招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
103 / 135
第九章

閑話11 聖夜祭のツリーの村にて(クリスマス閑話)(前編)

しおりを挟む
※この閑話の時系列は本編より前で、三章と四章の間、クーが仲間になった後くらいになります。ご承知おきください。

=================

「ねえねえ、ジャウパパー。そろそろ今年も終わるねぇ」
 アリアちゃんが、何かをねだるようにジャウマさんの顔を見上げて首を傾げる。普段から可愛いアリアちゃんだけど、その仕草が彼女をさらに可愛く見せている。
「ああ、そうだな」
 応えるジャウマさんの目も優しく緩んだ。

 それにしても珍しい。
 いつもアリアちゃんが何かをねだる時は、ヴィーさんに言う。ヴィーさんがデレデレになってアリアちゃんに負けるところまでがお約束だ。いや、勝とうとは思ってないだろうけど。

 でも今はジャウマさんに何かをねだろうとしているみたいだ。何があるんだろう?

「あのね、ケルスって村で『聖夜祭』のおっきなツリーが飾ってあるんだってー」
 アリアちゃんの言葉で、その理由が分かった。

 この一行の旅の目的地は、基本的にはアリアちゃんが決める。それは、アリアちゃんが『黒い魔獣』の居場所を感じることができるからだ。
 でも今回の目的地は、『黒い魔獣』が理由ではない。それならば、決定権は一行のリーダーであるジャウマさんにあるのだろう。一応。

 いや、待てよ。その大きなツリーの話を、アリアちゃんはどこで聞いてきたんだろう?
 そう思って視線を回すと、不自然にニヤニヤと笑っているヴィーさんに気が付いた。なるほど、そういうことか。

 相手がヴィーさんであろうと、ジャウマさんであろうと、アリアちゃんのおねだりに勝てるわけがない。
 『聖夜祭』の日を目指して、そのケルスの村へ向かうことになった。

 * * *

「……なんか物足りねえな?」
 皆が思っても口に出さないことを、ヴィーさんとセリオンさんは無遠慮に言う。今回はヴィーさんだった。

 目の前には噂の大きなツリーが、村の集会場を兼ねた大きな広場の中心に据えられている。
 一番背の高いジャウマさんでさえ見上げるほどの大きな針葉樹。その木に色とりどりのモールが掛けられ、様々な動物を模した飾り物が飾られている。とてもにぎやかだ。
 でも賑やかだけれど、華やかさが弱い。なんでだろう?

「お星さまがないねぇ」
 アリアちゃんが、ツリーのてっぺんを指差しながら言った。

 ああ、そうだ。『聖夜祭』のツリーにつきものの星の飾りがないんだ。
「それもだし、魔光石の飾りもないな。ツリーってのは光らせてナンボだろう?」
 ヴィーさんの言う通りだ。

 魔光石はその名の通り魔力で光る石だ。一般の家庭の照明にも使われているし、街中の街灯の灯りも魔光石によるものだ。ただしツリーに使われる魔光石は一般的に使われる白色石でなく、赤や青などの高価な彩色石を使う。
 『聖夜祭』のツリーは年越しの朝まで飾られる。夜の間はツリーに飾られた魔光石がきらきらと輝いてその存在感を主張するのもお約束だ。

 それがこのツリーには全く飾られていないのだ。これじゃ物足りないと思うのも当然だろう。

「このケルスに『聖夜祭』のツリーを見にきたのかい?」
 後ろから声を掛けられて振り返ると、村の住人らしい腰の曲がった老人が立っていた。
「そうなんだが。なんだか賑やかさが足りなくないか?」
 ジャウマさんの問いに、老人ははーっとため息をいた。
「残念ながら、3年前からツリーはこんな感じでな。これを見にくる観光客もほとんどいなくなってしまった」

 肩を落としながら、老人は話しはじめた。
 昔から、このケルスの村の近くのダンジョンで、彩色の魔光石がたくさん採れていたのだそうだ。
 その年一番の魔光石を、星の形にしてツリーに飾り、売り物にならないくず石をツリーに散りばめたところ、それがとても綺麗きれいに光るツリーになった。それがこの村の名物となったのだそうだ。

