くんが、少し心配そうに話しかけてきた。
「あいつ、なんて?」
「一緒に夏祭りに行きませんか?って。」
「それって、毎年俺の通ってた小学校でやってるヤツかな?」
「ええとね、7月の末の土曜日に東小学校であるみたいだね。」
「やっぱりそうか。まあ、わりと規模はデカイと思う。」
「そうなんだ。私は行ったことがないんだよねえ。う~ん。恭子ちゃんからのせっかくのお誘いだしなあ。お母さんに聞いてみるよ。ちょっと待ってね。返事書くから。」
私はポケットから取り出したメモ帳に手早く返事を書くと、二葉くんに恭子ちゃんへの返事を託した。
*****
夏祭りは、たくさんの出店と家族連れや町内会の人達で賑わっていた。
自転車を駐輪場へ置いた私は待ち合わせ場所へ向かった。
すれ違う人々の明るい笑顔や屋台からたちのぼる美味しそうな匂いが私の気持ちも明るくするようだ。
私はふと脳裏にうかんだ人達のことを考えた。
「お兄ちゃん達も来ればよかったのに。」
お兄ちゃん達は今日も部活、ということで夏祭りには参加出来なかった。部活帰りに迎えに来てくれるらしい。
「花奈さん!ここだよ!」
「恭子ちゃん。わあ、浴衣だね。可愛い。」
「えへへ。ありがとうございます。花奈さんは浴衣着なかったんですね。」
「自転車で来たからね。二葉くんも浴衣だね。かっこいい。」
2人とも和風な顔立ちなので、かなり似合う。
二葉くんは、肩をすくめて私を見た。
「俺も楽な格好の方がよかったんだけど、母さんに命令された。斎藤の浴衣姿も見てみたかったな。きっと似合う。」
「えっ……そう、かな。」
二葉くんの表情がなんだか優しくて、私は恥ずかしくなって俯いた。
「あ。智子。お兄ちゃん!友達見つけたからちょっと行ってくるね。花奈さんごめんね。スグ戻るから!あ、本部前で待ち合わせね!」
「おい!恭子?まったく。自分で誘っといて。悪いな、斎藤。あいつ気まぐれなんだ。」
二葉くんは呆れたように恭子ちゃんの背中を見送った。
「ふふっ。大丈夫だよ。ねえ、屋台見て回ってもいいかな?」
「そうだな。行くか。」
私達はゆっくりと屋台を見て回った。
たこ焼き、イカ焼き、かき氷。
「うわあ、いろいろあるねえ。」
「何か食べるか?」
「そうだねえ。二葉くんは食べたいのある?」
二葉くんは少し考えてポツリと呟いた。
「たこ焼き、かな?」
「いいね。たこ焼き。私も食べたい。」
私達は屋台でたこ焼きを買うと、グラウンドの隅の方に移動した。
「あ、美味い。斎藤も食えば?」
「頂きます。わ、熱々だ。」
外はカリッと中はとろっと。
ソースの味と一緒になって幸せな気分になる。
二葉くんの目が少し優しくなった。
「斎藤は、幸せそうな顔して食べるな。」
「そうかな?だって、美味しいよ?これ。」
私はなんだか恥ずかしくなって、次のたこ焼きをパクリと食べた。もぐもぐしていると、二葉くんの手が私の口元にのびてきた。
「ソース、ついてる。」
親指でそっと拭うと、二葉くんはその指についたソースをペロリと舐めとった。
(…………っ!)
お兄ちゃんと蓮琉くん以外にこんな風にふれられたことがない私は、かあっと頬が熱くなるのを感じた。
二葉くんも、私の様子に自分がしたことに気がついたのか、少し目を見開いた。
「悪い。恭子や、寛大にしてるから、つい。」
「ううん。大丈夫!」
「あ~。恭子、遅いな。」
「うん。そうだねっ。」
まだ。頬があつい。
二葉くんをちらりと見ると、二葉くんも私をちらりと見たところで、目が合った。私達は慌てて目をそらすんだけど、しばらくしたらまた目があう。
「ええと、たこ焼き美味しいね。」
「あ、ああ。そうだな。」
なんとか話題を見付けながら、2人でたこ焼きを食べていると、恭子ちゃんが待ち合わせ場所の本部前にやってきた。そして、私達がたこ焼きを食べているのを見て、目をまん丸にした。
「なっ……お兄ちゃん!たこ焼き……たこ焼きなの?青のりが歯にくっつく、あのたこ焼き?もう少し親密になって、青のりついてても笑って許せる関係になってからじゃないの?もっと他にあるでしょ?かき氷とか。舌に蜜の色がついて、舌を見せあって、いい雰囲気になるとか!あ、でもソースついてるよ、とかいっていい雰囲気になるのもありか。やるな兄。」
二葉くんは小さい声でぶつぶつ呟いている恭子ちゃんを訝しげに見た。
「恭子。お前意味不明だぞ?変なものでも拾って食べたのか?」
「恭子ちゃん、私たこ焼き好きだから大丈夫だよ?」
恭子ちゃんは、私をギラっと光る目で見たかと思うと、私に抱きついてきた。
「花奈さん。なんですか。天使ですか。つくづくあの悪魔にはもったいないですね。やっぱりお兄ちゃんがおすすめですよ。無表情だけど、顔はいい方だし。剣道も上手いし。優良物件ですよ。あの悪魔は女子供でも容赦しない鬼……ぴぎゃっ。」
恭子ちゃんは、背後からのびてきた手に気が付かず、叫び声をあげた。その手は彼女の頭をひとつかみすると、ギリギリとしめつけてきた。
「いたたたたたた。」
「こんばんは。体育祭以来かな。ひさしぶりだね。」
