招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第二章

2-6 湖に棲まう魔獣

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 朝食の時間になってもヴィーさんが起きてこない。ジャウマさんが言うには、昨晩はだいぶ飲んできたらしい。
「裏の情報をゲットしたぜ。やっぱりアリアの言う通りだった」
 昨日の酒場で、他の冒険者から『黒い魔獣』のうわさを聞き出してきたのだそうだ。

 朝食を済ませると、早々に冒険者ギルドを訪れた。昨晩聞き出した情報を元に、3人がギルド長に話をしに行き、戻ってくるまでに大して時間はかからなかった。

「この依頼にはアリアも一緒に連れて行く。だからラウル、お前もアリアの守り手として一緒に来るんだ」
 ジャウマさんは、僕に向かって言った。


 冒険者が通う森や草原は、どのくらいの強さの魔獣が生息しているかや、その場所の危険度などによって、ランク目安が付けられる。
 その森は中級程度の冒険者に適した狩り場で、中心部に近い場所に湖があって、そこが森の獣や訪れた冒険者たちが体を休める場所となっていた。
 でもそれは過去の話で。

 どこから現れたのか、その湖に巨大な黒い蛇が巣くうようになった。水を求めて訪れる獣や人はことごとくその大蛇の犠牲となった。
 冒険者ギルドは、当然のようにその大蛇の討伐依頼を出した。しかし冒険者たちが次々と犠牲になり、最後に町の唯一のAランク冒険者が戻らなかったことで、その場所は『禁忌の地』として人々の立ち入りを禁じられた。僕が住んでいた町にあった『悪魔の森』がそうだったように。


 この話は、ジャウマさんたちが酒場で意気投合した古参の冒険者から聞いてきたんだそうだ。
 冒険者ギルドでもこの情報は秘匿されていたが、ギルド長に『腕の立つ冒険者』だと認められれば、そういった裏の依頼を貰えることもある。ジャウマさんたちが高ランクの依頼を積極的に受けていたのにはそういう理由があったらしい。

 ジャウマさんたちは「例え死んでも文句は言わない」との誓約書まで書いて、この依頼を受けてきたそうだ。
「まあ、死んじまったら文句は言えねえけどな」
 ヴィーさんがからからと大口を開けて笑いながら言った。

 * * *

 外から見た感じは普通の森のようだ。特別な何かがあるようには思えない。
 森の入り口から奥に向かう道に、下草がなく踏み固められてるところを見ると、森の浅いところならば、普段も人が出入りしているらしい。

「よっしゃ」
 その一声と共に、ヴィーさんが器用にするすると大木に登っていく。あっと言う間にその姿はこずえに茂った葉に隠され見えなくなった。
「どうだ?」
 ジャウマさんの問いに、しばらく間が合って返事がくる。
「やっぱり、木が邪魔でこっからはなんも見えねえな」

 その後でバサッと鳥が羽ばたく音が聞こえた。木の上をそのまま見上げていると、茶色の翼をもつ大きな鳥が空に飛び上がっていくのが見えた。
 あれはヴィーさんの獣の姿だ。その鳥はさらに森の中心部に向かって飛ぶと、大きく旋回してまた戻って来る。
 翼を広げたまま、僕らの前に降り立つと、その姿は元のヴィーさんに戻った。

「森の中のほうが少し開けていて、多分そこが噂の湖だろう。嫌な魔力が滞っているような感じがしたが、空からだとバレるかもしれねえからあまり近づけなかった」

「まあ、地上を行ってもそのうちにはバレるだろうけどな」
「ああ、そうだな」
 ジャウマさんの合図で、僕らは森の中へと足を踏み入れる。
 ほんのわずかだけれど、なんだか嫌な気配みたいなものと、嫌な臭いがしているような、そんな気がした。


 森の奥に向かっていくらか進むと、うっすらと感じていた気配は気のせいとは言えない程にはっきりと感じられるようになっていた。
 いくらジャウマさんたちと一緒とは言え、どうにも気持ちが落ち着かない。

「ラウルおにいちゃん」
 隣を歩くアリアちゃんが僕のことを見上げながら、可愛い手でそっと僕の手を握った。それだけで、さっきまでの不安がゆるりと解けていく。
 ああ、そうだ。僕よりずっと幼いアリアちゃんだって、こんな不安な顔はしていない。それにあの3人がとても強いことを知っているじゃないか。そう思い出して、彼女の手をぎゅっと握り返すと、アリアちゃんは僕の顔を見上げて嬉しそうに微笑んだ。

 奥へ続く道は、急に開けた。
 開けたと言ってもそう広くはない。森の木々がぐるりと囲んで見下ろす先に、それは深く水をたたえていた。
 聞いていた話では『湖』だとあったので、もっとずっと広い場所を想像していた。でもこの湖の広さはそれほどでもない。対岸に人が立っていても、その顔が見える程度だろう。

「ここを訪れた冒険者が最後に町に戻ったのはもうずいぶんと昔の話だそうだ。時の流れが話に尾鰭おひれをつけたのだろう」
 僕と同じことを思ったのか、セリオンさんが誰にともなくそう言った。

 気付くと、そのセリオンさんも他の二人も、湖の奥側の一点に視線を向けている。他の湖岸と違い、そこにだけやたらと白っぽい石がゴロゴロと転がっている。
 ガシャリと音をたてて、ジャウマさんが盾を構え直した。
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