招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第三章

閑話2 雪風の夜

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「うーー、流石に今晩は冷えるなぁ…… このままじゃ、体調を崩しちまう」
 大袈裟おおげさに両腕を手のひらで擦りながら、ヴィーさんがボヤいた。

 旅人の多い道を避けて山側の道を選んだところ、その山から吹き下ろしてくる風が予想以上に強くて冷たかった。それどころか粉雪がチラホラと混ざり始めている。
「今晩は野営用のテントを張りますか?」
 テントを張った方が雪風を防ぐことができる。でもその代わりに周囲の異常に気付きにくく、対応が遅れてしまう可能性もある。
 そんなことを言っても、この寒さじゃあ外での野営はそれだけで命取りだろう。そう思っての確認だったんだけど、予想外の返事がジャウマさんから返ってきた。

「いや、俺たちが獣化しよう」
「へっ!?」
「俺らは獣化すれば、このくらいの寒さは気にならねえ。お前とアリアはセリオンと一緒に寝ればいい」
「わーーい」
 アリアちゃんが嬉しそうに飛び跳ねてセリオンさんにしがみついた。って、それって嬉しいことなの??

 大きな岩が強い風を和らげてくれる所に、夜営の場所を決めた。
 ジャウマさんが大きな赤竜の姿に変わる。そのまま大岩の横に体を横たえると、僕らに当たる風の厳しさが無くなった。

 いつの間にか大狐の姿になったセリオンさんが、赤竜のかたわらに横になり体を丸め込む。
「さあ、ここで休むといい」
「セリパパ、もふもふーー」
 セリオンさんが言い終わる前に、アリアちゃんはすでに狐の胸元にしがみついている。

「い、いいんですか?」
「君はまだ獣化できないから仕方ないだろう」
 ああ、そうだ。僕もそのうちには彼らのように獣の姿になれるんだって、そう言われたっけ……
「俺らはこの方が寒さにゃ強いんだ。こんな所で無理をしても仕方ねえからな」
 ヴィーさんも大鳥の姿に変わって、多分僕らが寝る体勢に落ち着くのを待っている。

 セリオンさんのふかふかの毛皮をでていたアリアちゃんは、思い出したように振り返ると、傍らの茂みに向かって声をかけた。
「あなたもおいで、今日はすっごく寒くなるって」
 そのままじっと待つと、茂みがガサガサと揺れて、例の仔狼がい出してきた。でもまだ僕らを敵視しているのか、そこから動こうとしない。
「ここはあったかいよー?」
 アリアちゃんが優しく声をかける。

「大丈夫だ。君もこっちに来なさい」
 思わぬ方向から声が聞こえた。

 ……セリオンさんが、仔狼にそんなことを言うとは思わなかった。
 今までヴィーさんやジャウマさんが仔狼に話しかけていたことはあった。でもセリオンさんだけはずっと素知らぬ顔をして、もしかしたらあの仔狼のことを嫌っているなんじゃないかとさえ思っていた。

 仔狼にセリオンさんの言葉が通じるわけはない。でもまるでそれがわかったかのように、仔狼はそろりそろりとこちらに近づいてくる。
 仔狼は遠慮がちに大狐の腹の辺りに腰を落ち着けると、背中を丸めて横になった。

「えっと。お、お邪魔します……」
 仔狼の邪魔にならぬよう、セリオンさんのふところに入り込む。ご機嫌なアリアちゃんと一緒に大狐のふわふわな体に寄りかかった。

「よっし準備できたな」
 そう言って、翼を広げた大鳥のヴィーさんが、僕らを守るように覆い被さった。

 息が詰まらぬよう、わずかな隙間を残してくれている。でも冷たい風は全く入って来ない。何よりもとても暖かい。

「俺たちは慣れているから大丈夫だ。明日もまだ山歩きが続くから、しっかり体を休めるんだ」
 低く穏やかなジャウマさんの声と、あっという間に眠りに落ちたアリアちゃんの寝息を聞きながら、眠りのふちにゆらゆらと意識は落ちていった。

 * * *
 
「今日のうちにできるだけ進もう。その先まで抜ければ、少しは楽になる」
 昨晩、ずっと僕らの風避けになってくれていたと言うのに、ジャウマさんたちの足取りはいつも通りに力強い。

 いつも通りではないのはこちらの方で。今まで距離をとって後ろの方から付いてきた仔狼が、今日は僕とアリアちゃんのすぐ後ろから付いてくる。

「なんだー? ようやく俺らに気を許すようになったか?」
 前を行くヴィーさんが、振り返って手を出そうとすると、驚いて近くの茂みに逃げ込む。
 また一行が歩きだすと、いつの間にか僕らのすぐ後ろに位置を取っていた。


 3日もすると、僕ら一行の中に仔狼がいる光景が当たり前のようになってきていた。
 道中は、一行の中心に居る僕とアリアちゃんに添って歩く。休憩の時間ももう茂みに隠れたりはしない。僕らが食事をとる傍らで、いつの間にか捕ってきたネズミにかじりついている。夜も僕らのすぐ隣で体を丸める。

「この後はまた町に入る。そいつはそのままじゃ連れていけない。野生の魔獣は討伐対象だからな」
 ジャウマさんの言葉に皆で仔狼の方を見た。

「どうしたらいいんでしょう?」
「誰かの従魔にすれば大丈夫だが……」
 僕に答えてくれたセリオンさんは、途中で考えるように言葉を濁らせた。

 うん…… 今まで僕らを敵視していたこいつが、すんなりと僕らの従魔になるとは思えない。

「そういや、以前どっかで拾った従魔の首輪があったな」
 ヴィーさんがごそごそと自分のマジックバッグを漁る。革製のシンプルな首輪が色とりどり何本か、先に魔石の付いたもの、触ると痛そうなトゲトゲの付いたもの。いったい幾つ出てくるんだろう??

 ヴィーさんはそれらを地面に並べると、離れたところに腰を下ろした。
「俺らにはまだ近づこうとはしないし、アリアは冒険者じゃない。ラウルの従魔ってことにするしかないよな」
「で、でも、こいつがどう思うか……」

 僕の言葉を聞いて、アリアちゃんがとことこと仔狼のところに歩み寄っていった。以前とは違って、アリアちゃんと僕からはもう逃げようとはしてない。

「あのねー、この先もいっしょに来るなら、ラウルおにいちゃんのじゅーまになりなさいってー」
 そう言いながら僕を指差す。それに合わせて仔狼も僕の方を見た。

 ええええと、これって僕もなんか言った方がいいの? って、言ったところで、僕の言葉がわかるとは思えないけれど……

「あ、あの……ど、どの首輪がいいかなぁ??」
 できるだけ優しく何かを言おうと思った結果変な質問になった。いや、そうじゃないだろう。

 軽く首を傾げた仔狼は、僕の言葉がわかったかのようにとことこと並べられた首輪の前に歩いていった。その中から一番立派な魔石が付いている、細身で黒い首輪を口にくわえる。それを僕の前に持ってきて、ちょこんと足元に置く。

「クゥ」
 初めてうなり声以外の、仔狼の鳴き声を聞いた。

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※フォロワー様に企画で描いていただいた、セリオンです♪

黒木メイ様(@meight0209)より
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