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他にはないの?

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 別にね、女の子にきゃ~きゃ~言われたくてギターを弾きたいとか考えたわけじゃないよ。本当だよ?
 ちょっと憧れたヒーロー達が持ってたから、俺も持ってみたかっただけなんだよ。
 ついでに弾けたらいいなあ~ぐらいの気持ちだったんだよ。
 この世界には、床に置いて演奏する琴に似た弦楽器はあるけど、手に持って演奏する弦楽器って無かったから、ついつい創ってみたんだよ…

「トールさまは、何で落ち込んでいるのでしょう?」
 ミレーラが俺の心の傷にハバネロをすり込んできた。
「あのね…多分、初めて見た楽器をトールさまが弾けないのに、ユズキが上手く引けたからだと思います…」
 ミルシェ君、的確な分析をありがとう…
「そ、それならば、ユズキに教えてもらって上手くなればよろしいのでは?」
「そこは男としての矜持が許さないとこなのではないか?」
「そうは言っても、初見の楽器を上手く弾けるユズキがおかしいのではないか?」
 メリルよ…ユズキ達にこそ、俺が弾いている姿を見せてびっくりさせたかったのだよ。
 まあ、イネスの言うようにプライドもあるから、教えてもらうのはなあ…
 マチルダ君、ユズキもユズカも俺も、元の世界ではおなじみの楽器なのだよ…触ったことはなかったが…。
「子爵様、お教えしましょうか? 簡単なコードでしたらすぐに覚えられますよ?」
 ユズキ君の優しさが、辛い…
「マスター、その楽器はユズキに譲っては如何でしょう? 他に得意な楽器とかはないのですか?」
 ナディア、ギターこそがヒーローの必須アイテムなのだ…ん? そういえば某人造人間の機械だーの兄は、確か…
「それだ! トランペットなら吹ける! ちょっと待ってて!」
 俺はさっそく創造するために、ダッシュで部屋へと駆け込んだ。
 
「じゃじゃーん! これがトランペットだ!」
 俺がダッシュで創造したトランペットを皆に見せたところ、
「あら、トロンバに似てますわね」
 じ~っと、トランペットを観察していたメリルが何やらつぶやいた。
「トロンバ? 何それ?」
 思わず聞き返すと、似たような楽器があるらしく、何でも軍用のラッパから進化した楽器との事。
「それじゃ…あんまり珍しくも…ない?」
「ちょっと変わったトロンバかなあって感じですね」
 イネスの言葉に打ちのめされた…小学校の時、鼓笛隊でペットを吹いてたから、これだけは自信あったのに…もう楽器シリーズは止め様…
「それで、どんな音なんですか?」
 ミルシェが興味深げに聞いてきた。あれ? 知ってるんじゃないの?
「軍とかで突撃とか退却とかの時に吹くぐらいですから、あまり知られてないかもしれませんね」
 イネスの言葉に、なるほどと頷いてしまった。ラッパって、元々そういう物だもんな。

「そ、そう? 聞きたい? んじゃちょっとだけ…」
 自信満々でペットを構えて、かの有名なジャック・オッフェンバックの『天国と地獄』をば…
 曲を聴いた婚約者~ずは口々に、
「何でしょうか…無性に走り出したくなってきました…」「すごく急かされているような…」「元気がでしょうな曲ですね」「ああ、突撃したくなってきました!」「恐ろしい獣に追いかけられているような気がします」などと、感想を言ってくれた。
 まあ、ユズキとユズカは、
「徒競走ですね」「小学校の時の運動会!」
 実に、日本人らしい感想だった。
 
 うん、これならいけるかも。
 ペットを背負って崖の上に登場するのは、絶対にありだな!
 うん、これからはこいつを相棒にしよう!
『マスター、本気ですか?』
 …ちょっと言ってみただけだよ…
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