招かれざる獣たち~彼らとの出会いが少年の運命を変える。獣耳の少女と護り手たちの物語~

都鳥

文字の大きさ
133 / 135
最終章

11-9 戦う術(すべ)

しおりを挟む
「つらいだろうが、お前にしかできない」

 ジャウマさんが優しく語り掛ける。セリオンさんも、ヴィーさんもじっとアリアちゃんを見ている。
 アリアちゃんは、3人の顔を見まわしてから、つらそうな顔をして項垂うなだれた。

 ――その昔、何者かが魔王を倒したのだと、子供でも知っている話だ。
 その何者かはアリアちゃんで、魔王は倒されたのではなく封印されただけだった。

 過去のアリアちゃんは、魔王を……自分の父親を、倒すことはできなかったのだろう。

「……あの人は、私のお母様を殺した。私のことも殺そうとしている…… でも何より、この世界から平和を奪おうとしている。それは止めないといけない。私は王の娘だから。いくらお父様でも……」
 アリアちゃんがひざにのせた両手が、固く握られたまま震えている。

「で、でも、私にはそこまでの力が――」
「お前はもっと強くなれる。そのことをわかっているんだろう?」
 ジャウマさんの言葉に、アリアちゃんはハッと顔を上げた。

「し、知らない…… 私は何も、知らないっ」
 今にも泣きそうな顔になって、ふるふると首を横にふる。それを見たジャウマさんは、ふっと優しい顔で微笑む。

「私たちはお前を守る為の騎士だ。お前の未来の為にならなんでもしよう」
「俺らはお前のパパなんだろう? 俺らを最後までお前のパパで居させてくれ。俺らはお前を守りたいんだ」
 セリオンさんも、ヴィーさんも、口々にそんなことを言う。

「……いや!! 私は、そんなことは望んでいない。パパたちと、ずっとずっと一緒に居たいの……」

 3人は一体何の話をしているんだ? アリアちゃんが強くなる方法があるんだろう。でもそれ以上のことが、僕には全くわからない。アリアちゃんが泣いていることで、只事ただごとでないとだけはわかる。

「俺たち神魔族は他の仲間を食らうことで、その力を得ることができる」
 ジャウマさんの言葉で、彼らの会話の意味を悟った。

「本当はあの時に、こうしておくべきだったんだ。私たちの力はその為に女神様よりたまわったのだから」
 セリオンさんは眼鏡をくいと直しながら、やけに生真面目な物言いをする。少しキツい口調だけど、セリオンさん自身はそんなに冷たい人じゃない。

「ここであいつを止められなければ、お前も俺らもおしまいだ。それだけじゃねえってのも、わかってるだろう?」
 いつものように、ニヤニヤと笑いながらヴィーさんが言う。やっぱり笑い顔が悪人みたいだ。でも本当は面倒見のいい、情の深い人だ。

「もう俺たちは限界だ。この魔力が尽きる前にお前に渡したい」
 優しく言い聞かせるように、ジャウマさんが笑う。僕らのリーダーで、頼りがいのある兄貴みたいな人で、優しくて強くて……

「ジャウパパ、ヴィーパパ、セリパパ……」
 アリアちゃんが3人の名を呼ぶ。その後に、彼女の嗚咽おえつが聞こえた。

 それからアリアちゃんは泣き顔のまま、僕の方へ振り向いた。
「ラウル。後ろを向いていて。私を見ないでほしいの」
「ア、アリアちゃん……」
「お願い」
 アリアちゃんの姿は金毛の大きな獣に変わっていく。
 僕は歯を食いしばりながら、言われた通りに後ろを向いた。

「ラウル。お前がアリアを支えてやってくれ。お前の役目はアリアを護る事だ」
 僕に向けられたジャウマさんの言葉。それが、最後だった。

 * * *

「クゥ!!」
 クーの声で我に返り、振り向いた。
 クーが一生懸命、アリアちゃんの服をくわえて、立たせようとしている。元の姿に戻ったアリアちゃんは、座り込んでしまってうつむいたままだ。

 アリアちゃんを立たせるのを諦めたクーは、今度は広間の方をむいてグルグルと唸り声をあげた。
 その先にはセリオンさんの作った氷柱がある。氷柱はもう半分近く解けかかっていて、魔王の姿がはっきりと見える。

 そうだ。まだ戦いは終わっていない。ジャウマさんたち3人はもう居ないんだから、アリアちゃんは僕が守らないと。
 3人が居ないことを思い出し。何かが込み上げてくる。視界の先をにじませようとする涙を手の甲でぬぐった。

「アリアちゃん! 魔王が――」
 その時、まだ放心しているアリアちゃんを守るかのように、クーが結界を飛び出した。
「クー! ダメだ、戻れ!!」
 僕の叫びと、魔王を封じる氷の一部が割れたのは、ほぼ同時だった。

 魔王を見上げてうなり声をあげ、クーが飛び掛かる。上半身だけ自由になった魔王は、黒いもやまとった腕を大きく振り上げた。振り下ろされた腕が、クーを激しく叩く。

 そのまま強く地面に叩きつけられたクーは、僕らの目の前に転がった。
「クー!!」
 慌ててクーに駆け寄る。食らったのはたった一撃なのに、その傷は酷い。黒い靄が取り付く傷の部分に、回復ポーションを振りかけた。この黒い靄の所為せいだろうか、回復の効果が現れない。

「クー、ごめんなさい。私の所為で!」
 我に返ったアリアちゃんが、クーに向けて回復魔法を使うと、ようやく傷に取り付いていた黒い靄が消えた。でも傷は完全には塞がらない。

「クゥ」
 クーは小さく鳴くと、アリアちゃんの手の平をぺろりと舐め、そのままぐったりと頭を垂らした。


 ――僕は弱い。

 でも、僕にできることが全くないわけじゃあない。僕には僕の、できることがある。

「アリアちゃん、これを」
 バッグから出したポーションの瓶をアリアちゃんの手に握らせる。
「……これは?」
「ずっと、昔…… 城に居た頃の僕が作っていた薬だよ。ようやく完成した」
「……ラウル、記憶が戻ったの?」
「うん。遅くなってごめんね。これは今ここで使う為の薬、だよね」
 そう言って、残った氷柱から抜け出そうとしている魔王の方を見た。

 ようやくわかった。一体どうすればいいのか。このままではアリアちゃんは魔王とは戦えない。この結界を出るとアリアちゃんは魔王に操られてしまう。

 だからこの結界を広げるんだ。出来るだけ大きく。アリアちゃんが戦えるように。あの魔王をも飲み込むほどに。

 もっと力を振り絞るんだ!
 僕が…… 僕が……!!

 込み上げてきた何かを吐き出すように、空に向かって大きな声で叫んだ。
「ウオオーーーーーーン!!」
 僕の口から放たれた叫びは、狼の遠吠えとなって響き渡る。

 僕の結界がこの城を覆うほどに大きく広がると共に、僕の体が大きな黒狼になっていくのがわかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...