招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第六章

閑話6 掃除と休息(後編)

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 積み木を重ねたような木製のゴーレムが、僕のもとへ手紙を届けにきたのは、台所にある魔導具への魔力の補充が終わろうという頃だった。
 手紙の内容はとてもシンプルだ。『終わったらゴーレムについて来い』と、ヴィーさんの乱暴な字で書かれている。

「もう少しで終わるから、もうちょっと待ってね」
 僕がそう言うと、ゴーレムは台所の隅にちょこんと座り込んだ。僕の言葉を命令と捉えたらしい。

 作業を終え、てくてくと歩くゴーレムの後を付いていく。行き先を伝えるのでなく、ゴーレムに先導させることにしたのは、ヴィーさんなりの気遣いだろう。確かに僕はまだこの城の作りに明るくないし、そう簡単に覚えられるような広さの城でもない。
 たどり着いたのは、普段僕らが使っている方ではない風呂場だった。

「整備ついでに試運転を兼ねて湯を張ったんだ。せっかくだから、ラウルも一緒に入ろうぜ。なかなかに広くて気分がいいぞ」
 僕を呼んだのはそういう理由らしい。


 促されるままに服を脱ぎ、風呂場に入った僕に、ジャウマさんが湯船の中から手を挙げた。
「よお、お疲れさん」
「あっ、お疲れさまです!」
 ジャウマさんは城の外側の整備をしていたはずだ。もう終わったのか。

 体に付いたほこりと汗を流して、すでに二人が入っている湯船に浸かる。
 すでに大人二人が入っているというのに、湯船の広さにはまだまだ余裕がある。一時いちどきに10人くらいは浸かれるんじゃないんだろうか?
 どう見ても広いだけじゃない。風呂場の壁も床も湯船までもがキラキラする綺麗な石で作られているし、風呂場だというのに石像やら壺やらが飾られている。

「こんな豪華なお風呂、僕らが使ってもいいんでしょうか?」
「んー、まあせっかくお湯を張ったしな。使わねえともったいないだろう?」
 確かにそうかもしれないけれど、答えにはなっていないよな、それ。

 でも足が伸ばせるのはありがたい。首まで湯に浸かって、はーっと息を吐く。ひと仕事終わった後だし、尚のこと気持ちがいい。

 それにしても……
 ちらりと横目でジャウマさんを見る。
 普段から部屋ではランニング姿で過ごしているし、ジャウマさんの体がたくましい事は良く知っている。でもこうして改めて見るとすごい筋肉だ。まさに頼りがいのあるイメージで、正直うらやましい。

 ジャウマさんだけじゃない。ヴィーさんだって、ジャウマさんにひょろいとか揶揄からかわれているけれど、筋肉がついていないわけじゃない。研ぎ澄まされている感じがして、格好いい。

 そういえば、彼らには人の姿だけでなく、獣人のような姿も、魔獣の姿もある。今の彼らには、獣の要素はかけらもない。竜の鱗もなければ、鳥の羽毛も見当たらない。
 どれが本当の姿なんだろう?

「どうした? 何か言いたげだな?」
「あ…… えっと…… お二人は……いいや、僕らは、どの姿が本物なんですか?」
「本物?」
「えっと、人の姿でも居るし、獣の姿にもなれるじゃないですか」
 僕の言葉から察したらしいヴィーさんが、ニヤリと笑った。

「安心しろ。『神魔族』はこの姿が本物だ。と言っても、俺らにとっては、獣の姿がニセモノってわけじゃねえけどな」
 そう言って、湯船から出したばかりの濡れた手で、僕の頭をがしがしと撫でる。ヴィーさんの手から落ちたお湯が、僕の髪を伝って顔にまで垂れてきた。

 僕も獣の姿になれたら、もっと強くなれるんだろうか。さっきの魔力を魔法石に込める際にこつが掴めたのか、以前よりも高い魔力を出すことができるようになった。でもようやくそれだけだ。

「なんで、僕はお三方とは違うんでしょうか?」
 そうポツリと口からでた。
 僕を見て、ジャウマさんとヴィーさんは互いに顔を見合わせる。
「俺たちが予想していることはあるが、それが合っていたとしても、俺たちからは言うことはできない」

「それに、別にいいんじゃねえか? 今のままでも。困ってないだろう?」
 確かに困っているわけではないけれど、でも……
「あー、悄気しょげるんじゃねえ。お前にはお前なりに役に立てることがあるんだから」

「ラウル。お前の部屋にあるあの道具たち。あれで色々とやってみるといい。強い力を持っていたり、戦うことができるだけが全てではないんだ。お前にはお前の良さがある」
 穏やかな表情で紡がれるジャウマさんの言葉に、落ち込みかけた気持ちがゆるりと解けていった。

 * * *

「3人とも、こんなところで何をしているんですか?」
 入口の方から、キツい言葉が飛んできた。あの声はセリオンさんだ。
「おー、来たな! お前も風呂に入れ!」
 ヴィーさんの言葉に、セリオンさんの表情がさらに怖くなった。

「ここはアリア専用の風呂場です!」
 やっぱり…… 僕らが使っていいような場所じゃかったんだ。

「こまけーこと言うなよ。アリアが目覚めたら使うかと思って、整備してたんだ。それで湯を張ったからついでに浸かってるだけだ。セリオン、お前も一緒に入ろうぜ」
「私は大丈夫です」
「いや、お前、くせーぞ。ずっと風呂にも入ってないんだろう?」
 ヴィーさんの言葉に、立ち去ろうとしていたセリオンさんの足が止まる。

「アリアが目覚めたとき、そんな様子で出迎えるわけにはいかない。ゴーレムたちもいるし、異常があれば真っ先に俺たちを呼びにくるだろう。だからこのくらいの時間は全然大丈夫だ。お前も風呂に入れ」
 ヴィーさんに同調するように、ジャウマさんも口を開く。

「風呂に入って温まれ。そして、風呂から上がったら少し眠れ。これはだ」
 珍しく、ジャウマさんが強い言い方をした。

 セリオンさんは、少し迷うように視線を泳がせていたが、ただ一言「はい」と応えた。

 * * *

 一度風呂場を出たセリオンさんが服を脱いで戻ってくると、何故かクーも一緒だった。
 でも流石にクーを同じ湯船に入れるわけにはいかない。代わりに大きめのたらいを洗い場に置いて、湯を張る。
 そこで体を洗ってやると、それだけでクーは満足げに目を細めた。

 その間、3人は湯船で何やらにぎやかに話をしている。たまにセリオンさんを揶揄うヴィーさんの声と、キツい声で言い返すセリオンさんの声も聞こえる。
 でもセリオンさんの表情が、ちょっと柔らかくなっている。それを見て、ホッと安心した。

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※フォロワー様に企画で描いていただいた、ラウルです♪

ミドリ様(@cklEIJx82utuuqd)より
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