 ところが、このアイデアはすぐに他の町に真似をされてしまった。別に魔光石がとれる場所でなくても、同じ事はできる。彩色魔光石は安価ではないが、買えない物でも無い。
 さらに不運は続く。もっと大街道に近い場所に魔光石が採れるダンジョンが見つかると、魔光石を採集する為に集まっていた採掘夫たちもそちらへ行ってしまった。
 同じ頃に最後の村の若者が、伴侶を得て村を出ていき、ここは老人ばかりの村になってしまったのだそうだ。

 それでも『聖夜祭』の日には、この村を出ていった若者たちがツリーを見る為に村に戻ってくる。その為にこうして毎年ツリーをせいいっぱい飾っているのだそうだ。

「しかし、最後まで魔光石を採りにいってくれていたトムさんも、もういい歳でな。3年前にダンジョンで腰をやってしまって、それから魔光石を採りにいく者が居なくなってしまったんだよ」
 そう言って、ご老人は寂しそうにツリーを見上げた。

「……ヴィジェス。お前が聞いたケルスのツリーの話は、何年前の情報だ?」
「えーっと……、覚えてねえな?」
 ヴィーさんは、セリオンさんの冷たい口調の質問に、笑って誤魔化すように答えた。

「ねえー、綺麗なツリー見たいよぉ!」
 アリアちゃんが皆の顔を見まわして言う。
「クゥ!! クゥ!!」
 アリアちゃんに合わせて、月牙狼ルナファングのクーも僕らに向けて尻尾を振る。いやクーは食べ物の話か何かだと思ってるんだろうな。

「ああ、分かったよ。アリア」
 そう言ってアリアちゃんの頭をでたジャウマさんは、今度は老人に向かって言った。
「そのダンジョンの魔光石を、俺たちが採ってきましょう」

 * * *

 くだんのダンジョンに入り、階層を2つ下ったあたりが、魔光石の生息地なんだそうだ。

「生息地? 採掘地の間違いじゃねえか?」
 ヴィーさんもそんな風に言っていた。でも現地に着いてすぐに謎が解けた。

「なんだこりゃ?」
 目を丸くさせる僕らの前には、目の前を動き回る色とりどりの魔光石たち。転がったり、跳び回ったりと、まるで小動物のように動き回っている。

「クゥ!」
 石たちの動きに興奮したクーが、動き回る魔光石たちに突っ込んでいった。が、石たちは散り散りに逃げてしまう。
 ようやく一匹?を捕まえたクーが、僕らの前に自慢げに石をくわえてきた。

 クーから魔光石を受け取ったセリオンさんが、その石をしげしげと眺める。僕らもセリオンさんが持つ石を一緒になってのぞき込む。

「あっ」
 石から小さい何かが飛びだした。その小さい虫のような生き物は、そのままダンジョンの壁の中にすうと吸い込まれていった。

「あれは、地霊か?」
「そのようですね。このダンジョンは精霊のになっているようです」

 魔光石は、何かしらの理由で地中に籠った魔力が結晶化した物だそうで、その理由はひとつではない。その地自体が魔力を含んでいたり、地上に棲む何者かの魔力が地に落ちてたまったり、強い魔力を持つものの遺骸から魔力が地に染みこんでることもあるらしい。

「このダンジョンは、おそらく地を巡る魔力の通り道になっている。そして偶然にこのダンジョンに住んでいた地霊がその魔力を貯め込んで、それが結晶化したのでしょう」
 セリオンさんによると、かなり珍しい例だけれど、全くない話でもないのだそうだ。

 地霊たちは魔光石を被っているだけなので、捕まえたら軽く振り落としてやれば、また逃げて新しい魔光石を作ってくれる。
 石たちの動きはちょこまかと早く、捕まえるのは楽ではなかった。しかもたまに反撃するように自らぶつかってこようとする。これには、僕だけでなく、クーとジャウマさんもやられていた。

 ヴィーさんはこういうヤツの相手は得意らしい。アリアちゃんも器用に攻撃をよけながら捕まえている。セリオンさんも。
 ジャウマさんは途中から諦めて、捕まえた石を預かる役に回ったようだ。
 僕もあちこちにあざを作りながら、何個か捕まえることができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...