招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

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第十章

10-1 あの頃の記憶

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 城のそこかしこから、強く黒い魔力が立ち上っていた。
 彼女は……姫様はどこに行ったのだろう? きょろきょろと慣れぬ城の中を進む。

 黒い魔力の立ち込める広い石造りの廊下のあちこちに、城の兵士たちが倒れている。これは彼らがやったのだろうか。
 兵士たちには申し訳ないが、僕にとっては有難い。戦う力のない僕がこの城の中にまで入り込めたのは、こうして兵士たちが無力化されていたお陰だ。

 廊下の突き当り、かんぬきの壊された大きな木戸をそっと開く。どうやらこの先は屋外で、広場になっているらしい。
 黒い魔力はこの広場にも漏れ出している。その黒いもやの中、人影が三つ、ぼんやりと見えた。

 * * *

 正直、いまいち調子が悪い。

「ラウル、もう少し前に出ましょう。遠すぎてパパたちの動きが見えないわ」
「うん。でもあまり近づくと危ないから……」
 戸惑いながら応えると、アリアちゃんは僕に向かってにっこりと笑った。

「今のラウルなら大丈夫でしょう? それより、パパたちがあいつを抑えたら、すぐに私が行かないと」
 そう言って、鳥型の『黒い魔獣』と戦うジャウマさんたちの方に向き直す。そうしながら、僕の腕に手を掛けてぎゅっと体を寄せた。

 腕に伝わってくるアリアちゃんの温もりに、少しだけ心が跳ねる。
「う、うん」
 動揺を抑えながら返事をする。アリアちゃんの言う通りに、僕ら二人を守る結界を張ったまま、少しずつ前方に歩を進めた。

 うん、やっぱり調子が狂う。その原因は、僕の隣にいるアリアちゃんだ。

 アリアちゃんは、また成長した。今のアリアちゃんは、数日前までの10歳くらいの少女の姿ではなく、17歳の僕とほぼ同じくらいの年頃に見える。
 ほんの1年ほど前、僕の故郷で初めて出会った時には、5歳くらいの幼い女の子だったのに。

 あの結界で隠された獣人の村を出立し、旅路に戻って二日後の朝。アリアちゃんは目を覚まさなかった。
 3人が言うには、あの村で吸収した強大な『黒い魔力』の所為らしい。以前孵化器で眠っていた、あの時と同じ状態らしい。
 でもここまで来て、今からあの城には戻れない。森に入り、洞を見つけて、その中でアリアちゃんの目覚めを待つことになった。

 獣の姿になった3人がかわるがわるアリアちゃんを温め、10日ほどで目覚めた彼女は、今の年頃の女の子の姿になっていた。
 でもアリアちゃんと接する時の、僕の気持ちが落ち着かない理由は、それだけじゃあない。

「パパたち、すごい」
 彼女が嬉しそうに言う先に目を向ける。
 今回の『黒い魔獣』は鳥の姿をしていて、縦横無尽にくうを飛び回る。背に大きな羽根を持つ鳥人の姿をしたヴィジェスさんが、飛びながら追いかけ、また相手の鉤爪かぎつめの攻撃をかわし、自身の羽根を矢のように飛ばして攻撃を仕掛ける。
 竜の角と尾を持つ、赤髪の竜人の姿のジャウマさんは炎のブレスを吐き、白狐の耳と尾を持つセリオンさんは、氷の塊を『黒い魔獣』に向かって放つ。

「もう少しだわ」
 アリアちゃんが言う通り、鳥型の『黒い魔獣』の飛ぶ高さが最初の頃に比べてぐんと低くなってきた。だんだんと弱って来ているんだろう。

「アリア!」
 ジャウマさんの声に結界を解くと、すかさずアリアちゃんが飛び出していった。
 地に落ちてくる鳥型魔獣に駆け寄りながら、両の手を前に差し出す。

 いつものように手のひらから『黒い魔力』を吸収していくアリアちゃん。その魔力の流れの中で、なびく金の髪と黒い兎の耳。
 僕はただ、その後姿をじっと見つめていた。

 * * *

 新しい町に着くと、珍しくまず宿に部屋を取った。
 なんでだろう? 今までは、大抵町に着くとまず冒険者ギルドに寄っていたのに。

「アリアの買い物をしないといけないからな」 
 ヴィーさんの言葉に、なるほどと心でうなずいた。

 成長したアリアちゃんには以前の服では小さすぎる。まだアリアちゃんが眠っていた時、僕とヴィーさんで先んじて服を買ってきたけれど、買えたのは今着ているひとそろい分だけだ。洗い替えの分はない。それは確かに最優先事項だろう。

「ラウルも一緒に行こうー」
 アリアちゃんの誘いに腰を上げかけた僕の肩を、ジャウマさんが抑えた。
「いや、ラウルは俺たちと冒険者ギルドに行かないといけない。もしかしたら、そろそろランクアップできるかもしれないしな」
 ああ、確かにそうだ。でも、僕の経験値はほとんど3人の力でもらえているものだし、それでランクアップなんてなんだか心苦しいけれど。

「んー、わかった。クー、一緒に行こう!」
「クゥ!」
 アリアちゃんの声に、僕の隣で体を横たえていた月牙狼ルナファングのクーが、跳ねるように立ち上がり、アリアちゃんのもとへ駆け寄った。

 手を振って部屋を出ていく二人と一頭を見送る。自分たちも出掛けるつもりでまた腰を浮かせると、再びジャウマさんの手が僕の肩を抑えた。

「待て、少し話をしよう」
「へっ?」
「その為に、ヴィーがアリアを連れ出してくれたんです。アリアの前では話しにくいでしょう?」
 セリオンさんも僕を気遣うように言った。

 ああ、そうか。そういうことか。
 二人がじっと僕を見ている。その目が僕に語り掛けている。ということは、ヴィーさんも気付いているんだろう。

「あの頃のことを、思い出したんだな」
 ジャウマさんの言葉にこくりと頷いた。
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