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第一章
1-10 獣たちは旅に出る
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いったい、どういう…… ことなんだろう?
あの後、僕は鳥の姿をしたヴィーさんの背に乗せられ、あっという間に町に帰還した。今はこうして僕の家のがらんとした家具もない部屋の中、僕はラグの上に座らされている。
目の前にはヴィーさんが、その横にはジャウマさんがどっかりと座り込み、セリオンさんは椅子に座ってこちらを観察するようにじっと見ている。
そして、あの廃墟からずっと僕のそばを離れないアリアちゃんが、今も座り込んだ僕にしがみついていて、ぷうっと頬を膨らせながらジャウマさんたちを睨みつけている。
「ラウルおにいちゃんに、いじわるをしたらダメだからね!!」
「あー、わかったよアリア。もうしねえから、ちょっと落ちつけ」
ヴィーさんがなだめるように言っても、アリアちゃんの態度は変わらない。心配な様子で、僕に掴まった腕にぎゅっと力を入れた。
「ラウルおにいちゃんは、やっと見つけた仲間なのに!」
……え? 仲間……?
「なあ、どこから話したらいいんだ?」
首を傾げるジャウマさんの視線を受けて、ヴィーさんがはーっと長いため息を吐いて話し始めた。
「まー、あれはつまり、俺らの敵みたいなもんだ。簡単に言うと、俺らはああいうヤツらを倒して回っている。んでもって、お前は俺らの仲間なんだ。お前のことをずーっと探していた」
探していた、という言葉を聞いて、何故か心がトクンと揺れた。
「本当ならサクっと見つけられるはずだったんだけどよ。あの『悪魔』とやらに、邪魔をされていたんだな。お前がお嬢に見つからないように隠していたんだ。それだけでなく、あいつはずっとお前のそばでお前の力を吸収していたようだな。前回俺らがあいつを倒し損ねたのは、その所為だろうな」
あいつは獣人の振りをして僕に近づいたのだと言っていた。
孤児院に居た時から、妹は本当に甘えん坊で、いつも僕にべったりで…… お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だって言って、一緒に両親に引き取られて……
でも全部…… そうじゃなかったんだ……
「最近、妹に貰ったものを手放さなかったか?」
そう言われて思い出した。そうだ、この家の物を売る時に……
「手放し、ました…… この依頼の報酬を用意する為に、この家の物殆どを売り払ってしまって…… 妹から貰ったネックレスも、僕にはとってはとても大事なものだったけれど…… でも僕は魔獣と一緒に死ぬつもりだったから。僕と一緒に魔獣に食われてしまうよりはいいと思って、古物屋の子供に譲ってあげて……」
「それがお前を隠していたんだな。それがお前の手元から離れて、ようやくお嬢はお前を見つけることが出来たんだ」
「あ…… あの森でアリアちゃんと出会った時…… もしかしてアリアちゃんは、僕を探しにきていたの??」
僕の言葉を聞いて、アリアちゃんがにこりと笑う。彼女の可愛らしい黒兎の耳がぴょこんと跳ねた。
「お前が戦えなかったのは、弱いからじゃない。戦うのはお前の役目ではないからだ。お前の役目は守ることだ。そして俺たちにはお前が必要だ。俺たちは互いを補うことでさらに強くなる獣。そしてアリアに従い、アリアを守るのが、俺たちの役目だ」
そう言ってジャウマさんが差し出した手に、釣られて手を差し出した。
「わーーい」
結んだ手に、嬉しそうにアリアちゃんが両手を被せる。
仲間も家族もいなくて、僕は一人ぼっちだと思っていたのに……
もう一人じゃないんだと、そう思ってもいいんだろうか……
* * *
いつも通りの振りをして、冒険者ギルドの扉をくぐった。
