招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第一章

1-9 廃墟の『悪魔』

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 怪しい気をまといながら廃墟はいきょの奥から現れたのは、見たこともない真っ黒い、虎に似た巨大な魔獣だった。

 そいつがアリアちゃんに狙いを定めたことに気づいて、咄嗟とっさに体が動いた。
「アリアちゃん、目を閉じて!!」
 いつもふところに入れてある小さな布袋を魔獣目掛けてぶつけたのと、アリアちゃんが目をつむって身を伏せたのはほぼ同時だった。

 布袋の中に入っていたからい粉を顔面に受け、ひるんだ黒い魔獣は後ずさりをした。その隙に、立ち上がったアリアちゃんが迷わず僕を目掛けて駆けてくる。
「おにいちゃんーー!」
 懐に飛び込んできた少女を抱き止めて、結界魔法を発動した。

「でかしたぞ! ラウル!」
「アリアを頼む」
 ジャウマさんが魔獣に向かって大剣を掲げると、魔獣の注意はそちらに向けられた。

 たった今、彼らは家族の敵なのだと、そう思っていたのに。
 たった今、僕は彼らと敵対しようとしていたはずなのに。
 当たり前のようにアリアちゃんは僕を頼り、当たり前のように3人は僕らを守ろうとしてくれている。

「二人とも下がっていろ」
 ヴィーさんが視線だけ僕らに向けて言うと、アリアちゃんがこちらだというように僕の腕を引っぱる。僕はさっきまでのことも忘れ、その導きに従った。

「こいつが、廃墟の『悪魔』……?」
「あの町の人たちはそう呼んでいるようですね。そして――」
 そこまで言って、セリオンさんはちらりと僕の方を見てから続けた。
「こいつは君の妹さんだったモノです」

「……え?」
 今、セリオンさんは何と言った……?

「『悪魔』と呼ばれるこの魔獣は、獣人のふりをして君の家族の中に入り込み、あの日、君の両親を殺したんです」

 その『悪魔』は、セリオンさんの言葉を聞いて、ニヤリと笑った。
「だって、お兄ちゃんが町を出ていくって言ったから」
 ……それは妹の、声だった……

「私を置いていくって言ったから…… そうしたらお兄ちゃんと離れ離れになっちゃうじゃない」
 妹は本当に甘えん坊で……
「だから、あの人間たちを殺したの。そうすれば、お兄ちゃんは私を置いていくのをやめるでしょう?」
 いつも僕にべったりで……
「せっかく獣人のふりをして、お前の妹になったのに…… そうしてお前の力を私のものにしていたのに、こいつらに邪魔をされてしまった…… こうなったらお前らを食らってやる!!」
 魔獣は、廃墟が震えるほどの咆哮ほうこうをあげた。

「そうはさせない」
 ジャウマさんが、魔獣にむけて言った。
 二足で立ち上がった魔獣は、鋭い爪の付いた太い腕を3人に向かって振り下ろす。ヴィーさん、セリオンさんは同時に後方に飛び退き、反対にジャウマさんが一歩前に出た。でも、その手には盾も剣も持っていない!?

 ガッ!!
 大きく鈍い音がした。ジャウマさんの額に魔獣の鉤爪かぎつめが当たっている。でもその額に鋭い爪は食い込みもせず、傷すらつけられていない。

「うおおおおおおお!!」
 低い叫びと一緒にジャウマさんが、自身の頭を魔獣の鉤爪ごと前方に押し込もうとする。
 ジャウマさんの体のあちこちは盛り上がり、全身に赤い鱗をもつ生き物に変わっていく。大きなあぎとに並んだ鋭い牙、ギロリと表情の見えないトカゲのような目が魔獣をにらみつける。

 大きな、赤い竜がそこにいた――
 赤竜は一度腰を落とすと、思いっきり前方に頭を押し込み、魔獣を弾き飛ばした。

 それに合わせて、ヴィジェスさんが背中の翼を広げ空に飛び上がる。
 月明かりがその大きな翼で遮られ、一瞬目の前が暗くなる。すぐに視界が慣れるとそこには虹色に光る大きな鳥の姿があった。
 その鳥が大きく羽ばたきをすると、翼から放たれた羽根たちがまるで矢のように放たれ、魔獣に突き刺さった。

 そして、セリオンさんの居たはずの場所には、三本の尾を持つ大きな白い狐が……
 その狐がひと吠えすると、その身の周囲に無数の氷のかたまりが現れ、吹雪と共に魔獣に向かう。氷のつぶてが魔獣を打ち、吹雪に覆われた魔獣の黒い体はまるで凍ったように白くなっていく。

 それでも魔獣は起き上がり、3人……いや、3匹の獣に向かって再び襲い掛かった。赤竜がその攻撃を受け止め、大きな顎で黒い魔獣の肩口に噛み付いた。


 僕は、驚きとよくわからない何かが入り混じった気持ちを抱えながら、結界の中で震えながら見ているのが精いっぱいで。

「大丈夫だよ。パパたちは強いから」
 僕を落ち着かせるようにアリアちゃんが言う。
「だから、ラウルおにいちゃんは私のことを守ってね」

 * * *

 妹だったハズのモノは、もう動かなくなっていた。
 わかっている。あれは妹だったけれど、妹じゃあなかったんだ。最初から……
 彼らのおかげで両親の敵を討つことはできたはずなのに、僕の心にはぽっかりと埋まらない穴のようなものがあって。それがやたらと悲しくて寂しくて、そして苦しかった。

 ただ座り込んでいる僕の腕の中から、アリアちゃんがするりと抜け出した。そのまま軽い歩調でとことこと倒された魔獣の所に駆け寄っていく。

「アリアちゃん……何を……?」
 魔獣の遺骸いがいを見るアリアちゃんの瞳が、さらに赤く光った。

 僕の目の前で、アリアちゃんの垂れた耳がピンと空をむいて伸びた。その体はみるみるうちに大きく盛り上がり、金の髪が伸び、それが体を覆い……

 アリアちゃんの姿は大きな金色の獣と化していた。頭から伸びた角だけが黒く、その瞳は燃えているように赤く。
 その獣の口が耳の近くまで大きく裂け、魔獣の遺骸をぺろりと一口で飲み込んだ。
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