招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第四章

4-2 盗人騒ぎ

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 門の規模からすると、今日訪れた町はそれなりに大きいようだ。

 ようやく僕らの順番になって、門番に身分証代わりの冒険者ギルドカードを見せる。僕のカードを見た門番は、そこから僕の横で大人しくしている月吠狼ルナファングに視線を移し、それから反対の手に持ったジャウマさんたちのカードをもう一度見た。
「まあ、従魔の首輪も付けているし、問題ないだろう」
 僕にだけは少し不満げな表情でカードを返したのを、心の中で苦笑いをしながら受け取った。

 多分、僕がDランクなことがに落ちないんだろう。月吠狼ルナファングは本来ならば僕みたいなランクの低い冒険者が連れ歩くような魔獣じゃない。こいつがまだ若い個体なのと、ジャウマさんたちAランクの冒険者が同行していることで、無理やり納得してもらえたような感じだ。
 こんな反応をされるのは今回がはじめてではないし、もう慣れた。
 
「クゥ」
 銀の毛並みを持つ狼が、気にするなと言うようにひと声鳴いて僕の顔を見上げる。
「分かってるよ、クー」

 月吠狼ルナファングの子、クーが僕の従魔になってひと月がたった。
 最初は親のかたきだと思って僕らに牙をいていたクーも、今ではすっかり僕らの仲間になった。今も大人しく僕らの隣を歩いているし、なんなら『黒い魔獣』討伐にも連れてっている。
 狼はより強い者をリーダーと認めて従うのだそうだ。
 だからジャウマさんたち3人に付き従うのはわかる。でも、クーは成り行きで主人となった僕だけではなく、アリアちゃんのこともしっかりと主人として認めてくれているようだ。


「おいっ!! そいつらを捕まえてくれ!!」
 冒険者ギルドを探して歩いていると、不意に近くで声が上がった。その声の方を見ると、僕よりずっと幼い少年が何かを抱えるように持ってこちらに向かって走ってくる。

「うわっ」
 ぶつかりそうになって慌てて避けた。避けることはできたのに、体勢を崩して尻もちをついてしまった。
「ラウルおにいちゃん!」
「ああ…… うん、だいじょうぶ…… クー、ダメだよ!」
 僕にぶつかりそうになった少年に威嚇いかくをしようとするクーを制しながら、顔を上げる。少年は気まずそうな顔でこちらを見ている。でもすぐにきびすを返してそのまま走り去ってしまった。

 追いかけようとするクーを、もう一度いさめていると、上質の服を着た商人風の身なりのおじさんが、少年の後を追いかけていった。
「まて! 私の荷物を返せーー!」
 ……そう言うことらしい。

 その様子をじっと見ていたヴィーさんは、ふらふらと彼らの消えた方向に歩き出した。
「……ジャウマ、わりい。俺ちょっと用事が出来たわ」
「わかった。俺たちは先に行って宿をとっておくからな」
 ジャウマさんの声に、ヴィーさんはこちらを見ずにひらひらと手を振って応えた。

 立ち上がって服の砂を払っている僕の耳に、セリオンさんのため息が聞こえてきた。
「まったく、あいつも相変わらずだな……」
 あいつというのはヴィーさんのことだよな。相変わらずって、どういう意味だろう?

「ジャウパパ― 夕ご飯買って行くーー?」
「そうだな。今日は宿で食おう」
 ジャウマさんがアリアちゃんを肩に担ぎ上げて歩き出す。気にはなるけれど、きっとヴィーさんのことだから、後で自慢話をするように話してくれるだろう。
 町の中心に向けて歩き出した三人の後を、クーと一緒に追った。

 * * *

「ヴィーパパ、今日はちょっと遅いねぇ」
 酒場に行った日の帰りならば、ヴィーさんの帰りはもっと遅い。アリアちゃんがそう言って心配しているのは、あの時からいまだにヴィーさんが戻らないからだ。
 僕たちの夕食はもうとっくに済んでいて、クーだけが夕飯の残りの骨を貰ってガリガリとかじっている。

 部屋の扉が叩かれる音がしたのは、そんな最中さなかだった。
「俺だー」
 ヴィーさんの声がして、顔を上げた皆の顔が緩む。大剣の手入れをしていたジャウマさんが、かたわらに剣を置いて立ち上がり、扉を開けた。

「いやー、すまない。遅くなった」
「ヴィーパパ、お帰りー」
 アリアちゃんが嬉しそうに両手を上げると、ヴィーさんはそのまま抱き上げる。
「おー もう風呂を済ませているな 偉いぞー」
 頭を撫でられたアリアちゃんは、満足そうに微笑んだ。


「腹が減ったろう。さっさと飯を食え」
 ジャウマさんから食事の包みを受け取ると、ヴィーさんはどっかと座り込んで、食べ始める。

 てっきり、食べながら何をしてきたのかを話すのだと思ったら、そうではなかった。
 アリアちゃんに注いでもらった弱い葡萄酒ぶどうしゅに口を付けながらヴィーさんが話しだしたのは、先日倒したワイバーンの話だ。ワイバーン肉を使ったどんな料理が美味いだとか、それがどんな酒に合うだとか、その皮を使ってどんな防具が作れるのだとか、いつも通りの他愛のない話だ。
 そして他の皆も今日は何があったのかとか、そんなことはえて聞かないようにしている。そんな気がした。

「そういや、セリオン。お前、明日買い物に行くって言ってたろう?」
 食事を終える頃、何故かセリオンさんの顔を見ずに、ヴィーさんがそう話しかけた。
 おかしいな…… 明日は朝から冒険者ギルドに行くって言ってたような……
 セリオンさんは、ほんの一瞬だけ目を細めると、「ああ」と答えた。

「そうだな、朝のうちに行ってこよう」
「俺の用事も頼まれてくれないか?」
 そう言って、ヴィーさんはじゃらりと音のする布袋を取り出して、セリオンさんに渡した。
「……わかった。どっちの方だ?」
「北の方だ。工房街の先にある」
「自警団へは寄らなくていいのか?」
 それには、ヴィーさんは黙ってうなずいた。

「セリオン、これもだ」
 眠ってしまったアリアちゃんを腕に抱えたまま、ジャウマさんも布の袋をセリオンさんに投げて寄越よこした。音からすると、あの袋の中身もお金だろう。
「俺たちは先にギルドに行って、稼げる依頼を探しておこう」

「ラウルくんも連れて行くが、構わないな?」
 セリオンさんがそう言うと、ヴィーさんはちょっとだけ不満げな顔で僕の方をチラリと見る。それから「ああ」とだけ、小さな声で言った。
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