兄はBLゲームの主人公……でした。

なみなみ

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卒業式までのお話

20 樹

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「あの……ね?昨日斎藤さんに樹くんに返してもらうようお願いした参考書なんだけど、一冊残ってたみたいで。樹くんも冬休みに勉強するでしょう?困ったらやだなあって……。」

蓮琉の家の玄関の前で、あたしはマユミとその友人二人と向かい合っていた。

ここは蓮琉の家だし、さすがに家の中にいれるわけにはいかない。

どうやらマユミはあたしに会いに来たらしい。あたしに返したはずの参考書が一冊残っていたのを届けにきてくれたらしいのだ。
あたしは表面上優しく微笑みながら内心生ぬるい笑みを浮かべていた。

(あたしもこのテつかったことあるわあ。借りた本を一冊残しといて、後で会う口実に使うのよねえ。前の学校で純情系な男を籠絡するのに効果的だったわあ。マユミがどこまで計算しているのかはわからないけど。あたしだったらこのまま二人きりになるように誘い込んで、そのままやっちゃうかもねぇ。マユミわりといい体してるし?)

厚手のコートに隠されたマユミの肢体をちらりと見る。
恥じらいながら首を傾げて、上目遣いであたしを見上げてくるマユミに、あたしはいやらしい事なんてなんにも考えてませんといった優しい男の子の見本ともいえるお手本通りの笑顔を浮かべた。

「ごめんね?わざわざ届けに来てくれたんだ。気にしなくても良かったのに。でもありがとう。」

あたしの言葉に、俯いて恥ずかしそうに微笑むマユミに、一緒に来ていた子達がわあっと声をあげた。

「やだ。樹くん優しいねっ。」
「良かったね、マユミ。」
「うん。ありがとう。」

嬉しそうに笑っているその様子からは、『マユミ』『呪い』という言葉の関係性がまったく想像もできない。

(やっぱりあのオニーサン嘘ついてんじゃないかしら。ちょっと怪しそうだったし。怪しい組織の末端組員で、一緒にいた男はボディーガードかなにかだったとか?花奈ってばやっぱり騙されてるんじゃないの?だいたい蓮琉も過保護なのよ。今日、自分が外出しなくちゃいけないからって代わりに花奈のそばにいろなんて横暴じゃない?あたしだって暇じゃないのよ?それでいて二葉にも声かけるなんてどこまで心配性なのよ。)

花奈はとりあえずそのまま客間に残ってもらっている。逃がそうにも玄関にはマユミ達がいるからそこからは無理だし。それに一人で家に帰そうものなら後から蓮琉がうるさいに決まっているし。蓮琉か環さんが帰ってくるまで家にいてもらわないと困るのだ。蓮琉が面倒くさくて。

(蓮琉……ねえ。)
あたしは先日のことを思い出して思わず遠い目をした。

先日、蓮琉から急に携帯電話に連絡が入った。
その要件は花奈の動きがおかしいから現場に急行してくれ、という内容だ。

花奈の携帯電話にはGPSがつけられており、少しでも異変があるとすぐにわかるようになっているらしいのだ。

無視しておいて、後で蓮琉にネチネチ言われるのも面倒なので、とりあえず指示された場所に向かったあたしは、そこで有り得ない体験をした。

焦点のあわない瞳で、歩道橋の上から車道を見下ろす、どう見てもまともでない様子の花奈。その花奈と一緒にいるのは、どう見ても本職としか思えない迫力のある厳つい男。しかも後から現れたのは黒い鳥を操るどこか気味の悪い男ときた。
その上呪いとかこの世から消えるかもとか言い出しす始末よ?
どう考えても怪しいことこの上ないわよ。

