招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
102 / 135
第九章

9-7 手紙を届ける

しおりを挟む
「おやあ、珍しいね。旅の方かい?」
 目的の村に着くとすぐ、羊の耳を持つふくよかな獣人のおばあさんから話しかけられた。
 あの結界を抜けてからこの村に辿り着くまで、一度も危険な魔獣に出会わなかった。あまりにも道のりが順調だったうえに、この村に入るのに全く警戒もされなくて、逆に拍子抜けしてしまったほどだ。

「こんな辺鄙へんぴな村に、用事があって来たわけじゃあないだろう? 森に迷ったのかい?」
 おばあさんは、僕らに親しげに笑顔で話しかける。初対面な上に、ヴィーさんのような顔の怖い人も居るというのに、このおばあさんは僕らを警戒するつもりもないらしい。

 その悪人顔のヴィーさんは、彼なりの笑顔で馴れ馴れしく応えた。
「いや、用事があって来たんだ。ステラ・カーヴェルさん宛てに届け物だ」
 ヴィーさんが伝えたのは、ヘンリーさんのお母さんの名前だ。ジャウマさんは預かっていた手紙をバッグから取り出して、羊のおばあさんに見せた。

 おばあさんは少し顔を突き出すようにして、その手紙をしげしげと眺める。そして差出人の名前に視線を移すと、あら!と驚いたように声をあげた。
「ヘンリー坊やからの手紙じゃない! 急いでステラに届けてあげて! こっちよ!」

 おばあさんは愛想が良いだけでなく、面倒見もいいらしい。僕らを案内するように、先に歩きだした。
「用事はすぐに終わりそうだな」
 セリオンさんが小さな声で言った。

 * * *

 道中にすれ違った村の獣人たちも、皆穏やかで愛想の良い者ばかりで、やけに平和でのどかな村だなと、そう感じた。

 おそらく村で一二いちにを争う大きな家で僕らを出迎えたステラさんは、白髪の山羊獣人のおばあさんだった。さっきの羊のおばあさんと仲が良いらしい。
 ステラさんにヘンリーさんからの手紙を見せると、驚いて目を見張った。
「村を出たきり帰ってこなくなって…… もう生きてはいないかもと思っていたのに……」
 手紙を読むと、ステラさんは嬉し涙を浮かべて言った。

 ステラさんは僕らを家の中へ迎え入れてくれた。応接間のソファに案内すると、僕らの為に自らお茶を淹れてくれた。

 こちらは大所帯だ。ジャウマさんたち3人がステラさんの向かい側に座り、残った僕とアリアちゃんは、ステラさんの並びの席を勧められた。クーはアリアちゃんの足元に大人しく身を伏せた。

「改めて、あの子の手紙を届けてくれてありがとう。お礼をしなければいけないわね」
 ステラさんは、僕らの顔を見まわすと、優しく微笑みながら言った。

「俺たちはヘンリーさんから依頼されてこちらに来ました。彼から報酬ほうしゅうを貰うことになっていますので、礼は不要です」
「あら、そうなのね。じゃあ、あなた方は手紙を届けるお仕事をされているのかしら?」

 うん? その質問は想像していなかった。この一行を見て、冒険者以外だと思った人は、今までにはいない。
 向かいに座るヴィーさんの口元が、何か思うようにへの字に結ばれているのが見えた。ジャウマさんとセリオンさんは、いつもの風を装っているが、ちらりと視線を交わしている。ステラさんの様子に意外に思ったのは、僕だけではないようだ。

「……いや、俺たちは冒険者です。先日訪れた町でヘンリーさんから手紙を届ける依頼を受けたんです」
 ジャウマさんの言葉に、ステラさんはああと思い出したように声をあげた。
「そうね。村の外にはそういうお仕事をされている方々がいらっしゃると、聞いたことがあるわ」

 村の外には、ということは、この村には冒険者はいないということなのだろう。
「この村には冒険者ギルドはねえんだな。じゃあ、森に棲む魔獣の相手は、自警団がやっているのか?」
 ヴィーさんは、多分わざとこんな質問をした。あの結界が貼られている理由を探ろうとしている。

「いいえ。この村の周りには危険な魔獣はいないから。そういう乱暴なことをする必要がないのよ」
「すぐ近くに森があるのに?」
「ええ、危ない魔獣は村に近づけないの。神様の御力のおかげね」
 にこにこと笑いながら答えるステラさんに、変な含みは感じられない。本当にそう信じているような素振りだ。結界が張ってあることも知らないのだろう。
 やっぱりあの結界はこの村を魔獣などの外敵から守っていたんだろう。壊さなくて良かったと、ホッとした。

「この村には大きな神殿があるのよ。そのお陰でより強い神の恩恵を与えられているの」
「それは素晴らしいですね。村人でない私たちにも、神殿で祈りを捧げさせていただけないでしょうか?」
 ようやくステラさんとの会話に口を差し込んだセリオンさんは、如何いかにも信仰心が厚そうな風に装った。
「ええ、是非に。うちの主人が神官長を務めているの。言えば案内してくれるわ」

 その時、アリアちゃんが、甘えたように声をあげた。
「ねえ、パパ―。私お腹空いたーー」
 多分、これも演技だ。
「ああ、そうだな。もうこんな時間か……」
 ジャウマさんが、窓の外の様子をうかがうように顔を向ける。窓から見える森の上の空は、薄く赤く色づきはじめている。

「よろしければ夕飯を食べていかない? 村の外のお話なんかも聞かせて欲しいわ」
「ありがとうございます。助かります」
 ステラさんの言葉に、迷うこともなくジャウマさんが応え、さらに言葉を続けた。
「ああ、そうだ。夕飯をお世話になるついでに、宿屋も紹介していただけないでしょうか?」
「それなら、ここに泊まるといいわ。この村には宿屋が無いのよ。それに部屋はたくさんあるから」

 その言葉を聞いて、ヴィーさんがちらりと僕の方を見て少しだけ笑ってみせた。なるほど、この流れに持っていくまで、彼らの作戦通りだったらしい。

 夕飯の支度となれば、僕とアリアちゃんの出番だ。ステラさんの食事の支度を手伝いながら、おしゃべりで村の話を聞きだす。
 食事の席では、ステラさんの求めに応じてヴィーさんが手振り身振りで大袈裟おおげさに旅の話をしながら、合間に村や神殿の話を引っ張り出す。

 ステラさんが用意してくれた部屋で、皆で休もうという頃には、この村の雰囲気が大体わかってきていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...