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第九章
9-13 村の行く末
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僕の視界の先で、奴隷を突き飛ばしたフータさんを、黒い魔獣の鋭い爪が切り裂いた。
「フータさんっ!?」
一瞬遅れて僕の結界魔法が発動し、フータさんを続く魔獣の牙から守った。でももう遅い。倒れたフータさんの背中が、血で赤く染まっていく。
「ヴィー! セリオン!」
ジャウマさんが二人の名を呼びながら黒い魔獣に向けて駆けだした。
黒い魔獣はフータさんを守る結界に向けていた敵意を、今度は駆けてくるジャウマさんに向けた。
襲いかかる獣の大きな顎を、ジャウマさんは横に跳んで避ける。その足が地を踏むと、その勢いで今度はジャウマさんが魔獣に飛びかかった。
いつの間にか竜の腕に変わったジャウマさんの両腕が魔獣の首元を横からがっしりを掴むと、あれほど暴れていた魔獣の動きが一瞬止まった。
それを待っていたかのように、セリオンさんの氷の魔法が一時にいくつも放たれ、魔獣の四肢を凍らせ動きを完全に止める。同時にヴィーさんから放たれた無数の鳥の羽根が、矢のように魔獣に突き刺さった。
「ザネリーさん! 私たちが抑えますから、今のうちに彼らと部屋の外へ退避してください!」
セリオンさんが奴隷たちの方を促しながら言う。
「しかし、フータ様が!」
「まずこいつを片付けないと、フータを助けることができねえ! お前たちは足手纒いだ! さっさと行け!」
ヴィーさんの叫びに、ザネリーさんは怯える奴隷たちを従え、慌てて部屋を出ていった。
「アリア、俺たちが抑えているうちに、頼む!」
ジャウマさんの言葉に、僕の後ろに居たアリアちゃんが立ち上がった。アリアちゃんが魔獣に駆け寄りながら手を前に差し出す。いつものように黒い魔獣は少しずつ黒い靄に変わり、アリアちゃんの手に吸い込まれていく。
ああなったら、あとは時間の問題だ。
「ラウルくん! フータくんを!」
セリオンさんの言葉に頷くと、結界魔法を解いてフータさんの元へ駆け寄った。
倒れているフータさんの周りは、背中の大きな爪痕からの出血で血だまりになっていた。
マジックバッグから自分で調合したポーションを取りだすと、フータさんの傷口に振りかけた。薬がかかったところから、じゅわじゅわと音を立てながら煙のようなものが上がってくる。
「ぐっ」
フータさんが苦しそうな声をあげた。
「すみません、我慢してください。せめて、出血を止めないと……」
これが今の僕の精一杯だ。でも以前よりはだいぶ性能のいいポーションを作れるようになった。どうか効いてくれ!
祈る思いで、さらにポーションを振りかける。
バッグに入っていたポーションを次々と振りかける。何本目かでようやくフータさんの傷が塞がった。
でも傷口が塞がっただけだ。フータさんの顔色は血の気を失ったように白い。
「血が…… 血が流れ過ぎたんだ……」
次のポーションを開けようと、バッグに手を差し込んだところで、フータさんがピクリと動いた。
「フータさん!?」
ようやく目を開けたフータさんは、悲しそうな目で僕を見上げた。
「……私の為に、貴重なポーションを…… ありがとうございます。でも、もういいんです。姫様に『黒神』をお渡しできました。私の役目はもう……」
フータさんはごふりとせき込むようにして、血の混ざった息を吐き出した。
「もう、誰かを傷つけたくはなかったんです…………別に人間が憎いわけでは無い。私の家族を守る為に、私たちの国を取り戻す為に、誰かを犠牲にしなければ………」
黒い魔獣の方が片付いたのだろう。皆が僕らの周りに集まってくる。アリアちゃんは、僕の隣に座ると、そっとフータさんの肩に手を置く。フータさんは、ようやく安心したように目元を緩めた。
「ああ、姫様…… 仲間たちをどうか……」
そう言いながら、フータさんの瞼が閉じていく。そのまま、彼の魔力が消えていくのがわかった。
次の瞬間、僕の体の内側から、何かが沸き上がってくるのを感じた。力……魔力だろうか。それから頭の中に何かの光景がぐるぐると渦巻くように広がっていく。
なんだこれは……?
