招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第九章

9-11 生きる為の術(すべ)

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 ――はるか昔、別の世界からやってきた『魔族』たちは、ここ人間の世界の片隅に自分たちだけの国を作った。
 魔族の国の中心に『魔王』の城があり、フータさんはその城の図書室に司書として勤めていた。
 その頃のフータさんは…… いやフータさんだけでなく、この世界に来た魔族たちは皆、魔王様が得た力によって人に近しい姿を手に入れていたのだそうだ。


 突然の出来事だったそうだ。
 何者かが『魔王の城』に攻めて来たらしく、城内が騒がしくなった。フータさんは職場でもあった図書室に尻尾を巻いて逃げ込んだ。

「図書室には、貴重な本を保管している、魔法で守られた書庫がありました。戦うことのできない私は、争いが始まるとすぐに、その書庫に逃げ込んだのです。その中でずっと震えておりました」

 その騒ぎは治まるどころか日を追う毎に激しくなり、辺りがようやく静かになったのは、何日も経ってのことだった。おそるおそる書庫から出たフータさんが見たのは、全ての者が死に絶えた城内だった。

「城には生きている者は誰もいませんでした。城の広場にはたくさんの同胞の遺骸いがい。何人かの騎士様ははりつけにされておりました」
 フータさんはその時のことを思い出したように、膝に置いていた手をぐっと握りしめた。

「町に残してきた家族のことが気がかりで、家を目指して走りました。しかし町にも誰もいませんでした。もちろん私の家族も……」

 フータさんは魔族の国から抜け出し、人間の国へ逃げ込んだ。半獣の姿となったフータさんは、山羊の獣人として人間の国に受け入れられた。そこでまた彼は新しい家族を得る。獣人の妻と、たくさんの子供たち。

「私は今度こそ、何があっても家族を守ろうと、そう心に決めたのです。でも弱い私には、その力がありませんでした」
 そう言うと、フータさんは悲しそうに項垂うなだれた。

 ある時、フータさんは仲間と再会したのだそうだ。彼と同じようにあの騒ぎの中で生き残って、人間の世界に身を潜めていた仲間に。

「その人は、家族を守る力を手に入れる為にはどうしたらいいのかを教えてくれました。でもそれから20年ほど経った頃に、気付いたのです。自分が全く老いていないことに。成長していく子供たち、老いてゆく妻。私だけが、ずっと変わらぬ姿で…… 私は恐ろしくなりました。私が本当の獣人ではないことが、そして私が手に入れた力のことが、他の皆にバレることが」

 だからフータさんは、今度は新しい家族のもとから逃げ出した。
 それからずっと、何十年も何百年も、家族を見守り続けた。彼の子供たちは成長して大人になり、番を見つけてまた子を成した。そしてその子が大人になり、子供が生まれ…… そうして家族は増えて行き、家族は村になった。

「私は家族を守る為に、この地に結界を張ったのです」
「じゃあ、この村の人たちは、皆フータさんの?」
「はい。全て私の家族たちです」
 僕の問いに、フータさんは優しい瞳をこちらに向けて言った。
「私は今度こそ、家族を守りたかっただけなのです」

 そうだったのか。
 見つけられない村の正体は、聞いてみればなんてことはない。この人が、ただ皆を守りたくて結界を張っていただけだった。ヘンリーさんは勝手に出てきたから、帰れなくなっただけなんだろう。

 ずっと昔に家族を失って、ただ家族を守りたくて、ずっと一人で生きていたんだろうフータさんは、きっとつらい思いもしてきたんだろう。
 僕らの前で語る間、ずっと縮こまっていた彼の体が、とても弱弱しく物悲しく思えた。


「それだけじゃねえだろう?」
 しんみりとしたこの場の空気を散らしたのは、ヴィーさんだった。
「何故お前は生きている? いくら神魔族しんまぞくでも寿命はあるんだ。『特別な力』を手に入れたのでなけりゃ、何百年も生きることはできねえ」

「こ、これは……」
 フータさんは明らかに動揺した。

「城の広場で、お前は何を見たんだ? そして、何を食らった?」
「くら……った? わ、私はそんなつもりでは……」

 ヴィーさんの、いつも以上に攻撃的な視線に震えながら、フータさんはおびえるように口を開いた。
「し、城の広場には…… 私以外の生き残りの者たちが…… 彼らは、磔にされていた騎士様を引きずり降ろして…… あああっ」
 フータさんは突然大きな声をあげると、鋭い鉤爪かぎつめの生えた両の手で顔を覆った。

「お、恐ろしかったのです…… 皆、死んでしまった。私は弱い。強い騎士様たちでも死んでしまったのに。だから生きる為に……強くなる為に……」
 その生き残りの者たちがしていたように、そこにあった神魔族の遺骸を食らったのだと。

「な、なんで? そんなことを?」
「俺たち『魔族』は、まだ魔力の残るうちであれば、その仲間の力を自分のものにすることができるんだ」
「魔力が残るって? でも死んでしまったら魔力は……」
「ああ、だから、死にたてだったのか、それとも死にかけだったんだろう」
 ジャウマさんの言葉を聞いて、フータさんはびくりと体を震わせた。

「……おそらくだがまだ話は不足しているな」
 セリオンさんは、怯えるように耳を垂らしたフータさんをじっと見ながら言った。
「今の君の姿はなんだ?」

 そうだ。今の話だけでは、まるでキメラの獣人のような彼の姿の説明がつかない。
 彼は自分を山羊の獣人に似た姿をしていると言った。でも今の姿はそれだけではない。

 顎髭あごひげを生やした、大人しそうな青年の顔。頭から覗く山羊のものらしい白い耳も、これらは元の彼のものだろう。でもその横から伸びる太い角は、山羊のものとは思えない。ジャウマさんがドラゴンの姿になった時の角に似ている気がする。
 彼が話をする度に口の端からちらりと見える鋭い牙も、彼自身のものではないだろう。まるで肉食獣の牙だ。両の手の指からも、鋭い鉤爪が伸びる。そして、彼のローブの裾から先だけ見えている黒い尻尾も、山羊にはないものだ。さらにローブで見えない彼の背中には、翼らしきものがあるようだ。

「再会した仲間が力をくれたのです…… 家族を守る力を……」
 フータさんは自身の両の手を見ながら、震える声で言う。
「わ、私は…… 弱かった…… だから、家族を守る為に……」

「食らったのか? それとも食わせたのか?」
 冷たい、セリオンさんの声が響いた。
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