兄がBLゲームの主人公だったら…どうする?

なみなみ

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中学生編

32 三田 2

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桜ちゃんは、桜木数馬って名前で、俺達の学校の先生で、担当は数学。眼鏡かけてて、所謂クールビューティって感じだ。顔は整ってるけど、どこか冷たい感じがする。

教師としてはあんまりやる気はなさそうだけど、授業はわかりやすい。生徒に対しても変に厳しいこともない。でも締めるところはきっちり締める。
俺が今まで会った教師の中ではわりとましな方だと思う。

俺は何故か桜ちゃんのアパートに、妹ちゃんを運び込んで、そのまま居座っていた。どちらかというと建て付けの悪い、古びた感じの建物の一室に桜ちゃんの部屋はあった。
両親が離婚する前に住んでた家に少し似てる。なんだか懐かしい感じがして、俺はほっと息をついて妹ちゃんを寝かした布団の隣にゴロリと横になった。
天井を見上げてぼんやりしているとなんだか眠たくなってくる。

「三田君、デカイ図体の男にゴロゴロされたら邪魔なんですよ。隅に座れ、隅に!」

「桜ちゃん喉かわいた。なんかない?」

「ああ?どんだけ自由なんだよ。てめえは。コーヒーでいいですね?」

「あ、俺コーヒー苦手。……あ痛っ。」

桜ちゃんは無言で俺の頭をたたくと、隣のキッチンに行き、自分にはコーヒーをいれ、そして、俺に無言でカップを渡してきた。

「ぶっ。なにこれ。白湯じゃん。ジュースとかねえの?」

「そんなもんあるわけないでしょう。後は酒しかないのでそれで我慢してください。」

「あ、俺それでもいい、………あいたっ!」

桜ちゃんは俺の頭を無言でたたいた。
暴力反対。

それから桜ちゃんがなにも言わないので、部屋に静かな空気が流れた。
俺は自分の手をぼんやり見ていた。

妹ちゃんは軽かった。
どこも、かしこも、華奢で。
俺がさわったら壊してしまいそうで。
以前運んだ時は殺したかもって、いっぱいいっぱいだったからわかんなかったけど。

さっき、俺が腕をつかんだ時のあの怯えた表情が頭から離れない。
俺、そんなに驚かすようなことしたかなあ。

ぼんやりしていた俺は、桜ちゃんにまた頭を叩かれた。

「話しかけてるんだから返事くらいしないか。この子は三田君の知り合いですか?」

「うん。ていうかタマちゃんの妹。」

「ああ、斎藤君の妹ですか。いつまでも私の家に置いとくわけにはいきませんからね。連絡先くらいしってるんでしょう。さっさと斎藤君に迎えに来てもらって下さい。」

携帯電話を取り出した俺は、タマちゃんに電話しようとして、ふと動きを止めた。
これ、なんて言おう。

一人で帰らせようとしたって時点でアウトだよね。
まあ、さやちゃんに連絡したとこでもうゲームオーバーって感じだけど。
連絡したことでおこるであろう様々なことを想像して、俺はため息をついた。
携帯電話を持ったまま動かない俺を、桜ちゃんは不審そうに見た。

「………電話したら、喧嘩になるかも。ううん。もう俺と口きいてくれないかも。」

タマちゃんが笑ってくれない未来を想像して泣きそうになった俺に、桜ちゃんの無言の圧力がかかった。その圧力は、やがて気持ちの悪い笑顔に変わった。

「はけ。」

「…………え?」

「いいから、さっさと話せって言ってんだよ。何を悩んでるのかは知りませんが、どうせまたてめえが阿呆なことやらかしたんだろう。」

「……ひどい。ていうか、さっきから、話し方おかしくねえ?学校でのいちおう丁寧な話し方がズタボロじゃねえか。それが本性なのかよ。」

「うるせえな。今は勤務外だ。いいから話せっつってんだろうが!」

俺は桜ちゃんの勢いに渋々最近のことを話した。
桜ちゃんは、最初面倒くさそうにきいていたけど、だんだん眉間にシワがよっていって、般若のような顔になった。

「阿呆を通り越して救いようがないな。」

「ひでえな。なんだよ。」

桜ちゃんは、ため息をつくと、俺の頭を拳でグリグリとえぐった。
痛い。

「おまえにわかりやすく教えてやろう。お前、もう斎藤とは縁を切られるな。ご愁傷様。あいつ、優しそうに見えてけっこうはっきりしてるからな。いいか?お前はあいつが大事にしている妹を二度も危険にさらしたんだ。前の時は偶然かもしれん。だが、今回の原因は九条に連絡したお前だ。
それに……。」

桜ちゃんは、言葉をきると、妹ちゃんを見た。

「この子、その前回のストーカーの件が深刻なトラウマになってるぞ。お前が後ろから腕つかんだだけで過呼吸おこして倒れたんだ。そのストーカー野郎にも似たようなことされたのかもな。」

