山の子ども

小貝川リン子

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3 大学編

5 晩夏‐④ ※

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 他のお客が来たので、俺達はそそくさと浴場を後にした。髪も乾かさず急いで浴衣に着替え、速足で部屋に戻った。荷物を放り出し、即行布団に雪崩れ込む。ふかふかの布団が火照った体を包み込む。
 
「ちょ……ま、まって」
「ここまで焦らされてもう待てねぇよ」
「っ、せめて電気……」
 
 照明を消すと、行灯の灯りだけがぼうっと浮かび上がる。これはこれで雰囲気ある。瑞季の顔もちゃんと見える。
 
 たった今着付けたばかりの浴衣を脱ぎ、瑞季の帯も解いてはだけさせる。瑞季が普段着ているものと違い、ホテルの浴衣は生地が薄くて硬い。浴衣の下には白の長襦袢を着けている。艶々していて照りがある。
 
「これの帯は?」
「……お、お前が急かすから……」
「結ぶ暇なかったの?」
 
 瑞季は気まずそうにうなずく。
 
「お前、パンツも履いてないくせにさぁ……ここもこんなに勃起させて……」
 
 触るとぬるりと糸を引く。
 
「い、言うな……はずかしい」
「俺は好きだよ? 脱がしやすいし、触りやすいから」
「そういう意味で履いてないわけじゃ……」
 
 後孔にそっと指を這わすと、既に柔らかく解れている。ローションを少し垂らすだけで、指の一本ならすんなり入ってしまう。
 
「んぁっ……あ、あ、やぁ」
「嫌じゃなくて、気持ちいいだろ。ここがお前のいいとこだもんな。もう大体覚えた」
 
 腹側のしこりを繰り返し擦ると、中がきつく吸い付いてくる。
 
「今指二本入ってるよ。わかる?」
「わ、わかんな、……んんっ、やめ」
 
 指をジャンケンのチョキのようにして、くぱくぱと穴を拡げる。こうして見ると女のアレと遜色ない。いや、本物を見たことはないんだけど、たぶんこんな感じだと思う。蕾がふっくらと膨らみ、媚肉が花びらのように色付いている。粘膜が真っ赤に充血している様は途轍もなくいやらしい。ここまで育てたのは俺なのだと思うとさらに興奮する。
 
「ねぇ……入っていい?」
 
 指が三本入ったところで、俺は尋ねた。下腹部が張り過ぎて痛いくらいだ。下着も全部脱いで裸になる。ローションと一緒に鞄から出しておいたコンドームの封を切り、片手で手早く装着した。
 
「は、はいる……なにが?」
「俺のこれ、瑞季のここに入れて。前にも言ったろ。好き同士はこーいうことすんの」
 
 入口に押し当てると、誘うように吸い付いてくる。熱くて柔らかくてたまらない。誘惑に抗えず、自然と腰が進む。
 
「あっ、は、はいって……はいって、くる……」
「うん……結構、簡単に入る……」
「やっ、だめ、も、はいらな」
「入るよ。まだ半分だぞ」
 
 焦らずに時間をかけて腰を進める。指と比べて太いから、中もずいぶんと狭く感じる。でも血は出ていないし、これ以上入らないほど狭すぎるわけでもない。
 
「ぅあ、あ、も、だめ……そんな、おっきい、むり……」
 
 瑞季が俺の腕を縋るように掴む。脱げかけの浴衣が、肘のところでぐしゃぐしゃに絡まっている。
 
「大丈夫、ゆっくり深呼吸して。力緩めて。もうちょいだから」
「ふぁ……はあ……」
 
 ゆっくりと呼吸を合わせる。俺も深呼吸して力を抜く。
 
「……は、ねぇ、ほら、入ったよ。全部入った。わかる? お前のここに、俺のが全部入ってんの」
「んん……わ、かんな……くるし……」
「うん。ちょっとじっとしてような。がんばってくれてありがとう、瑞季」
 
 頬に口づけを落とし、しばらくは抱き合ったままじっとしていた。とにかく圧迫感が強く、気持ちいいかというと微妙だが、これでようやく瑞季と一つになれたのだと思うと感無量で、俺はこっそり泣いた。
 
