招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第八章

8-5 情報を求めて町に出る

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 今朝のヴィーさんは少し機嫌が悪い。
 じゃあ、いつもなら機嫌が良いのかというと、そういう訳じゃあない。大抵の朝は寝起きが悪くて、やっぱり少し機嫌が悪い。

 でも今日のヴィーさんの不機嫌の理由は寝起きだけじゃない。アリアちゃんだ。
 そのアリアちゃんは、不貞腐ふてくされたようなヴィーさんの顔を見ると、可愛い目を吊り上げてヴィーさんをにらみつけた。

「ヴィーパパ、まだねているの? 大人げないっ。別にヴィーパパのことを嫌いになったわけじゃないって言ってるでしょっ」
 アリアちゃんがぷんぷんと怒るのを見て、ヴィーさんは先ほどまでと打って変わって、しゅんと肩を落とした。

「そりゃ、わかってるさぁ。うーん、まあ、しょうがねえよなぁ……」
 ぐちぐちと、自分に言い訳をするようにひとりごちる。
「私、ちゃんとヴィーパパのこと大好きだよ」
 アリアちゃんの笑顔を添えた言葉に、ヴィーさんの顔がパッと明るくなった。
「そうだよな! 気にし過ぎだな! よし、朝飯あさめしを食おうか!」

 そんな光景を見て、ヴィーさんも単純だなと思いながら、自分も朝食の席に着いた。

 ヴィーさんの機嫌を悪くさせたのは、結果的にはアリアちゃんで、元の原因はこの宿での部屋割りだ。
 ベッド数の関係で、二部屋に分かれることとなり、以前なら誰かと同じベッドで休んでいたアリアちゃんは、一人で休むと主張した。
 今のアリアちゃんは10歳くらいの女の子だ。もう以前ほどには幼くはないし、城では自分の部屋のベッドで一人で寝ていたのだから、その主張は当然だろう。

 でもまだ小さいことには変わらない。さすがに一人部屋にするのは心配だからと、ヴィーさんがアリアちゃんの部屋で一緒に休むと言った。
 アリアちゃんはその提案を突っぱねて、同室相手にクーと何故か僕を指名した。
 ヴィーさんが拗ねてしまったのはそれからだ。その時に僕の方を見た、ヴィーさんの複雑そうな表情はまだ記憶に残っている。

 朝食のハムエッグを口に運びながら、ちらりとヴィーさんの表情を確認する。
 さっきので、すっかり機嫌は直ったようだ。安堵あんどしてふぅと小さく息を吐き出した。

 * * *

 今日もジャウマさんたちは、3人で連れ立って冒険者ギルドに行ってくるそうだ。僕も一緒に行こうかと思ったら止められた。アリアちゃんと一緒に町を散策してくるように、だそうだ。
 確かに、僕は3人に比べたら弱いし、冒険者としてもまだDランクだ。冒険者ギルドに連れていってもあまり役に立たないから、アリアちゃんと遊んでいろと言うことだろうか。

 咄嗟とっさにちょっと残念に思ってしまったのが、顔に出ていたらしい。
ちげえよ。そっちはそっちで、町で情報を集めてもらいてえんだ」
 ちょっと偉そうに腕を組みながら、ヴィーさんが言った。

 昨日、掲示板に貼り出してある依頼を見ていて、何かがおかしいと思ったのだそうだ。いや、むしろおかしいところがない。貼り出してある依頼が、他の町とほとんど変わらなかったのだと。

 あれだけ町の守りを強固にしているのだから、何か大型の魔獣が周囲に棲息でもしているのかと思ったが、そういった依頼は全くなかった。
 ジャウマさんたちが見ていたのは、Bランクの依頼だ。掲示板にはBランクだけでなく、もっと下位の、僕が受けられるような薬草採集の依頼も貼り出してあった。
 ということは、町を囲む石壁の厚さのわりに、町の周囲は『そこまで危険ではない』ということだ。

「この町を選んだのはアリアだ。だから、この近くに『黒い魔獣』がいるはずなんだ」
 どの町でも大抵するように、昨晩もジャウマさんはヴィーさんと連れ立って酒場に行った。でも酒の席でもそういった話を聞かなかったそうだ。

「多分依頼掲示板じゃわからないところに、何かあるんじゃねえかと思うんだ。だから俺らはもっかい冒険者ギルドに行ってみる、お前らは他を頼む」

「わかりました。でもどんな話を聞いてくればいいでしょうか?」
 そう尋ねると、ジャウマさんは少し考えるようにしてから言った。
「あんまり積極的に聞き込みみたいなことをしても、無駄に目立ってしまうからな。いつだったかの町でした様に、食堂や商店で買い物でもしながら、噂話とかを聞いてきてくれるとありがたい」

 それなら出来る。でも情報集めと理由は付いているけれど、殆どただの町歩きみたいだ。

「クーも一緒に居れば、私たちが居なくても大丈夫だろう。アリアもずっと眠っていて目覚めたばかりだし、少し羽を延ばして町を見てくるといい」
 セリオンさんが言った、多分こっちが本命なんだろう。名前を出されたクーが「クゥ!」と勇ましく返事をした。

 * * *

 宿の前で冒険者ギルドに向かう3人を、アリアちゃんとクーと一緒に見送る。
「よし、じゃあ僕たちも行こうか」
 そう言って、以前の様にアリアちゃんと手を繋ごうと、片手を差し出した。

 その時、僕の手を見たアリアちゃんの赤い瞳が、大きく見開かれてまん丸になった。同時に、可愛い黒兎の耳がぴくりと少しだけ揺れた。

 その様子を見て、すぐに思い当たった。
「ああ、ごめん。もうそんな小さな子じゃなかったね」
 昨晩ヴィーさんに子供扱いされて突っぱねたのを見たばかりだったじゃないか。慌てて、手を引っ込めようとした。
 が、その僕の手を小さな手が連れ戻した。

「ううん、ラウル、嬉しいよ」
 そう言ったアリアちゃんは、にっこりと本当に嬉しそうに笑っていた。


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陰東愛香音様(@kageazuma)より




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みさうさ様(@misausa_0319)より


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