光の勇者外伝・アイオテ

ヨッシー

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4章

デッドアイランド・外周

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いよいよデッドアイランドへの出発の日になった

エリオットとタロンは装備を身につけ、荷物を持ち、城門に待っていた
少し経つとカイルが出てきて、2人を玉座の間に案内する
ロアーヌ国王と、兵士に見送られ、外に出ると港までの馬車が用意されていた
一行はそれに乗り、騎士たちと共に港へ向かった
カイル、スコット、グラハムもいる

港に着くと、アイオテたちの乗る小型の船と、物資を積んだ大型の船が用意されていた

デッドアイランドまで2時間といったところだ

カイル「デッドアイランドに着いたら、まずは桟橋を作らねばですな」
エリオット「だなあ…桟橋がないと乗り降りも荷物の運搬もままならない」
カイル「あと頑丈なフェンスを建てて、拠点作りはそれからですね」
タロン「奴らはいきなり居るのかね」
ミネルバ「さあねえ…アイオテ、船酔いは大丈夫?」
アイオテ「大丈夫…でも、怖い…」
ミネルバ「よしよし…ギュ」
タロン「頼りない勇者だなあw」
ミネルバ「仕方ないでしょ?…実戦もしたことないんだから」
エリオット「だけどアイオテくん…戦えるのかい?」
アイオテ「う、うん…」
ミネルバ「まだ時間あるし、ちょっと寝てな?」
アイオテ「うん…」
タロン「恋人ってよりお母さんと娘って感じだなw」
エリオット「お前…口を慎めよ?」
タロン「わかった、悪かったよw」

しかし、実際にアイオテの強さを知るミネルバとグラハム以外には、頼りなく映っていた

そしてデッドアイランドに着くと、まずは船が着きやすい地形を探した

カイル「あそこの岸がいいけど…あれがゾンビ…」
エリオット「明らかに生きてる人間ではないな…」
ミネルバ「ロアーヌの鎧を着てる奴もいるわね」
タロン「不気味だぜ…」

岸にはゾンビがウロウロとしていた

エリオット「どうする?…もっと奴らがいないところを探すか?」
ミネルバ「いえ…あまり迂回しても船が大変だし、どの道殲滅するんだから早速手始めにあいつらと戦ってみよう」
タロン「オレもそれに賛成する」
アイオテ「うう…」
ミネルバ「アイオテ…大丈夫?…ここで待ってる?」
アイオテ「う、ううん…ぼ、ボクも行くよ…」
グラハム「勇者様…勇者様が本気出せばあんな奴ら目じゃねえっすよ」
スコット「気をつけてくださいね」
ミネルバ「アタシらが降りたら、呼ぶまでは岸から離れて待ってて?」
カイル「了解ッス」

そして、4人は船から降りた
ゾンビはすぐにミネルバたちに反応し、両手を前に出した状態で、小走りに群がってくる

タロン「き、気持ち悪い奴らだ!」
エリオット「行くぞ!」
ミネルバ「アイオテ…とりあえず右のあの少ないところに行こう」
アイオテ「う、うん」

ミネルバはセイブザクイーンを出して、ゾンビたちに斬り込んだ

ミネルバ(すごいこれw…まるでバター切るみたいに切れるw)