「え~?前にさやちゃんが壊した子は、妹ちゃんみたいに元気じゃなかったよ?今日妹ちゃんは笑ってたし、一緒に映画もみたもん。」

俺はその途端、ぶん殴られた。
桜ちゃん意外に力強い。
俺はさすがにムッとして桜ちゃんを睨みつけた。
すると、桜ちゃんの真剣な瞳と目があって、思わず目を瞬かせた。

「お前、正気で言ってるのか?この子が元気にみえるのは、斎藤が支えていて、この子自身が踏ん張ってるからだ。前回もしお前が彼女を家まで送ってたらストーカー被害にあわなかったかもしれない。この子と、斎藤はそのことで、お前を責めたか?」

俺はふと考えた。
あれ?そういえば妹ちゃんが危ない時にさやちゃんとデートしたり、電話に出なかったことに関しては嫌味を言われたけど、俺が最後まで送らなかったことについてはなにも言われなかった。

「その時斎藤は合宿に行っていて妹を助けにいけなかったんだろう。斎藤は、どちらかというと斎藤自身を責めただろうな。斎藤が笑顔で今日まで一緒にいてくれたのは 、九条の企みにお前が関与してないって思ってくれてたんじゃないのか?いちおう、信じてもらえてたんじゃねえの?良かったじゃねえか。」

俺は桜ちゃんに返事が出来なかった。
桜ちゃん家の古い畳にぽたぽたと、落ちる雫。

だって、知らなかったんだ。

俺のこと見てくれて、信じてくれる人がいるなんて。
父ちゃんと母ちゃんが離婚して、じいさん家に行ってから。
誰も俺自身を見てくれる人なんていなかった。
俺の背後にある、三田家。
三田家の跡取り候補だった三田陽向。
そんなことでしか、俺を判断してもらえなかった。
さやちゃんは俺を誘ってくれたけど。俺を見てくれてたかというとよくわからない。俺だってカラダの関係で満足してたからおあいこだ。

桜ちゃんは黙って俺が泣くのを見ていたけど、ため息をついて、煙草に火をつけた。そして、煙をはきだしながら俺に話しかけてきた。

「お前、なんで九条の言いなりになってんの?弱みでもにぎられてるのか?」
「ぐすっ。別に、弱みなんてにぎられてないよ。言いなりっていうか……頼まれたからやってただけ。でもタマちゃんに嫌われるのイヤだからもうしない。」
「……ならいいけど。」
桜ちゃんは流れていく煙をぼんやりと見つめていたが、いきなりギョッとして後退した。

いつのまにか妹ちゃんが起き上がって座っていた。
しかも何故か正座。
でも目の焦点があってない。

桜ちゃんがこそこそ俺に話しかけてきた。

「な、なんだこいつ。なあ、やばくねえか?救急車よぶか?」

「えっ。どうなの?…ぐすっ。」

俺たちが身を寄せあって脅えていると、妹ちゃんが何か呟いた。

「ポン太、泣いてるの?犬も泣くんだねえ。ほら、おいで?ポン太。」

ポン太ってなに。
でも、今妹ちゃん明らかに俺の方を見てるよね。

すると、妹ちゃんはいきなり悲しそうな顔をした。

「ポン太、花奈のこと嫌いになっちゃった?花奈のとこ来てくれないの?」

しくしく泣きだした彼女に、焦った桜ちゃんは、俺を蹴り飛ばした。

「いけ!ポン太!」

蹴飛ばされた俺は、彼女の膝に抱きつくようにぶつかった。
妹ちゃんは少しびっくりして、でもふわって笑った。

「えへへ?ポン太もう大丈夫だよ?怖くないよ。花奈がよしよしギューしてあげる。ほらね?おまけにチューもしてあげるね?これしたら、もう怖くないって蓮琉くんが言ってたよ?」

俺は何故か妹ちゃんに抱きしめられて頬ずりされて、キスされていた。
桜ちゃんが笑いを堪えているのが見える。
そりゃあ笑うよな。中学生に抱き抱えられる190センチの大男の図だぞ。俺でも笑うわ。

ていうか、蓮琉って一条だよな。
何教えてんだあいつ。
まあ、一条が妹ちゃん大好きなのダダ漏れだし。
学校では誰のものにもならない王子様が、妹ちゃんの前では普通の男だもんな。すげえ笑える。

俺はそのまま目を閉じた。
まだ両親がそれなりに仲良かった頃、学校で嫌なことがあった時、こんな風に畳の上で母ちゃんに抱っこしてもらったような気がする。学校で百点とったら父ちゃんが大きな手で頭をなでてくれてりして。父ちゃんと母ちゃんと手をつないで俺が真ん中で、みんなで笑ってた。そんな時もあったんだ。

あったかい、な。

俺はこっそり妹ちゃんの膝に額をすりつけた。
少ししたら、また寝てしまった妹ちゃんを布団にそっと寝かせて。
勇気をだしてタマちゃんに電話してすべてを話して。

これ、みんなのぶんな。とタマちゃんにきらきら笑顔で殴られることになるんだけど。

タマちゃんはこれからも一緒にいてくれるらしい。















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