 俺の方は落ち着いたが、瑞季はまだ苦しそうに息を荒げている。足を無理やり開かせて挿入しているから辛いのだろうかと思い、腰を引いた。すると、瑞季の体がビクンと跳ねる。繋がっている箇所も軽く痙攣する。
 
「ごめ、痛い?」
「ちが……う、うごかないで」
「辛いの? ごめん、ちょっと性急すぎたかも……一旦抜く?」
「ちが、う、から……ぬくな……」
「でも辛そうだし」
 
 そう言って離れようとするも、ぐいっと引き寄せられる。瑞季は体を折り曲げるような姿勢になってしまってますます苦しそうだ。
 
「つらくない……その、いつもとちがうから……」
「うん?」
「……き、きもちいから……だから、ぬかないで」
 
 掠れたその声を、俺はどこか上の空で聞いていた。気持ちいいから抜かないで、か。ちゃんと気持ちいいんだ。嬉しい。まだ挿れただけなのに、普段と違う快感に戸惑ってたってこと? 何だそれ、かわいい。いやエロい。エロすぎる。かわいい。
 
 気づけば思い切り腰を打ち付けていた。バツン、と肉のぶつかる音が響く。突いて、抜いて、また突く。単純なピストン運動だけど、腰が痺れるくらい気持ちいい。瑞季は白い喉を晒し、胸を反らして喘ぐ。
 
「あぁっ、あっ! き、きゅうに、ひゃめ、やめっ」
「無理だろ。挿れただけで満足してたけど、やっぱこうしないと、ヤッたことになんねぇよな」
「んぁあっ! や、だめ、そんな、はげし……っ」
「無理。止まれない。お前ン中すっげぇ熱くて、キツくて、気持ちいい」
 
 薄皮一枚隔てているけど、中の様子は敏感に感じ取れる。柔らかい肉襞が吸い付いて離れず、もっともっとと誘っているようだ。乞われるまま、俺は我武者羅に腰を振る。
 
「ねぇ、もう一回、気持ちいって言って?」
「……き、もちぃ、んっ、きもちいいっ」
「ふ、もっかい言って」
「あっ、い、きもち、っ、きもちいい!」
 
 瑞季は涙を浮かべて気持ちいいと連呼する。見ているだけで達しそう。
 
「はぁ、やべぇな、セックス……こんな、こんなの……みんなハマるわけだ……はぁ、やっばい」
 
 頭が茹だって馬鹿になる。何も考えられない。本能の赴くままに快感を貪ることしかできない。瑞季にももっとよくなってほしくて、突きながら前を弄った。
 
「くっ……締まる」
「んんんっ! やっ、やだぁ、そこ、ぐりぐりしちゃ」
「先っぽ好きでしょ。こんなに汁零して、ほんとやらしい」
 
 どろどろの亀頭を責めると、中が激しくうねって持っていかれそうになる。腰をビクビク跳ねさせながら、瑞季は必死に手を延ばして俺にしがみつく。震える指先が背中を引っ掻く。足が腰に絡み付く。密着した体勢でも、俺は夢中で腰を振り続ける。静かな部屋に卑猥な水音と荒い息遣いが響く。
 
「あぁッ、あん、も、やら、んぁ、だめ、も、だめぇ」
「ん……俺ももう、出そう」
「しゅ、しゅうや、しゅうやぁ……おれ、おれもう、ぁあ」
「うん、いいよ、いっぱいイッて、出して」
 
 追い込むように奥まで突き上げる。余裕なんて欠片も残っていない。
 
「はぁあ、あッ、いく、いく、いっちゃうッ、いくう゛ッ、――!!!」
 
 その瞬間、中がぎゅるぎゅると収縮した。俺のを搾り取るみたいに肉襞が波打つ。強烈な刺激に耐えられず、瑞季の中で俺も達した。達した後も腰がガクガク震え、ぐったり脱力して瑞季の上へ覆い被さる。
 