エリオットとタロンも、ゾンビをバッタバッタと切り倒していく
ミネルバはセイブザクイーンの切れ味を堪能していた

タロン「姐さん、強えな!w」
エリオット「ほんとにw」

しかしアイオテは恐怖で身体が固まってしまい、へっぴり腰でたたずんでいた

ミネルバ「アイオテ!…剣を出して!」
アイオテ「あ…あ…」

アイオテもミネルバに言われ、やっとセイブザクイーンを出したが、青い顔をして震えていただけだった

タロン「ま、まだ出てきやがる!」
エリオット「キリがねえ!」
ミネルバ「油断はするな!」

森林から何人ものゾンビがわらわらと出てくる
エリオットは応戦するが、切っても切ってもひるまずにすがりついてくるゾンビに掴まれてしまった

エリオット「は、離せ!この野郎!…ぐわ!」
ミネルバ「エリオット!」

ミネルバは目の前のゾンビを回し蹴りで吹き飛ばし、エリオットの救助に向かう

ミネルバ「アイオテも戦って!」
アイオテ「う…あ…」

ミネルバはエリオットに群がるゾンビにも蹴りをかまし、エリオットはどうにか助かった

エリオット「すまない、ミネルバさん」
ミネルバ「大丈夫?!…アイオテ!」
タロン「姐さん、あぶねえ!」
ミネルバ「きゃあ!!」
タロン「この野郎!」
ミネルバ「あ、ありがと…敵が多すぎる!」
エリオット「ぐ…」
ミネルバ「うおりゃああ!!」
エリオット「アイオテくん…治してくれ!…ミネルバさんが危ない!」
アイオテ「あ…あ…グス」
エリオット「しっかりしろ!…バシ!」
アイオテ「う?…あ、エリオットさん…あ!そのケガ!」
エリオット「ああ…早く治してくれ」
アイオテ「はい!」

アイオテがエリオットを治すと、エリオットはまたミネルバの方に向かった

ミネルバ「アイオテー!!…助けて!!」
アイオテ「ミネルバさん!!」

アイオテはミネルバのその叫びに我に帰ると、ゾンビに斬りかかっていった
しかし、ゾンビとはいえ人間の形をしたものの腕がぼとりと落ちると、アイオテは吐き出してしまった
そこへゾンビたちが群がる
エリオットは、アイオテに群がるゾンビたちを切り払い、かろうじて助け出すが、そのせいでエリオットがゾンビたちにまた群がられた

エリオット「ぎやああぁぁ!!」

そのエリオットの悲痛な叫びと恐怖で、アイオテは意識を無くした
意識の無くなったアイオテは狂戦士化し、さっきまでとは大違いにゾンビたちを蹴散らしていった
腕だろうが足だろうが構わず、右に左にみだれ斬った
蹴り一発で6人ほどのゾンビが吹っ飛び、次から次へと首を切り落とす

タロン「た、助かった…」
ミネルバ「うう…アイオテ…すごい…」

とりあえずその場に集まったゾンビたちは、アイオテの攻撃によりバラバラになり、動けなくなっていた
それを傷だらけの3人が頭を潰して回る
一通り、目の前のゾンビたちを蹴散らしても、アイオテはまだ暴れていた
そのアイオテにミネルバが抱きつくと、アイオテは意識を取り戻した

ミネルバ「アイオテ!!…ギュゥ…」
アイオテ「あ…う…ミネルバさん?」
ミネルバ「アイオテ…」
アイオテ「ミネルバさん!!」

アイオテは傷ついた3人に光を当てて、治した

エリオット「ああ…いきなり死ぬかと思ったw」
ミネルバ「うん…1人1人は弱いけど、ああもグイグイ来るのってすごいわね」
タロン「全くだ…普通なら痛みとか恐怖で止まるのに、奴らはおかまいなしだもんな…それがこんなに厄介だとは」
アイオテ「うう…み、ミネルバさん…バタ」
ミネルバ「アイオテ!!」
アイオテ「お腹が減って死にそう…」
ミネルバ「あ!…とりあえずこれ食べて!」

アイオテは出されたサンドイッチをミネルバも今まで見た事ないほどの勢いでたいらげた

ミネルバ「そ、そんなにお腹空くの?」
アイオテ「う、うん…まだ食べたい」
ミネルバ「うん、とりあえずは大丈夫?」
アイオテ「うん」
エリオット「アイオテくん、とりあえずこのお菓子も食べなよ」
アイオテ「ありがと…」
タロン「なあ、この奴らの返り血は洗った方がいいんだよな?」
ミネルバ「うん…海水で洗おう」
エリオット「あ!また1人来た!」
ミネルバ「とりあえず船を呼んで、中に入ろう」
タロン「そうしよう」

