兄はBLゲームの主人公……でした。

なみなみ

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桜木先生のお話

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数学準備室の前に立った私は、その場で深呼吸をした。
扉をノックしようと、手を握りしめるけど、またすぐおろしてしまう、といった動きを繰り返す。
だが、腕に抱えた課題のノートの重さに、だんだん耐えられなくなってきたのを感じて焦ってくる。

昨日、先生にかみつかれたことを思い出してしまい、耳が熱くなってきた。どんな顔をして部屋に入ればいいんだろう。
課題ノートを置いて逃げたら感じ悪いよね。
うん。いつもみたいに話しかけよう。

先生体調はもう大丈夫ですか?
今日はいつも通りに授業されてましたね。昨日のことってふざけてたんですよね?私一人テンパってたみたいで恥ずかしいです。

冗談っぽく伝えたら、きっと桜木先生も冗談っぽく返してくれる。

気にしてたのか?それは悪かったな。人生勉強になっただろう?っていつもみたいに煙草を吸いながら、なんでもないことのように笑ってくれるはずだ。

扉の前に立ち尽くしてからどのくらいたっただろう。

でも、このままではいられない。
ノートを渡して聞くこと聞いて、素早く逃げたらいいはず!と勇気をふるいたたせた私は、ぐっと手を握りしめた。

「……失礼します。」

そっと部屋に入ると、充満した煙草の煙に思わず咳き込んだ。

煙の向こうにはこちらに背を向けて机に座っている桜木先生の背中が見える。顔は見えないのでどんな表情をしているのかはよくわからない。
何気なく机の上を見た私はギョッとして目を見開いた。
灰皿に積み上がった吸殻の山。
今にも崩れ落ちそうだ。

腕に抱えたノートを近くの棚にどさりと音をたてて置くと、私は慌てて先生に近寄った。

「桜木先生?」

声をかけると先生は億劫そうに私に振り向いて、口を笑みの形に変えると煙を吐き出した。
「斎藤さんが日直だったのですか。そこに置いておいてください。」
そのまま窓の外に視線を戻し私に背を向けると、先生は持っていた煙草を灰皿に押し付けた。入り切らなくなった吸殻がざらりと机の上に落ちる。

(なんだか、先生が遠く感じる。)

桜木先生の背中が私に声をかけられることを拒んでいるようで、私は喉まででかかっていた言葉をグッと飲み込んだ。

昨日体調をくずしてたのはもう大丈夫ですか?
ねえ先生。昨日のことはふざけてたんですよね?だから今日もいつも通りに……。

(全然いつも通りじゃないんですけど。先生どうしちゃったのかな。お兄ちゃんと会った時様子がおかしかったって言ってたけど。あれから何かあったのかな。)

三年前、先生ルートって結局入らなかったんだよね。
ストーリー補正で今になって先生のトラウマが表面化してきたとか?敵対組織がしかけてきたとか?
それで怪我してしまったりして。

「?斎藤さん?どうしました?」

気がつくと、その場でかたまって動かなくなった私に不審を感じたらしい先生が振り向いて、私を訝しげに伺っていた。
その表情はいつもの先生のようで少し安心してしまう。
ほっとして先生を見上げた私と目が合うと、先生は痛みをこらえるような顔をして目をそらした。

(まさか、本当に怪我を?)

考えるよりも先に手が動いた。
先生の腕を触って傷の有無を確認する。

「腕は大丈夫そうですね。次は足を見せてください。」
「さ、斎藤?」
「足も大丈夫そうですね。そうだ!背中に怪我してる可能性もありますよね。あっ。もしかして脇腹?」
「ちょっと待て。何の話だ。斎藤……おいっ。」
「暴れないで下さい怪我してるかもしれないじゃないですか。ちょっとソファに横になって下さい。確認しますから。」
「はあ?怪我なんて……っ。」
「だって先生怪我しててもヤセ我慢して余計に悪化させてしまいそうなタイプですよね。う~ん。それにしてもわかりにくいですね。服を脱いでください。」
「は?待て待て待て待て!」

