招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第四章

4-1 ラウル、攫われる

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 ガタガタと荷台が揺れる。
 道が悪い所為せいもあるだろう。でも定期的に揺れを感じるのは、荷馬車の車軸か車輪に不具合でもあるんじゃないのか。まあ、さらった子供たちを運ぶのに、わざわざ良い荷馬車は用意しないだろう。
 はーっと一つため息をき、その音に耳と気持ちを委ねながら、膝を抱いた。

 油断したお前が悪い。そう言われても仕方ない。うん、わかっている。これは僕自身のミスだ。

 この荷馬車に乗せられているのは僕だけじゃない。僕よりももっと幼い子供を中心に、10人ほど。
 というか…… 僕はもうすぐ17歳で一応成人はしているから、子供ではない。
 でも、脅せば素直に言うことを聞く小柄で気弱な僕は、連中にとっては子供とさほどかわらないのだろう。そういえば捕らえられた時に、可愛い顔をしているとか、そんなことも言われたっけ。

 まあ子供たちを守るどころか自分の身すら守れなかったのだから、自分のことを立派な大人だなんて言えやしない。

 ……これから、どうなるんだろう。

 元はと言えば、休憩時間にいつものように薬草集めをしていて、つい皆から離れすぎてしまったのが原因だ。
 薬草を探して足元ばかり見ていて、連中が近づいて来たのに気が付かなかった。なんて馬鹿なんだろう。

 どこかで攫ってきたらしい子供たちの乗った荷馬車に、僕を無理やり押し込めたのは、何かの血がこびりついた刃物を手にした破落戸ごろつきたちだった。あんな物を見せつけられたら、子供たちは言うことを聞くしかできないだろう。


 この荷馬車には窓が一つもない。でも古い所為か板壁の隙間が広くなっていて、そこから外の陽が差し込んできている。その光に、さっきよりも影が混ざる様になっていた。その隙間から、そっと外をうかがう。
 どうやら山道をれて、さらに森に入ったようだ。

 森にはいってからは、山道を走っていた時よりも周囲の音が聞こえてくる。風で木々が揺れる音、森の虫が鳴く声、鳥の羽ばたき、遠くから獣の鳴き声も聞こえてくる。
 その合間から、荷馬車の周りの男たちが互いに掛け合う声も聞こえてきた。あいつらのアジトが近いのかもしれない。

 ぐすりと、誰かが鼻をすする音が聞こえた。
「おうちに帰りたい……」
 耐えられなくなったのだろう。その声を皮切りに荷馬車のあちこちからすすり泣く声が聞こえ始めた。

「泣かないで、大丈夫だよ、きっと助けが来てくれるから」
 馬車の外の男どもに聞こえないよう、小さな声で子供たちを慰める。

 大丈夫だ。きっと、ジャウマさんたちが助けに来てくれる。
 でも彼らを頼るばかりでなく、本当なら自分でもどうにかできるようにならないと。

 僕も彼らの仲間で、あんなふうに獣の姿になれるのだそうだ。
 戦うことのできない弱い僕だって、獣の姿になれれば彼らのように強い力を得て戦えるようになるかもしれない。
 ても今すぐにその獣の姿になれたり、強くなれたりなんて、都合のいいことが起こるはずはない。

 ガタンッ!!
「うわっ!!」
 荷馬車が大きく揺れて、体勢が崩れる。ずっと走っていた荷馬車が急に止まった。

「なんだこいつは!?」
「おい、こっちだ!」
「早く武器を持ってこい!」
 外から聞こえる声が騒がしい。何が起きたんだろうか。

「くそっ!! なんでこんな所にドラゴンが…… ぐはっ!!」
 その言葉に、ハッと息を呑んだ。

 ドラゴンってことは、きっとジャウマさんだ。獣化したジャウマさんが暴れているのだろう。
 僕を見つけてくれたんだ……

 ガタッ!!
 今度は屋根の上から大きな物音がした。
「待たせたな」
 これはヴィーさんの声だ。

 外の騒がしさに、今にもまた泣き出しそうな子供たちに声をかける。
「もう大丈夫だよ。助けが来てくれたから」
 僕の言葉で、強張こわばった子供たちの表情が少しだけ緩んだ。

 外の喧騒けんそうはすぐに静かになった。気付くと、誰かが荷馬車の壁をガリガリとひっかいている。
「待てよ、焦んなって」
 ヴィーさんの声に続き、ガタガタと荷馬車の戸が小刻みに揺れる。
 開けようとしてくれているけれど、何かで固定されているのか全く開く様子はない。

「ちょっと荒っぽくなるからそっから離れていろよー」
 その声に、子供たちを反対側の壁に集まるように誘導する。
 バキッと大きな音がして、荷馬車の戸がそのままの形で外される。その隙間から何かが荷馬車の中に飛び込んできた。

「きゃあ!!」
 銀毛の魔獣の姿に、また子供たちがおびえ、悲鳴を上げる。その若い月吠狼ルナファングは、真っすぐ僕のところに駆け寄り、嬉しそうに飛びついて来た。

「お前がいなくなったって、クーが大騒ぎしてなあ」
 その後から入って来たヴィーさんがニヤニヤと笑いながら言う。でもその笑い方が、さっきの破落戸ごろつき連中と同じような悪人顔で、それを見て子供たちがさらに怯えたように青ざめた。

「おいおい。俺はお前らを助けに来たんだぞ?」
 ヴィーさんが困った顔で首を傾げる。

「ラウルも他の者たちも、皆無事か? 怪我などはしていないか?」
 もう人の姿に戻ったジャウマさんが、ヴィーさんの後ろから荷馬車をのぞき込む。ジャウマさんの穏やかな笑顔と優しい声に、ようやく子供たちが張っていた肩を落とした。
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