ミネルバは船に手を振って呼ぶと、4人は海に入ってから乗りこんだ

ミネルバ「カイル、食べ物をちょうだい」
カイル「はいッス!」

アイオテはもう二つサンドイッチを食べると、やっと満たされた

アイオテ「…みんな、ごめんなさい…ボク…怖くて…動けなかった…グス…みんながケガしたのはボクのせいだね…」
エリオット「いや…アイオテくんのせいじゃないよ…気にするなよ…戦いに生きてる者のケガは全て自分の責任だから」
ミネルバ「そうだよ…初めての戦いで、あんな奴らが相手じゃ怖くて当然だよ」
タロン「ま、な…勇者くん、キレるとすげえんだな」
アイオテ「ボク…覚えてないんだ…」
ミネルバ「いいのよ…とりあえず今無事なのはアイオテのおかげなんだから」
エリオット「そうとも…オレなんかもう2回も治してもらっちゃった」
タロン「オレも1回…クソ!」
ミネルバ「ちゃんと記録するからねw」
アイオテ「……」
エリオット「そんなにしんみりしないで?…アイオテくん」
ミネルバ「そうだよ…」
アイオテ「あいつらは…死んでるんだよね?」
ミネルバ「そうよ」
アイオテ「それでもボクは…あの肉を切った手応えが辛い…グス」
エリオット「そのうち慣れるよ…」
アイオテ「慣れるものなの?…グス」
エリオット「うん…残酷なようだけど、人はそんな事にも慣れてしまうものさ」
ミネルバ「そうだね…アタシも初めて人を斬った時は夜も寝れなくて、ずっと泣いてた」
エリオット「オレもしばらく死んでいく奴の顔が忘れられなくて…手が震えてた」
アイオテ「そ、そうなの…」
ミネルバ「あいつらは死んでるからさ…アイオテはそこまで気にする事ないよ?」
アイオテ「う、うん…生きてる人を殺すのと比べたら、こんなの辛いうちに入らないよね」
エリオット「それでも辛いもんは辛いだろうけど…こう考えてみな?…アイオテくんがゾンビになったらってさ…」
アイオテ「ボクが?」
エリオット「そう…アイオテくんは死んでゾンビになってさ…生きてる人を苦しめたいと思うかい?」
アイオテ「…ブンブン!」

アイオテは激しく首を振った

エリオット「そうだろう?…同じように、奴らだってそんな事望んでなんかいない…だからね、奴らがもうそんな事しなくていいように、トドメをさしてやるのは…それはとても良い行いだとオレは思うよ」
アイオテ「そっか…そうだね」
エリオット「そうとも」
ミネルバ「ありがとね、エリオット」
アイオテ「ありがと!」
エリオット「ううんw…だからさ、あいつらを1人残さず供養してやろう」
アイオテ「うん!」
タロン「話は終わったか?」
ミネルバ「ああ」
タロン「あの死体の死骸はどうすりゃいいんだ?」
エリオット「燃やすか?」
ミネルバ「燃やしてその煙を吸ったらやばそうじゃない?」
エリオット「けど、あれを一つずつ埋めるとか…そんな労力かけられないよ、さすがに」
タロン「そんなのごめんだ…」
ミネルバ「そうよね…」
アイオテ「…あ!」
ミネルバ「ん?」
アイオテ「ボクさ…神様から教わった光の結界っていうの出せないかな…」
ミネルバ「え?…でも出さないんじゃないの?」
アイオテ「…でも、燃やすのも埋めるのも無理だからって、あのままにはしておけないよ…」
ミネルバ「そうだけど…」
エリオット「なんだい?その『光の結界』って」
アイオテ「うんとね…ボクの周りにまあるく光の膜を出す技なの…出来るかわからないけど、神様が言うにはその光は触れた物を全て消してしまうんだって…だからもしそれが出来るなら、その光の膜に死骸を投げつけてくれれば、消えると思うの…」
ミネルバ「うーん…でも、それが出来れば一番楽で確実よね」
アイオテ「うん…ボク、練習してみる」
ミネルバ「うん…アタシ、食べる物作っておくね」
アイオテ「うん!」
ミネルバ「あんたたちは休んでなよ」
エリオット「いや…アイオテくんの光を浴びたから、元気いっぱいだよ」
タロン「おお…寝たくても寝れねえ」
ミネルバ「たしかにw」
カイル「そしたらバリケードを作るの手伝って欲しいッス」
エリオット「あそこに行くのか?…まだ危険だぞ?」
カイル「いや、地面に刺すだけでいい状態まで作っておくんすよ…そんでそれを少しずつ刺していけば、とりあえずの防壁は作れるッス」
エリオット「なるほど…」
タロン「面倒だけどやるか…」
カイル「んじゃ、あっちの船に乗り換えるッスよ」
スコット「オレたちも手伝うよ」
グラハム「ああ」
ミネルバ「よろしく」
アイオテ「よろしくお願いします!」

