招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第九章

閑話13 姫様と『ぐちゃぐちゃ』の魔法/(後編)

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 昨晩の姫様は珍しく機嫌が悪かったんだそうだ。風呂上がりにメイドに髪を乾かせもせずに、日中に散らかした部屋も片付けずに、ダラダラとしていたそうで。

 今思えば、その時にはもう魔力過多の症状が出ていたのかもしれない。普段の姫様はとても行儀は良いし、わがままを言うような方ではない。さらに部屋を散らかして遊ぶような幼い子供でもない。どちらかというと、少しずつ大人びてくるくらいの年頃だ。
 おそらく体内の魔力が暴走しかけていた所為せいで体調が悪く、触れてほしくなかったとか思うように体を動かせなかったとか、そんな感じだろう。

 そんな事とは思いもしないメイドは、ご機嫌を取るためにと姫様のお気に入りのこの少年を呼んできた。
 少年が一足部屋に入ると、姫様は顔を真っ赤にさせて彼を追い出し、そのまま部屋に閉じこもってしまったんだそうだ。


 えーーっと……
 つまりは今回の姫様の暴走の原因の一端は、れた男に恥ずかしいところを見られた所為なのか。なんだそりゃ、むちゃくちゃ可愛いじゃねえか。
 でもこいつは自分では、姫様に慕われている事を気づいちゃいない。それ以前に身分も違いすぎるし、自分がその対象になるだなんてこれっぽっちも思っちゃいないだろう。

 まあ、ともかくそういう理由なら、いくらこいつが声をかけても姫様が出てくるわけがないよな。

「あーー……、お前はちょっと部屋に戻っていろ、俺が姫様と話をする」
「で、でも……」
「いいから、落ち着いたらまた呼びに行かせるから、部屋で待ってろ」
 責任を感じてか躊躇ちゅうちょする少年に、もう一度強く言って下がらせる。

 俺と同じように事情を察した魔法使いが、子供らしからぬ表情でふっと息を吐いた。
「身支度が出来る者が必要ですね」
「ああ、これじゃあ姫様の髪も結えないだろう」
 俺らの足元でさっきからニャーニャーと鳴いている猫を二人で見下ろす。姫様おつきのメイドがこの姿じゃあ、何もできない。

 猫を伴って魔法使いが別のメイドを探しに行ったのを見送ると、名乗ってから姫様の部屋の扉を叩く。
「ここには俺しかいませんから、部屋に入れてください」

 ようやく開いた扉の向こうに立っていた姫様は、いつも通りの美しいお姿で。でもその目は泣きはらしてまるでウサギのように真っ赤になっている。やや乱れた長い金髪を揺らしながら俺にしがみつくと、わんわんと泣き出した。

 * * *

 少年に嫌われてしまったんじゃないかという不安と、魔力暴走で皆に迷惑をかけてしまったという申し訳なさをあふれさせた姫様は、俺の腕の中でひとしきり泣くとようやく落ち着いたようだ。
 ちょうど魔法使いたちがかろうじて人の姿を保っているメイドを何人か見つけてきたので、彼女らに姫様の身支度をさせる。

 その合間に姫様が話してくれた今回の事件のきっかけは、まあ俺たちの予想通りで。
 んでもって、散らかってぐちゃぐちゃになった部屋と、洗い上がりでぐしゃぐしゃに乱れた髪の姿を少年に見られて、やけっぱちになった姫様は「みんなもぐちゃぐちゃになっちゃえばいいのに!」とねたまま眠っちまったらしい。
 で、そのまま暴走してしまった姫様の魔力が、城の皆の姿をこんな風にちぐはぐに変えてしまったようだ。

 姫様の身支度が済んだ頃を見計らって、猫が彼の少年を連れて戻ってきた。
 最初は互いに頭を下げあっていた二人だが、それが落ち着くと、姫様は少年の犬の耳やら尾に興味を示した。まんざらでもない様子だ。

 その後は少年も同行させて、姫様を魔力発散の為に森に狩りに連れて行った。

 森から帰るころには少年の犬の耳も尾もすっかりと消えて元に戻っていて、姫様のご機嫌もすっかり元通りになっていた。
 城ではようやく部屋から出てきた近衛隊隊長を陣頭に、ぐちゃぐちゃになってしまった城内の片付けをしているところだった。

 それを見て、少年も自分の作業場を片付けに小走りで帰っていった。
 少年を見送る姫様は、嬉しいと寂しいが混ざったような、そんな顔をしていた。

「私たちも一緒に片付けよう」
 振り返ると、俺よりも背の高い青年の姿に戻った魔法使いが、こちらを見ている。
「えーー 俺、片付けは苦手なんだけどなぁ」
 わざとお道化たようにそう言ってみせる。
「お前が苦手なのは片付けだけじゃないだろう」
 いつものようにとげのある魔法使いの言葉を聞いて、姫様が横でくすりと笑った。

 * * *

 ついでに、全て終わった後で無理やり聞き出した話なんだが。
 なかなか自室から出てこようとしなかった隊長は、なんと性別が変わっていたらしい。あの筋肉ダルマが女の姿になっていたんだと。
 それがわかっていりゃあ、部屋の扉を壊してでも拝んでやったんだが。全く惜しい事をしたな。
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