その時、部屋の扉が開いた。
「花奈!環が許してくれた……よ?」
先生の怪我を確認する手を止めて部屋の扉付近を見ると、蓮琉くんが立っていた。
あいかわらず爽やか系イケメンだ。
でもどうしてかな。涼やかな目が何故か真ん丸になってる。しかも口もポカンと開いたままだ。

「一条なに突っ立ってんの。邪魔。ねえねえ聞いてよ。妹ちゃん!タマちゃんが許してくれた…よ?何やってるの?桜ちゃんずるい!俺もまぜてよ。」

続いて三田くんも入ってきた。
ソファで桜木先生の怪我を確認している私の背後に立つと、するりと私の制服の裾から手をすべりこませてきた。
「えっ?ちょっ。やっ。」
「桜ちゃんがつっこむんだったら、とりあえず俺こっちね。後で変わってよ?」
「え?んんっ。」

三田くんの指が私の胸のあたりをさわさわと愛撫のような動きを始めた。ゾクゾクするような感覚に、体を震わせた私は何故かふと冷静になって自分の姿を眺めた。

桜木先生をソファに押し倒して服を脱がせている私。
スカートは太ももあたりまでまくれあがり、今にも下着が見えそうだ。
先生の脱がされかけた服の隙間からは綺麗な腹筋が見え隠れしている。
これではまるで……。

(私が先生を襲ってるみたいじゃないですか!)

私は先生の服から手を離すと、急いで身を起こして先生から離れようとした。だがその私の動きのせいで背後にいた三田くんに体を預ける形になってしまう。
「待ってね?妹ちゃん。ぐずぐずにとかしてあげる。」
三田くんの指がさらに大胆に動き始めた。
「やっ。あのっ。三田くん違うんですっ。私、先生が怪我してるんじゃないかって……やああっ。」
「ふふっ。気持ちいい?可愛い。妹ちゃん。もっと乱れて?」
「三田くん?ほんとに違うんです!やっ。どこ触って……せんせ……っ。桜木先生助けてっ……。」
今考えると怪我の有無を調べるためとはいえ、先程までの私の行動は先生にとっては嫌がらせの何ものでもなかったかもしれない。だけど思わず助けを求めてしまう。
三田くんの指が敏感なところをかすめる度に震えてしまうカラダに恥ずかしくて泣きそうになる。イタズラに動く三田くんの手を止めようともがいていたのに、与えられる快楽に負けそうになる。眦から涙が一筋こぼれた時。
不意にその刺激が止まった。

上半身を起こしたらしい桜木先生からため息のような吐息が聞こえてきた。

「そのくらいにしとけ、バカ犬。サカってんじゃねえよ。」
「ええ?桜ちゃんだけずるい。」
「阿呆か。やってねえよ。」
そう言うと、桜木先生は潔く上半身の服を脱いだ。
「ほら。怪我してねえだろうが。よく見ろ。」
「……っ!」
目の前に桜木先生の鍛えられた美しい筋肉がさらけだされた。
私はというと、飛ぶように先生から離れて、床に座り込んで頭を抱えた。
「わ、わかりました。お願いです。服着てくださいっ。」
「ちっ。なに勘違いしたかは知らんが勝手に怪我人にするな。」
舌打ちしながら先生は乱暴にワイシャツを羽織った。
私は先生から目をそらしたまま、小さな声をだした。
「じゃあ、もし先生が怪我したら隠さずに教えてくれますか?」
「……ああ?」
「(いきなり敵対組織に襲われて)怪我しても、先生は言わないで悪化させるような気がするんです。(バッドエンドで襲われた傷が原因での死亡ルートもあったし。)心配、じゃないですか。」

桜木先生は言葉につまったのか、動きが止まってしまったようだ。私をじっと見つめる先生と、目をそらしたままの私達の間に微妙な空気が流れた。

その時。

それまで空気のようだった蓮琉くんが、ノックのように壁をたたいた。

「先生、とりあえず服着ませんか。他の生徒が入ってきたら、その……。」
そして、言葉の最後を濁し、ソファにワイシャツを羽織っただけのしどけない姿の先生と、傍に膝立ちで立っている三田くんを見た。

「なんていうか……三田に襲われてるようにしか見えませんよ。」
















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