そうして、小型船の方にはアイオテもミネルバのみになり、アイオテは光の結界の練習をした
ミネルバはお弁当作りに励む

大型船に移った者たちは、船の乗組員にも手伝わせて、バリケードを作っていく

カイル「この細い角材をまず斜めに切るッス…これは地面に刺すための杭になるッスよ…その杭をこの板に…こんな感じに釘で止めるッス」
エリオット「なるほど!…それをいくつも並べていくのか!」
カイル「そうッス…でもただ並べただけじゃすぐに倒されて意味ないッスから、ここに横に角材を付けるッス…で、ここに穴を二つ空けて、あらかじめこんな感じに針金を通しておく…で、これを並べるとこの角材がここに来るので、針金でこう…巻いてぐるぐる締めると…こんなふうに連結されるッスよね」
エリオット「おお~w…さっすがあ!」
スコット「ほおw」
タロン「なるほどね…だけど、隣の板にくっつけるだけじゃダメだろ」
カイル「その通りッス…なので、別にこの三角形の物を作っておいて、こんな感じに板の支えにするんすよ」
グラハム「なるほど~…それを別々に作って、少しずつ並べていけば、たしかにバリケードになる」
カイル「ただし、奴らの力がどれくらい強いのかわからないッスから、後から補強もしないとダメですし、覗き窓や扉も付けないとッスね」
タロン「それはまあ、後からでも出来るんだろ?…とりあえずはこのバリケードを作って、陣地を作ろうぜ」
エリオット「ああ、そうしよう」
カイル「角材を剣で斜めに切れるッスか?」
エリオット「やってみる」

エリオットは角材をカイルに持たせると、斜めに剣を当ててみた
角材はスパッと切れた

カイル「おお!…エリオットすごいッスね!」
エリオット「おお~w…高いだけあるw」
タロン「いい剣だなw…オレも出来るけど、やらないぜ?…切れ味が下がるのはごめんだ」
エリオット「た、たしかに…」
カイル「そりゃそッスね…おとなしくノコギリでやるッス」
タロン「あの姐さんの剣で出来るかな」
エリオット「あの不思議なデザインの剣か…すごいよな、アレ…何も持ってないのに急に現れてさ」
スコット「なんなんですかね、あの剣…」
エリオット「神様がくれた剣らしいよ」
タロン「まあ、あんな剣とか光とか見せられたら、あのボウズが勇者ってのは認めざるを得ないな」
エリオット「だから勇者だと言っているだろ」
タロン「けどなんていうか…もっと頼りになればいいんだけどな…」
エリオット「だけどアイオテくんの強さは本物だったろ?…まだ慣れてないだけだ…それに、お前も他人を頼るなよ」
タロン「わかってるよ…」


アイオテ(シグマさんはイメージが大事って言ってたな…ボクのまわりに丸を出すイメージ…)

アイオテは目を閉じて光の球を出すのをイメージすると、一発で出来た

アイオテ(ああ!…すごいw…もう出来た…本当だ…この中にいると波の音も何も聞こえないや…)
アイオテ(だいたい直径3メートルかな?…もっと小さいかも)
アイオテ(でもこれで本当に消えるのかな…)

アイオテ「ミネルバさーん!」

ミネルバはアイオテに呼ばれて、甲板に出てきた

ミネルバ「なあに?」
アイオテ「ミネルバさん…ギュゥ…ムニムニ」
ミネルバ「なによぉw…ナデナデ…甘えたくなっちゃったの?w」
アイオテ「そ、それもあるけどw…ボクね、もう出来たみたいなの」
ミネルバ「え?…はや!」
アイオテ「本当に丸の中に居ると、外の音が聞こえないんだよ」
ミネルバ「へぇぇ…不思議だねえ」
アイオテ「ミネルバさん、ボクから3メートルは離れて?」
ミネルバ「うん…」
アイオテ「念のためもう少し離れて?」
ミネルバ「うんうん」
アイオテ「ボクがこう…手を上げたら、何か光の丸に投げつけてみて?」
ミネルバ「わかった…んー…じゃあこのフライパン投げてみる」
アイオテ「フライパンなくなったら料理出来ないよ?」
ミネルバ「二つあるから大丈夫よ」
アイオテ「せめてスプーンにしとこうよ」
ミネルバ「わかったw」
アイオテ「へへw…じゃあやるよ?」
ミネルバ「うん」

