招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
71 / 135
第六章

閑話6 掃除と休息(前編)

しおりを挟む
「掃除、ですか?」
「ああ、さすがにゴーレムだけじゃあ不足な場所もあるからな」
 そんな話をしながら、広い廊下をヴィーさんの後を追って歩く。

 この城内では、ケサランパサランと呼ばれる毛玉のような魔獣が埃落としの役目を果たし、落とされた埃を掃除用のゴーレムたちが集めて捨てている。だから表から見える部分の掃除はできている。でもそれじゃ足りないそうだ。

「ったく、セリオンのヤツ。ずっと城に居たんだから、掃除ぐらいしといてくれりゃいいのに。なあ」
 ブツブツと僕に同意を求めるように言う。でもあの様子じゃあセリオンさんには無理だったろう。

 僕らが冒険者の町から城へ帰った時、出掛けた時と変わらずセリオンさんはアリアちゃんのそばに居た。あれからずっと孵化器ふかきの監視をしていたらしい。あまり眠っていなかったようで、かなり疲れた様子だった。

「別に、付きっきりでなきゃいけねえわけじゃねえのにな」
「そうなんですか?」
「ああ。俺がこの城に来た時には、まだジャウマ一人だった。アリアの様に眠っていた時間があったとはいっても、目が覚めてからも時間がだいぶ経っていたはずだ。そんな長い間、ずっと眠らずに監視していたら、いくら頑丈なあいつでも壊れちまう」

 ちょっと最後の言い方は、ジャウマさんに失礼なんじゃないかと思った。でもヴィーさんの性格を考えたらいつものことだろう。

「それに俺らのそんな姿を見たら、アリアは悲しむだろう。だから、あれはただのあいつの我儘わがままだ」
 ああ、確かに。それはヴィーさんの言う通りだ。

 アリアちゃんが、大好きなパパたちが傷ついたり病んだりすることを望むわけがない。
 そして、もちろんジャウマさんもヴィーさんも、セリオンさん一人に押し付けて出掛けたつもりはないだろう。だからセリオンさんのあの状態は、二人にとっても想定外だったということだ。
「まったく、あいつは生真面目すぎて融通ゆうづうが利かねえよな」
 わざと、笑いながら僕にそう言う。でも多分ヴィーさんも、それだけではないことに気付いてるし、心配もしている。


「さて、こいつらが掃除をしてくれるといっても、さすがに閉まっている場所にまでは届いてない。例えば戸棚や物入れの中とかだな。こいつらが入れるような場所なら、扉を開けてやれば埃を払ってくれる」
 僕らの周りでふわふわと浮いている手のひら大の毛玉状の魔獣――ケサランパサランを指差して、ヴィーさんが言った。

 そして今度は、足元でぐるぐると這いずり回っている、円盤状のゴーレムに目を向ける。
「落とした埃はあいつらが片づけてくれる。あと魔力切れの魔道具を見かけたら補充しておいてくれ」
 そう言って、今度は廊下の魔導ランタンを指差す。確かに、ところどころ点いていないものがある。

「わかりました。でも僕は日常魔法くらいしか使えませんが、それで足りますか?」
 尋ねると、ニヤリと悪人のような笑い顔を見せる。
「魔法が使えねえからって魔力が少ないわけじゃねえよ。ラウルにだって、普通の人間以上の魔力はあるはずだ。出し方を知らねえだけだろう」
「そうなんですか?」
「ああ、俺たちは『神魔族』だからな。ま、訓練にもなるからやってみるといい」
 そう言って、ヴィーさんはニヤリと笑った。

「俺はあっちをやるから、ここから台所の方までを頼む」
 そう言うと、ひらひらと手を振りながら歩いていく。その後ろから、まるで忠犬のようにケサランパサランと掃除用ゴーレムが追いかけていった。

 僕のところにも、毛玉とゴーレムが何体か残っている。
「うん、ひとまず手を付けてみよう。よろしくね」
 言葉が通じるのかはわからない。でも浮いている毛玉たちはゆらゆらと嬉しそうに揺れた。


 まず、目の前の応接間に入った。
 さっそく、部屋にいくつか飾られた風景画や高そうな壺や彫刻の周りを、ケサランパサランがふわふわと撫でるように飛んで埃を落としていく。
 壁際にある戸棚には洋食器やら、宝石がはまった置物やら、古そうな本やらが納められている。ガラス戸から中をのぞくと、確かに埃がうっすらと積もっていた。ヴィーさんが言っていたのはこれの事らしい。

 ガラス戸を開けようと手をかけると、期待をするように毛玉たちが集まってきた。まるで早く掃除をさせろと言わんばかりに、取っ手に掛けた僕の手に群がっている。

「大丈夫、かなぁ?」
 そっと棚の扉をそっと開けてみる。一番近くにいた毛玉が、すかさずするりと入り込んだ。続けて、2匹目、3匹目と入り込む。
 大小いくつかの毛玉たちは、戸棚の中の陳列物を揺らす事もなく、器用に自らの体で埃を集めている。
 ガラス戸から外に出てくると、体に付いた埃を払うようにふるふると震えた。落ちた埃はゴーレムが集めにくる。そして埃を落とした毛玉は、また戸棚の中に戻っていった。

「なるほど。これだけでいいんだ」
 同じように、部屋の中の戸棚や物入れの扉を開けると、嬉しそうに毛玉が中に入っていく。

 ケサランパサランと掃除用ゴーレムが働いてくれている間に、部屋の中の魔導具を確認する。
 魔導ランタンが10程と、時計が二つ。あと呼び出し用のベル。確認をしたら、殆どの魔導具の魔法石が魔力切れになっている。
 町で生活していた時は新しい魔法石と交換するのが普通だった。でもそうでなくて、ここに直接魔力を注げばいいらしい。

 魔導ランタンを点灯させたり、魔導コンロに着火するくらいの魔力なら僕にだってある。その程度の魔力じゃ、この魔法石を満たすことはできない。
 でもヴィーさんは、本当は僕にも高い魔力があるのだと言った。僕も『神魔族』なのだから……

 試しに、そっと指を当てて魔力を流し込んでみる。でも魔法石は全く反応しない。
「どうすればいいんだろう?」

 僕もジャウマさんたちと同じように、獣の……

 ふと、思い出した。
 あの時…… アリアちゃんたちを助けに走ったあの時に、ジャウマさんが僕の肩に触れると、僕の内から不思議な力が沸いてきた。
 あの力を自分で出すことができれば……

 あの時の感覚を思い出しながら、もう一度魔法石に指を当てる。もう一度ゆっくりと魔力を流し込むと、魔法石は少しずつ明るくキラキラと輝き始めた。

====================

※フォロワー様に企画で描いていただいた、ラウルです♪

あニキ様(@akuyaku_niki)より
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...