招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
111 / 135
第九章

9-13 村の行く末

しおりを挟む
 僕の視界の先で、奴隷どれいを突き飛ばしたフータさんを、黒い魔獣の鋭い爪が切り裂いた。

「フータさんっ!?」
 一瞬遅れて僕の結界魔法が発動し、フータさんを続く魔獣の牙から守った。でももう遅い。倒れたフータさんの背中が、血で赤く染まっていく。

「ヴィー! セリオン!」
 ジャウマさんが二人の名を呼びながら黒い魔獣に向けて駆けだした。

 黒い魔獣はフータさんを守る結界に向けていた敵意を、今度は駆けてくるジャウマさんに向けた。
 襲いかかる獣の大きなあぎとを、ジャウマさんは横に跳んで避ける。その足が地を踏むと、その勢いで今度はジャウマさんが魔獣に飛びかかった。
 いつの間にか竜の腕に変わったジャウマさんの両腕が魔獣の首元を横からがっしりを掴むと、あれほど暴れていた魔獣の動きが一瞬止まった。

 それを待っていたかのように、セリオンさんの氷の魔法が一時にいくつも放たれ、魔獣の四肢を凍らせ動きを完全に止める。同時にヴィーさんから放たれた無数の鳥の羽根が、矢のように魔獣に突き刺さった。

「ザネリーさん! 私たちが抑えますから、今のうちに彼らと部屋の外へ退避してください!」
 セリオンさんが奴隷たちの方を促しながら言う。
「しかし、フータ様が!」
「まずこいつを片付けないと、フータを助けることができねえ! お前たちは足手纒あしでまといだ! さっさと行け!」
 ヴィーさんの叫びに、ザネリーさんはおびえる奴隷たちを従え、慌てて部屋を出ていった。

「アリア、俺たちが抑えているうちに、頼む!」
 ジャウマさんの言葉に、僕の後ろに居たアリアちゃんが立ち上がった。アリアちゃんが魔獣に駆け寄りながら手を前に差し出す。いつものように黒い魔獣は少しずつ黒いもやに変わり、アリアちゃんの手に吸い込まれていく。
 ああなったら、あとは時間の問題だ。

「ラウルくん! フータくんを!」
 セリオンさんの言葉にうなずくと、結界魔法を解いてフータさんの元へ駆け寄った。

 倒れているフータさんの周りは、背中の大きな爪痕からの出血で血だまりになっていた。
 マジックバッグから自分で調合したポーションを取りだすと、フータさんの傷口に振りかけた。薬がかかったところから、じゅわじゅわと音を立てながら煙のようなものが上がってくる。
「ぐっ」
 フータさんが苦しそうな声をあげた。
「すみません、我慢してください。せめて、出血を止めないと……」
 これが今の僕の精一杯だ。でも以前よりはだいぶ性能のいいポーションを作れるようになった。どうか効いてくれ!
 祈る思いで、さらにポーションを振りかける。

 バッグに入っていたポーションを次々と振りかける。何本目かでようやくフータさんの傷が塞がった。
 でも傷口が塞がっただけだ。フータさんの顔色は血の気を失ったように白い。
「血が…… 血が流れ過ぎたんだ……」

 次のポーションを開けようと、バッグに手を差し込んだところで、フータさんがピクリと動いた。
「フータさん!?」
 ようやく目を開けたフータさんは、悲しそうな目で僕を見上げた。

「……私の為に、貴重なポーションを…… ありがとうございます。でも、もういいんです。姫様に『黒神こくしん』をお渡しできました。私の役目はもう……」
 フータさんはごふりとせき込むようにして、血の混ざった息を吐き出した。
「もう、誰かを傷つけたくはなかったんです…………別に人間が憎いわけでは無い。私の家族を守る為に、私たちの国を取り戻す為に、誰かを犠牲にしなければ………」

 黒い魔獣の方が片付いたのだろう。皆が僕らの周りに集まってくる。アリアちゃんは、僕の隣に座ると、そっとフータさんの肩に手を置く。フータさんは、ようやく安心したように目元を緩めた。

「ああ、姫様…… 仲間たちをどうか……」
 そう言いながら、フータさんのまぶたが閉じていく。そのまま、彼の魔力が消えていくのがわかった。

 次の瞬間、僕の体の内側から、何かが沸き上がってくるのを感じた。力……魔力だろうか。それから頭の中に何かの光景がぐるぐると渦巻くように広がっていく。
 なんだこれは……?

「あっ」
 アリアちゃんの声に気付き、もう一度フータさんを見た。一度目を閉じたはずのフータさんが、再び目を開いている。
 ……いや、違う。同じ姿をしているけれど、彼はフータさんじゃない。
 慌てて、アリアちゃんをかばいながら後ろに下がった。

「フータは死んだ。今だけは俺がヤツのふりをしよう。少し魔力をわけてくれないか」
「……お前は、あのダンジョンに居たヤツだな」
「……安心しろ。今はお前たちと敵対するつもりはない」
 その言葉を聞いて、ジャウマさんは彼に向けて手を掲げた。

 * * *

 依頼を受けた町に戻った僕らは、ザネリーさんから預かった『村のお守り』をヘンリーさんに渡した。これがあの結界を抜ける為の鍵になっているのだそうだ。
「そうだったのか。俺、一度魔獣にやられて死にかけたことがって、その時に無くしちまってさ」
 そう言って、ヘンリーさんは懐かしそうにそのお守りを見つめた。

「あの村を守っていた結界はあと三月もすれば消えてなくなる。あんたは村に戻って、あの村を自分たちで守れる村にするんだ」
 フータさんが死んで一度は消えたあの村の結界を、新しく僕が張り直しておいた。でもフータさんのように通うことはできない。だから、今の結界が切れたらそこまでだ。

「村の周りを柵や塀で囲め。村を守る為に人を雇うのも手だろう。何ならこの町の冒険者ギルドで、依頼をだしてもいい」
「え…… 俺が?」
 ジャウマさんの言葉に、ヘンリーさんは不安そうに眉をひそめる。

「他の連中は村から出たことがない。村の外の事や魔獣の恐ろしさを知らないんです。村の外を、世界を知っている貴方にはできるでしょう」
 セリオンさんの言葉に、ヘンリーさんは手にしたお守りにそっと目を落とす。そして僕らにむけて頷いて見せた。

 * * *

 ヘンリーさんから報酬を受け取り、早々に村を後にした。ここからまた、獣人の国の中央に向けて、歩きの旅だ。

 クーを構いながら、僕の少し前を嬉しそうに歩く少女にそっと視線を向ける。
 全て思い出した。僕はこの金髪の少女をずっとずっと前から知っている。

「アリア様」
 口の中で、小さく彼女の名を呼んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...