招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第二章

2-4 調合師の工房へ行く

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「あの、ルート草とテナー草の根も採ってきたんですが、買い取ってもらえますか?」
 採集物をカウンターに並べた僕の不安に反して、受付嬢さんの嬉しそうな声が返ってきた。
「あら! これはとても助かります。ちょうど調合師さんから、採集依頼がきたところだったんですよ。なんでも急ぎで欲しいそうで」
 おねえさんがニコニコとご機嫌顔で、依頼票を出して見せた。

 確かにそこにはルート草とテナー根の名前がある。あとチエロの花も。これも見つけたので一応採集してあった。
 合わせて取り出して見せると、彼女はこれで依頼完了ですっ!と弾むような声で言い、ぽんっと両の手を叩いた。

「ラウルさん、もしお時間がありましたら、ちょっと頼まれていただけませんか?」
「え? ああ、僕にできることでしたら……」
 と、そこまで答えて気が付いた。アリアちゃんが一緒だから内容を聞かないで引き受けることはできない。
「いや……えっと、危険なことでなければ」

 その言葉に、おねえさんは一度アリアちゃんの方を見てから、こちらを
向いた。
「危険なことではないので大丈夫です。さっきの薬草たちを調合師さんの工房に届けて頂きたいんです」
「ああ、それくらいなら」
 僕の返事を聞いて、受付のおねえさんはまたぽんっと両手を叩いて微笑んだ。

 * * *

 教えられた調合師の工房は、冒険者ギルドからそう遠くない場所にあった。
 アリアちゃんと一緒にその工房の扉を開けると、ドアベルの澄んだ音が響く。よくあるタイプの、工房と店舗を兼ねている建物なのだろう。

「いらっしゃいませ」
 歯切れのいい爽やかな言葉と一緒に、大人しそうな雰囲気の青年が店の奥から顔をのぞかせる。
「ああ、すみません。僕たちはお客さんじゃなくて…… ギルドから依頼の――」
「こんにちはー お届けものですーー」
 しどろもどろな僕の言葉に被せて、アリアちゃんの可愛いらしい挨拶が店内に響いた。


 先ほどの青年がこの店舗兼工房の主で、依頼主の調合師だそうだ。冒険者ギルドから依頼の品を持ってきたことを伝えると、そのまま店の奥の工房に迎え入れられた。
 先に急ぎの調合をするのでしばらくここで待って欲しいと言われ、工房の隅にある椅子に腰かける。

 僕らの目の前で、さっき採ってきたばかりの薬草たちが、すりつぶされ、混ぜ合わされ、次々とポーションに姿を変えていく。なんだろう、見ているとやけに心がわくわくしてくる……

「あれ、僕にもできるかなぁ?」
 ただの独り言で、アリアちゃんに聞かせるつもりはなかった。でもアリアちゃんは僕の言葉をちゃんと聞いていて、僕の顔を見上げている。
「ラウルおにいちゃんなら、きっとできるよ」
 にっこりと笑いながら言ってくれた。

 うん…… やって、みてもいいかもしれない。
 弱い僕は戦うことが苦手だ。でもできることが増えれば、戦う以外に役に立てるかもしれないし。

 * * *

 この町に来て三日目。今日もジャウマさんたちは、高ランクの魔獣討伐依頼を受けるのだそうだ。

 彼ら――アリアちゃんとジャウマさんたちの目的は、先日のような『黒い魔獣』を探し出して倒すことだ。だからこうして冒険者として依頼をこなすのは、金稼ぎの為なのだと聞いている。

 昨日受けた依頼も高ランクで、報酬ほうしゅうはかなり良かったはずなのに。あれじゃあ足りないんだろうか。
 旅自体が初めての僕は、旅のことも宿のことも、余所よその町のこととかも何も知らなくて。どれもこれも彼らに頼りっぱなしだ。
 彼らのように大きく稼ぐことはできないけれど、せめて僕ができることをして少しでも稼がないと。そう思って、一緒に掲示板を覗き込んだ。

 昨日と同じような薬草集めの依頼票が、今日も掲示板に貼り出してある。薬草はポーションの材料になるので、どこの町のギルドでも重宝がられるのだそうだ。
 他にも木の実やキノコの素材採集依頼もあるし、低ランク魔獣の討伐依頼もある。
 討伐対象にある、角兎ホーンラビットだとか、カンムリ鳥だとか、森狼フォレストウルフだとか…… 本当は僕のように冒険者になって半年も経っていれば、これくらいの依頼はこなせるはずなのに……

 つい考えこんでいた僕の顔を、アリアちゃんの可愛い笑顔が見上げている。
「ラウルおにいちゃん、今日も薬草さいしゅーするの?」
 ニコニコとなんだかご機嫌だ。
「今日もいっしょにさいしゅーできるかなあ?」
 なるほど、昨日一緒に薬草集めをしたのが、アリアちゃんには嬉しかったらしい。

「俺たちはこっちの依頼をうけてくるが、ラウルはどうする?」
 そう言って、ジャウマさんはAランクの依頼票を手に取る。オルトロスの討伐の依頼票だ。少し紙がヘタっているところを見ると、皆から敬遠されていて、しばらく貼り出してあったのだろう。

「う、うん……」
 そうだよな。僕はアリアちゃんを守らないといけないし、危ないことはできない、よな……
 そう自分に言い訳をしながら、今日も薬草採集の依頼票を手に取った。

 * * *

 3人とは町の門を出たところで別れた。彼らはここから街道脇の丘を越えた先にある森の方に行くそうだ。
 昨日採集した場所は避けて、今日は別の場所を探さないと。そう思いながら、アリアちゃんと一緒に街道沿いの草原を進む。

「あれ……?」
 気配に気付き、アリアちゃんを背後にかばう。僕の背中から、アリアちゃんが前方にある草むらに目を向けた。

「ラウルおにいちゃん、あそこがどうかしたの?」
「あそこの茂みが不自然に揺れた気がしたんだ」
 いつでも僕らを守る結界を張れるよう、身構えながら様子をうかがう。

 と、途端に小さな生き物が飛び出して来た。

 咄嗟とっさに結界を張ると、僕らの周りを覆うように光の壁が現れる。その生き物は結界にはじかれて地面に転げた。でもすぐに立ち上がると、僕らに向かって角を振り上げて精一杯の威嚇いかくをしてきた。
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