背徳の海に舞うナリラ

菜種K

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第一章

7.堕ちゆく巫女

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 舞いながら、魔女が巫女にささやきかける。
 
 イシュタ=ラ・ヴェラの声は、耳ではなく心臓に直接響いてくるようだった。
「怖がらなくていいわ。私はただ、あなたに本当の力を教えてあげたいだけ」

 ナリラは口を開こうとしたが、声が出なかった。
 代わりに、胸の奥でざわめきが生まれる。
 彼女の瞳に映る自分が、まるで別の誰かのように艶やかに見えた。

「触れてごらんなさい。それだけで、あなたは世界の色を知る」

 イシュタ=ラの指先が差し出される。
 拒まなければならない、と頭では分かっているのに──
 その指先から放たれる熱に吸い寄せられるように、ナリラの手が伸びていた。

 太鼓の音が巫女の感情を揺さぶる。

 ドッドッドッドッ……ドッドッドッドッ……

 一瞬、二人の指が触れ合う。
 その刹那、稲妻のような感覚が身体を駆け抜けた。
 視界が揺らぎ、全身が熱に包まれる。
 声にならない吐息が喉から洩れる。

「そう……いい子ね。あなたには、その力が眠っている」

 イシュタ=ラの囁きは甘美で、抗うほどに深く沈んでいく。
 これは堕落なのか、それとも解放なのか──
 ナリラの心は、危うい境界を踏み越えようとしていた。

 深い海の底で熱く暗い音楽に導かれ、二つの褐色の肉体が絡み合うように舞いながら、その洞穴の奥へと進んでゆく。 

 イシュタ=ラの魔窟は、濃密な香と熱気に包まれていた。
 名残惜しげに巫女の体から離れた魔女は、さらにその奥へ歩を進めた。
 一歩一歩に上下する尻が、見るものをどこか危険な場所に誘っているようだ。
 
 天蓋の下、銀髪を垂らした魔女が大きなクッションに身を委ね、ナリラをじっと見つめる。
 その紅い瞳に射抜かれると、視線を逸らすことができなかった。

「そんなに怯えなくてもいいのよ。私はただ、あなたの中に眠っているものを呼び覚ましたいだけ」

 イシュタ=ラは再び立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。
 長い指がナリラの頬をなぞった瞬間、体がびくりと震えた。
 熱が頬から首筋へ、さらに胸の奥へと流れ込んでいく。

「ほら……どうしてそんなに早く鼓動が跳ねるの?」
 魔女は艶やかな声で囁き、ナリラの耳元に唇を近づけた。
 吐息が耳をかすめ、全身が甘い痺れに包まれる。

 抗わなければ──そう思うのに、腰が抜けたように力が入らない。
 イシュタ=ラの手が肩に、背に、そして腰に回る。
 その指先が腰蓑越しに触れるだけで、知らない熱が広がっていった。

「これは恐怖じゃないわ。あなたの身体が、自分の力を求めている証なのよ」

 ナリラは首を横に振ろうとしたが、声が喉に貼りついて出ない。
 代わりに小さな吐息が漏れ、頬が赤く染まっていく。
 魔女の微笑はただ甘く、溶けるようだった。

 その笑みに導かれるように、ナリラの手が無意識にイシュタ=ラのはち切れそうな乳房へと伸びていた。

「私が欲しいのでしょう? 嬉しいわ……」

 応えるように、魔女の指が、ナリラの胸帯をずらす。

「私もあなたが欲しい。とても」

 冷たい夜気と、魔女の熱い掌の温度が交じり合い、思わず息が漏れた。

「やめて……」

 と口では言った。
 だがその声は弱く、囁きにしかならなかった。

「本当にやめてほしいのなら、押し返せばいい。でも……」
 イシュタ=ラの紅い瞳が深くのぞき込む。
「……あなたの身体は、もう答えを出しているわ」
 全身に広がる熱が、抗いの力を奪っていく。
 胸の奥で何かが弾け、涙のような熱が目尻ににじむ。
 そしてナリラは、自分でも驚くほど素直に、そっと両腕を伸ばしていた。

 その腕は魔女の首に回され、引き寄せる。
 触れるはずのない唇が触れ合い、柔らかく、しかし決して逃げられない力で結ばれた。

 イシュタ=ラが微笑むのがわかる。

「そう……あなた自身が選んだのよ」

 その言葉が耳に届いたとき、ナリラはもう抗うことを忘れていた。
 ただ燃えるような快楽の扉が、今、自分の手で開かれていくのを感じていた。

 唇を重ねた瞬間、ナリラの内側で何かが決壊した。
 胸の奥を締めつけていた鎖が外れるように、理性は熱に溶けていく。

 イシュタ=ラの舌が甘く侵入し、ナリラは震えながら受け入れた。
 体が勝手に反応し、背筋をそらせ、指先が魔女の肩に食い込む。
 抵抗ではない。もっと欲しい、と求める仕草だった。

「いい子ね……」

 紅い瞳がとろけるように細められ、ナリラの耳朶に囁きが落ちる。

「あなたはもう、私のもの」

 ドッドッドッドッ……ドッドッドッドッ……

 胸帯も腰蓑もはぎ取られていく。
 隠されていた肌が炎に照らされ、浮かび上がる。
 熱い掌がそこを撫でるたび、知らなかった震えが走った。
 苦しみに似て、しかし決して逃げたくはない震え。

 涙がこぼれる。
 その涙を舌で掬われたとき、ナリラは悟った。
 これは諦めではない。
 快楽に屈することこそが、自分を解き放つ唯一の道なのだと。

 イシュタ=ラの腕に抱かれ、全身が飲み込まれていく。
 やがて甘い叫びとともに、ナリラは自ら堕ちていった。
 巫女の心の中で処女の誓いは散り、代わりに魔女と同じ黒い炎が彼女の体内に宿った。
 それは、女神ムロシャラへの裏切り。
 許されない背信行為。

 その瞬間、イシュタ=ラは確信する。

「あなたは……私の後を継ぐ者になれる」

 もう、抗えない流れに飲み込まれそう…….。
 ナリラは大きく息を吐き、堕落していく自分を哀れまずにいられなかった。

 だが、その堕落はまだ序の口だった。
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