アイオテが光の丸をイメージすると、膜が現れた
そして、アイオテが腕を上げるのを確認し、ミネルバはスプーンを投げつけた
スプーンは跡形もなく消え去った

アイオテ(す、すごい…本当に消えちゃった…)

アイオテは光の膜を消した

アイオテ「本当に消えたね!」
ミネルバ「すごいわ!」
アイオテ「これならゾンビも跡形もなく消せるね」
ミネルバ「うん…だけど、アイオテはその中で投げつけられる身体の破片をずっと見てないといけないのよ?」
アイオテ「う…そうだった…」
ミネルバ「…とは言っても、我慢してもらうしかないけど…」
アイオテ「うん…」
ミネルバ「時計持ってって、1時間したら消すようにしようか」
アイオテ「30分にして…」
ミネルバ「わかったw」
アイオテ「まだ明るいうちにやってしまいたいね…」
ミネルバ「お、意外…明日にしようって言うかと思った」
アイオテ「うん…本当はそうしたいけど、あの破片ほっといたら、また新しいゾンビが来ちゃいそうで…」
ミネルバ「たしかにね…」
アイオテ「あの破片を食べて、ゾンビが強くなったら困るよ」
ミネルバ「言えてる…弱いゾンビでも思ったより強いのに…まだ強い奴とやるには早いよね…」
アイオテ「うん…」
ミネルバ「あの2人を呼んで、3人で投げつけようか…」
アイオテ「そうしよう」

ミネルバはエリオットとタロンを呼び出し、説明して、再度その死骸のある場所に行った
さらに新しくゾンビが数人いたが、数人なら簡単に倒せた
あらかじめ、トングや手袋で死骸を集めて、光の結界に投げつけた
アイオテは案の定、そのグロさに結界の中で吐いてしまったが、目を背けてなるべく見ないようにして、30分経つのを待った
アイオテにとって、これほど長い30分は初めてだった

タロン「すっげw…粉もなく消えちまうな」
エリオット「どうなってるんだ…」
ミネルバ「これが勇者の力よ」
タロン「たしかに、この島を救うには勇者の力は必要だわ…」
エリオット「全くだな」
タロン「しかし、身体を洗うとしても海水は嫌だな…」
エリオット「な…ベタベタがすごいよ」
ミネルバ「ね…あんまり贅沢言えないけど、普通の水がいいね…」
エリオット「ていうか、あんまり今は喋らない方がいいよ…こいつらの体液が口に入ったら大変だ」
タロン「そ、そうだな」
ミネルバ「口に布巻こうよ」
エリオット「賛成」

3人は一旦投げるのをやめて、布を口に巻いた
それからは無言で投げ続けた

ミネルバ「待って…そろそろ30分経つわ」
エリオット「おう」
タロン「30分投げるのも疲れるわ…」

ミネルバは中のアイオテに休憩の合図をした

アイオテ「ああ…長かった…グス…ギュゥ」
ミネルバ「よしよし…ナデナデ…よく頑張ったねえ」
アイオテ「でもまだ残ってるね…」
タロン「勇者くんが細切れにするからだぞ」
アイオテ「ごめんなさい…」
エリオット「おい、そういうこと言うな」
タロン「お前、保護者かよw」
エリオット「そうだよ」
タロン「そ、そうか」
ミネルバ「ブフw…ありがとね、エリオット」
アイオテ「ありがと///…ギュゥ」
エリオット「うんw…ははw」
アイオテ「へへ///…あ!…また少し来てる!」
ミネルバ「どんだけ居るんだか…」
タロン「やっつけてくる」
ミネルバ「待って」

タロンはゾンビに走ろうとしたが、ミネルバに止められた

ミネルバ「ここまで来させよう…あいつら担いでここにまた持ってくるのは面倒だし、嫌だ」
タロン「ちげぇねえ」
エリオット「おし…オレがやる…練習したい」
ミネルバ「わかった、気をつけてね」