怪しいオニーサンの話を聞いた蓮琉なんか、帰宅してから考え込んじゃって、暗い部屋の中で目だけ光らせて怖いのなんのって。

しかもリサからは、ユカコが車道にふらりと飛び出して怪我をしたらしいとの連絡が入るし。まあその後、実は軽傷で、病院からすぐ帰宅できたってきいてホッとしたんだけど。

あたしはふと思い出してマユミを見た。そういえばマユミとユカコって同じ中学校だったのよね。

「そういえばユカコってマユミと同じ中学校出身だよね。怪我したらしいって聞いたんだけど。知ってる?」
「うん。連絡もらって……驚いた。つい最近会ったばかりだったから。」
「へえ、そうなんだ仲良いんだね。」
「…………そうね。」

一瞬。
マユミの瞳にゆらりと影がかかったような気がした。
それは瞬きする間もないくらいで。

先日のことがなかったら気にもしなかったかもしれない。ちょっとあれ?と思いながらも気のせいかなと思ったあたしは軽い気持ちでマユミに声をかけた。

「マユミとユカコって仲良しなんだ。そうだ。一緒にお見舞い行く?ユカコの自宅とかさすがに知らなくて。マユミが知ってるんだったら助かるんだけど。」
「樹くんはあの子のこと気になるの?」
「えっ?気になるというか……怪我したんだったら心配かな?」
「やっぱり気になるんだ……。」

(あれ?)

あたしは顔になんとか優しい男の見本のような笑顔をはりつけながら、内心冷や汗をかいていた。

(え?ここで嫉妬?友達が怪我したんでしょ?そこは上辺でも心配するとこでしょ。それで優しい女の子をアピールするとこじゃないの?)

ムッとした顔で面白くなさそうに顔を背けるマユミに、あたしは困ったように微笑んだ。一緒にいる二人の女の子も、マユミの機嫌の急降下に戸惑ったようにオロオロと視線をさ迷わせている。

(うわ。めんどくさ。)

拗ねるマユミをそのままにユカコを心配する優しい男になるべきか、面倒なのでマユミのご機嫌をとるべきか。
悩んでいたあたしの前に救世主が現れた。

二葉がやって来たのだ。

蓮琉から連絡を受けやってきたものの、あたしとマユミ達が玄関の前にいる状況に戸惑ったらしい。いつも迷いなく行動する二葉にしては珍しく次の動きを躊躇しているようだ。

ただでさえ動かない表情筋をさらに不機嫌な方向に歪めた二葉は、説明を求めるようにあたしを睨みつけてくる。

その表情を恐れることもなく、あたしは馴れ馴れしく二葉の肩に手をかけた。
「いいとこに来たね。二葉。」
「俺は一条先輩に……っ?」
「あははっ。二葉の家もこの近くだもんね?何?通りかかったの?偶然だね。」

蓮琉に言われてあたしと花奈の様子を見に来た、と言おうとした二葉の口をあたしは素早く抑えて、二葉に笑いかけた。普段と違う馴れ馴れしいあたしの様子をおかしいと思ったのか、二葉は抵抗しかけた動きを止めた。

「二葉くんもお家がこの辺りなの?」

マユミの友人が頬を赤く染めて話しかけてきた。
今の状況は、マユミ達三人にとっては偶然二葉が通りかかったようにしか見えないはずだ。
しかも。
いつも学校でしか会えない二葉の貴重な私服姿。蓮琉や環さんと一緒にいると霞んでしまうけど、実は二葉もかなりイケメンだ。二葉に向けられた三人の瞳が、色を含んだものに変化していく。
先程までの不機嫌さが嘘のようなマユミの笑顔に、しめしめとほくそ笑んで、何食わぬ顔で二葉やマユミ達三人に笑いかけた。