「あ! ラウルさん! 無事に帰って来られたんですね!」
受付嬢がこちらに向けて手を振る。『悪魔の森』に行くことを知っていたので、心配していてくれたのだろう。
「ところでちゃんと護衛の仕事はしたんだ。報酬は貰うからな」
「ああ、それなんですが…… すみません、実は手持ちが足りなくて……」
本当なら『赤い目の魔獣』を倒して町から出るはずの報酬金を、彼らの護衛の報酬に充てるつもりだった。でもあの魔獣の正体はジャウマさんたちだったし、『悪魔』もアリアちゃんが食べてしまって、証明するものは何も残っていない。そして町からの報酬金が無ければ、僕にはそんな大金を支払えるだけの蓄えもない。
僕の告白を聞いて、アリアちゃんは可愛く首を傾げた。ジャウマさんは難しい顔をして腕を組み、ヴィーさんは頭を掻きながら口をへの字に曲げる。セリオンさんだけは「なるほど」と声にだして言うと、カウンターの向こうで困った顔をしている受付嬢の方を見た。
「こういう場合は、ギルドではどうしているんですか?」
「うーん、ギルドが報酬の不足分をラウルさんにお貸しすることもできますが――」
受付嬢は、依頼書の報酬欄を指差して言葉を続けた。
「金額も大きいですし、ラウルさんは冒険者になってまだ半年です。ランクも低くて実績も無い。なので、お貸しするにはそれに見合った担保が必要になります。ラウルさんに担保に出来るようなものはありますか?」
「ああ…… 家財道具ももう売っちゃったし、後はあの家とベッドくらいで……」
「どうせしばらく帰ってこれねえし、それでいいんじゃねえか?」
「へっ!?」
ヴィーさんが僕の肩をバンバンと叩いて言った。
「どうせ俺らと一緒に旅に出るんだ。あの家もベッドも使わねえだろう?」
「ええーー!?」
さっそく受付嬢が手元のメモに数字を書き込んで計算をし始める。
「なるほど。それでしたら担保として家をお預かりして、ギルドの管理で貸し出しましょうか? 貸出料から管理費と手数料を引いたものを借金の返済に充てられます」
「いいじゃねえか、決まりだな」
「やったー! またラウルおにいちゃんの作ったご飯が食べられるね!」
こうして僕がこの4人と旅に出る話が、あっという間にまとめられてしまった。
* * *
家の鍵を冒険者ギルドのカウンターに置き、代わりにギルドから受け取ったお金をジャウマさんに渡して、今回の依頼は完全に終了した。
「よっし、じゃあ行くぞ!」
先にギルドの出口に向かっていたヴィーさんが僕らに向かって手を振った。
この町でずっと暮らしていた僕は、こうして旅に出るのは初めてだ。荷物とわくわくする気持ちを背負って、新しくできた仲間たちと街道を進む。
と、ふと思い出した。
「そういえば皆さん、獣の姿になっていましたよね。僕も仲間ってことは、もしかして僕もああなるんですか?」
「「「ああ」」」「うん」
4人が揃えたように頷く。
「ラウルおにいちゃんが、どんな姿になるか楽しみだねっ」
アリアちゃんが、嬉しそうに僕の顔を見上げて言った。
あの後、僕は鳥の姿をしたヴィーさんの背に乗せられ、あっという間に町に帰還した。今はこうして僕の家のがらんとした家具もない部屋の中、僕はラグの上に座らされている。
目の前にはヴィーさんが、その横にはジャウマさんがどっかりと座り込み、セリオンさんは椅子に座ってこちらを観察するようにじっと見ている。
そして、あの廃墟からずっと僕のそばを離れないアリアちゃんが、今も座り込んだ僕にしがみついていて、ぷうっと頬を膨らせながらジャウマさんたちを睨みつけている。
「ラウルおにいちゃんに、いじわるをしたらダメだからね!!」
「あー、わかったよアリア。もうしねえから、ちょっと落ちつけ」
ヴィーさんがなだめるように言っても、アリアちゃんの態度は変わらない。心配な様子で、僕に掴まった腕にぎゅっと力を入れた。
「ラウルおにいちゃんは、やっと見つけた仲間なのに!」
……え? 仲間……?