そうして近づいてきたゾンビ2人を、エリオットが倒し、それも含めて残りのゾンビの死骸を全て消した

それからはたまに少し来るだけで、その数も減っていき、岸周辺のゾンビたちは殲滅できたようだった
まずはバリケードを築き、桟橋を作り、それから拠点になる小屋を3部屋と、身体を洗うための水のタル二つ、飲用の水のタルを一つ置き、バリケード内で生活が出来るようになるまで2ヶ月ほど費やした

その2ヶ月の間はほとんどゾンビとは戦っていないが、4人はお互いに毎日鍛錬に励んで強くなった

ミネルバ「よし、拠点も出来たし、今日からまたゾンビ退治だ」
エリオット「おう」
タロン「まずはこの島をぐるりと回るんだろ?」
ミネルバ「そう…で、また船が着けそうな場所があったら、そこにも拠点を作る…3つか4つはないとね」
タロン「その作業は面倒だが、たしかにそうだな…」
エリオット「この島は大きいしな…次に拠点作る時はアイオテくんたちの部屋は離れたとこに作ってくれる?」
ミネルバ「なんで?」
エリオット「わからない?」

エリオットは耳を澄ませるようなポーズをした

ミネルバ「わかった///…ごめん」
アイオテ「…?」
タロン「いいよな…オレも女抱きてえぜ…」
ミネルバ「次の拠点づくりの時になったら、一旦街に帰って女買いに行ってくれば?」
タロン「おっ、そうさせてもらうw…話わかるねえ姐さんw…ほんとは姐さんが相手してくれりゃいいんだけどねw」
ミネルバ「あんた変わってるねえw…こんな男女にw」
タロン「そうでもねえよ、あんたはキレイだ」
エリオット「オレもそう思う」
ミネルバ「ありがと///…けど、ここには他に女が居ないからそう思うだけさ」
アイオテ「そんなことないよ!…ミネルバさんは世界一だもん…ギュゥ」
ミネルバ「かわいい///…ギュ」
エリオット「また始めないでくれよ?w」
ミネルバ「大丈夫よw…エリオットも女買いに行ってきていいからね」
エリオット「オレは女を買ったことはないし、そういう気もない」
ミネルバ「さすが真面目だねえw…けどさ、あんた恋人居ないんなら、買ってあげなよ」
エリオット「え?」
ミネルバ「そういう女たちだって、抱かれなきゃ生きてく金が稼げないんだからさ…アタシだって一歩違ったらそんな道だったんだ…だからさ、あんたがそうすることで助かる女もいるんだよ」
エリオット「…そうか…」
ミネルバ「あんたは優しいし、なかなかハンサムだから、女も嬉しいだろうよ」
エリオット「…では、オレもタロンと一緒に行ってみるかな…そんなの考えた事もなかった…」
タロン「じゃあオレもたくさん女を救ってこようw」
ミネルバ「アイオテはそういうの興味ないの?」
アイオテ「ボク?…ボクはミネルバさんにしか興味ないんだ…ミネルバさんは?」
ミネルバ「アタシもアイオテとしかエロい気持ちにならないんだよ…不思議だね」
エリオット「へぇぇ…」
アイオテ「ミネルバさん…結婚しようよ」
ミネルバ「こんな時に言う?!w」
アイオテ「だって…ずっと一緒だもん」
ミネルバ「うんw…じゃあ結婚しようw…今日からあんたはアタシの夫だ」
アイオテ「やったあw…ギュゥ」
タロン「バカにするつもりはねえけど、アイオテのほうが嫁に見える」
エリオット「実はオレもそう思ったw」
ミネルバ「なんかごめんね、これから戦いに行こうって時にさ」
エリオット「別にいいじゃないかw…たしかに急すぎて驚くけど、もしかしたらいつ死ぬかもわからない状況なんだから」
ミネルバ「ありがと…じゃあ行こうか…準備はいい?」
タロン「いつでも」
アイオテ「うん!」
エリオット「では行こう」

