招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
86 / 135
第八章

8-4 石壁の町

しおりを挟む
「アリアちゃん、寒いだろう? ほら」
 向かいに座るアリアちゃんにファーの付いたマントを手渡す。
 
「ラウル、ありがとう」
「クゥ!」
 にっこり笑って応えるアリアちゃんの隣で、自分に任せろと言わんばかりにクーが鳴いた。
 確かに、クーが寄り添っていれば少しは温かいだろう。
 でもここは空の上だ。地上よりもさらに寒い。僕もかたわらに置いてあったフード付きのマントを羽織った。

 アリアちゃんが目覚め、僕らはまた『黒い魔獣』を探す旅に出ることとなった。だけど、以前のように歩いてのんびりと旅をしている余裕はない。
 またヴィーさんに大鳥になってもらい、僕らの乗った荷馬車を目的地の近くまで運んでもらう事になった。

 空の上は地上よりも太陽に近いはずなのに、地を歩いているよりもずっと寒い。城に来た時もそうだったけれど、それよりもさらに寒い。寒すぎる。気になって、荷馬車の窓から下を見ると、地面がやけに白けて見えた。

「そろそろ下に降りるぞ」
 荷馬車の屋根のさらに上の方から、ヴィーさんの声がした。


 下ろされたのは荒野のど真ん中だった。地が荒れているだけじゃない。地面や草木には薄っすらと白い霜が降りている。地面が白っぽくみえたのはこの霜の所為らしい。荒野を渡る風はさらに冷たく、僕の身を震わせた。

 厚手のマントを羽織っているはずのに、冷気がマントを抜けて入ってくる。
「これは、もっと本格的な冬支度をそろえないといけないな」
 アリアちゃんの方を見ながら、セリオンさんが言った。

 前にも寒い地を訪れていたし、3人と僕の冬支度は万全だ。でも成長したアリアちゃんには、その時の服は着られない。
 今、アリアちゃんの着ている服は、僕とはぐれたあの日に、王都でヴィーさんが買ってきたものだそうだ。ヴィーさんが町で僕らと別れて女性に会いにいったのは、アリアちゃんの服を買う為だったらしい。

「男一人じゃあ、さすがに下着までは買えねえからな。買い物に付き合ってもらったんだよ」
 そんなヴィーさんの言葉に、セリオンさんは、「アリアの服を言い訳にして女性に会いに行ったんだろう」と言い、ジャウマさんは「まあ、両方だろうな」と言った。
 僕は何も言わなかったけれど、ジャウマさんの意見に賛成したい。

「上から見た感じでは、目的の町まではあと1時間ほどのはずだ。まだ時間も早いし、そこでアリアの服も見ようぜ」
 マジックバッグから出した自分のコートをアリアちゃんに着せながら、ヴィーさんが言った。

 * * *

「なんだか物々しいな」
 北の寒い地域にあるこの町に入ってまず、ジャウマさんがそうつぶやいたのもわかる。
 この町の規模にしては、石造りの塀がやたらと高くて厚かったし、門番はやけに頑丈そうな金属製の鎧を着ていた。まるで何かから町を丸ごと守ろうとしているようだった。
 
 町に入ってまず訪れた冒険者ギルドの建物は、やたらと大きく感じた。中に入ってみてすぐに、その理由がわかった。
 入ってすぐのフロアの右側は酒場になっている。夜にはまだ早いのに、もう飲んでいる客もいるようだ。
 フロアの左側には他の町にもある冒険者ギルドと同じような光景が広がっている。依頼掲示板と冒険者用のテーブルが3卓ほど。それと依頼の受付カウンター。

「寒い地方では、酒精で暖を取ることも多いからな。それで酒場も併設しているんだろう」
 セリオンさんが言った。

 いつも他の町でもするように、真っすぐに依頼掲示板へ向かう。アリアちゃんはセリオンさん、クーと一緒にテーブルの方へ行った。
 ジャウマさん、ヴィーさんと一緒に掲示板をのぞき込んだけれど、なんだか二人の見ている依頼票に違和感を覚えた。
 ……やっぱり。二人が見ている依頼票は、いつものよりランクの低い物ばかりだ。

「ジャウマさん、いつもみたいにAランクの依頼は受けないんですか?」
 冒険者は、自分のランクより一つ上のランクまでの依頼を受注することができる。だから、彼らは本当ならSランクの依頼も受けることができるはずだ。
 でもここで二人が見ているのは、Aランクどころか、Bランクの依頼票ばかりだ。

「ああ。ここではこっちのギルドカードを使う」
 ジャウマさんがこっそりと言ってみせてくれた冒険者カードには『B』と書かれていた。
「あれ? なんで?」
「実はギルドカードは何枚か持っているんだ。そうしておかないと経験値が上がりすぎて、普通の冒険者のふりができないからな」

 ジャウマさんたちは、人間に比べて寿命が長い。
 今の彼らは、見た目感じでは20歳を過ぎたくらいだけれど、実際にはもっともっと長い時を生きている。一番若いセリオンさんでさえもう70歳近いそうだ。

 当然、4人で旅をしていた期間も長い。その間はずっと冒険者のふりをしていたそうだ。
 この強さで何度も依頼を受けていると、経験値が計上できないほどになってしまい、不自然さが生じる。さらに活動期間が長すぎても、長命なことがばれてしまう。
 その為、こうして複数の登録をして、不自然でない程度に経験値を振り分け、ある程度たった冒険者登録は抹消し、できるだけ自然に見えるようにしているそうだ。

「ついでに言うと、Aランクの冒険者にはギルドから余計な依頼がくることもあるからな。今はアリアの力を集めることを優先させたいから、無駄に頼られるのは避けたい」
 確かに、今までの町でもそういったことがあったし、それはそうだなと納得した。


 今日はギルトでは依頼の確認をしただけで。その後は町でアリアちゃんの冬用の服を何着か求め、宿で休むことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...