招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第二章

2-7 湖の魔獣と戦う

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 ジャウマさんを先頭にして、一歩ずつその場所に近づいていく。
 ここまで近づけば嫌でも目に入る。あの白っぽい石は……あれは石じゃない。全部、骨だ。その骨の合間に千切れた服や、壊れた武器や鎧が見えた。

「ラウルくん、アリアを頼む」
 そう言って、セリオンさんが僕ら二人の前に出た。
 ああ、この気配と暗い魔力は僕にでも流石にわかる。あそこに、何かが、居る。

 と、視線の先にある茂みから何かがこちらに向かって伸びるように飛び掛かってきた。そいつはジャウマさんが構えた大盾にぶち当たる。
「はっ!」
 低い掛け声と共に、ジャウマさんが大盾を押し返し、払いのけると、それは身をくねらせながら、空から僕らの前に落ちた。

 ――それは、大きな黒い蛇だった。頭から尾の先まで、ギラギラと陽光を跳ね返す光沢を持つ黒いうろこに覆われていて、無感情な目だけが爛爛らんらんと赤く燃えている。
 そいつは鎌首を上げると、僕らを見下ろしながらチロチロと舌を出した。

 こんなに大きな蛇は見たことがない。背の高いジャウマさんでさえ、蛇を見上げているほどだ。
 その大きさに、不気味さに、そして辺りに漂う魔力の怪しさに、ぶるりと身が震えた。

「蛇なら食えるな。よかったな、ジャウマ」
「ああ、大分食いでがありそうだな」
 へ……?
 思いもよらないヴィーさんとジャウマさんのやりとりに、一瞬頭の中が真っ白になり、さっきまでの緊張感が吹き飛んだ。
 見ると、二人がこちらをちらと横目で見て、また視線を前に戻したところだった。

「さっさとやってしまいましょう」
 セリオンさんの言葉で、ヴィーさんが空に飛び上がった。

 ヴィーさんの背にはいつの間にか翼が生えている。その虹色の翼をばさりと羽ばたかせると、いくつもの鳥の羽根が矢のように蛇に向かって飛んでいく。
 が、大蛇は尾を振ってあっけなくそれを振り払った。

「そう簡単にはいかねーか」
 笑いながら地に降り立ったヴィーさんに向けて、大蛇が牙をいてとびかかる。
「おっと」
 横に跳んで避けると、その避けた先に向かって大蛇はペッと口から何かを吐き出した。ヴィーさんはもう一度飛び上がって避ける。ヴィーさんの居た場所に大蛇が吐き出した物がかかると、地面がどろりと黄色く溶けた。

「毒だ。ジャウ、気をつけろ!」
 ヴィーさんは羽ばたいて空中に留まったまま、ジャウマさんに言葉をかける。
「ああ、わかってる」
 そう言いながら、ジャウマさんは素手で大蛇にむかって駆け寄り、大きな赤竜のものと化した腕を振り上げた。

 今度はジャウマさんに向かって、もう一度大蛇が毒を吐きだそうと、息を吸った。と、そこに無数の氷の塊が飛んでいき、口に蓋をするように覆っていく。
「こっちだ」
 白狐の耳と尾を現したセリオンさんは、何も持たない手を蛇に向け、挑発するように魔法で氷の塊を二度三度と、放つ。

 口を塞がれた大蛇の胴体に、ジャウマさんが竜の手の鉤爪かぎつめで切りつける。痛みでくねらせた蛇の体を、さらに両腕で抱え込んだ。
「ふんっ!!」
 掛け声とともに、ジャウマさんよりずっと大きいはずの大蛇の体は、横にあった岩に向かって吹き飛ばされた。

 岩に全身を叩きつけられた蛇は、一瞬だけぐったりとしたように見えたが、すぐにその身を起こす。頭を振って氷を払うと、今度はセリオンさんを目掛けて毒液を飛ばした。
 セリオンさんが再び手をかざすと、また氷の塊が現れて毒液に向かっていく。氷に当たった毒液は、そのまま凍って地に落ちた。

 毒液が効かないと悟ったのだろうか、大蛇は持ち上げていた頭をさらに空に向け、ぶるぶると身を震わせる。大蛇を中心に、辺りに嫌な臭いのする霧が立ち込めはじめた。

「これは…… 毒の霧か?」
「ラウルくん、もっと後ろに下がっていろ」
 セリオンさんが僕らの方を見て言う。

「毒って、でも皆は?!」
「この程度の毒は、俺たちには効かない」
「まぁ、過ぎればダメージはあるがな」
 そう笑って言ってみせる。彼らは普通の冒険者ではないどころか、おそらく人間ですらない。しかも、毒さえも効かないのか?

 こんな状況で3人が戦っているというのに、僕はただここにいるだけで…… 僕は何の役にもたっていない。
「ジャウマさん…… 僕は……僕はどうしたら……」
「ダメだラウル! 前に出るな!」

 アリアちゃんが、僕を引き止めるように服の裾を引っ張った。
「ラウル! お前は守るのが役目だ!」
「俺らはお前に戦ってほしいと願っているわけじゃねえ! 守ってほしいんだ!」
「君がアリアを守ってくれるから、私たちは思い切り戦える。そして君でなければアリアは守れないんだ」

 ああ、そうだ。僕の役目は守ることなんだ。僕がアリアちゃんを守らないといけないんだ。そう思い直して、一歩後ろに下がった。

 その時、横の茂みががさりと揺れた。ハッと気付いた時には、僕らを目掛けて何かが飛びかかってきていた。
「ラウル!」
 しまった!!
 咄嗟とっさにアリアちゃんを抱え込み、結界魔法を発動させる。僕とアリアちゃんを守るように光の壁が覆う。それとほぼ同時に、茂みから現れたもう一匹の大蛇に体当たりをされて、僕らは結界ごと弾き飛ばされた。

 アリアちゃんを抱え込んだままくうに投げだされた体が、ぐるりと回った感じがした。

「アリ――」
 バシャーン!!
 誰かが叫ぶ声は、途中からは水音にかき消されて聞こえくなった。
 湖に落ちたことを悟って、僕はなかば反射的に目をつむり、息を止めた。
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