「あっ」
アリアちゃんの声に気付き、もう一度フータさんを見た。一度目を閉じたはずのフータさんが、再び目を開いている。
……いや、違う。同じ姿をしているけれど、彼はフータさんじゃない。
慌てて、アリアちゃんを庇いながら後ろに下がった。
「フータは死んだ。今だけは俺がヤツのふりをしよう。少し魔力をわけてくれないか」
「……お前は、あのダンジョンに居たヤツだな」
「……安心しろ。今はお前たちと敵対するつもりはない」
その言葉を聞いて、ジャウマさんは彼に向けて手を掲げた。
* * *
依頼を受けた町に戻った僕らは、ザネリーさんから預かった『村のお守り』をヘンリーさんに渡した。これがあの結界を抜ける為の鍵になっているのだそうだ。
「そうだったのか。俺、一度魔獣にやられて死にかけたことがって、その時に無くしちまってさ」
そう言って、ヘンリーさんは懐かしそうにそのお守りを見つめた。
「あの村を守っていた結界はあと三月もすれば消えてなくなる。あんたは村に戻って、あの村を自分たちで守れる村にするんだ」
フータさんが死んで一度は消えたあの村の結界を、新しく僕が張り直しておいた。でもフータさんのように通うことはできない。だから、今の結界が切れたらそこまでだ。
「村の周りを柵や塀で囲め。村を守る為に人を雇うのも手だろう。何ならこの町の冒険者ギルドで、依頼をだしてもいい」
「え…… 俺が?」
ジャウマさんの言葉に、ヘンリーさんは不安そうに眉を顰める。
「他の連中は村から出たことがない。村の外の事や魔獣の恐ろしさを知らないんです。村の外を、世界を知っている貴方にはできるでしょう」
セリオンさんの言葉に、ヘンリーさんは手にしたお守りにそっと目を落とす。そして僕らにむけて頷いて見せた。
* * *
ヘンリーさんから報酬を受け取り、早々に村を後にした。ここからまた、獣人の国の中央に向けて、歩きの旅だ。
クーを構いながら、僕の少し前を嬉しそうに歩く少女にそっと視線を向ける。
全て思い出した。僕はこの金髪の少女をずっとずっと前から知っている。
「アリア様」
口の中で、小さく彼女の名を呼んだ。
「フータさんっ!?」
一瞬遅れて僕の結界魔法が発動し、フータさんを続く魔獣の牙から守った。でももう遅い。倒れたフータさんの背中が、血で赤く染まっていく。
「ヴィー! セリオン!」
ジャウマさんが二人の名を呼びながら黒い魔獣に向けて駆けだした。
黒い魔獣はフータさんを守る結界に向けていた敵意を、今度は駆けてくるジャウマさんに向けた。
襲いかかる獣の大きな顎を、ジャウマさんは横に跳んで避ける。その足が地を踏むと、その勢いで今度はジャウマさんが魔獣に飛びかかった。
いつの間にか竜の腕に変わったジャウマさんの両腕が魔獣の首元を横からがっしりを掴むと、あれほど暴れていた魔獣の動きが一瞬止まった。
それを待っていたかのように、セリオンさんの氷の魔法が一時にいくつも放たれ、魔獣の四肢を凍らせ動きを完全に止める。同時にヴィーさんから放たれた無数の鳥の羽根が、矢のように魔獣に突き刺さった。
「ザネリーさん! 私たちが抑えますから、今のうちに彼らと部屋の外へ退避してください!」
セリオンさんが奴隷たちの方を促しながら言う。
「しかし、フータ様が!」
「まずこいつを片付けないと、フータを助けることができねえ! お前たちは足手纒いだ! さっさと行け!」
ヴィーさんの叫びに、ザネリーさんは怯える奴隷たちを従え、慌てて部屋を出ていった。
「アリア、俺たちが抑えているうちに、頼む!」
ジャウマさんの言葉に、僕の後ろに居たアリアちゃんが立ち上がった。アリアちゃんが魔獣に駆け寄りながら手を前に差し出す。いつものように黒い魔獣は少しずつ黒い靄に変わり、アリアちゃんの手に吸い込まれていく。
ああなったら、あとは時間の問題だ。
「ラウルくん! フータくんを!」
セリオンさんの言葉に頷くと、結界魔法を解いてフータさんの元へ駆け寄った。
倒れているフータさんの周りは、背中の大きな爪痕からの出血で血だまりになっていた。
マジックバッグから自分で調合したポーションを取りだすと、フータさんの傷口に振りかけた。薬がかかったところから、じゅわじゅわと音を立てながら煙のようなものが上がってくる。
「ぐっ」
フータさんが苦しそうな声をあげた。
「すみません、我慢してください。せめて、出血を止めないと……」
これが今の僕の精一杯だ。でも以前よりはだいぶ性能のいいポーションを作れるようになった。どうか効いてくれ!