そこには、黒い笑顔をした蓮琉くんが、立っていた。
恭子ちゃんはギギギと音がしそうな動きで振り返った。
蓮琉くんはにっこり笑っている。
キラキラと光が舞っているような爽やかな笑顔だ。
恭子ちゃんはへらりと引きつった笑みを浮かべ、少しずつ後退りしていたかと思うと、すごい勢いでどこかで走っていってしまった。
「あいつ、下駄なのに足早いな。」
ボソリと呟いた二葉くんは最後のたこ焼きを食べると、私から空になったパックを受け取りゴミ箱の方に歩きだした。
「あ、二葉くん?ごめん。ありがとう!」
「ん。」
顔だけ振り向いた二葉くんはそのまま歩いてゴミを捨てると、すぐに、戻ってきた。先程までにあったどこかふわふわとした私達の間の空気がいつものものにもどっており、私はホッとため息をついた。
「一条先輩、環先輩は一緒じゃないんですか?」
「今屋台めぐりしてるよ。もう少ししたらいろいろ抱えて戻って来るんじゃないかな。……ほら。」
蓮琉くんが顔を向けた方から大量の袋を抱えたお兄ちゃんがニコニコしながら歩いてきた。
「見ろよ。すげえオマケしてもらった。よお、花奈。二葉。これ一緒に食おうぜ。」
「わあい!焼きそば食べたい。」
お兄ちゃんは華奢な外見に反して、かなり男らしくがっつりと食べる。しかも育ち盛りの男子が3人。あんなにあった食糧はあっという間になくなっていった。
「俺かき氷食べたいなあ。ちょっと買ってくるよ。」
「環先輩、俺も行きます!」
「おう。一緒に行こうか。花奈、何がいい?蓮琉はレモンでいいよな」
「私はそうだなあ。私もレモンでお願いします。」
「了解。んじゃ、行くぞ侑心。」
お兄ちゃんは蓮琉くんの返事を聞く前に行ってしまった。
2人は長い付き合いからか、お互いの嗜好を熟知しているところがある。
蓮琉くんは、私の隣に来ると話しかけてきた。
「花奈、あの子大丈夫だった?」
「あの子?……ああ、恭子ちゃん?大丈夫だよ。最近、仲良くしてくれるの。」
「ならいいけど。何かされたらすぐに言えよ。」
「……ふふっ。蓮琉くん心配性だね。あ、蓮琉くんもソースついてるよ。」
私は背伸びをすると、蓮琉くんの口元を親指で拭った。
ソースのついた手を拭こうとティッシュを探していると、蓮琉くんがソースのついた私の手をとると、自分の口元に持っていった。
私がぼんやりとそれを見ていると、蓮琉くんはふっと笑ってその指を、ぺろりと、舐めた。手についたソースがなくなるまで丁寧に舐めとる。
なんだかいつもの蓮琉くんじゃない。私の知らない大人の男のひとのようで。私は夢でも見てるかのようにふわふわした気持ちで彼にされるがままになっていた。
どのくらい時間がたったのか。
ふと、我にかえった私はさすがに恥ずかしくなってきて、手をひこうとした。
だけど蓮琉くんはそれを許さず、私の手をつかんだまま、私をじっと、見つめてきた。
「誰かも、ソースついてたの?」
「え?うん。私がつけちゃってて。二葉くんがふいてくれた……っ。」
その時のことを思い出した私は、また頬が赤くなるのを感じて俯いた。
だから、その時の蓮琉くんの表情は見てない。
私の手を握る蓮琉くんの手の力が強くなったのは感じた。
違和感を感じた私が顔をあげようとしたら、何かが蓮琉くんに向かってとんできた。
「このおおお、悪霊退散!鬼は外!花奈さんから手を離せ!」
恐らく屋台の唐揚げが入っていたであろう紙コップだった。
蓮琉くんは、紙コップを難なくキャッチすると、投げてきた方を見た。
(恭子ちゃん?)
「ふははは。思い知ったか!……ひっ。」
高笑いしていた恭子ちゃんは、いきなり表情を固まらせた。
私の前に蓮琉くんの背があるので彼の表情は見れない。
「蓮琉、どうした?」
彼を見ようと隣に行こうとしたら、戻ってきたお兄ちゃんの声がして私はそちらの方をみた。
かき氷をかかえたお兄ちゃんと二葉くんがいた。
私たちの状況がわからないのかキョトンとしている。
恭子ちゃんは、天の助けとばかりに二葉くんに駆け寄った。
「お兄ちゃん!帰ろう。小学生は帰らないと。ね!花奈さんまた遊ぼうね!」
「あ、おい恭子?」
何がなんだかわからない二葉くんは、両手にかき氷をかかえたまま、恭子ちゃんに、引っぱられて行った。
「なんだ、あれ。あっ。蓮琉のかき氷、侑心が、もってたのに。」
「ああ。いいよ。花奈のもらうから。」
先程まで私の前にいた知らない男のひとは跡形もなく消え去り、そこにはいつもの蓮琉くんが、いた。
お兄ちゃんの幼馴染みで、隣の家のお兄ちゃん。
「蓮琉くん?」
「なに?花奈。狐に化かされたような顔してるね。」
「蓮琉くんだよね?」
「何言ってるんだよ。変な花奈。」
私はほっとして、かき氷を、食べ始めた。
レモン味のかき氷は、甘酸っぱい味のはずなのに。
その日のかき氷は、味がよくわからなかった。
かき氷を食べるのに必死で、ぼんやりしていた私は、蓮琉くんが小さく呟いたことに気が付かなった。
「何やってんだろうな俺は。」
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