招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
53 / 135
第五章

5-9 獣の正体

しおりを挟む
 目の前にいる黒魔犬ブラックドッグだけでなく、倒れていたはずの2頭も崩れて黒いもやになり、僕の前にいる1頭に混ざり合っていく。
 その靄が再び形ある獣の姿をとる。3頭の黒魔犬ブラックドッグだった獣は、3つの犬の頭を持つ1頭の魔獣に姿を変えていた。

「あれは……ケルベロス!?」
 魔物図鑑で見たことがある。でもおいそれと出会うことのない、珍しくてとても危険な魔獣だと書いてあったはずだ。そのケルベロスが、こんな町中にいるなんて。

「いいや、違う。ラウル、よく見るんだ」
 ジャウマさんの言葉で、もう一度魔獣を凝視する。
 先ほどの黒魔犬ブラックドッグの姿より、二回りも大きな体躯たいく。3つの首を持つその体は、尾の先から3つの鼻の先まで真っ黒い毛で覆われている。そして異様なほどに、爛爛らんらんと赤く輝く目……

 あの目を、僕は知っている。あれは……
「黒い……魔獣……?」

「ハハッ。こんな所に居やがったとはなあ!」
 ヴィーさんが強い口調で言い放った。
「そうだ。そして普通の人間が、『黒い魔獣』を制御できるはずがない。何か仕掛けがあるはずだ」
 その声で例の貴族の男の方を見上げると、魔導具らしきものを手にしている。ジャウマさんが言ったのはあれのことだろう。きっとあれで魔獣を操っている。

「ありゃあ、ダメだな」
 僕と同じように、貴族を見上げていたヴィーさんが、つまらなそうに言い捨てた。何が、ダメなんだろう……?

「ラウル、油断するな。あれはもうもたない。来るぞ」
 ジャウマさんの言葉に続くように、何かが弾ける大きな音がした。

「うわあああ!!! ま、魔導具がっ!! これが無くては、アイツが!!」
 貴族の男の、慌てふためく声がした。あれはあの魔導具が壊れた音のようだ。

 グアアアア!!!!

 ケルベロスのような『黒い魔獣』の咆哮ほうこうで、闘技場がビリビリと震えた。その体がさらに大きく膨れ上がる。さっきの3倍ほどもあるだろうか。
「ヒィイイイッ!!」
 その姿に驚いたのか、今度はあの男の悲鳴が聞こえてきた。

 『黒い魔獣』はその巨体で大きく飛び上がり、3つのあぎとで僕らに襲い掛かってきた。
 僕は咄嗟とっさに結界を張り、僕の一歩前に出たジャウマさんが魔獣の顎を大盾で防いだ。

 組み合った一人と1頭は一度離れ、今度はジャウマさんが魔獣に向けて大剣を振り上げる。

「お、おい、お前たち! そ、その魔獣を倒す許可をやろう!」
 また上から声が降ってきた。
「ああ!?」
 男の偉そうな物言いに、ヴィーさんが悪人の様な荒げた声を上げる。
「別に俺らはこいつが町中まちなかに逃げ出しても全然構わないけどな! ジャウ、もうほっぽって帰ろうぜ」

「ええっ!?」
 いや、この『黒い魔獣』が町中まちなかに逃げ出したら、一体どんな恐ろしいことになるのか、わからないはずはないだろう。
 きっとヴィーさんのハッタリだろう。で、でも……

「ま、待て待て、わかった! た、頼むからそいつを倒してくれ! もし逃げだして騒ぎになったら、私が困るんだ!」
 その言葉に、チッとヴィーさんが面白くなさそうに舌打ちをする。
「なら、あの二人を解放してもらおう。こいつを倒すには、あいつらの力がいる」
「わ、わかった! 少し待て!」

 二人の邪魔にならぬよう、後ろにそろそろと後退しながら貴族の男の様子を見る。
 貴族は屈強な戦士二人の後ろで守られながらも、ジャウマさんの戦いに注視している。
 この場から逃げ出さない度胸はあるんだなと感心したところで、どうやら腰を抜かしているらしい
ことに気が付いた。動けなくなっているだけのようだ。

 視線を戻し、魔獣とジャウマさんの戦いをしばし眺める。決して負けてはいない。でも勝とうとする様子もない。
 というか、多分手加減をしている。たまにヴィーさんが助けの攻撃をしているが、あれは攻撃というよりも、魔獣の気を散らす程度にしかなっていない。
 あの二人が解放される前に、倒してしまわないようにしているのだろう。

 と――
 穏やかではない、何かの気を感じた。そっと結界を解いてみる。
 結界越しにもうっすらと感じていたが、解くとこの気配がはっきりとわかる。ゆらゆらと強い魔力がこの建物を取り囲んでいた。

「あー、こりゃあ、お嬢が怒っているなぁ」
 ヴィーさんが言う。お嬢って? アリアちゃんが怒ってるって??

「連れてきました!」
 貴族の手下の声がして、ヴィーさんがそちらを振り返りもせずに、声をあげた。
「お前たちを迎えにきたんだが、まずはこいつを倒さなきゃいけない。セリオン、頼む!」

 それに対する返事は、言葉ではなく行動だった。
 僕らの後ろ上方から、無数の氷の刃が飛んでくる。それらは3つ頭の『黒い魔獣』に突き刺さり、動きを止めた。

 間髪入れずに、ヴィーさんがクロスボウの矢を次々と撃ち込んでいく。魔獣が大きくひるんだところへ、ジャウマさんが大きく踏み込み、大剣を振り下した。

「クゥ!!」
 不意にクゥが鳴いた。まるで僕に向かって何かを促すように。
「クゥ、どうした――」
 僕の横を、誰かが静かに通り抜けていった。

 慌てて顔をあげると、それはアリアちゃんだった。
「アリアちゃん、前に出たらダメだ!」
 そうだ、アリアちゃんは僕が守らないと!
 彼女の手を取って引き戻そうとして、気が付いた。何かが、おかしい。

 アリアちゃんは、魔獣に向かってただ歩いているだけだ。それなのに『黒い魔獣』から漏れ出している黒い靄が、アリアちゃんの全身にゆらゆらとまとわりついている。

 彼女に向かって伸ばした手を、それ以上差し出すことも、引っ込めることもできずに、アリアちゃんが『黒い魔獣』に歩み寄る姿を、僕はただ見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...