「はぁっ……はぁー、やべぇ、やばかったぁ……」
「しゅう……すき……」
「うん。俺も好き」
 
 たっぷり余韻に浸り、唇を合わせる。優しく舌を絡めると後ろが甘く締まって、うっとりするほど気持ちいい。
 
 キスしながら瑞季の髪を撫でる。さらさらで指通りがいい。この髪が好き。それから耳を触る。耳たぶが小さくて薄幸そうだけど好き。それから顎、首筋、肩へと指を這わせる。産毛が生えていなくて陶器みたいに滑らかな肌。撫でているだけで気持ちいい。好きだ。
 
「あ、も……なに」
「別にぃ? 好きだなぁって」
「んも……くすぐったい」
「気持ちいの? 後ろ、ヒクヒクして――」
「い、いちいち言うな、ばか……」
 
 気持ちいい。好き。愛おしい。心地いい倦怠感に包まれて、まぶたが重たくなってくる。ああもう、このまま眠っちゃいたいなぁ……
 
 いやだめだ。挿れたままなんて絶対だめ。怠い体を無理くり起こし、中のものを抜去した。コンドームなんて使ったの初めてだけど、こうして見るといかにもって感じのピンク色をしている。先端には白濁液が溜まっていて、零れないように口を縛った。ティッシュで三重に包み、屑籠に捨てる。
 
「今捨てたの、何?」
「ゴム。コンドーム。知らない?」
 
 喋りながら、瑞季の出した精液を拭ってやる。俺の右手に出したのだが、瑞季自身の腹にも飛び散っていた。
 
「輪っかになってて伸びるやつ?」
「それもゴムだけど、違うやつ。セックスの時使うんだよ。性病予防とか、避妊のためにな」
「ふぅん。あんな小さいのにすごいな」
「ほんとに知らないの? 学校で習わなかった?」
「さぁ。昔は堕胎のために水銀飲んでたらしいけど、進化したんだな」
「いや水銀って。何時代だよ。だめだよぉ、飲んだりしちゃあ。毒だかんね」
 
 適当に浴衣を着、ぐしゃぐしゃに乱れた瑞季の着物も直してやる。浴衣は皺が寄っているし、襦袢も汗で湿っぽくなってしまった。布団もぐしゃぐしゃになったけど、幸い汚れてはいないみたいだった。
 
「もう寝る?」
「うん。明日早いし。俺こっちで寝るから、そっちの綺麗な方使えよ」
「ん……あ、くまちゃん」
 
 瑞季は思い出したようにぬいぐるみを取って枕元に寝かせ、布団に潜った。
 
「電気消す?」
「ううん」
「じゃあこのままで。おやすみ」
「おやすみ……」
「……」
「……ねぇ」
 
 静寂を破る囁き声。
 
「……一緒に寝たい」
「狭くなるよ?」
「あ、お前が嫌なら……」
「やじゃないよ。一緒に寝よ」
「じゃあこっち来て」
「うん」
 
 行為に使ったのではない、綺麗な方の布団に移動する。ふかふかしていて、湿っぽくない。
 
「添い寝したいなら最初からそう言えばいいのに」
「だって恥ずかしい」
「甘えたい気分なの?」
「違う、けど……」
「腕枕でもしてあげよっか」
「痺れるぞ」
「それもそうだ」
「その代わり、ぎゅってして」
 
 やっぱり甘えたいんじゃないかと思ったけど、かわいいから何も言わなかった。
 
「いいよ。はい」
 
 布団の中でもぞもぞ動いて、瑞季を抱きしめる。ちょうど胸の辺りに瑞季の顔が来る形だ。瑞季も俺の体に手を回して抱きつく。
 
「お前は本当にかわいいねぇ」
 
 返事が返ってこない。寝たのかな。俺も目を瞑る。
 
「好きだよ」
「……おれも」
「起きてたなら返事しろよ」
「うん……でももう眠い。こうしてると安心するんだ」
「俺も。こうしてると落ち着く」
 
 きっとお前があったかいせいだ、と呟いたと思うけど、その後のことは記憶にない。
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