「なあ、どこから話したらいいんだ?」
首を傾げるジャウマさんの視線を受けて、ヴィーさんがはーっと長いため息を吐いて話し始めた。
「まー、あれはつまり、俺らの敵みたいなもんだ。簡単に言うと、俺らはああいうヤツらを倒して回っている。んでもって、お前は俺らの仲間なんだ。お前のことをずーっと探していた」
探していた、という言葉を聞いて、何故か心がトクンと揺れた。
「本当ならサクっと見つけられるはずだったんだけどよ。あの『悪魔』とやらに、邪魔をされていたんだな。お前がお嬢に見つからないように隠していたんだ。それだけでなく、あいつはずっとお前のそばでお前の力を吸収していたようだな。前回俺らがあいつを倒し損ねたのは、その所為だろうな」
あいつは獣人の振りをして僕に近づいたのだと言っていた。
孤児院に居た時から、妹は本当に甘えん坊で、いつも僕にべったりで…… お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だって言って、一緒に両親に引き取られて……
でも全部…… そうじゃなかったんだ……
「最近、妹に貰ったものを手放さなかったか?」
そう言われて思い出した。そうだ、この家の物を売る時に……
「手放し、ました…… この依頼の報酬を用意する為に、この家の物殆どを売り払ってしまって…… 妹から貰ったネックレスも、僕にはとってはとても大事なものだったけれど…… でも僕は魔獣と一緒に死ぬつもりだったから。僕と一緒に魔獣に食われてしまうよりはいいと思って、古物屋の子供に譲ってあげて……」
「それがお前を隠していたんだな。それがお前の手元から離れて、ようやくお嬢はお前を見つけることが出来たんだ」
「あ…… あの森でアリアちゃんと出会った時…… もしかしてアリアちゃんは、僕を探しにきていたの??」
僕の言葉を聞いて、アリアちゃんがにこりと笑う。彼女の可愛らしい黒兎の耳がぴょこんと跳ねた。
「お前が戦えなかったのは、弱いからじゃない。戦うのはお前の役目ではないからだ。お前の役目は守ることだ。そして俺たちにはお前が必要だ。俺たちは互いを補うことでさらに強くなる獣。そしてアリアに従い、アリアを守るのが、俺たちの役目だ」
そう言ってジャウマさんが差し出した手に、釣られて手を差し出した。
「わーーい」
結んだ手に、嬉しそうにアリアちゃんが両手を被せる。
仲間も家族もいなくて、僕は一人ぼっちだと思っていたのに……
もう一人じゃないんだと、そう思ってもいいんだろうか……
* * *
いつも通りの振りをして、冒険者ギルドの扉をくぐった。
「あ! ラウルさん! 無事に帰って来られたんですね!」
受付嬢がこちらに向けて手を振る。『悪魔の森』に行くことを知っていたので、心配していてくれたのだろう。
「ところでちゃんと護衛の仕事はしたんだ。報酬は貰うからな」
「ああ、それなんですが…… すみません、実は手持ちが足りなくて……」
本当なら『赤い目の魔獣』を倒して町から出るはずの報酬金を、彼らの護衛の報酬に充てるつもりだった。でもあの魔獣の正体はジャウマさんたちだったし、『悪魔』もアリアちゃんが食べてしまって、証明するものは何も残っていない。そして町からの報酬金が無ければ、僕にはそんな大金を支払えるだけの蓄えもない。
僕の告白を聞いて、アリアちゃんは可愛く首を傾げた。ジャウマさんは難しい顔をして腕を組み、ヴィーさんは頭を掻きながら口をへの字に曲げる。セリオンさんだけは「なるほど」と声にだして言うと、カウンターの向こうで困った顔をしている受付嬢の方を見た。
「こういう場合は、ギルドではどうしているんですか?」
「うーん、ギルドが報酬の不足分をラウルさんにお貸しすることもできますが――」
受付嬢は、依頼書の報酬欄を指差して言葉を続けた。
「金額も大きいですし、ラウルさんは冒険者になってまだ半年です。ランクも低くて実績も無い。なので、お貸しするにはそれに見合った担保が必要になります。ラウルさんに担保に出来るようなものはありますか?」
「ああ…… 家財道具ももう売っちゃったし、後はあの家とベッドくらいで……」
「どうせしばらく帰ってこれねえし、それでいいんじゃねえか?」
「へっ!?」
ヴィーさんが僕の肩をバンバンと叩いて言った。
「どうせ俺らと一緒に旅に出るんだ。あの家もベッドも使わねえだろう?」
「ええーー!?」
さっそく受付嬢が手元のメモに数字を書き込んで計算をし始める。
「なるほど。それでしたら担保として家をお預かりして、ギルドの管理で貸し出しましょうか? 貸出料から管理費と手数料を引いたものを借金の返済に充てられます」
「いいじゃねえか、決まりだな」
「やったー! またラウルおにいちゃんの作ったご飯が食べられるね!」
こうして僕がこの4人と旅に出る話が、あっという間にまとめられてしまった。
* * *
家の鍵を冒険者ギルドのカウンターに置き、代わりにギルドから受け取ったお金をジャウマさんに渡して、今回の依頼は完全に終了した。
「よっし、じゃあ行くぞ!」
先にギルドの出口に向かっていたヴィーさんが僕らに向かって手を振った。
この町でずっと暮らしていた僕は、こうして旅に出るのは初めてだ。荷物とわくわくする気持ちを背負って、新しくできた仲間たちと街道を進む。
と、ふと思い出した。
「そういえば皆さん、獣の姿になっていましたよね。僕も仲間ってことは、もしかして僕もああなるんですか?」
「「「ああ」」」「うん」
4人が揃えたように頷く。
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