「二葉ここら辺地元だもんね。マユミ持ってきてくれた参考書もらおうか?ずっと持っておくのも重いでしょ。」
「うん。返すの遅くなってごめんね?」
カバンの中から取り出した袋をマユミがにっこり笑いながら渡してくれた。
近づいてきたマユミから花のような匂いが仄かにただよう。
「あれ、マユミ香水つけてる?」
「あ、うん。スズランの香りなの。」
「へえ……。」
嫌いではないけど、心のどこかにひっかかるその香りにあたしは首を傾げた。
あたしのその反応にマユミが少し不安そうな顔をした。
「樹くん、この香りあまり好きじゃないかな?斎藤さんにお願いした参考書と一緒に入れてたアロマストーンと同じ香りなんだけど……。」
そんなの参考書の袋の中に入ってたっけ?と記憶を辿ろうとしたあたしはくわっと目を見開いた。
(あった。あったわ。参考書の袋に何か入ってた。黒い鳥が食べてたわ。あれってアロマストーンだったんだ。)

「マユミは雑貨とかつくるの得意なんだよね。」
「あたし達もアロマストーン作ってもらったもんね。」
「あたし、小物とか作るの好きなの。喜んでもらえたらうれしいわ。」

そのアロマストーンですが、まさか怪しい男の操る黒い鳥が食べましたということも出来ず。あたしは曖昧に笑うと、あざとく首を傾げた。蓮琉によく似たこの顔はマユミのお気に入りだ。しっかり誤魔化されて頂きたい。
「ごめんね?昨日参考書預かったんだけど袋から出してなくて中身とか見てないんだ。また後で確認しとくね?」

「うっ……うん。」

案の定、マユミは頬を染めて俯いてしまった。なんとかしのいだかな?と安堵しかけたあたしに、マユミはカバンの中から何かを取り出した。

「時間がなくて今日はアロマストーンは作れなかったんだけど、その代わりにお礼にマフィンを作ってみたの。」
「ありがとう。なんだか悪いね。」
あたしは必死に笑顔をキープしながら差し出された紙袋を受け取った。

頭の中に昨日のオニーサンの『呪い』だとか『執着の糸』だとかいった気味の悪い言葉が浮かんでくる。善意で作られたであろうこのマフィンも怪しく見えてきてしまう。マユミから糸がのびている幻覚まで見えてきそうだ。

(やだ。ほんとに寒気がしてきた。)

こうなったら二葉を巻き込むしかない。
あたしは根性で顔に全開の笑顔を展開しながら二葉の肩をたたいた。二葉のあたしを見る目付きが薄気味悪そうなんだけど気になんかしない。

「そういえば蓮琉が二葉に用があるって言ってたかも。今用事で外出してるからさあ、二葉はちょっと待ってたらいいよ。僕は部屋からジャケットをとってくるから。」
「おい、一条……っ?」

(訳わかんないわよねえ。説明は後からするからとりあえず今はマユミ達の相手でもしててよね?)

納得していない二葉をおいて家に入ろうとしたあたしの耳に小さな声が聞こえた。
「一条先輩……今日留守なのね。」
マユミはぽつりと呟くと、蓮琉の家に目を向けた。マユミの体から赤黒い糸がモゾモゾと伸びてきたような幻覚が見えるような気がしてそっと視線をそらす。

(とりあえず、駅のカフェでお茶してさっさと解散しよう。やだわあ。なんだかさっきから背中がゾクゾクする。風邪かしらね。)

「おい、一条?」
「すぐにジャケットとってくるから!」
「おいっ……?」

眉間にシワをよせる二葉を無視して、あたしは家の中に素早く体を滑り込ませると、玄関のボードにマユミからもらった物をとりあえず置いた。
部屋にもっていくのもなんだか怖いし、このまま花奈の前に持っていくことで、昨日のような催眠状態になるのも怖かったからだ。昨日から続く想定外の出来事になんだか目眩までしてきそうである。

(なんなのこの状況!)

家に入ったあたしは、花奈に今からマユミ達と出掛けることを伝えるために客間に向かいながら、大きくため息をついた。

だけどその時あたしはまだ知らなかった。
今日の騒動はまだ終わってないということに。














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