祈る思いで、さらにポーションを振りかける。
バッグに入っていたポーションを次々と振りかける。何本目かでようやくフータさんの傷が塞がった。
でも傷口が塞がっただけだ。フータさんの顔色は血の気を失ったように白い。
「血が…… 血が流れ過ぎたんだ……」
次のポーションを開けようと、バッグに手を差し込んだところで、フータさんがピクリと動いた。
「フータさん!?」
ようやく目を開けたフータさんは、悲しそうな目で僕を見上げた。
「……私の為に、貴重なポーションを…… ありがとうございます。でも、もういいんです。姫様に『黒神』をお渡しできました。私の役目はもう……」
フータさんはごふりとせき込むようにして、血の混ざった息を吐き出した。
「もう、誰かを傷つけたくはなかったんです…………別に人間が憎いわけでは無い。私の家族を守る為に、私たちの国を取り戻す為に、誰かを犠牲にしなければ………」
黒い魔獣の方が片付いたのだろう。皆が僕らの周りに集まってくる。アリアちゃんは、僕の隣に座ると、そっとフータさんの肩に手を置く。フータさんは、ようやく安心したように目元を緩めた。
「ああ、姫様…… 仲間たちをどうか……」
そう言いながら、フータさんの瞼が閉じていく。そのまま、彼の魔力が消えていくのがわかった。
次の瞬間、僕の体の内側から、何かが沸き上がってくるのを感じた。力……魔力だろうか。それから頭の中に何かの光景がぐるぐると渦巻くように広がっていく。
なんだこれは……?
「あっ」
アリアちゃんの声に気付き、もう一度フータさんを見た。一度目を閉じたはずのフータさんが、再び目を開いている。
……いや、違う。同じ姿をしているけれど、彼はフータさんじゃない。
慌てて、アリアちゃんを庇いながら後ろに下がった。
「フータは死んだ。今だけは俺がヤツのふりをしよう。少し魔力をわけてくれないか」
「……お前は、あのダンジョンに居たヤツだな」
「……安心しろ。今はお前たちと敵対するつもりはない」
その言葉を聞いて、ジャウマさんは彼に向けて手を掲げた。
* * *
依頼を受けた町に戻った僕らは、ザネリーさんから預かった『村のお守り』をヘンリーさんに渡した。これがあの結界を抜ける為の鍵になっているのだそうだ。
「そうだったのか。俺、一度魔獣にやられて死にかけたことがって、その時に無くしちまってさ」
そう言って、ヘンリーさんは懐かしそうにそのお守りを見つめた。
「あの村を守っていた結界はあと三月もすれば消えてなくなる。あんたは村に戻って、あの村を自分たちで守れる村にするんだ」
フータさんが死んで一度は消えたあの村の結界を、新しく僕が張り直しておいた。でもフータさんのように通うことはできない。だから、今の結界が切れたらそこまでだ。
「村の周りを柵や塀で囲め。村を守る為に人を雇うのも手だろう。何ならこの町の冒険者ギルドで、依頼をだしてもいい」
「え…… 俺が?」
ジャウマさんの言葉に、ヘンリーさんは不安そうに眉を顰める。
「他の連中は村から出たことがない。村の外の事や魔獣の恐ろしさを知らないんです。村の外を、世界を知っている貴方にはできるでしょう」
セリオンさんの言葉に、ヘンリーさんは手にしたお守りにそっと目を落とす。そして僕らにむけて頷いて見せた。
* * *
ヘンリーさんから報酬を受け取り、早々に村を後にした。ここからまた、獣人の国の中央に向けて、歩きの旅だ。
クーを構いながら、僕の少し前を嬉しそうに歩く少女にそっと視線を向ける。
全て思い出した。僕はこの金髪の少女をずっとずっと前から知っている。
「アリア様」
口の中で、小さく彼女の名を呼んだ。
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