招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第五章

5-11 生きている証

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「ええっ!……むぐ」
 セリオンさんの告白につい大きな声が出てしまった。が、アリアちゃんが眠っている事を思い出して慌てて口をつぐむ。
 つまり、あの夫人の話にあった『行方不明になった婚約者』はセリオンさんだということだ。 ……って? いや、でも……

 あの夫人の話しぶりからすると、最近の話のようではなかった。ここ数年ほどの話のようでもなく、夫人の若かりし頃の話だろう。
 でも今のセリオンさんは20を過ぎた程度の年齢に見える。少なくともあの夫人と同じ年頃には見えない。

「で、でも…… えっと…… あの、随分と歳が離れて、いるように見えますよね?」
 そんな事を聞きたかったわけじゃない。でもそういう風にしか言えなかった。もし僕の思った通りだったら、セリオンさんは……

 しどろもどろに話す僕を見て、セリオンさんは少しだけ愉快そうにくすりと笑った。そして、
「おそらく、ラウルくんが思っている通りだ。私はあの頃から見た目の年齢が変わっていないのだよ」
 そう言った。


 その後でセリオンさんが語ったのは、途中までは夫人から聞いた話とほぼ同じ内容だった。違ったのは、騎士団の一員として調査の為に廃城を訪ねた時の下りだった。

「あの頃の私は、この国の騎士団所属の魔法使いだった。あの日は廃城に、調査の為に訪れた。その任務自体は特に珍しい事ではない。新しい遺跡やダンジョンが見つかった時に、調査の為に騎士団が派遣されることは普通にあったし、私もそういった任務は初めてではなかった。任務の時にはルールがあって、隊列は崩さない事、必ず二人一組で行動し、単独行動はしない事をキツく言われていて、私もそれをちゃんと守っていた。はずだったんだ。でも、気が付くと私は一人になっていた。仲間たちとはぐれたらしい。一人で廃城の中を彷徨さまよっていた。そして――」

 そこまで話して、セリオンさんはベッドで眠っているアリアちゃんの方を見た。
「そこで、アリアやジャウマ、ヴィジェスと出会ったんだ」


 つまり…… セリオンさんは、本当はあの夫人と同じくらいの年齢で。しかもセリオンさんだけでなく、アリアちゃんを含めた他の3人も同じくらいかそれ以上の年齢だってことだ。

「え……、じゃあ、皆は本当の歳は…… いてっ」
 僕の肩をパンっとヴィーさんが叩いて、口から出かかっていた言葉が途切れた。
「つまらねえ事考えるんじゃねえよ。俺らの寿命は人間よりもずっと長いんだ。当然、ラウルもだぞ」
「ええっ…… あ、そう……か……」
 僕も彼らの『仲間』なんだから、そう言うことになるんだろう。


「そういやあ、あの婆さんの依頼の話を聞いてから、ずっと気になっていたんだがな」
 僕の隣に座り込んだヴィーさんが、抑え気味の声で話し始める。「婆さん」とは、あの夫人のことだ。
「あいつが欲しがっているのは、セリオンが『死んだ証』、なんだよなあ」

 あ…… そう言えばそうだ。今こうやってヴィーさんが言ってくれるまで、僕は気が付かなかった。
 婚約者が姿を消して、その相手をずっと待っているのなら、どこかで生きていてほしいと願うのであれば、求めるのは「生きている証」だろう。
 でもあの夫人は自分でも言っていた。「死んだ証が欲しいのかもしれない」と。そして「彼は本当に――」、そう言いかけた夫人をジャウマさんは止めた。あの言葉の先は……

「私が本当に死んでいる事を確認して、安心したいのだろう。待つことをしなかった自分には罪がないと、そう思いたいだけなんだ」

 あの夫人は、セリオンさんに会いたいわけでも、生きていてほしいわけでもない。セリオンさんの死を願っている。そして自分の選択に間違いがなかったのだと、その証が欲しいだけで。

「それは…… ひどくないですか」
 僕はいまさら、ヴィーさんがあの屋敷を出てから不満そうにしていた理由わけを理解した。
 何故か涙が出てきそうになり、ぐっと歯を食いしばる。
「……ラウルくん、私のことは気にしなくても大丈夫だ。別に未練があるわけじゃない。彼女も言っていた通り、私たちの間に愛情はなかった」
 そう言って僕の方に向けたセリオンさんの表情は、少し寂しそうだった。

「孤児だった私が、貴族の養子として迎え入れられたのは、人間らしからぬ強い魔力を持っていたからだ。そして彼女と婚約させられたのも、今となって思えば彼女の家が持っていた魔導具が理由なのだろう。この国の者たちは、魔法や魔導具などの魔法技術に対して、異常なほどに貪欲なのだよ……」
 そこまで話して、セリオンさんははぁーと大きなため息を吐いた。

「あの時、私がおもむいた廃城の調査も、のちに嘘だったと知った。その廃城に民衆をおびやかす魔獣が居るかもしれない、詳しく調査をするようにと、私たちは駆り出された。よくよく考えればすぐにわかることだった。あんな国境の狭間にある。周りに人里もないような森の奥にある廃城だ。よほどでない限り旅人が間違って足を踏み入れるような場所ではない。そんなところで、どんな魔獣が咆哮ほうこうを上げようと、それをいとうような者も不安を覚える村人も、あの周りにはいなかったのだから。あの依頼は、魔族の廃城から魔法技術を持ち帰るのが、本当の目的だったんだ」

「この国の連中は獣人を差別しているだろう? あれは獣人が羨ましいからなんだ」
 セリオンさんの話を続けるように、ヴィーさんが口を開く。

「人間と魔獣の能力を併せ持つ獣人は、ちっとばかりだが人間よりも魔族に近い。その魔の力が、連中には羨ましくて堪らないんだ」
 だからおとしめているのだと、ヴィーさんは語った。
 人間だけでなく魔獣の能力を併せ持つ獣人の力は『特別』なのではないと、貶めることで、刷り込もうとしているのだと。

「人間以外を認めないくせに、人間以外の力を欲しているんだ。そして人間以外の者が特別な力を持つのを、この国の者たちは許せないのだよ」
 セリオンさんは冷たく静かな表情で、つぶやくように言った。
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