4人はまず、島の外周をぐるりと周る事にした
進んでいけば行くほどに、ゾンビがやってくるが、通常のゾンビは4人には余裕で対処出来るようになった
しかし、獣や鳥のゾンビまで出て来ると、その素早さに苦戦を強いられる
前回の勇者はこういった鳥などを殲滅しなかった為に、またゾンビがはびこる事態になったのだ
アイオテは結界を出し、向かってくるゾンビを自滅させようとしたが、鳥などは全て消える分いいのだが、人間のゾンビや獣の場合、途中で身体半分ほど消えて止まってしまうので、とてもグロく、アイオテには耐えられなかった
なので仕方なく普通に戦うのだが、アイオテは恐怖が一定を超えると狂戦士化するため、それは非常に強いのだが、決まって細切れになってしまう為、肉片を集める作業が増える
そうして進んでは、拠点に戻り、進んでは戻った
それを繰り返していると、当然歩く距離が増えて非効率になる
なので、だいたい歩く距離が片道2時間の距離で拠点を作る事にした

タロン「アイオテよ…キレるのはいいが、もっと大きめに切ってくれよ」
アイオテ「うう…」
ミネルバ「仕方ないじゃないの…自分でもわかってないんだから」
エリオット「たしかにこの作業は大変だが、アイオテくんが狂戦士になると助かるのも事実だろ?」
タロン「わかってるよ…ただ言ってみただけだ」

拠点では一応安全ではあるが、バリケードの外にゾンビがやってきて、バリケードを叩いたりするので、交代で見張りをすることになる
そして、島に居ると何もすることがない
カイルたちは毎回本を持ってきてくれるが、それに夢中になる事もできない
気が休まる事もなく、地道な作業の繰り返しと危険さで、精神的にも厳しい
時にはケンカもしてしまう

ミネルバ「タロン、エリオット…ケンカしないでよ」
タロン「うるせえ」
エリオット「こいつ!」
アイオテ「…グス」
タロン「てめえもすぐ泣いてんじゃねえ!」
ミネルバ「てめえ!!」
アイオテ「やめて!…ね?…ダメだよ…ボクらが争っても…」
ミネルバ「うん…タロンあんた…今度補給船が来たら街に行ってこいよ…スッキリしたら戻って来い」
タロン「…悪い」
エリオット「ミネルバさんとアイオテくんは全然戻ってないけど…2人は大丈夫なの?」
ミネルバ「アタシはアイオテといれば大丈夫よ」
アイオテ「ボクも…ミネルバさんと一緒なら平気」
エリオット「そうw…なんだか羨ましいなw…オレもタロンの次の時に街に行ってもいいかい?」
ミネルバ「いいわよ」
タロン「街に戻っても報酬は変わらないか?」
ミネルバ「うーん…月に1回、補給船1回分の時間ならいいわ…2回分以上休んだら減らすし、戻って来なかったら払わない」
タロン「わかった…ありがとよ」
ミネルバ「いいのよ…精神衛生も大切だもの…もう1年も経つのにまだ外周も周れてないし…それに敵は内側に行くほど強くなるって話だからね」
エリオット「素早いゾンビか…キツいな…たまに来るけど、厄介だよな」
ミネルバ「また、見た目も違わないのがね…」
タロン「たしかになw…見た目で区別出来たらこっちも心の準備が出来るのに」
エリオット「かと言って、雑魚ゾンビだって舐められないけどさ」

内心ではみんな『内側には行きたくない』と思っていたが、あえてそれは口には出さなかった

そうして、時々休暇を取りながら、外周のゾンビを排除すると、国王の命令により、大量のバリケードを作らせ、島の内側をぐるりと囲った
その作業にまた1年近く費やしたが、これはミネルバたちにとっても、とても助かる計らいだった
これからはそのバリケードを内側に向かって前進していけば良いのだ
時々は鳥のゾンビがやってくるが、団体行動をとる知能がないし、必ずと言っていいほど鳴き声を発しながら飛んでくるので、知らないうちに攻撃されるという事はまずなかったし、4人ともすでに相当な腕になっているので、切り落とすのも苦ではなかった
そんなわけでバリケードの外側は比較的安全になったので、カイルやスコット、グラハムが交代に来ては、睡眠中の見張りをしてくれていた
特にカイルは料理も上手かったので、カイルの番の時はみんな嬉しかった
外周を制圧するのに3年はかかったが、国王もその成果に満足していた
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